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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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祥太郎2ページ目

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「今日は佑樹休みだっけ?」

「うん、咲也子さんの三回忌ー」

一人いないだけで、こんなに寂しいもんなんだな、とボンヤリ思う。
いつものサボり場所、学校の屋上。
廉と二人、座り込むそこは、太陽に照らされて、何だか少し広すぎる。

「律儀に行くもんなんだなー」

「そりゃ行くでしょ、佑は」

当たり前のように言った廉の態度に、ずっと胸に抱いていた疑問が口をつく。

「一瞬だけ想いが通じたけど、もう二度と会えない相手を想い続けるのと、
いつでも会えるけど、一生想いが通じることのない相手を想い続けるのは、
どっちが辛いんだろうな」

俺の言葉に、廉は驚いたようにこちらを見つめた。

「祥……」

咎めるような廉の声。それでも俺は、止まらなかった。
ずっとずっと、体の奥で燻っていた重苦しいものが、滔々と流れ出る。

「俺、いつも比べてるんだ。俺と佑は、どっちがマシだろう、って。
そんで最後は、いっつも、佑の方が可哀想だって。俺の方がまだマシだって。
そう自分に言い聞かせて、安心するんだ」

「……」

黙りこんだ廉に、俺は自らを嘲る。

「最低だろ? 俺。こんなの、友達って言えねぇよな。
佑の、あいつの、友達なのに、俺……」

喋り続けるうちに、知らず知らず視界が滲む。
俺は、なんて、小さいんだろう。俺は、なんて、醜いんだろう。

『人と比べて自分が幸せとか、寂しいこと考えるなよ』

しばらく前に聞いた、三山先輩の言葉が頭をよぎる。
煩い、うるさい。
じゃあ俺を、誰と比べなくても幸せだと思えるようにしてくれよ。
あのひとの心を、俺に譲ってくれよ。お願いだから……

「……佑は、幸せだと思うよ」

沈黙を破って、廉は呟いた。

「え?」

濡れた目を擦りながら、俺が問い返すと、廉は真っ直ぐにこちらを見つめてこう問うてきた。

「この間、Bのシャー芯見つけた時の佑の顔、覚えてる?」

脳裏に蘇るのは、本当に嬉しそうな、キラキラしたあいつの笑顔。

「ああ……」

と答えると、廉はクスリと微笑んだ。

「佑は、幸せだよ。咲也子さんが死んでも、気持ちは繋がってる、って信じてられるから」

天を仰いだ廉の瞳は、どこか空虚なガラス玉のようだった。

「だから、佑は怒んないと思う。お前がそんなこと考えてるって言っても、
佑は笑って、言うと思う。『いいよ、俺、幸せだから』って」 

涙が、頬を伝った。胸が熱かった。
佑が、死んだ叔母を一途に想い続けるあいつが、とても愛しいと思った。
どうして俺は、あいつと自分を比べようとしたんだろう。
あいつが咲也子さんを想う気持ちと、
俺が遥香さんを想う気持ちは、きっと全く別の次元にあるのに。 

「……祥もきっと、幸せになれるよ」

にっこりと笑って廉が言う。そんな確証はどこにもない。だけど。

「サンキュ、廉……」

少しはにかみながら、小さな声でそう言うと、廉はガチャガチャと鞄を開け始めた。

「お礼はいいから、これ問いてよ」

取り出したのは、数学ⅠAの教科書。
今日提出の課題を、まだ問いていなかったことを思い出す。

「おい……そんなオチかよ」

渋々教科書を受けとると、廉は悪びれもせず歌うように呟いた。

「だって、数学苦手だも~ん」 

ⅠAは、好きじゃない。でも、こいつらと一緒なら。あのひとを、追い掛けていられるなら。
ⅠAでも、ⅡBじゃなくても。 悪く、ないかな……。





後書き
  ≠(廉1ページ目)



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祥太郎1ページ目

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「あ、祥ちゃん。来てたんだ」

「あ、お邪魔してました」

鈴の音を転がすような、とはこういう声のことを言うんだろうな。
佑樹の家の玄関で出くわしたのは、今学校から帰ってきたばかり、
という様子の佑樹の姉、遥香さん。 それと……

