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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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side:ミチ
踏み出す一歩。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



私が嫌いなもの。強い風の日。虫。特にクモ。そして……離れていく手。
 

 
駅のホーム。
 
「あ」
 
思わず声を上げてしまってから、しまった、と思う。
 
「……久しぶり、カドクラさん」
 
呼び方が元に戻っていることに、ほっとしつつも少し寂しい気持ちになる。
 
「……久しぶり、ホンダくん」
 
一月前にどさくさまぎれの告白を受けてから、ずっと口を利いていなかった彼。
 
「今日も先輩待ってんの?」
 
ため息混じりに吐き出される言葉に、私は意を決して返事をする。
 
「うん。……っていうか、今日は約束も何もしてないんだけど、
話さなきゃならないことがあって。来るまでここで待ってようかと……」
 
「ばっかじゃねえの? なんでそこまでするんだよ……!?
今日は先輩、本当に生徒会の日だぜ?」
 
「うん、だから他の日に待ってるよりは、二人で話できるかな、と思って……」
 
生徒会が忙しい“今日”ならば、他の女の子を連れている確率は
他の日に比べて何倍も少ないだろう、そう思って、今日を決行日にしたのだ。
 
「そう。なら俺、一緒に待っててもいい?」
 
「いいよ、悪いもん!」
 
私が慌てて断ると、彼は寂しそうに呟いた。
 
「俺と一緒にいるの……イヤ、かな?」
  
一ヶ月前、同じ場所で。先輩の浮気のことについて、『いいわけあるかよ!』と
怒鳴りつける彼に、私の押さえつけてきた気持ちが爆発した。
誰かに対してあそこまで激昂したのは、何年ぶりだろうか。
いつも、いつも我慢してきた。先輩が何人もの女の子に囲まれているときも。
告白の返事に、『浮気しても許してくれるよね?』と笑顔で返されたときも。
他の女の子と彼氏のラブシーンを見てしまったときも。
涙が止まらなかった。その時告げられた、彼の気持ち。
 
『俺だって好きなんだ……! カドクラさん……ミチのことが!!』
 
あの時の私は、混乱していたけれど。一ヶ月悩んで、考えて、やっと今日に漕ぎ着けた。
自分の都合が悪いことには敏感な先輩は、中々私と会う時間を持とうとはしてくれなかった。
だから私は今日、強行手段に出ることにしたのだ。
 
