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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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side:リョウ
雪の日の出会い。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



俺が好きなもの。食べること。寝ること。あとは……手袋をはめていない手。
 


駅の入り口。
 
「あ!」
 
目の前に差し出された手の上にあったのは、探していたサッカーボールのキーホルダー。
秋に部活を引退した先輩から、お守り代わりにもらった大事なものだ。
 
「やっぱり、あなたのですよね?」
 
にこっ、と微笑む知らない女の子に、知らず顔が赤らむ。
 
「す、すいません! 拾っていただいて……」
 
勢いよく頭を下げると、真っ赤になった手が目に入った。外は雪。
雪を掻き分けて、彼女はわざわざキーホルダーを拾ってくれたのだ。
 
「いいえ、カバンから取れちゃうのが見えたので……」
 
「いやもうホンットに、ありがとうございました!」
 
「じゃあ、私はこれで……」
 
甘い香りを残して去る彼女の視線の先には、メガネを掛けた背の高い男の姿。
あ、スガ先輩だ……。
彼女の手にある紙袋を見てようやく、今日がバレンタインデーということを思い出した。
ユウちゃんを始めとする、仲の良い女友達からもらった
自分のカバンの中の義理チョコの存在を思い出す。
嬉しそうに先輩に駆け寄る彼女を見て、この寒い中彼女が手袋をしていない理由に思い当たった。
手を、繋ぎたかったんだな……。
先輩は彼女に二言三言声を掛けると、そのまま電車のホームへと歩き出す。
彼女は急いでその後を追う。かじかんだ手を、コートの内に隠したまま。
 

~~~
 
 
「リョウ、おいリョウってば! お前、さっきから何ボーっとしてんだ?」
 
親友の声にはっと気づく。今は昼休み。
 
「ノート返してもらいに来たんだけど……大丈夫?」
 
どうやらユウちゃんが来ていることに、気づいていなかったらしい。
あの子に出会った日から、こんなことが増えた。
 
「ごめんね、ユウちゃん。ノートありがとう。今度お礼するよ、何がいい?」
 
誤魔化すように笑いかけると、彼女はパッと笑顔になって
 
「じゃあね、今度どっか旅行行ったときに限定キッド買ってきて! あ、ストラップ型のやつね!」
 
と答えた。彼女は限定キッドを集めているらしい。
 
「了解。ユウちゃん、ほんとキッド好きだねー」
 
「……うん、大好き」
 
心なし彼女の頬がピンクに染まっていることと、
親友の眉間に皺が寄っていることに、俺は気づくわけもなかった。
 

~~~

 
それから一ヵ月後。
 
「あ!」
 
「あ、この間の……」
 
帰り道のコンビニで遭遇したのは、バレンタインにキーホルダーを拾ってくれた、
スガ先輩の彼女(……たぶん……)だった。
 
「こんにちは。久しぶりですね」
 
「あの時はお世話になりました!」
 
もう一度頭を下げた俺に、彼女はクスクス微笑んだ。
 
「Y高の……サッカー部、なんですか?」
 
「はい! ホンダリョウといいます!」
 
部活を聞かれて、ついつい体育会気質で名乗ってしまった俺に、彼女はまた笑って、
 
「N高放送部のカドクラミチです。よろしくお願いします」
 
と挨拶を返してくれた。
 
「……何年生ですか?」
 
「まだ一番下の一年生です」
 
「なんだ、一緒じゃん!」
 
同じ学年だということが分かって急に親近感の湧いた俺はついタメ口になってしまった。
 
「そうなの? じゃあ先輩の一コ下かぁ」
 
ミチの呟きに、あの雪の日の情景を思い出す。
 
「スガ先輩と……付き合ってんの?」
 
「知ってるの!? あ、そっか……あの日、見たよね。
でも先輩、やっぱり高校でも有名人なんだぁ」
 
ミチはそれから、色んなことを話してくれた。先輩とは、中学が同じであったこと。
冬休みに告白して、ようやく付き合えるようになったこと。
今日もこれからデートのため、先輩の生徒会が終わるまでこのコンビニで待っていること。
 