「おっ、神田! お前も来てたのか!」

いつも妙にテンションが高い三山先輩。遥香さんの彼氏だ。

「……チッス」

軽く会釈をすると、先輩はにこにこしながら俺の背中をバンバン、と叩いた。

「何でお前サッカー部入らなかったんだよ、もったいねーなぁ!
またお前とできんの楽しみにしてたのに!」

「……すいません」

苦笑しながら頭を掻くと、先輩は仕方ない、という風に笑って

「まぁ気が向いたらいつでも大歓迎だから」

と優しく告げた。

「竜ちゃん、早く宿題やっちゃおう」

遥香さんが先輩を呼ぶ。

白い手に握られているのは、数学ⅡBの教科書。

「わかったわかった、今行くから。んじゃまたな、神田!」

彼女の声に答えて、先輩が階段を上っていく。 
サッカー部に入らなかったのは、あんたがいたからだよ、先輩。
遥香さんの教科書はⅡB、先輩の教科書もⅡB。
だけどまだ、俺の教科書はⅠAだから。 

「ドンマイ、祥」

スニーカーを履きながら振り返ると、二人と入れ違いに階段を降りてきた佑樹と廉がいた。

「……うるせー」

気が短くすぐに不機嫌になる俺のことを、理解ってくれる人間はそう多くない。
佑と廉は、数少ない俺の友達。 だから二人には、つい甘えてしまう。
どんな俺でも受け入れてくれる、そんな気がして。

「じゃあ、佑樹。お邪魔しましたー」

明るく声をかける廉と違って、俺はむっつりと黙りこんだまま。

「あ~ぁ、ダメだ祥。カンペキ不機嫌モード入っちゃったよ。どうしよ、これ」

苦笑混じりの廉に、佑は俺の顔をチラッと見て

「その辺に棄てといたら?」

とすげなく返す。 さすがにムカついて佑をギロリと睨みつけた。

「……またな」

一応低い声を絞りだして玄関のドアを開けば、夕日はもう沈んでいた。
二階からは、楽しそうな遥香さんと先輩の声が聞こえてくる。 


~~~


触れれば汚してしまいそうな真っ白な肌に、佑樹と同じ栗色のサラサラの髪。
くるくると変わる表情は、そのよく動く焦茶色の瞳のせいだろう。
美人、と言われるその母親とは違い、どちらかというと可愛らしい顔立ちなのに、
一度見たら、何故か目をそらせない。 穏やかで優しい彼女は、昔からみんなの人気者だった。
そんな彼女が選んだのは、三山竜介先輩。 特別ハンサムな訳じゃない。特別目立つ訳じゃない。
でも彼は、いつも人の輪の中心にいる。 誰にでも優しくて、常に誰かのために一生懸命で。
負け試合の時は、つまらない冗談と変顔で周囲の笑いを誘い、
打ち上げの時は、誰よりも先にマイクを握り場を盛り上げる。

俺は彼が嫌いだった。 敵わない、と思ったから。
遥香さんによく似た、遥香さんの愛した男に。 

数学ⅡBなんて、学習塾でとっくの昔に終わらせたのに。 俺は今、あの教科書が欲しい。
薄っぺらなあの問題を、解きたくて堪らない。 遥香さんと、一緒に。





ⅠA(祥太郎2ページ目)
 


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B
佑樹2ページ目

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「小学生が使う鉛筆じゃあるまいし、今時Bのシャー芯なんてどこでも売ってないって」

「今日はもう諦めて、また別な日に出直さない?」

げんなりした顔で、祥太郎と廉がおれを振り返る。

また、Bが無い。

「……やだ。もうシャー芯切れたもん」

憮然として唇を尖らせるおれに、二人はハァ、と溜め息を吐いた。

「とりあえず明日は間に合わせでHB使っとけばいいじゃん」

短気な祥は少し苛々してきたようだ。それでも、おれは。

「やだ。……「「咲也子さんとの約束だもん」」

おれと同時に声を重ねた廉が、こちらを見てニヤリと微笑む。

「やっぱり咲也子さんか……しつこいねぇ、お前も」

呆れたように祥が呟く。

「……祥には、言われたくない」

唇の尖りはますます酷くなっていく。ああ、また口内炎が治らない。

「ほっとけ、バーカ」

祥は独り言のように呟いて、後ろからおれの頭を小突いた。

「駅ビルの中なら売ってるかもよ? ……行こう」

おれに背を向けて先に歩き出した廉の声が、少しだけ心に染みた。 


