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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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side:イタル
ようやく見つけた、大切なもの。

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~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



あいつが嫌いだと誰もが知っているもの、情けないオトコ。
俺が嫌いだと誰もが思っているもの、しつこいオンナ。
 突風のように心を攫う、激しい熱情。
 

 
休み時間の学校の廊下。
 
「あ!」
 
「げ、タカハシじゃん」
 
中学からの腐れ縁の女友達に声を掛けられて、俺は戸惑った。
彼女は、マホの友人でもあるからだ。
マホ……ここ一週間ほど話していない、俺の元“遊び相手”
 
「あんたとマホ、この前から何か変じゃない?」
 
予想通りの質問に、平静を装って答える。
 
「そう? 別に、いつも通りだよ?」
 
「……あんた、今まで遊んでた相手全部切ってる、ってホント?」
 
「ああ、ホントだよ。ちょっと心境の変化っていうか。
受験生だし、そろそろ真面目にならなきゃなー、と思って」
 
少しおどけてみせるが、彼女の眼差しは相変わらず冷めている。
 
「根っからの遊び人優等生が、何言ってんだか」
 
ため息と共に吐き出した言葉の後に、彼女がボソリと呟いた。
 
「あたし、思うんだけどさ……もしかしたらあの子、あんたに本気だったんじゃないかな」
 
胸に刺さる言葉に、俺は声を失う。
 
「あんたとは、お互い納得ずくの遊び相手、って感じだったけど……。
あの子、見た目ほど遊んでないよ。
ねぇ、スガ、あんたが一番よく分かってるんじゃないの……?」
 
何も言わずに黙り込んだ俺に、救いのようにチャイムが鳴った。
 

~~~

 
『本気の恋愛の相手、私じゃだめなの?』
 
そうマホに言われたとき、どう答えたらいいかわからなかった。
マホのことは、好きだった。でも俺は、“本気の恋愛”をしたことがない。
初めてそれに近い想いを感じたのが、ミチだった。
ミチ……もう手の届かないところに行ってしまった。自業自得だけれど。
 
自嘲しながら窓の外に目を向けると、マホの姿が目に入った。
校舎裏の、人目につきにくい空間。顔を赤らめたオトコとマホの様子に、
告白現場だと分かる。マホは丁寧に断っているようだ。
胃の辺りが妙にムカついてくるのを、俺は抑えることができなかった。
 
どこからが“本気”で、どこまでが“遊び”なんだろう?
俺には“レンアイ”がよくわからない。
だけど……あいつが、他の誰かに触れられるのはイヤだ。
風になびく髪を押さえながら、相手を真摯な眼差しで見つめる彼女を、
今まで見たどの女の子より綺麗だ、と思った。
 

~~~

 
「あ~ぁ、髪ぐちゃぐちゃじゃん」
 
オトコがいなくなったのを見計らって校舎裏に現れた俺に、
マホはビックリしたように目を見開いた。
 
「イタル!?」
 
「こんな風強い日に外呼び出すヤツなんか、無視しちゃえばよかったのに」
 
軽口を叩くと、マホは真面目な顔で
 
「好きって思ってくれた気持ちを……無視とかしたくないもの。
答えられなくても、精いっぱい大事にしたいの」
 
と言った。
 
「耳が痛いことで」
 
俺の台詞に、マホの表情が少し沈む。そんな様子を、可愛いと思う。
 
「俺さ、風の強い日って好きなんだよね」
 
強い風に煽られながら、思わず呟くと、マホがパッと顔を上げて
 
「私も!だって風が強いと、人の体温がすっごく暖かく感じるじゃない?」
 
と嬉しそうに言った。ミチは、嫌いだ、って言ってたなぁ……。
 
「こうやってギューッとくっつくのも、不自然じゃないしね?」
 
細いマホの身体を、後ろからぎゅっと抱き締めると、彼女は戸惑ったように俺を見上げた。
 
「イタル……?」
 
「俺さ、やっぱり“本気の恋愛”が何なのか、よくわかってねーんだわ」
 
「うん……」
 
「だからさ、ヤガミマホさん、手を繋ぐところからもう一度、始めさせていただけませんか?」
 
彼女の前に手を差し出すと、彼女はプッ、と吹き出して
 
「やだ、もう抱き合ってるじゃない!」
 
と叫んだ。その目に浮かぶ、キラキラした涙。
 
アア、コレガ“イトシイ”ッテコトカ――
 
俺にとって、彼女はまさに、心を攫う突風だった。






後書き


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side:マホ
嘘の終わり。

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~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