「……あのね、ホンダくん。私が今日、ここに来たのはね……」
 
「うん」
 
彼の醸し出す優しい雰囲気に、思わず涙が出そうになる。
 
「先輩と……ちゃんと、お別れしようと思って」
 
そう言った次の瞬間、
 
「ミチ!」
 
と背後から聞き慣れた声がした。
 
「せん、ぱい……!」
 
「何で今日ここにいるんだ? 最近構ってやらなかったから拗ねてるのか?
……せっかくここまで来たんだし、相手してやるよ。どこに行きたい?」
 
焦ったようにまくしたてる先輩の前に、スッと彼が進み出る。まるで私を庇うように。
 
「……なんだ、お前」
 
不審げに彼を見る先輩に、彼は
 
「まず、ちゃんと話を聞いてやれよ。あんた一応彼氏だろ」
 
と言ってくれた。その言葉に勇気付けられ、私は口を開く。
 
「あのね、先輩。私、今日はどうしてもちゃんと話したいことがあって……。
 聞いて、もらえますか?」
 
彼は私の言葉に渋々頷き、私は彼に感謝の念を仕草で一生懸命伝えながら、
先輩と共に近くのコーヒーショップへと向かった。
 

~~~

 
話が落ち着いて、コーヒーショップから出てきたのは夜の九時過ぎ。
“どうでもいい彼女”のはずだった私なのに、先輩は思わぬ執着を見せてくれたらしく、
別れ話は三時間にも及んだ。私は今まで我慢してきたことの全てを、先輩に伝えた。
先輩は私のために努力する、と言ってくれた。けれど、今すぐに全ての女の子たちと
関係を絶つのは無理だ、とも。私はそれに耐えることができない、と思った。
だからもう、一緒にいるべきではないのだ、と。
 
先輩が怒りながら店を出て行って三十分後、ようやく気分が落ち着いた私は、
駅への道を急いだ。夜の風が身に沁みる。今日は風が強い。
 
「……お疲れ様」
 
駅のホームにあるベンチに座っていたのは、彼だった。
 
「どうして……? あれから何時間経ったと思って……!?」
 
「だって、心配だったから」
 
にっこり笑う彼の毒気のない笑顔に、またも堪えていた涙が溢れ出る。
 
「私……私……本当はまだ、好きなのっ……!」
 
「うん」
 
「でも、私の欲しいものは、先輩はくれないの!」
 
「うん」
 
「先輩が欲しいものも、私はあげられない!」
 
「うん」
 
「だから……だから……離れるしか、なかったっ……」
 
「……うん」
 
わんわん泣き喚く私の側に、彼はずっといてくれた。
ただ、優しく相槌を打ちながら。
繋いだ手の温もりが、とても愛しかった。
 

~~~

 
「……ねえ、俺じゃだめかな?」
 
ひとしきり泣いた後、私が落ち着くのを見計らって、彼が言った言葉。
 
「え……?」
 
「俺はさ、ミチに何も求めないよ。だってそのまんまのミチが、
誰よりも好きだもん。だからミチが求めるものには、何にだってなれる」
 
彼の、真摯な眼差し。心の中に、一陣の風が吹く。
 
「あ、私……」
 
戸惑いと、それから甘やかな衝撃が……胸の中に広がる。
 
「返事は急がないからさ。俺のこと、前向きに考えてくれる?」
 
コクンと、頷いた私に、返ってきたのは満面の笑み。未だ痛みは、
引かないけれど。彼の優しい笑顔に、声、手の温もりに、逆らえない。
 
キット、キミヲスキニナル
 
痛みは、吹き飛ぶ。私の中に生まれた新しい風に乗って。





Clowdy Day(番外編)

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私が嫌いなもの。強い風の日。虫。特にクモ。そして……離れていく手。
 

 
駅のホーム。
 
「あ」
 
思わず声を上げてしまってから、しまった、と思う。
 
「……久しぶり、カドクラさん」
 
呼び方が元に戻っていることに、ほっとしつつも少し寂しい気持ちになる。
 
「……久しぶり、ホンダくん」
 
一月前にどさくさまぎれの告白を受けてから、ずっと口を利いていなかった彼。
 
「今日も先輩待ってんの?」
 
ため息混じりに吐き出される言葉に、私は意を決して返事をする。
 
「うん。……っていうか、今日は約束も何もしてないんだけど、
話さなきゃならないことがあって。来るまでここで待ってようかと……」
 
「ばっかじゃねえの? なんでそこまでするんだよ……!?
今日は先輩、本当に生徒会の日だぜ?」
 
「うん、だから他の日に待ってるよりは、二人で話できるかな、と思って……」
 
生徒会が忙しい“今日”ならば、他の女の子を連れている確率は
他の日に比べて何倍も少ないだろう、そう思って、今日を決行日にしたのだ。
 
「そう。なら俺、一緒に待っててもいい?」
 
「いいよ、悪いもん!」
 
私が慌てて断ると、彼は寂しそうに呟いた。
 
「俺と一緒にいるの……イヤ、かな?」
  
一ヶ月前、同じ場所で。先輩の浮気のことについて、『いいわけあるかよ!』と
怒鳴りつける彼に、私の押さえつけてきた気持ちが爆発した。
誰かに対してあそこまで激昂したのは、何年ぶりだろうか。
いつも、いつも我慢してきた。先輩が何人もの女の子に囲まれているときも。
告白の返事に、『浮気しても許してくれるよね?』と笑顔で返されたときも。
他の女の子と彼氏のラブシーンを見てしまったときも。
涙が止まらなかった。その時告げられた、彼の気持ち。
 