~~~


『あたしね、シャープペンシルが嫌いなの』

その美しい人は、そう言って長い指に握った銀色のシャープペンシルの先から
伸びる真っ黒な芯を、ポキンと折った。緩やかに波打つ長い髪が揺れる。

『じゃあ、なんで……』

それを持っているのか。
彼女の上着のポケットにはいつも、銀色の細いシャープペンシルが刺さっている。

『必要だからよ』

彼女はさも単純明快、というようにそう答えた。
彼女との会話はいつもこうだ。幼いおれには、彼女の紡ぐ言葉の意味が理解できない。

『あたしね、HBよりBや2Bの方が好きなの』

頭の中から疑問符の消えないおれの表情をおかしそうに眺めて、彼女は再び口を開いた。

『固くて薄いのより、柔らかくて濃い方が好きなの』

そう言って微笑んだ口元が、艶やかに煌めいていたのを覚えている。

『でも、シャープペンシルが出回ってから、みんなHBしか使わなくなったじゃない?』

おれが頷くと、彼女は少し淋しそうに笑った。

『Bなんか使うのは、鉛筆を持って間もない子どもたちだけ。
売ってるシャープペンシルの芯は、ほとんどがHBだもの。
でもね……探せばあるのよ、Bの芯』

そう言って、取り出したのは細いプラスチックの筒。
どこにでも売っている、シャープペンシルの芯の入った容器。
彼女の手に握られているだけで、いかにもそれが特別な物であるかのように見えた。

『これ、あげるわ。佑樹。あんたも使ってみたらきっとハマるわよ。HBより、Bに。
……固くて薄い男じゃなくて、柔らかくて濃い男になりなさい。いいわね?』

六年前の夏のことだった。 その日以来おれはずっと、Bの芯を使い続けている。
固くて薄いHBではなく、柔らかくて濃いBを。 


~~~


「……あった!」

駅ビルの中の文房具屋で、ようやくBの芯を見つけたのは午後6時55分。

「お~やっとかよ! 早くレジ! レジ!」

祥に急かされて慌ててレジに駆け込む。
小さな包みを持って戻ってきたおれを見て、廉がにっこり微笑んだ。

「良かったな、佑」

「おう……ありがと」

微笑み返すと、祥も笑う。 幸せな気持ちが、胸に満ちる。 


~~~


『あたしね、あんたが好きよ。馬鹿で、純粋で、綺麗で』

咲也子さんが笑う。美しい微笑。切ない微笑。

『本当に大好き……だから、ごめんね』

咲也子さん、咲也子さん、ならば、どうして。

おれを、置いて逝ったの?

死に行く者の病的な美しさを纏うようになって初めて、彼女がおれに告げてくれた言葉。
おれの体を抱き締めて、ようやく欲しかった言葉を紡いだ唇に、そっと触れたのは一度だけ。

彼女はおれの女神だった。 昔から、おれの世界の全ては、彼女を中心に回っていた。 
 
 
~~~ 

 
「もうすぐだっけ、三回忌」
 
「ほんとずるいよな、あの人。死ぬ前に言うだけ言って、
佑の気持ち持ってっちゃってさ。……佑の、実の叔母さんの癖に」
 
「それは言ってやるなよ。……彼女、きっと佑の中では死んでないんだろ?」
 
……そう、彼女は今も生きている。おれの世界の中心で、ずっと。
 
制服の胸ポケットに刺さった銀色のシャープペンシルの中には、今日もBの芯が入っている。





後書き
    ⅡB(祥太郎1ページ目)

 


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デンパンブックス『School Days』より移行。別名文具シリーズ。
連作タイトルを改題・登場人物の名字も変更しました。

Main Casts

『HB』&『B』・・・佑樹
『ⅡB』&『ⅠA』・・・祥太郎
『≠』&『≒』・・・廉

『2B』・・・咲也子
『ⅢC』・・・遥香
『=』・・・怜奈
 

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「Bって……濃くない?」

「すぐ折れそうだし」

「そんなことない。一番書きやすい見やすい使いやすい」

また、HBしか無い。 おれはBか、2Bが欲しい。

「あ、おい待てよ佑樹!」

「え~、もう一軒行くの~!?」

文句を言うなら、付いてこなけりゃいいのに。慌てて追い掛けてくる二人を、チラッと振り返る。
小学校から一緒の祥太郎。中学に入ってから知り合った廉。
何だかんだと、おれらはいつも一緒にいる。
黒髪に黒い肌、どこか日本人離れしたエキゾチックな雰囲気を纏った祥太郎。
祥とは対照的な白い肌にウェーブがかった薄茶の髪を少し長めに伸ばし、
柔らかな微笑みを常に絶やさない廉。
祥は元サッカー部、廉は元バスケ部で、それぞれエースストライカーのポジションにいた。
それなのに、おれと一緒に大してスポーツが盛んとも言えないこの高校に来て、
先輩方の熱心な誘いも無視して帰宅部を続けている。 