アイツが好きだと誰もが知っているもの、オンナノコ全般。
私が好きだと誰もが思っているもの、オトコノコ全般。
後腐れなく波風立たない、静かな関係。
 

 
放課後の教室。
 
「あ」
 
委員会を終えて教室にカバンを取りに戻ると、
誰もいない教室の片隅でタバコを吸う彼の姿が目に入った。
 
「イタルじゃない。今日はデートじゃなかったの?」
 
ふざけた調子で声を掛けると、彼は少し面倒そうに下を向いて、
 
「……別れた」
 
と告げた。
 
「へえ。あの子、もう飽きちゃったの?」
 
笑いながら問うと、彼の顔はますます険しくなった。
 
「……フラれたんだよ」
 
ぼそりと呟かれた言葉に、どくどくと脈打つ心臓の鼓動を隠して
 
「あら、珍しい」
 
と平然と相槌を打つ。
 
「だからさ……今日は、マホが慰めてよ」
 
「やだ、それで私のこと待ってたの? イタルちゃんたらか~わいい」
 
私の肩に頭を寄せてくる彼に、内心の動揺を感じさせないように冗談を言う。
彼が、傷ついているのが分かったから。
彼のそんな顔を見たのは、初めてのことだったから。
 
「でもさイタル……、こんなことばっかしてるから、フラれるんだよ……」
 
静かな呟きに、彼はにこっと微笑んで
 
「だって、マホと過ごす時間は俺にとって大切だもん」
 
と言った。
 
「私もイタルとイチャつくの好きー」
 
私は彼の、浮気相手。すぐに笑顔を返して、激しいキスをしたけれど。
いつもの行為の最中、彼が涙をこぼしていたのを、私が気づかないはずがなかった。
初めて見た、彼の涙。
 
そんなに、そんなに彼女のことが好きだったなら――私にそんなこと、言わないで。
これ以上深みに、落とし入れないで――
 

~~~

 
それから三ヶ月。私と彼の関係は、何も変わらない。かと言って私が、
“本命彼女”に昇格したわけではない。初めから、そういう約束だったから。
お互い“遊んでる”者同士、後腐れないお遊びを楽しもう、と。
 
「よりによって、同じガッコの後輩くんに取られちゃうとはねー」
 
傍らに立っているサヤカの呟きに、私はふと彼女の視線の先を見る。
電車を待つ、駅のホーム。目に映ったのは、仲の良さそうな二人の姿。
男の子の方は、うちの学校の制服を着て、サッカー部のカバンを持っている。
爽やかで、明るい笑顔。そして女の子の方は……
何だかまた、可愛くなったように思える。N高の制服を着た、彼の元カノだ。
 
「スガも落ちたもんだね」
 
ため息まじりに呟いたサヤカは、彼と元カノと同じ中学出身だ。
私と彼が知り合ったのも、共通の友人である彼女を介してのことだった。
 
「……そうね。あの子、今の方が幸せそう」
 
私の呟きに、サヤカはぷっ、と吹き出して
 
「そりゃそーだ、あんた浮気相手の筆頭じゃん!」
 
と叫んだ。
 
「でも……羨ましい」
 
好きになって。同じくらい、好きって気持ちをもらって。
 
「マホ……?」
 
怪訝な眼差しから、逃げるように電車に飛び乗った。
  

~~~

 
「どうしたの?」
 
彼と待ち合わせて、いつも通りに喫茶店に入る。
ずっと黙ったままの彼に、声を掛けると、彼は少し戸惑いがちにこちらを見つめた。
 
「あのさ……もう、こんな風に会うの、やめようと思って」
 
心臓を凍らせる言葉。
 
「……どうして?」
 
かろうじて表情をとりつくろって、冷静に返すと、彼は照れくさそうに、
けれど真剣な目をして、こう言った。
 
「この間おまえに言われただろ。『こんなことばっかしてるから、フラれるんだ』って。
俺、ミチのことちょっとやっぱキツかった、っつーか。今度誰かを好きになった時は、
ちゃんと恋愛したいと思って。今からその準備、きっちりしとこうと思ってさ」
 
