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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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SSS。
※欧風・シリアス・取り方によっては近親同性愛要素あり

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わたしのほしいものは、すべてあなたがもっていってしまう。



始まりは姉でした。美しくて、優しくて、何よりも眩かったひと。
わたしは姉が好きでした。
だっておねえさまはわたしのただ一人の姉で、わたしはおねえさまのただ一人の妹。
おねえさまの一番はわたしで、わたしの一番はお姉さま。それが、当たり前のかたちでしょう?
それなのに、あなたは。
おねえさまがあなたを見る瞳は、おねえさまがわたしを見る瞳とは全く異なるものだった。
おねえさまは私を、春の日のような、真綿にくるまれた卵を見守る親鳥のような、
やさしい、やさしすぎる慈愛の眼差しで見つめる。
おねえさまはあなたを、燃え盛る炎のような、薄氷を張った湖のような、
熱く、冷たい情念の眼差しで見つめる。あなたを、あなただけを。
憎らしかった。
おねえさまの“ただ一つ”の眼差しを受けるのは、わたしだけでいいのに。
だから、わたしは。

わたしは自分の身体を傷つけた。わざとあなたにぶつかって、煮えたぎる熱湯をこの身に被った。
“心と身体に傷を負った”わたし、“あなたが近づくことを怖れるようになった”わたし。
わたしを連れて、おねえさまはあなたの元を離れた。そうしてわたしはおねえさまを手に入れた。
あなたに勝った。おねえさまは、傷ついた妹の傍を離れなくなった。


~~~


そうして、次に出あったのがかれだった。純粋で、誠実で、何より暖かかったひと。
私はかれが好きでした。
だってかれはわたしのただ一人の恋人で、わたしはかれのただ一人の恋人。
かれの一番はわたしで、わたしの一番はかれ。それが、当たり前のかたちでしょう?
それなのに、あなたは。
かれがあなたに立てた誓いは、かれがわたしに立てた誓いとは全く異なるものだった。
かれは私に、甘い砂糖菓子のような、ふわふわと漂う雲のような、
やさしい、やさしすぎる不確かな誓いを立てた。
かれはあなたに、身を押し流す濁流のような、鋭くとがった猛獣の牙のような
激しく、重い確実な誓いを立てた。あなたに、あなたにだけ。
憎らしかった。
かれと“ただ一つ”の誓いを結ぶのは、わたしだけでいいのに。
だから、わたしは。

わたしはおねえさまに嘘を吐いた。騙されたおねえさまは絶望し、あなたの命を奪った。
『恋人を裏切って殺した』おねえさま。『主君を殺された』かれ。
かれはおねえさまの元からわたしを引き離した。そうしてわたしは、かれを手に入れた。
あなたに勝った、はずだったのに……。


~~~


わたしを取り戻そうとするおねえさま。わたしの傍から離れないかれ。
大好きなおねえさまと、大好きなかれが、全てわたしのものになると思った。
けれど、まさか、そんな。
おねえさまの心にはかれへの怒り。かれの心にはおねえさまへの恨み。
たった、それだけしか存在しないなんて。二人が、わたしを想ってくれないなんて。
許せない。許せない。そんなことは認めない。だから、