先輩の話をする彼女はとても幸せそうで、可愛くて。俺はとても言い出せなかった。
うちの学校の生徒会の活動日が、今日とは違う曜日だということを。
スガ先輩が彼と同じクラスの、髪の長い女子生徒と連れ立って校門を出て行ったことを。
先輩を知っている理由が、優秀な生徒会役員ということのみならず、有名な女たらし
という噂によってだということを。コンビニで彼女と別れた後、俺は自分の内に湧いた
なんとも言えぬ鬱屈とした気持ちを、どこにぶつけていいか分からなかった。
なんだか無性に腹が立って、切なくて。道に転がる空き缶を、思いっきり蹴飛ばした。
  

~~~

 
「あ~、スガ先輩の彼女? そりゃまた厄介な相手に……」
 
次の日、前日に感じたムカつきを親友に話すと、彼は一つため息をついて、呆れたように呟いた。
 
「……なんだよ」
 
「だって、スガ先輩って言ったら、顔良し、頭良し、
女とっかえひっかえしてる割には誰の恨みも買わない知能犯だろ?
お前みたいなどこまでも真っ直ぐに行くしか能のないイノシシ型が
アタックしたって、簡単に先輩を切ろうとは思えないんじゃねえの?」
 
親友の言葉にムカッときて
 
「何だよそれ! 大体、俺はカドクラさんをどうこうしたいんじゃなくて、
ただ可哀相だな、って……。どうにかできないかな、って……!」
 
「どうこうしたいんじゃん」
 
あっさりとした親友の台詞に、脱力して座り込む。親友は俺の肩にそっと手を置いて言った。
 
「その子と会ってからだろ。お前がボーッとすること増えたの。
ユウちゃんとか部活のやつらも心配してたぞ?
いい加減認めろ。世間ではそーいうのを“恋”って言うんだって」
 
コイって……こいって……恋って……
 
「うああぁぁ……」
 
俺は急に気恥ずかしくなってしまい、頭をぐじゃぐじゃと掻きむしりながら、親友宅を後にした。
 

~~~

 
「あれぇ、ホンダくんじゃん。この時間に電車待ってるなんて珍しいね。部活は?」
 
「今日は雨だから、休み」
 
「あ、そっか……」
 
己の恋心に気づいてから早三ヶ月。
電車を待っている俺の目の前に現れたのは、片思いの相手で。
 
「カドクラさんは、これから先輩とデート?」
 
無理に問うた言葉に返ってきたのはぎこちない微笑みだった。
 
「……その予定で、電車を降りたんだけど」
 
と言って差し出した携帯の液晶には、
『悪い、生徒会の用事ができて会えなくなった』
。もなしかよ! と突っ込みたくなるようなメールが写っていた。
しかも、送信時間は五分前……。相手が学校出る時間くらい考えろ!と言いたい。
加えて、今日生徒会が活動をしている様子は全くなかった。
 
「……カドクラさん、じゃあ今日は俺と遊ばない?」
 
「え? でも……」
 
戸惑う彼女に、おどけるように
 
「俺も部活なくて退屈してたし。先輩が絶対行かなそーなこの辺の遊び場教えたげるー!」
 
と言うと、ようやく彼女は笑顔になった。
 
「本当? この辺の遊べるようなお店ってあんまり詳しくないから、
ずっとあちこち行ってみたいなぁ、って思ってたの!」
 
先輩が行かない、ということは、万が一彼が別の女とデート中だったとしても
遭遇する可能性がないということだ。彼女は気づいているのだろう。
彼が、自分一人を見ているわけではない、ということに。
その日、俺と彼女は二人でゲームセンターやカラオケではしゃぎまくり、
本当に楽しい放課後を過ごした。
 