「……私以外の女の子にも、みんなにちゃんとそう言って別れたの?」
 
彼が最近、女の子と会う回数が少なくなっているらしい、というのは知っていた。
“タラシ”の副会長が真面目になりだした、というのは校内でも徐々に噂になりつつある。
 
「ああ。おまえで最後。……別に、お前を女として見れなくなったとか
そういうわけじゃないから安心しろよ。マホは十分魅力的だよ。おまえはその勢いで
俺みたいな情けないヤツじゃなくて、ドンドンいい男を開拓してってくれ!」
 
冗談めかして言う彼の台詞に、私の中の何かが切れる。
 
「……私じゃだめなの?」
 
気がつくと、口が勝手に動いていた。
 
「え?」
 
イタルの戸惑いの表情なんて、目に入らなかった。
 
「本気の恋愛の相手、私じゃダメなの?」
 
「マホ……?」
 
「私、ずっとイタルが好きだった! でもイタルは、誰にも本気にならないから……。
彼女になっても、辛いだけだから。ずっと一緒にはいられないから。
だから、必死に遊んでるフリして……。浮気相手なら、別れなくていいもん!
なのに、それなのに……なんであの子には、本気になるの!?
なんで、今更本気の恋愛しようとするの!?
なんで、その対象に私は入れてくれないの……っ!?」
 
叫ぶだけ叫んで、私は店を飛び出した。
 
 
 
全部、彼が悪いわけじゃない。私だって、彼に謝らないといけないことがある。
彼女が見ていることを知ってて、彼の腕に自分の腕を絡ませた。
彼は、彼女の存在に気づいていなかった。
「別れた」と聞いた時、残酷な喜びに胸が震えた。
 
どうしようもなく惨めな気分で、公園のベンチで泣いた。
 
カナシイ、クヤシイ、コイシイ……
 
涙を乾かしてくれる風は、一筋も吹かなかった。





Gusty Day(side:イタル)


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番外?第三者視点。
雨降って地固まる。笑

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カレシの嫌いなもの。 雨なのか雪なのか分からない曇り空。可愛げのないカノジョ。
 
カノジョの嫌いなもの。日の射さない曇り空。思いやりのないカレシ。
 

 
週末の映画館。
 
「「「「あ」」」」
 
リョウと手を繋ぐミチと、マサの後ろから顔を出したユウ。偶然の、邂逅。
 
「なんだ、お前らも来てたんだ」
 
「珍しいな、お前が映画見に来るなんて」
 
「ミチが見たいって言ったんだよ」
 
「仲いいねえ」
 
「そっちこそ、いつのまにそんなことになったの?」
 
「あ、もう時間だ」
 
「なら、またね」
 
 
~~~

 
隣から聞こえてくる安らかな寝息に、ミチは苛立っていた。
 
「……ぐ~……ぐ~……」
 
「……」
 
一方こちらは不機嫌そうなマサとユウ。
 
「何、怒ってるの?」
 
「……別に」
 
「私、もう二人のこと見ても何とも思わないよ」
 
「ふーん……。でもなんかアイツに会えて、嬉しそうに笑ってたじゃん」
 
「それは、あのリョウくんがミチちゃんのために映画に付き合うなんて
なんか可愛いな、って思って見てたんだよ!」
 
「あ、そうですか」
 
「何拗ねてるの? 私が今一緒にいるのはマサくんじゃない」
 
「まだ一月じゃん。その前は……」
 
「あ~、しつこいなあ、もう!」
 
効果音1:プツッ
 
再びリョウとミチに視線を戻すと……。
 
「ん、おはよ~。あれ、もう映画終わったの?」
 
「……」
 
「……ミチ?」
 
「私、帰る!」
 
「は?」
 
「マサくんは、ちゃんと起きて見てたよ?」
 
「わりぃ、だって俺こーゆうの苦手なんだもん」
 
「なら最初から来なきゃいいじゃない!」
 
効果音2:ブチッ
 
 
~~~