「これは契約です、公爵さま。わたしの穢れた名を使うことを許します。
わたしの醜い身体も貴方に捧げましょう。ですから、どうか、二人の首を――」


~~~


あなた、天国にいるか地獄にいるか分からぬあなた。生前はごめんなさい?
わたしは決してあなたを嫌いなわけではなかった。
わたしが欲しがると、自分のものでも必ず分け与えてくれたあなた。
あのときあなたに分けていただいたお礼に、
わたしも自分のものをあなたに分けてあげようと思います。

二人の魂をあなたに。二人の首をわたしに。仲良くはんぶんこ。
ねぇ、素敵でしょう?何よりも愛しかった二人を、何よりも憎らしかったあなたと。

ねぇ、わたしもおとなになったでしょう?






後書き


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攻め入る国の王子と攻め入られる国の王女の最後の夜。中世欧風SSS。

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「愛したとしたら何が悪いの?」
 
西隣の小国に、最後の攻撃を仕掛ける前夜。
寝所で己を出迎えたその国の王女に、常の如く仕掛けた、惨たらしい悪戯。
しかし、彼女は黙ってこちらを見つめるのみで、それに応えることはなかった。
その瞳に写るのは、哀しみ、切なさ、戸惑い、不安……。
初めて感じる眼差しに、心がざわめく。
 
「どうした? ……まさか、俺を愛したとか言うんじゃないだろうな?
明日我が国に滅ぼされるという国の王女が!」
 
嗤いながら告げた言葉は、これまで己が吐き出した悪口の中で、最も残酷な言葉だった。
 
少女は、言った。震える手を固く握りしめて。
燃えるような怒りと悲しみを、その瞳にたぎらせながら。
 
「愛したとしたら、何が悪いの?」
 
凍りついた男の表情に構わず、
押さえつけても、押さえつけても溢れる思いの丈を吐き出した。
 
「たとえ人質同然に差し出された道具だったとしても……私はあなたの妻よ!
沢山の道具の中の一つに過ぎないとしても……あなたを……
憎む方が正しかったとしても! 愛したとしたら、何が悪いの!?」
 
ぶつけられた激昂に、男は返事を返すことができなかった。
“愛”という言葉を自分に向けられたのは、その時が初めてだったから。
 
「頼む……頼むから、泣かないでくれ……」
 
呆然としたまま出てきたのは、そんな言葉だけだった。
華奢な少女の身体を、彼は縋るように掻き抱く。
 
「俺は、お前を……」
 
男の口から、己の望む言葉が決して得られぬのを知って、少女はその腕を跳ね除けた。
 
「国へ、帰ります」
 
寝所から走り去る彼女を、男は引き止めることができなかった。
 
 
~~~

 
「アイラ姫を送り出した? ……なんと、惜しいことを」
 
翌日、出陣前の緊張と高揚が入り混じる空気の中、
昨夜の出来事を告げた己に側近はこう返した。
 
「お前はアレにそれほど良い印象を抱いてはいなかったであろう? 何を今更……?」
 
訝しく問い返すと、側近はその淡々とした声音のまま、こう答えた。
 
「いえ、姫ご自身はどうなっても構いません。ただ、腹の中のお子が……」
 
「!?」
 
初めて知る事実に、驚愕して目を見開いた主に構わず、
彼はその冷徹な姿勢を崩さぬまま、こう続けた。
 
「殿下の折角の第一子であらせられたのに、本当に惜しいことを致しました。
他のお妃でお子を孕まれておいでの方は、まだ一人もおいでになりませんからね」
 
……それはそうだろう。己はもうずっと、アレしか抱いておらぬ。
アレに出会ってから、他の女を抱く気は不思議と起こらなくなった。
緩やかに波打つ金色の髪。深い森の色をそのまま閉じ込めたような、緑の双眸。
人質同然の身でありながら、決して媚びることなく、誇り高くあった少女。
悪戯をしかければすぐムキになり、無理やり抱こうとすれば泣いて抗った。
決して自分の意のままにならぬ彼女が面白くて、手酷い仕打ちを随分重ねた。
そんな時でも、その緑の瞳から輝きが失われることは、決してなかった。
その、輝きが……強さが、好きだった。しかし。
 
アイラ、お前が去っても……惜しまれるのは俺の子のみ、とは……
 
「フッ、ははははは……ははははははは……っ!」
 
「……殿下?」
 
気が触れたように笑い出した主に、怪訝な視線を向けた側近の首が飛んだのは、
小国の城を落とした翌日のことだった。
 
史上最強と歌われた軍事国家が狂った世継ぎによって滅ぼされたのは、
それから間もなくのこと。
混乱を沈めようと向けられた大国の軍勢が王太子を攻めたとき、
彼が立て篭もったのは、かつて己が攻め落とした、あの小国の城だった。
 