その帰り道。彼女と会った、学校の最寄り駅。
 
「本当に今日は色々ありがとう。がっかりしてたの忘れるくらい、すごく楽しかった!」
 
にっこり笑う彼女に、暖かな気持ちが込み上げる。
 
「ううん、俺の方こそ……」
 
と言おうとした瞬間、目の前の彼女の顔が強張る。
釣られて後ろを振り返ると、そこにいたのはスガ先輩と、あの髪の長い女の先輩。
腕を絡み合わせる二人は、どこから見ても恋人同士にしか見えなかった。
 
「……行こう」
 
思わず彼女の手を掴んで、ホームから駆け出した俺に、先輩たちが気づいたかどうかは
わからない。俺はとにかくがむしゃらに、彼女を二人の前から遠ざけたかったのだ。


 
「ハア……ッハア……ッ、別に、無理して逃げなくても良かったのに」
 
息を切らした彼女の呟きに、俺も荒い呼吸を落ち着けながら、
 
「……んな訳ねえだろっ……!」
 
と返す。
 
「だって私……知ってるもの。先輩は中学の時から……そういう人だって」
 
彼女の言葉に驚いて目を見張ると、彼女はふっと微笑んで言った。
 
「そういう人だってわかってて……それでもいい、って告白したの。だからこれでいいの、私は……」
 
寂しそうな、彼女の瞳。
 
「いいわけあるかよ!」
 
「なんでホンダくんにそんなこと言われなくちゃいけないのよ! 何も知らないくせに!
関係ないじゃない! しょうがないでしょう! だって……だって好きなのよ!」
 
透明な涙の雫が、彼女の頬を伝う。彼女はどれだけこの涙を我慢してきたのだろうか。
腹の中が煮えくり返るような思いに襲われる。
 
「関係なくなんかない……。俺だって好きなんだ! カドクラさん……ミチのことが!」
 
吐き出すだけ吐き出して、俺はその場を走り去った。
 
オレ、サイアク……
 
彼女と初めて会ったあの日の雪が、俺の心の中に深々と降り積もっていた。





Windy Day(side:ミチ)
 

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俺が好きなもの。食べること。寝ること。あとは……手袋をはめていない手。
 


駅の入り口。
 
「あ!」
 
目の前に差し出された手の上にあったのは、探していたサッカーボールのキーホルダー。
秋に部活を引退した先輩から、お守り代わりにもらった大事なものだ。
 
「やっぱり、あなたのですよね?」
 
にこっ、と微笑む知らない女の子に、知らず顔が赤らむ。
 
「す、すいません! 拾っていただいて……」
 
勢いよく頭を下げると、真っ赤になった手が目に入った。外は雪。
雪を掻き分けて、彼女はわざわざキーホルダーを拾ってくれたのだ。
 
「いいえ、カバンから取れちゃうのが見えたので……」
 
「いやもうホンットに、ありがとうございました!」
 
「じゃあ、私はこれで……」
 
甘い香りを残して去る彼女の視線の先には、メガネを掛けた背の高い男の姿。
あ、スガ先輩だ……。
彼女の手にある紙袋を見てようやく、今日がバレンタインデーということを思い出した。
ユウちゃんを始めとする、仲の良い女友達からもらった
自分のカバンの中の義理チョコの存在を思い出す。
嬉しそうに先輩に駆け寄る彼女を見て、この寒い中彼女が手袋をしていない理由に思い当たった。
手を、繋ぎたかったんだな……。
先輩は彼女に二言三言声を掛けると、そのまま電車のホームへと歩き出す。
彼女は急いでその後を追う。かじかんだ手を、コートの内に隠したまま。
 

~~~
 
 
「リョウ、おいリョウってば! お前、さっきから何ボーっとしてんだ?」
 
親友の声にはっと気づく。今は昼休み。
 
「ノート返してもらいに来たんだけど……大丈夫?」
 
どうやらユウちゃんが来ていることに、気づいていなかったらしい。
あの子に出会った日から、こんなことが増えた。
 
「ごめんね、ユウちゃん。ノートありがとう。今度お礼するよ、何がいい?」
 
誤魔化すように笑いかけると、彼女はパッと笑顔になって
 
「じゃあね、今度どっか旅行行ったときに限定キッド買ってきて! あ、ストラップ型のやつね!」
 
と答えた。彼女は限定キッドを集めているらしい。
 
「了解。ユウちゃん、ほんとキッド好きだねー」
 
「……うん、大好き」
 
心なし彼女の頬がピンクに染まっていることと、
親友の眉間に皺が寄っていることに、俺は気づくわけもなかった。
 