 
「「もう帰る!!」
 
「「えっ……??」」
 
映画館の出口で、全く同じ台詞を吐かれた親友同士は顔を見合わせて苦笑い。
 
「どうしたの? ミチちゃん」
 
「まあまあユウちゃん、落ち着いて」
 
とりあえず相手のカノジョを宥めてみるが、それは返って逆効果。
 
「なんで私のこと放って、ユウちゃんのとこ行くわけ?」
 
「気遣う相手間違ってるじゃん」
 
険悪な雰囲気のカノジョたちに、カレシの堪忍袋もぶちっと切れた。
 
「ミチが勝手なことばっか言うからだろ! 大体、俺は最初から乗り気じゃなかったのに、
お前が見たいって言うからここまで付き合ってやったんじゃん!」
 
「元はと言えばユウちゃんが早いとこハッキリしてくれないから俺が不安になるんだろ!
一度も好きとか、付き合うとか言われてないし!」
 
「なによそれ!」
 
「そこまで言うことないじゃない!」
 
「「じゃあもう今日のデートは中止!」」
 
「「……だな」」
 
交渉、決裂。
  
 
~~~
 
 
「大体さ、言ってほしいなら言ってほしいってもっと早く言ってくれればいいのよね!
マサくんて、どうしてあんなにわかりにくいっていうか、素直じゃないわけ!?」
 
「見たいっていうから連れてきただけでも俺はちゃんとアイツのこと考えて
努力してるんだよ! なんでそこをすっ飛ばしてちょっとばかり
居眠りしたからってあんな態度取られなきゃいけねんだよ!」
 
映画館の向かいにあるファーストフード店にやってきたのはリョウとユウ。
ひとしきり相手に対しての不満を述べた後で、ふと冷静になり、
お互いの顔を見てぷっ、と吹き出した。
 
「なんかリョウくんの前でマサくんの悪口言うとは思わなかったな~」
 
「ユウちゃんと二人でこんなとこ来んのとか、久しぶりじゃねえ?」
 
「そうだねえ。リョウくん、ミチちゃんと付き合いだしてから
マサくんとかともあんまり遊ばなくなったもんね」
 
「最近はマサとユウちゃんがいい感じになってきたのもあって、遠慮してたんだよ」
 
「あのねえ、リョウくん」
 
「なに? ユウちゃん」
 
「私ね、リョウくんのことが好きだったんだよ」
 
「え……?」
 
「さっきの喧嘩の原因って、実はそれなの。マサくんは、
未だに私がリョウくんのこと忘れてない、って思ってる……」
 
「でもユウちゃんは、今はマサが好きなんだろ?」
 
「……うん」
 
「ならそれをちゃんとアイツに伝えてやってよ。
ああ見えて人一倍、寂しがり屋で気にしいなんだ」
 
「……うん」
 
「もう、帰ろうか。帰りたそうな顔してる」
 
「リョウくんもだよ。早くミチちゃんに会いたい、って顔に書いてある」
 
「好きだ、って思ってくれてたこと、嬉しかったよ」
 
「……リョウくん」
 
「……ありがとう」
 
「うん……こっちこそ、ありがとう」
 
一つの恋の終わりを、雲が見ていた。
 
 
~~~

 
「行きたくないなら行きたくない、って始めから言えばいいじゃない!
付き合ってあげたなんて、随分押し付けがましいと思わない!?」
 
「あいつが俺に何も言ってくれないから不安になるのに、しつこいはねえだろ!」
 
駅前のコーヒーショップに、マサとミチはいた。
こちらもひとしきり不満をぶちまけた後、ふと我に返り赤面する。
 
「……私、マサくんには嫌われてるんだろうな、と思ってた」
 
「……そんなことないけど」
 
「だって、私がいると少し、空気が違う、っていうか……。
私のせいでリョウに、良くない影響を与えてるのかな、って……」
 
「……あいつがさ」
 
「え?」
 
「ユウちゃんが、好きだったの、リョウのこと」
 
「…………」
 
「ミチちゃんも何となく気づいてんのかな、って思ってたんだけど」
 
「うん、本当に何となくだけど……」
 
「だから俺は、ユウちゃんが嫌な思いするのを見てたくなかったの。
勝手な理由だけどさ。だから、リョウとミチちゃんにきついこと言ったりもした。
……ホントに、ごめん」
 