 
~~~

 
「アイラ……」
 
姫の血がまだこびりつく床の上で、この世に別れを告げようとする男の顔に、微笑が浮かぶ。
 
愛であったのか、そうでなかったのか。男には最後まで分からなかった。
けれどそれももう、今終わる……
 
事切れる瞬間、彼は破壊された玉座の向こうに、
己に良く似た赤子を腕に抱いた美しい女の幻を見た。
 
 
 

 


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貴族の兄妹と女房と皇子、平安風SSS。

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「いやっ!!やめて!!」
 
女房に身体を押さえつけられて金切り声を挙げる一人の女。
当代随一の美姫、と称される内大臣家の茜姫。
美しい顔は勘気に歪められ、暴れたせいで身の丈より長い黒髪は乱れ、
体中にまとわりついている。
 
「よさないか、茜。みっともない……」
 
現れたのは彼女の兄。
内大臣家の嫡男、貴明。
将来を嘱望される見目麗しい青年は、
どこか冷たささえも感じられるような声でこう告げた。
 
「お兄様!またお兄様の仕業ね……!
どうしていつも私の愛する人を遠ざけるの!?」
 
兄は妹を軽蔑の眼差しで見つめ、
 
「お前の男の趣味が悪すぎるのだ。あんな身分も持たぬ雑色風情と……」
 
苦々しげに吐いた。
 
「あの方をどこへやったのです!?答えてくださいお兄様!おにいさまっ……!」
 
追いすがる妹に、貴明はうっとおしそうに背を向ける。 
部屋の出口に来た彼が、傍らに控える少女に、
 
「今宵、私の元へ来い……」
 
と口の端を上げて囁いたことに注意を払う者は、誰もいなかった。
 
 
~~~

 
「……どうしてこんな辛い想いをしなくてはいけないのかしら。
ただ人を好きになっただけなのに」
 
騒ぎの後の静けさの中、姫の呟きに答えるのは、
先ほどその兄に声を掛けられた女房だった。
 
「思うままにならぬ……恋とはそうしたものでございます」
 
「ああ、霞、確かそなたも……辛い恋を、したのでしたね」
 
「……」
 
少女は目を伏せただけで何も答えなかった。
 
姫といくらも年の変わらぬ女房……霞は、実の兄と恋に落ちた。
その結果故郷にはいられなくなり、兄と引き裂かれて都に……
内大臣家にやって来た。
そして今では、強引に若殿たる貴明の半分情人のような扱いを受けている。
それが“霞”だ。
 
「お前も、わたくしと同じなのですね……」
 
姫は優しく微笑んで、そっと霞の手を取った。
 
 
~~~
 
 
「遅くなりまして申し訳ありません」
 
月が東に傾く頃、霞はようやく主人である茜の元を離れ、貴明の元を訪れた。
 
「まったくだ……来い」
 
貴明は乱暴に細い手首を引き寄せ、自分の元に引き寄せた。
 
「茜の様子はどうだ……?落ち着いたか?」
 
己を組み敷きながら問うてくる若殿に、
 
「はい……少しは落ち着かれたようで、今は眠っておられます」
 
「全く……何で次から次へと厄介な男ばかり追いかけるのだろうな」
 
苛立たしげに吐かれた言葉に、霞はおずおずと返事を返す。
 
「兄君さまに……気になさっていただきたいのではないですか?
わたくしをお傍に置かれるのも……。
あの方が、本当はどなたを想っておいでか、本当はご存知なのでは……っ……!」
 
「うるさいっ!!」
 
みなまで言い終わらぬ内に、霞の身体は乱暴に突き上げられ、声を奪われる。
「はっ、女房風情が出過ぎたことを……。
そうだな、そなたには人の世の(のり)も何もないものな。
まさに実の兄と繋がった……汚らわしいメス犬が!」
 
「あっ……ふっ……」
 
怒りのままに動く灼熱に、霞の思考は溶かされていく。
 
「お前も俺を恨んでいるだろう?
愛しい男と引き裂き、無理やり身体を我が物にした俺を。
ククッ、どうだ、憎い男に抱かれる気分は……?もっと俺を憎め……!」
 
狂宴は、一晩中続いた。
 
 
~~~