~~~

 
それから一ヵ月後。
 
「あ!」
 
「あ、この間の……」
 
帰り道のコンビニで遭遇したのは、バレンタインにキーホルダーを拾ってくれた、
スガ先輩の彼女(……たぶん……)だった。
 
「こんにちは。久しぶりですね」
 
「あの時はお世話になりました!」
 
もう一度頭を下げた俺に、彼女はクスクス微笑んだ。
 
「Y高の……サッカー部、なんですか?」
 
「はい! ホンダリョウといいます!」
 
部活を聞かれて、ついつい体育会気質で名乗ってしまった俺に、彼女はまた笑って、
 
「N高放送部のカドクラミチです。よろしくお願いします」
 
と挨拶を返してくれた。
 
「……何年生ですか?」
 
「まだ一番下の一年生です」
 
「なんだ、一緒じゃん!」
 
同じ学年だということが分かって急に親近感の湧いた俺はついタメ口になってしまった。
 
「そうなの? じゃあ先輩の一コ下かぁ」
 
ミチの呟きに、あの雪の日の情景を思い出す。
 
「スガ先輩と……付き合ってんの?」
 
「知ってるの!? あ、そっか……あの日、見たよね。
でも先輩、やっぱり高校でも有名人なんだぁ」
 
ミチはそれから、色んなことを話してくれた。先輩とは、中学が同じであったこと。
冬休みに告白して、ようやく付き合えるようになったこと。
今日もこれからデートのため、先輩の生徒会が終わるまでこのコンビニで待っていること。
 
先輩の話をする彼女はとても幸せそうで、可愛くて。俺はとても言い出せなかった。
うちの学校の生徒会の活動日が、今日とは違う曜日だということを。
スガ先輩が彼と同じクラスの、髪の長い女子生徒と連れ立って校門を出て行ったことを。
先輩を知っている理由が、優秀な生徒会役員ということのみならず、有名な女たらし
という噂によってだということを。コンビニで彼女と別れた後、俺は自分の内に湧いた
なんとも言えぬ鬱屈とした気持ちを、どこにぶつけていいか分からなかった。
なんだか無性に腹が立って、切なくて。道に転がる空き缶を、思いっきり蹴飛ばした。
  

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「あ~、スガ先輩の彼女? そりゃまた厄介な相手に……」
 
次の日、前日に感じたムカつきを親友に話すと、彼は一つため息をついて、呆れたように呟いた。
 
「……なんだよ」
 
「だって、スガ先輩って言ったら、顔良し、頭良し、
女とっかえひっかえしてる割には誰の恨みも買わない知能犯だろ?
お前みたいなどこまでも真っ直ぐに行くしか能のないイノシシ型が
アタックしたって、簡単に先輩を切ろうとは思えないんじゃねえの?」
 
親友の言葉にムカッときて
 
「何だよそれ! 大体、俺はカドクラさんをどうこうしたいんじゃなくて、
ただ可哀相だな、って……。どうにかできないかな、って……!」
 
「どうこうしたいんじゃん」
 
あっさりとした親友の台詞に、脱力して座り込む。親友は俺の肩にそっと手を置いて言った。
 
「その子と会ってからだろ。お前がボーッとすること増えたの。
ユウちゃんとか部活のやつらも心配してたぞ?
いい加減認めろ。世間ではそーいうのを“恋”って言うんだって」
 