『俺だって好きなんだ……! カドクラさん……ミチのことが!!』
 
あの時の私は、混乱していたけれど。一ヶ月悩んで、考えて、やっと今日に漕ぎ着けた。
自分の都合が悪いことには敏感な先輩は、中々私と会う時間を持とうとはしてくれなかった。
だから私は今日、強行手段に出ることにしたのだ。
 
「……あのね、ホンダくん。私が今日、ここに来たのはね……」
 
「うん」
 
彼の醸し出す優しい雰囲気に、思わず涙が出そうになる。
 
「先輩と……ちゃんと、お別れしようと思って」
 
そう言った次の瞬間、
 
「ミチ!」
 
と背後から聞き慣れた声がした。
 
「せん、ぱい……!」
 
「何で今日ここにいるんだ? 最近構ってやらなかったから拗ねてるのか?
……せっかくここまで来たんだし、相手してやるよ。どこに行きたい?」
 
焦ったようにまくしたてる先輩の前に、スッと彼が進み出る。まるで私を庇うように。
 
「……なんだ、お前」
 
不審げに彼を見る先輩に、彼は
 
「まず、ちゃんと話を聞いてやれよ。あんた一応彼氏だろ」
 
と言ってくれた。その言葉に勇気付けられ、私は口を開く。
 
「あのね、先輩。私、今日はどうしてもちゃんと話したいことがあって……。
 聞いて、もらえますか?」
 
彼は私の言葉に渋々頷き、私は彼に感謝の念を仕草で一生懸命伝えながら、
先輩と共に近くのコーヒーショップへと向かった。
 

~~~

 
話が落ち着いて、コーヒーショップから出てきたのは夜の九時過ぎ。
“どうでもいい彼女”のはずだった私なのに、先輩は思わぬ執着を見せてくれたらしく、
別れ話は三時間にも及んだ。私は今まで我慢してきたことの全てを、先輩に伝えた。
先輩は私のために努力する、と言ってくれた。けれど、今すぐに全ての女の子たちと
関係を絶つのは無理だ、とも。私はそれに耐えることができない、と思った。
だからもう、一緒にいるべきではないのだ、と。
 
先輩が怒りながら店を出て行って三十分後、ようやく気分が落ち着いた私は、
駅への道を急いだ。夜の風が身に沁みる。今日は風が強い。
 
「……お疲れ様」
 
駅のホームにあるベンチに座っていたのは、彼だった。
 
「どうして……? あれから何時間経ったと思って……!?」
 
「だって、心配だったから」
 
にっこり笑う彼の毒気のない笑顔に、またも堪えていた涙が溢れ出る。
 
「私……私……本当はまだ、好きなのっ……!」
 
「うん」
 
「でも、私の欲しいものは、先輩はくれないの!」
 
「うん」
 
「先輩が欲しいものも、私はあげられない!」
 
「うん」
 
「だから……だから……離れるしか、なかったっ……」
 
「……うん」
 
わんわん泣き喚く私の側に、彼はずっといてくれた。
ただ、優しく相槌を打ちながら。
繋いだ手の温もりが、とても愛しかった。
 

~~~

 
「……ねえ、俺じゃだめかな?」
 
ひとしきり泣いた後、私が落ち着くのを見計らって、彼が言った言葉。
 
「え……?」
 
「俺はさ、ミチに何も求めないよ。だってそのまんまのミチが、
誰よりも好きだもん。だからミチが求めるものには、何にだってなれる」
 
彼の、真摯な眼差し。心の中に、一陣の風が吹く。
 
「あ、私……」
 
戸惑いと、それから甘やかな衝撃が……胸の中に広がる。
 
「返事は急がないからさ。俺のこと、前向きに考えてくれる?」
 
コクンと、頷いた私に、返ってきたのは満面の笑み。未だ痛みは、
引かないけれど。彼の優しい笑顔に、声、手の温もりに、逆らえない。
 
キット、キミヲスキニナル
 
痛みは、吹き飛ぶ。私の中に生まれた新しい風に乗って。





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