 
「本当にあなたという方は……恐ろしい姫君だ」
 
明くる日、茜姫の元を訪れたのは、一人の瀟洒な青年だった。
今上帝の異母弟に当たる、椿の宮。
当代きっての色好みであり、茜の兄たる貴明とは親友の間柄である。
貴明とは違い、どこか穏和で軽薄な感のある風貌に、悪戯な瞳が輝く。
 
「だって退屈なんですもの。当分遊戯(ゲーム)は続けるわ」

艶やかに微笑んだのは、果たして昨日恋人との別離を嘆いていた姫なのか。
と、そこに入ってきたのは一人の線の細い少女で。
 
「ああ、霞。兄上の様子はどうだった?」
 
「ええ……もう大分。茜様の手の内に落ちるのは、時間の問題かと」
 
少女は顔色も変えず淡々と答える。
 
「ふふっ……楽しみね。
でも余り早く遊戯(ゲーム)が終わってしまっては……つまらないわ」

「そうしたらまた、新しい遊びを見つけられれば良い」
 
思案顔の姫君を、腕の中に引き寄せたのは椿の宮。
 
「あら、宮様……今日は、“我が愛しの兄上”の元にいらしたのではなくて?」
 
「貴明から君を誘惑しろ、と言われてるんだ……。
努力の後を見せておかないと、後がうるさいだろう?」
 
「……今更ね。わたくしたちはとっくの昔に“遊び相手”になっているのに……
どうして気づかないのかしら?」
 
クスクスと微笑みあい、褥に倒れこんだ二人の姿に、霞は静かに部屋を後にした。


 
――少女が提案したのは、「実の兄を落とす」という遊戯(ゲーム)