「いいよ、もう。……あの、もしかしたら今日の喧嘩って?」
 
「はぁ、そう。それが原因。何かどーしても……
未だにリョウと会うと、冷静じゃなくなるんだよなぁ」
 
「マサくん……」
 
「俺、ユウちゃんに一度も好きだ、とかハッキリした言葉もらったわけじゃねえからさ」
 
「でも、今日のユウちゃん、楽しそうだったよ?」
 
「え?」
 
「マサくんの隣にいて、今まで見たことないくらい可愛くて、幸せそうだった。
だから自信持って、いいんじゃないかな?」
 
「ミチちゃん……」
 
「なに?」
 
「ありがとう」
 
「いいえ、どういたしまして」
 
「出ようか?」
 
「うん!」
 
窓の外に広がる、厚い雲。けれどその上にはいつだって、輝く太陽と青空があるのだ。
 
 
~~~
 
 
「リョウ、ユウちゃん!」
 
「マサ、ミチ!」
 
駅で再び遭遇した二組。
 
「ごめんね。ちょっと言い過ぎた」
 
「俺の方こそ、無神経でごめん」
 
真っ先に歩み寄ったのはリョウとミチ。
遅れて顔を上げたマサと目を合わせた瞬間、ユウの顔は真っ赤に染まる。
 
「あのね、マサくん……」
 
照れくさいのか、後ろからそっと握られる手。小さな小さな囁き。
 
スキダヨ……。
 

 
“二人”が好きなもの。繋いだ手のひら。一緒に過ごす時間。二人で……見上げる空。
 
雨の日も、晴れの日も、雪の日も、風の日も、曇りの日も……
変わる天気、変わらない気持ち。ずっとずっと、君と一緒に。





Calm Day(先輩編、side:マホ)


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side:ミチ
踏み出す一歩。

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私が嫌いなもの。強い風の日。虫。特にクモ。そして……離れていく手。
 

 
駅のホーム。
 
「あ」
 
思わず声を上げてしまってから、しまった、と思う。
 
「……久しぶり、カドクラさん」
 
呼び方が元に戻っていることに、ほっとしつつも少し寂しい気持ちになる。
 
「……久しぶり、ホンダくん」
 
一月前にどさくさまぎれの告白を受けてから、ずっと口を利いていなかった彼。
 
「今日も先輩待ってんの?」
 
ため息混じりに吐き出される言葉に、私は意を決して返事をする。
 
「うん。……っていうか、今日は約束も何もしてないんだけど、
話さなきゃならないことがあって。来るまでここで待ってようかと……」
 
「ばっかじゃねえの? なんでそこまでするんだよ……!?
今日は先輩、本当に生徒会の日だぜ?」
 
「うん、だから他の日に待ってるよりは、二人で話できるかな、と思って……」
 
生徒会が忙しい“今日”ならば、他の女の子を連れている確率は
他の日に比べて何倍も少ないだろう、そう思って、今日を決行日にしたのだ。
 
「そう。なら俺、一緒に待っててもいい?」
 
「いいよ、悪いもん!」
 
私が慌てて断ると、彼は寂しそうに呟いた。
 
「俺と一緒にいるの……イヤ、かな?」
  
一ヶ月前、同じ場所で。先輩の浮気のことについて、『いいわけあるかよ!』と
怒鳴りつける彼に、私の押さえつけてきた気持ちが爆発した。
誰かに対してあそこまで激昂したのは、何年ぶりだろうか。
いつも、いつも我慢してきた。先輩が何人もの女の子に囲まれているときも。
告白の返事に、『浮気しても許してくれるよね?』と笑顔で返されたときも。
他の女の子と彼氏のラブシーンを見てしまったときも。
涙が止まらなかった。その時告げられた、彼の気持ち。
 
『俺だって好きなんだ……! カドクラさん……ミチのことが!!』
 
あの時の私は、混乱していたけれど。一ヶ月悩んで、考えて、やっと今日に漕ぎ着けた。
自分の都合が悪いことには敏感な先輩は、中々私と会う時間を持とうとはしてくれなかった。
だから私は今日、強行手段に出ることにしたのだ。
 
「……あのね、ホンダくん。私が今日、ここに来たのはね……」
 
「うん」
 
彼の醸し出す優しい雰囲気に、思わず涙が出そうになる。
 
「先輩と……ちゃんと、お別れしようと思って」
 
そう言った次の瞬間、
 
「ミチ!」
 
と背後から聞き慣れた声がした。
 
「せん、ぱい……!」
 
「何で今日ここにいるんだ? 最近構ってやらなかったから拗ねてるのか?
……せっかくここまで来たんだし、相手してやるよ。どこに行きたい?」
 
焦ったようにまくしたてる先輩の前に、スッと彼が進み出る。まるで私を庇うように。
 
「……なんだ、お前」
 
不審げに彼を見る先輩に、彼は
 
「まず、ちゃんと話を聞いてやれよ。あんた一応彼氏だろ」
 
と言ってくれた。その言葉に勇気付けられ、私は口を開く。
 
「あのね、先輩。私、今日はどうしてもちゃんと話したいことがあって……。
 聞いて、もらえますか?」
 
彼は私の言葉に渋々頷き、私は彼に感謝の念を仕草で一生懸命伝えながら、
先輩と共に近くのコーヒーショップへと向かった。
 