~~~


『だって、部活続けてたら一緒遊ぶ時間が減るじゃん』

と笑いながら告げた祥の言葉に、廉が頷く。

『おれは別にお前らと遊ばなくてもいいんだけど……』

と呆れたように呟くと、背中から祥に飛びかかられた。

『なーに佑樹くんたら冷たーい!』

『照れんなって、佑』

正面に回り、にこにこ笑いながら頭を撫でてくる廉。
おれだってチビではないはずなのに、頭一つでかい廉の顔を見上げる格好になる。
ううん、少しムカつくことを思い出してしまった。 


~~~


「佑ー? 何、トリップしてんのー? 目が怖いんですけど」

数週間前の出来事を回顧する内に、知らず知らず廉のことを睨みつけていたらしい。

「あ、何でもない。ごめん」

目線を外して歩き出すと、廉は笑いながら、

「きっとオレが女の子なら、目だけで落とされてるわ」

とからかうように言った。

「ギャハハ! あ、そいえば佑、お前浜崎さんに告られたってマジ!?」

身を乗り出すように問うてきた祥の言葉に、記憶の糸を手繰り寄せる。

「あ~、そんなことも、あったかもね」 


~~~


『中学の時から、ずっと好きでした!』

顔を真っ赤にして告げてきた彼女は、“ミスM中”と
言われていた中学時代よりも遥かに色褪せて見えた。
どこか垢抜けない、二つに結んだ黒い髪。長さを調節するために必死に折ったのだろう、
制服のスカートのプリーツは不自然な歪みを生じている。

『……ごめん』

それだけ告げると、彼女はその大きな瞳からボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。
こういう時に気の利いた台詞が言えるおれでもないので、
泣き続ける彼女を一人残して、おれはその場を後にした。 


~~~


「え~やっぱ振ったの!? もったいないなぁオレが慰めてあげたい!」

大袈裟に驚いて見せる廉の白々しさに、苦笑が漏れる。

「やっぱ顔がいい奴はすることが違うよな~。あ~羨ましい!」

冗談混じりに祥も乗っかる。

「……よく言うよ」

とおれが言うと、二人は目配せをして、共犯者めいた笑みを浮かべた。

おれたち三人は、よく目立つ。
告白される回数だって、二人とおれの間にそれほど大きな差があるとは思えない。
おれと祥と廉の顔は世間一般で言うところの“イケメン”の部類に入るらしい。
“男らしい”祥、“セクシー”な廉に対しおれは「中性的」と言われることが多い。

『佑樹くんて、かわいいけどかっこいいよね』

と、クラスメートの女子が少し顔を赤らめて言ってきたことがあった。
少しだけ染めた栗色の髪は、特別な手入れをしなくてもいつもサラサラだし、
鏡を覗けば目に映るのは、パッチリした瞳に長い睫、スッと通った鼻筋にピンク色の唇。
それらは全て美人の母譲りで、確かに男にしては整っている方かもしれない。

「でも、見た目だけで人って好きになれんのかな……?」

ボソッと呟くと、祥がこちらを見て目を見開き、そして吹き出した。

「プッ……あはは! お前全然分かってねぇのな!」

「いいんだよ祥。それが佑のいいところなんだから」

廉もにこにこ笑いながらこちらを見る。何だか居心地が悪くて唇を尖らすと、

「あ、また佑がその口やってる」

とますます笑われた。

「佑、むつけんなって」

おれの頭をポンポンと叩く祥の手を振り払う。本気で笑い過ぎたらしく、祥はまだ涙目だ。

文房具屋は、7時で閉まる。早く見付けなくちゃ、Bのシャー芯。





後書き
  B(佑樹2ページ目)

 目次(現代)
 


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