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彼が嫌いなもの。部活が潰れる雨の日。女の子たちの甲高い騒ぎ声。
たぶん……親友の彼女。
お昼のパン屋さん。
「あ」
思わず立ち止まったのは、視線の先に二人がいたから。
「あれ、ユウちゃんじゃん」
「こんにちはー」
にこっ、と微笑む可愛い彼女の隣には、私の好きな人。
一月前に付き合いだした彼女は、他校の女の子だ。
偶然にも駅で出会い、紹介されたのはついこの間。
苦しくて、痛くて、堪らない気持ちは、今も消えない。だけど……
一月前に付き合いだした彼女は、他校の女の子だ。
偶然にも駅で出会い、紹介されたのはついこの間。
苦しくて、痛くて、堪らない気持ちは、今も消えない。だけど……
「リョウ、何やってんの? ミチちゃん、N高だろ?
お昼にこんなとこいて……五限、間に合うのかよ?」
私の後ろから現れたのは、好きな人の親友。
「マサくん」
彼は少し怒っているようだ。
けれど、
「あ、おはよー、ユウちゃん」
私に対してはいつものごとく穏やかに挨拶をする彼に、少し驚いてしまう。
「あ、あのねマサくん……私の学校はそんなに遠くないし、
リョウと一緒にお昼食べても急げば間に合うと思うの」
リョウと一緒にお昼食べても急げば間に合うと思うの」
おずおずと口を開いた彼女を庇うように、リョウくんが言葉を重ねる。
「そうだよ、マサ。俺ら学校違ってあんまり一緒にいれないんだから、
たまに昼一緒に食べるくらいいいだろ」
たまに昼一緒に食べるくらいいいだろ」
寄り添う二人の姿に、ツキン、と胸が痛む。
「そういう問題じゃないだろ。いくら一緒にいたいからって、
今は部活だってそんなキツくねえし、放課後とかいくらでも会えるじゃねえか。
今は部活だってそんなキツくねえし、放課後とかいくらでも会えるじゃねえか。
学校は学校なんだから、ちゃんとやることやってから遊べよ」
どうやらマサくんは、リョウくんの彼女……ミチちゃんのことが嫌いらしい。
基本的に他人への干渉を好まないマサくんが、ここまで口を出すのは珍しい。
「マ、マサくん、そこまで言わなくても。付き合い始めってそんなもんだよ」
思わずフォローの言葉を挟むと、
「ありがとう、さっすがユウちゃん! やっさしい~!」
とリョウくんに手を握られた。ちょっとやめてよ、彼女の前で!
思わず顔が赤く染まりそうになるのを、必死で抑える。
「……別にいいけど。困るのはお前だし」
そう言ってレジに向かったマサくんがこちらに向けた視線は、
どこか苛立たしげな、哀しそうな色を帯びていた。
どこか苛立たしげな、哀しそうな色を帯びていた。
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「……マサくん」
パン屋から戻った後、私が向かったのは学校の屋上だった。
「ユウちゃん」
そこには一人フェンスに寄りかかってパンを齧る彼の姿があった。
「やっぱりここにいた」
私は彼の隣にそっと腰を下ろす。リョウくんに彼女が出来る前、二人はいつもここにいた。
お昼を食べたり、昼寝をしたり、話し込んだり……。
私も、リョウくんに少しでも近づきたくて、よくここに来ていたっけ……。
「マサくんは、ミチちゃんが嫌いなの?」
呟いた問いに、彼は少し驚いたような顔をした。
「そんなことないけど……」
「じゃあなんでミチちゃんが彼女になってから、リョウくんにあんなに突っかかるようになったの?
……ミチちゃん、いい子だと思うけどなあ。リョウくんも楽しそうだし」
……ミチちゃん、いい子だと思うけどなあ。リョウくんも楽しそうだし」
言いながら、ズキズキと胸が軋む。空気がピリピリと肌に沁みる。
「なんで、アイツらのフォローを、ユウちゃんがしてんの?」
彼が腹立たしそうに吐き出した言葉の意味が、初め私には飲み込めなかった。
「え……?」
「何で、一番二人のこと見たくないと思ってるユウちゃんが、二人のこと庇うんだよ!?