~~~

 
話が落ち着いて、コーヒーショップから出てきたのは夜の九時過ぎ。
“どうでもいい彼女”のはずだった私なのに、先輩は思わぬ執着を見せてくれたらしく、
別れ話は三時間にも及んだ。私は今まで我慢してきたことの全てを、先輩に伝えた。
先輩は私のために努力する、と言ってくれた。けれど、今すぐに全ての女の子たちと
関係を絶つのは無理だ、とも。私はそれに耐えることができない、と思った。
だからもう、一緒にいるべきではないのだ、と。
 
先輩が怒りながら店を出て行って三十分後、ようやく気分が落ち着いた私は、
駅への道を急いだ。夜の風が身に沁みる。今日は風が強い。
 
「……お疲れ様」
 
駅のホームにあるベンチに座っていたのは、彼だった。
 
「どうして……? あれから何時間経ったと思って……!?」
 
「だって、心配だったから」
 
にっこり笑う彼の毒気のない笑顔に、またも堪えていた涙が溢れ出る。
 
「私……私……本当はまだ、好きなのっ……!」
 
「うん」
 
「でも、私の欲しいものは、先輩はくれないの!」
 
「うん」
 
「先輩が欲しいものも、私はあげられない!」
 
「うん」
 
「だから……だから……離れるしか、なかったっ……」
 
「……うん」
 
わんわん泣き喚く私の側に、彼はずっといてくれた。
ただ、優しく相槌を打ちながら。
繋いだ手の温もりが、とても愛しかった。
 

~~~

 
「……ねえ、俺じゃだめかな?」
 
ひとしきり泣いた後、私が落ち着くのを見計らって、彼が言った言葉。
 
「え……?」
 
「俺はさ、ミチに何も求めないよ。だってそのまんまのミチが、
誰よりも好きだもん。だからミチが求めるものには、何にだってなれる」
 
彼の、真摯な眼差し。心の中に、一陣の風が吹く。
 
「あ、私……」
 
戸惑いと、それから甘やかな衝撃が……胸の中に広がる。
 
「返事は急がないからさ。俺のこと、前向きに考えてくれる?」
 
コクンと、頷いた私に、返ってきたのは満面の笑み。未だ痛みは、
引かないけれど。彼の優しい笑顔に、声、手の温もりに、逆らえない。
 
キット、キミヲスキニナル
 
痛みは、吹き飛ぶ。私の中に生まれた新しい風に乗って。





Clowdy Day(番外編)


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side:リョウ
雪の日の出会い。

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俺が好きなもの。食べること。寝ること。あとは……手袋をはめていない手。
 


駅の入り口。
 
「あ!」
 
目の前に差し出された手の上にあったのは、探していたサッカーボールのキーホルダー。
秋に部活を引退した先輩から、お守り代わりにもらった大事なものだ。
 
「やっぱり、あなたのですよね?」
 
にこっ、と微笑む知らない女の子に、知らず顔が赤らむ。
 
「す、すいません! 拾っていただいて……」
 
勢いよく頭を下げると、真っ赤になった手が目に入った。外は雪。
雪を掻き分けて、彼女はわざわざキーホルダーを拾ってくれたのだ。
 
「いいえ、カバンから取れちゃうのが見えたので……」
 
「いやもうホンットに、ありがとうございました!」
 
「じゃあ、私はこれで……」
 
甘い香りを残して去る彼女の視線の先には、メガネを掛けた背の高い男の姿。
あ、スガ先輩だ……。
彼女の手にある紙袋を見てようやく、今日がバレンタインデーということを思い出した。
ユウちゃんを始めとする、仲の良い女友達からもらった
自分のカバンの中の義理チョコの存在を思い出す。
嬉しそうに先輩に駆け寄る彼女を見て、この寒い中彼女が手袋をしていない理由に思い当たった。
手を、繋ぎたかったんだな……。
先輩は彼女に二言三言声を掛けると、そのまま電車のホームへと歩き出す。
彼女は急いでその後を追う。かじかんだ手を、コートの内に隠したまま。
 