コイって……こいって……恋って……
 
「うああぁぁ……」
 
俺は急に気恥ずかしくなってしまい、頭をぐじゃぐじゃと掻きむしりながら、親友宅を後にした。
 

~~~

 
「あれぇ、ホンダくんじゃん。この時間に電車待ってるなんて珍しいね。部活は?」
 
「今日は雨だから、休み」
 
「あ、そっか……」
 
己の恋心に気づいてから早三ヶ月。
電車を待っている俺の目の前に現れたのは、片思いの相手で。
 
「カドクラさんは、これから先輩とデート?」
 
無理に問うた言葉に返ってきたのはぎこちない微笑みだった。
 
「……その予定で、電車を降りたんだけど」
 
と言って差し出した携帯の液晶には、
『悪い、生徒会の用事ができて会えなくなった』
。もなしかよ! と突っ込みたくなるようなメールが写っていた。
しかも、送信時間は五分前……。相手が学校出る時間くらい考えろ!と言いたい。
加えて、今日生徒会が活動をしている様子は全くなかった。
 
「……カドクラさん、じゃあ今日は俺と遊ばない?」
 
「え? でも……」
 
戸惑う彼女に、おどけるように
 
「俺も部活なくて退屈してたし。先輩が絶対行かなそーなこの辺の遊び場教えたげるー!」
 
と言うと、ようやく彼女は笑顔になった。
 
「本当? この辺の遊べるようなお店ってあんまり詳しくないから、
ずっとあちこち行ってみたいなぁ、って思ってたの!」
 
先輩が行かない、ということは、万が一彼が別の女とデート中だったとしても
遭遇する可能性がないということだ。彼女は気づいているのだろう。
彼が、自分一人を見ているわけではない、ということに。
その日、俺と彼女は二人でゲームセンターやカラオケではしゃぎまくり、
本当に楽しい放課後を過ごした。
 
その帰り道。彼女と会った、学校の最寄り駅。
 
「本当に今日は色々ありがとう。がっかりしてたの忘れるくらい、すごく楽しかった!」
 
にっこり笑う彼女に、暖かな気持ちが込み上げる。
 
「ううん、俺の方こそ……」
 
と言おうとした瞬間、目の前の彼女の顔が強張る。
釣られて後ろを振り返ると、そこにいたのはスガ先輩と、あの髪の長い女の先輩。
腕を絡み合わせる二人は、どこから見ても恋人同士にしか見えなかった。
 
「……行こう」
 
思わず彼女の手を掴んで、ホームから駆け出した俺に、先輩たちが気づいたかどうかは
わからない。俺はとにかくがむしゃらに、彼女を二人の前から遠ざけたかったのだ。


 
「ハア……ッハア……ッ、別に、無理して逃げなくても良かったのに」
 
息を切らした彼女の呟きに、俺も荒い呼吸を落ち着けながら、
 
「……んな訳ねえだろっ……!」
 
と返す。
 
「だって私……知ってるもの。先輩は中学の時から……そういう人だって」
 
彼女の言葉に驚いて目を見張ると、彼女はふっと微笑んで言った。
 
「そういう人だってわかってて……それでもいい、って告白したの。だからこれでいいの、私は……」
 
寂しそうな、彼女の瞳。
 
「いいわけあるかよ!」
 
「なんでホンダくんにそんなこと言われなくちゃいけないのよ! 何も知らないくせに!
関係ないじゃない! しょうがないでしょう! だって……だって好きなのよ!」
 
透明な涙の雫が、彼女の頬を伝う。彼女はどれだけこの涙を我慢してきたのだろうか。
腹の中が煮えくり返るような思いに襲われる。
 
「関係なくなんかない……。俺だって好きなんだ! カドクラさん……ミチのことが!」
 
吐き出すだけ吐き出して、俺はその場を走り去った。
 
オレ、サイアク……
 
彼女と初めて会ったあの日の雪が、俺の心の中に深々と降り積もっていた。





Windy Day(side:ミチ)
 

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