俺はもう……見たくないよ、ユウちゃんが無理してるとこ」
俺はもう……見たくないよ、ユウちゃんが無理してるとこ」
思わず言葉を失った私の胸に、彼の言葉が突き刺さる。
彼が私の気持ちを知っていることは、何となく気づいていた。
彼は繊細で敏感な人だから。私の好きな、あの人よりずっと。
「……涼しくなってきたね」
「……涼しくなってきたね」
私に吐き出せたのは、話題と全く関係のない言葉で。
「一人で屋上にいるの、寒くない?」
見当違いな私の台詞に、彼は静かに答えを返す。
「……今は一人じゃないから、寒くない。それに秋の空は……キレイだから」
「私も好きだよ、秋晴れの空。気分がスカーッとするよね」
私は思わず微笑んだ。何日ぶりだろう、こんなに自然に笑えたのは。
「……ユウちゃん」
「なに?」
「……好きだよ」
「うん……」
私は気づいていた。彼の気持ちに、というより、彼がなぜあんなにも、
リョウくんとミチちゃんを避けようとしていたのか。
リョウくんとミチちゃんを避けようとしていたのか。
私を傷つけないように。私を、守るために。ずっと、ずっと大切にしてくれていた。
今はまだ、あの人が忘れられないけれど。
彼が大切だ、という気持ちは私の中にも確かにある。
スコシダケ、マッテテクレル?
返事を返してくれたのは、物言わぬ秋の青空だった。
→Snowy Day(side:リョウ)
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デンパンブックス『It’s A Fine Day!』より移行。
別名「お天気シリーズ」(笑)
高校生主役、恋愛メインの青春ものです。
Chronology
※初読は掲載順の方が分かりやすいかと思います
別名「お天気シリーズ」(笑)
高校生主役、恋愛メインの青春ものです。
Chronology
※初読は掲載順の方が分かりやすいかと思います
2~5月 『Snowy Day=雪の日』 side:リョウ
6月 『Windy Day=風のある日』 side:ミチ
7月 『Rainy Day=雨の日』 side:マサ
6~9月 『Calm Day=風の無い日』 side:マホ
9月 『Sunny Day=晴れの日』 side:ユウ
『Gusty Day=風の強い日』 side:イタル
12月 『Cloudy Day=曇りの日』 side:?
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Rainy Day
彼女が好きなもの。犬のキャラクター“キッド”の地域限定キーホルダー。
ウサギグッズ。それから……俺の親友。
深夜のコンビニ。ペットボトルの詰まった大きな冷蔵庫の前。
「あ」
手に取ったのはウサギのキャラクター“ペコウサギ”のストラップ付きの炭酸飲料。
彼女と出会ってから、無意識に根付いた習慣。
少し不安げに微笑む顔と、それが向けられる相手を思い出す。
どこか引っかかる気持ちを抱きながら、コンビニを後にした。
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「あっついねー」
人気のまばらな学校の最寄り駅で、電車を待つ時間。傍らの彼女はパタパタと手を動かしている。
「あ、そーだ。この前これ付いてきたから」
先日の炭酸飲料のオマケを差し出すと、彼女の顔にパッと花が咲いたような笑みが広がる。
「え!? ペコウサギじゃん! わーい、マジで!? ありがとう~!」
無邪気に喜ぶ彼女に、心の中がふわっと暖かくなる。
「どうしたのー?」
そこへやってきたのは、俺の親友で。
「あ、リョウくん。見て見て、マサくんがこれくれたの~!」
どこかぎこちなくも、目をキラキラと輝かせて、親友を見つめる顔は
さっき俺がペコウサギを取り出した時より何倍も嬉しそうで。
さっき俺がペコウサギを取り出した時より何倍も嬉しそうで。
「あ、そうなの? よかったじゃん、ユウちゃん」
笑顔でそう返し、こちらに向かってきた親友は、その背を見つめる切ない眼差しに気づかない。
だから俺も、気づかないふりをする。彼女の気持ちにも、自分の中の焦燥にも。
「マサくんにはいっつも協力してもらってるねー。
おかげでウサギグッズもキッドもいっぱい集まったよー」
ニコニコ微笑む彼女の顔が、どこか沈んで見える。
あいつは、ウサギのオマケ付きの飲み物をわざわざ選んだりしない。
あいつは、飲み物のオマケをわざわざ取っておいたりなんかしない。
あいつが彼女にあげたのは、たった二つのキッドだけ。
一つ目は、彼女にペンを貸してもらったお礼。二つ目は、ノートを見せてもらったお礼。
旅行に行ってもわざわざ限定キッドを探し回ったりなんて、しないんだ。……俺みたいに。
「マサくんは、優しいよねー。ホント、憎たらしくなるくらい……」
あいつが彼女の気持ちに気づいてるかなんて、わからない。
あいつにとって、彼女は“トモダチ”
あいつは今、違う学校の女の子に恋をしている。
彼女は、それを知らない……はずだった。彼女の声は、ほんの少し震えていた。
顔を見ないように、肩にそっと触れそうになって、寸前で手を引っ込めた。
アンナヤツヤメロヨ
オレニシトケバヨカッタノニ
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