~~~
 
 
「リョウ、おいリョウってば! お前、さっきから何ボーっとしてんだ?」
 
親友の声にはっと気づく。今は昼休み。
 
「ノート返してもらいに来たんだけど……大丈夫?」
 
どうやらユウちゃんが来ていることに、気づいていなかったらしい。
あの子に出会った日から、こんなことが増えた。
 
「ごめんね、ユウちゃん。ノートありがとう。今度お礼するよ、何がいい?」
 
誤魔化すように笑いかけると、彼女はパッと笑顔になって
 
「じゃあね、今度どっか旅行行ったときに限定キッド買ってきて! あ、ストラップ型のやつね!」
 
と答えた。彼女は限定キッドを集めているらしい。
 
「了解。ユウちゃん、ほんとキッド好きだねー」
 
「……うん、大好き」
 
心なし彼女の頬がピンクに染まっていることと、
親友の眉間に皺が寄っていることに、俺は気づくわけもなかった。
 

~~~

 
それから一ヵ月後。
 
「あ!」
 
「あ、この間の……」
 
帰り道のコンビニで遭遇したのは、バレンタインにキーホルダーを拾ってくれた、
スガ先輩の彼女(……たぶん……)だった。
 
「こんにちは。久しぶりですね」
 
「あの時はお世話になりました!」
 
もう一度頭を下げた俺に、彼女はクスクス微笑んだ。
 
「Y高の……サッカー部、なんですか?」
 
「はい! ホンダリョウといいます!」
 
部活を聞かれて、ついつい体育会気質で名乗ってしまった俺に、彼女はまた笑って、
 
「N高放送部のカドクラミチです。よろしくお願いします」
 
と挨拶を返してくれた。
 
「……何年生ですか?」
 
「まだ一番下の一年生です」
 
「なんだ、一緒じゃん!」
 
同じ学年だということが分かって急に親近感の湧いた俺はついタメ口になってしまった。
 
「そうなの? じゃあ先輩の一コ下かぁ」
 
ミチの呟きに、あの雪の日の情景を思い出す。
 
「スガ先輩と……付き合ってんの?」
 
「知ってるの!? あ、そっか……あの日、見たよね。
でも先輩、やっぱり高校でも有名人なんだぁ」
 
ミチはそれから、色んなことを話してくれた。先輩とは、中学が同じであったこと。
冬休みに告白して、ようやく付き合えるようになったこと。
今日もこれからデートのため、先輩の生徒会が終わるまでこのコンビニで待っていること。
 
先輩の話をする彼女はとても幸せそうで、可愛くて。俺はとても言い出せなかった。
うちの学校の生徒会の活動日が、今日とは違う曜日だということを。
スガ先輩が彼と同じクラスの、髪の長い女子生徒と連れ立って校門を出て行ったことを。
先輩を知っている理由が、優秀な生徒会役員ということのみならず、有名な女たらし
という噂によってだということを。コンビニで彼女と別れた後、俺は自分の内に湧いた
なんとも言えぬ鬱屈とした気持ちを、どこにぶつけていいか分からなかった。
なんだか無性に腹が立って、切なくて。道に転がる空き缶を、思いっきり蹴飛ばした。
  

~~~

 
「あ~、スガ先輩の彼女? そりゃまた厄介な相手に……」
 
次の日、前日に感じたムカつきを親友に話すと、彼は一つため息をついて、呆れたように呟いた。
 
「……なんだよ」
 
「だって、スガ先輩って言ったら、顔良し、頭良し、
女とっかえひっかえしてる割には誰の恨みも買わない知能犯だろ?
お前みたいなどこまでも真っ直ぐに行くしか能のないイノシシ型が
アタックしたって、簡単に先輩を切ろうとは思えないんじゃねえの?」
 