「本当に、お前を傍に置いてよかったわ。
こんな楽しい遊びに出会えるなんて……。
しかもお前はそれを成功させたんですものね?」
 
嬉々として言葉を紡ぐ主に、少女は感情の篭もらぬ目で微笑む。
 
「ええ……あっけないものでしたよ」
 
その遊戯(ゲーム)のおかげで少女と兄は全てを失ったというのに。

「ふふっ……わたくしも絶対成功させて見せるわ。
あの堅物の兄君が堕ちるところを見たいもの」
 
狂気を帯びた眼差しで、満足げな微笑を浮かべる女主人を、
霞は冷めた瞳で見つめていた。

 
~~~
 
 
「……来ていたのか」
 
辺りが闇に包まれる頃、貴明は階に親友の姿を見つけた。
 
「ああ……先ほどね。ちゃんと妹君のところにも顔を出したよ」
 
と言って彼は淫靡な微笑を浮かべ、衣をくつろげて胸元の紅い痕を指し示す。
 
「そうか……ご苦労なことだな」
 
青年は口の端を上げて嗤った。
 
「お前ほどじゃないさ……アレ(・・)に付き合うのは大変だろう?」

「そうでもないな……多少面倒ではあるが」
 
隣に腰を降ろそうとした貴明が、何かに気づいたように、柱の影に声を掛ける。
 
「霞」
 
その言葉に驚いて宮がそちらを見ると、少女が酒と肴の載った台を持って控えていた。
 
「相変わらずお前は察しが良いな」
 
当たり前のように給仕を始めた霞の顔には、
常と変わらず何の感情の起伏も見られない。
 
「君は一体、何者なんだ……?」
 
一体誰の、味方なんだ……?
宮の問いに、霞は答えず微笑むばかり。
もしかしたら騙されているのは、俺のほうじゃないか……?
貴明兄妹に
霞に
いや皆が皆、嘘を吐いているのかもしれない……
宮の心に暗い疑惑の斑点が広がる。
冷や汗が背を滑り落ちる。
 
「どうなさいました?宮様」
 
霞の微笑み。
冷たい微笑。
宮はこの時初めて、霞の消え入りそうな儚い美しさに気づいた。
そしてその美貌に、恐怖した。





 
The truth is in the dark ……
 
―少女は生きることに飽いていた。
自分もヒトとして生まれたにも関わらず、世の中に、ニンゲンに興味を持てなかった。
かといって死後の世界も、彼女の虚無を癒してくれるとは到底考えられなかった。
だから少女は、壊してみることにした。
ヒトの世の掟というものを。
ニンゲンの、最も穢れた部分を使って。
やってみると、余り楽しいとは言えなかったが、
鎖の崩れるその瞬間だけ、彼女は退屈を忘れることができた。
彼女は“壊すこと”を続けることにした。
今度は自分以外のニンゲンも巻き込んで。
さあ、舞台(ショー)の幕開けだ。
 
 
Who is The Pierrot?






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幼くして亡くなった『トモダチ』への思い。SSS。

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竹下が結婚するだとか、森崎がママになるだとか聞く度に、
君のことを思い出すんだ。

シュウちゃん。

シュウちゃん、俺もやっと、就職先が決まったよ。



会いに来るのは何年ぶりだろう?
もしかしたら、十年以上前のあの日以来かもしれないな。
実感なんか全然湧かなくて、
ピカピカの墓石がミニチュアの公衆便所みたく見えたあの日。
シュウちゃんの、納骨の日。
小さなシュウちゃんの骨壺に、大人たちはみんな泣いてた。
俺とヒロシは訳も分からずに、
ギュッと手を握ったまま線香の匂いの中に立ち尽くしていた。
あんな小さな壺がシュウちゃんだなんて、信じられる訳がなかったんだ。

ヒロシは結局親の跡を継いだみたいだよ。
浪人してようやく大学を出る俺なんかとは違って、
手早いことに嫁さんも、子供もいるんだってさ。
シュウちゃん。
もしもシュウちゃんが生きてたら、今頃は社会人として頑張ってたんだろうか。
ヒロシみたいに早々に結婚して家庭を持っていたんだろうか。
記憶の中のシュウちゃんは、あどけなく笑うやんちゃなガキ大将のまま。
その顔すらも、今はぼやけてハッキリしない。


~~~


墓地は丘の上にあった。

「こんな見晴らしいいとこなら、もっと早く来てれば良かったなー」

呟きながら、君の墓を探す。
確か一昨年、おじいさんも亡くなったと聞いたっけ。
三回忌の年なら、ある程度綺麗な状態を保っているだろう。

見つけ出した墓は、記憶の中にあるそれよりも遥かに小さく見えた。
墓の脇には、萎れた菊の花束と共に薄汚れたミニ四駆が備えられていた。
シュウちゃんが好きだったミニ四駆。
お兄さんに教えてもらった、というシュウちゃんの車は、
仲間内の誰のものよりも速く走った。
シュウちゃんに勝ちたくて、新しいパーツを買いに
連れて行ってくれと何度もねだった週末。
あの時夢中になって手にしていたそれらは、今押し入れの中に眠っている。



シュウちゃん。
俺が、今までここを訪れることがなかったのは……
認めたくなかったんだ。
隔たってしまった自分を。
シュウちゃんの死を。
認めてしまったら、友達ではなくなってしまう気がして。

七歳の子供とハタチ過ぎの大人が、友達になれるとは思えない。
けれど彼は永遠に七歳で、俺は三十歳になり、四十歳になる。



「シュウちゃん、ごめんな……」

墓石の上に、ポンと手を置いて涙を拭う。
それから、君の好きだったコーラを、ミニ四駆の脇に備えた。
昔は、ラジオ体操の後に配られる最後の一本を巡って
大ゲンカを繰り広げたこともあるコーラの缶。

「……俺、今はビールの方が好きなんだ」

そこにはいない君に向かって笑ってみせれば、木々が風にそっと揺れた。



いつかあちらに行ったら、君はまた俺に笑いかけてくれるだろうか。
俺のことを「トモダチ」と呼んでくれるだろうか。



ミニ四駆が、一瞬カタッと音を立てた気がした。
そっと持ち上げて、夕陽にかざせば、君の小さな手が目に浮かんだ。

「忘れないよ、きっと」

死んでしまったから、思い出すのかもしれない。
生きていたら、ヒロシのようにいつのまにか疎遠になっていたのかもしれない。
こんな俺は、歪んでいるのかもしれない。

それでも、君がいたことだけは……忘れたくないんだ。
確かに、『トモダチ』だったのだから。

風が優しく頬を撫でた。
あの頃と同じように、彼がすぐ傍で微笑っているような気がした。

 



後書き
 



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The Castle Of Roses』番外編SSS。

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何色の薔薇が欲しい?


その紋章が発表された時、宮廷に激震が走った。そう、聞かされている。

生誕から七日後の祝いの席。
仕来たり通り、生まれた子と、その紋章が披露されるその日。

青い薔薇の紋章。かつてその紋章を冠した王族は一人もいない。
存在しない花を戴くなど、馬鹿げている。瞬間、貴族たちは理解した。
私が、存在を認められぬ王子だと。

『アルフさまーっ!』

蘇るのは、金の巻き毛を揺らし、こちらへ駆け寄る少女の笑い声。
凍りついた祝いの席で、その“在って亡き王子”の監視役を命じられた
哀れな下級貴族の一人娘。下級貴族でありながら、国王に対しても堂々と
己の主張を貫く男爵を、父王は兼ねてから気に入らなかったのだろう。
厄介者を押し付け、更にはその厄介者と娘の婚約を確約させた。
どうせ本気で婚姻を履行させる気はないのだ。父王は、私の子孫を望まない。
一度婚約をしたことで、傷物となった娘はどこへも嫁げない。
そんな娘に、胸を痛める男爵の姿を見たいだけなのだ。

それなのに男爵は、その娘は。どこまでも暖かく、優しく私に接してくれた。
『呪いの青薔薇』と呼ばれる私に、懸命に尽くしてくれた。

「アルフ様、アルフ様」

娘は歌うように、私に囁く。妹のように思っていた彼女は、
いつしか大輪の紅薔薇のような美貌を纏う女性になっていた。
黒薔薇の王が、手を伸ばすほどに。


~~~


「アルフ」

柵の向こうから、低い声が響く。

「……兄上」

視線を向ければ、漆黒の双眸がこちらを射る。

「明日、午前十時だ」

処刑の日時を告げて去る兄に、今更肉親の情を求めるつもりは無い。

「紅薔薇は染まりませんよ」

背中に呼びかけた声に、ピクリと反応して止まる兄の足。

「例え貴方がどんなに黒々と血塗られた手で触れようとも、
紅薔薇は染まりませぬ。それだけは、お忘れなきよう」

にこりと微笑んで見せれば、兄は憎々しげにこちらを睨んだ。

ああ、ようやく“私”を見てくれた――

明日死ぬというのに、恍惚としたこの喜びは何だろう?

ああ、ローズ、今ほど君を愛しいと感じたことはない。
私は死によって、愛する者を二人までも縛ることができるのだから。

気づいていますか、兄上? 黒薔薇と紅薔薇は、禁断の青薔薇の庭に咲く。





後書き
 



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