親友の言葉にムカッときて
 
「何だよそれ! 大体、俺はカドクラさんをどうこうしたいんじゃなくて、
ただ可哀相だな、って……。どうにかできないかな、って……!」
 
「どうこうしたいんじゃん」
 
あっさりとした親友の台詞に、脱力して座り込む。親友は俺の肩にそっと手を置いて言った。
 
「その子と会ってからだろ。お前がボーッとすること増えたの。
ユウちゃんとか部活のやつらも心配してたぞ?
いい加減認めろ。世間ではそーいうのを“恋”って言うんだって」
 
コイって……こいって……恋って……
 
「うああぁぁ……」
 
俺は急に気恥ずかしくなってしまい、頭をぐじゃぐじゃと掻きむしりながら、親友宅を後にした。
 

~~~

 
「あれぇ、ホンダくんじゃん。この時間に電車待ってるなんて珍しいね。部活は?」
 
「今日は雨だから、休み」
 
「あ、そっか……」
 
己の恋心に気づいてから早三ヶ月。
電車を待っている俺の目の前に現れたのは、片思いの相手で。
 
「カドクラさんは、これから先輩とデート?」
 
無理に問うた言葉に返ってきたのはぎこちない微笑みだった。
 
「……その予定で、電車を降りたんだけど」
 
と言って差し出した携帯の液晶には、
『悪い、生徒会の用事ができて会えなくなった』
。もなしかよ! と突っ込みたくなるようなメールが写っていた。
しかも、送信時間は五分前……。相手が学校出る時間くらい考えろ!と言いたい。
加えて、今日生徒会が活動をしている様子は全くなかった。
 
「……カドクラさん、じゃあ今日は俺と遊ばない?」
 
「え? でも……」
 
戸惑う彼女に、おどけるように
 
「俺も部活なくて退屈してたし。先輩が絶対行かなそーなこの辺の遊び場教えたげるー!」
 
と言うと、ようやく彼女は笑顔になった。
 
「本当? この辺の遊べるようなお店ってあんまり詳しくないから、
ずっとあちこち行ってみたいなぁ、って思ってたの!」
 
先輩が行かない、ということは、万が一彼が別の女とデート中だったとしても
遭遇する可能性がないということだ。彼女は気づいているのだろう。
彼が、自分一人を見ているわけではない、ということに。
その日、俺と彼女は二人でゲームセンターやカラオケではしゃぎまくり、
本当に楽しい放課後を過ごした。
 
その帰り道。彼女と会った、学校の最寄り駅。
 
「本当に今日は色々ありがとう。がっかりしてたの忘れるくらい、すごく楽しかった!」
 
にっこり笑う彼女に、暖かな気持ちが込み上げる。
 
「ううん、俺の方こそ……」
 
と言おうとした瞬間、目の前の彼女の顔が強張る。
釣られて後ろを振り返ると、そこにいたのはスガ先輩と、あの髪の長い女の先輩。
腕を絡み合わせる二人は、どこから見ても恋人同士にしか見えなかった。
 
「……行こう」
 
思わず彼女の手を掴んで、ホームから駆け出した俺に、先輩たちが気づいたかどうかは
わからない。俺はとにかくがむしゃらに、彼女を二人の前から遠ざけたかったのだ。


 
「ハア……ッハア……ッ、別に、無理して逃げなくても良かったのに」
 
息を切らした彼女の呟きに、俺も荒い呼吸を落ち着けながら、
 
「……んな訳ねえだろっ……!」
 
と返す。
 
「だって私……知ってるもの。先輩は中学の時から……そういう人だって」
 
彼女の言葉に驚いて目を見張ると、彼女はふっと微笑んで言った。
 
「そういう人だってわかってて……それでもいい、って告白したの。だからこれでいいの、私は……」
 
寂しそうな、彼女の瞳。
 
「いいわけあるかよ!」
 
「なんでホンダくんにそんなこと言われなくちゃいけないのよ! 何も知らないくせに!
関係ないじゃない! しょうがないでしょう! だって……だって好きなのよ!」
 
透明な涙の雫が、彼女の頬を伝う。彼女はどれだけこの涙を我慢してきたのだろうか。
腹の中が煮えくり返るような思いに襲われる。
 
「関係なくなんかない……。俺だって好きなんだ! カドクラさん……ミチのことが!」
 
吐き出すだけ吐き出して、俺はその場を走り去った。
 
オレ、サイアク……
 
彼女と初めて会ったあの日の雪が、俺の心の中に深々と降り積もっていた。





Windy Day(side:ミチ)
 


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