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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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水晶の夏』・『金剛石の冬』国王視点続編SSS。
拍手ログです。


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彼女を選んだのは、その深い湖のような眼差しに、昔の恋人の面影を重ねたからだった。

国王に即位する前の若かりし日、私は下級貴族の娘と恋に落ちた。
彼女を愛していた。
黄金に輝く秋の森で、将来を誓い合い、互いの指に黄玉の指輪を嵌めて。
それが、当時ただの王族の一人にすぎなかった私に贈れたたった一つの宝石だった。
それから後、血で血を洗う継承者争いの末、年若い私は国王に選ばれ、
隣国の王女を妃に迎えなければならなくなった。
私と引き離そうと、重臣たちは彼女の一家を僻地へと押し込めた。
王となったばかりの、傀儡の私は無力だった。
彼女は病に倒れ、既に帰らぬ人となったと風の噂に聞いたのは、
それから暫く後のことである。


~~~


隣国からやってきた妃との間に生まれた子は王女だった。
王子を生さねばまた私のような悲劇が起きる。
気ばかり焦る中、最初の妃は一人娘を残して逝ってしまった。

後添えを自国の貴族から迎えることに決めたとき、
思い出したのがルイーズという少女だった。大貴族、モントロン公爵家の息女。
彼女と、シェフェール公爵の嫡男であるアルマンとの婚約が
水面下で整いつつあるとの動きは宰相が掴んでいた。
モントロンとシェフェール。この国きっての有力貴族である両家が
結びつくことは王家にとっての脅威である、という宰相の助言。
政略として他国に嫁がせるのではなく、いずれは普通の娘として臣に降嫁を、
と願っていた娘と年の釣り合う後継ぎがいるシェフェール家。
そして何より、かつて愛した人の面影を宿したルイーズの姿に、
私は決断を下した。早々に執り行われていた両家の“見合い”のことも、
そこで誓われた幼い二人の“約束”のことも、何も知らずに。


~~~


秋の木の葉が散りゆくように、娘も、妃も、将来を嘱望していた若き臣も
結局みな私の手をすり抜けていってしまった。
この手に残されたのは母を求めて泣き叫ぶいたいけな幼子だけ。
母があんなことになってしまった以上、この子とて楽に王位につけるわけもない。
夕暮れに染まる玉座に一人佇み、取り出したのは黄玉の指輪。
妃たちには沢山の宝石を贈った。金剛石、紅玉、緑玉に青玉……
その身に付けさせていたものは国の威を表すもの。
高価で、貴重で、豪奢でなければならないそれに、私の意思は介入しない。
だが、これは……これだけは、私が私の意志で選んだもの。
誰に見せるでもない、彼女と、私のためだけに選んだもの。

「私はどこで、間違えてしまったのだろうな……」

簡素な黄玉に口づける王の姿を一人の女に見られていたことに、
私はこの時気付けなかった。





ブログ初出2009/6/9

Imitation Seasons(占い師視点。拍手ログ)

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彼女を選んだのは、その深い湖のような眼差しに、昔の恋人の面影を重ねたからだった。

国王に即位する前の若かりし日、私は下級貴族の娘と恋に落ちた。
彼女を愛していた。
黄金に輝く秋の森で、将来を誓い合い、互いの指に黄玉の指輪を嵌めて。
それが、当時ただの王族の一人にすぎなかった私に贈れたたった一つの宝石だった。
それから後、血で血を洗う継承者争いの末、年若い私は国王に選ばれ、
隣国の王女を妃に迎えなければならなくなった。
私と引き離そうと、重臣たちは彼女の一家を僻地へと押し込めた。
王となったばかりの、傀儡の私は無力だった。
彼女は病に倒れ、既に帰らぬ人となったと風の噂に聞いたのは、
それから暫く後のことである。


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隣国からやってきた妃との間に生まれた子は王女だった。
王子を生さねばまた私のような悲劇が起きる。
気ばかり焦る中、最初の妃は一人娘を残して逝ってしまった。

後添えを自国の貴族から迎えることに決めたとき、
思い出したのがルイーズという少女だった。大貴族、モントロン公爵家の息女。
彼女と、シェフェール公爵の嫡男であるアルマンとの婚約が
水面下で整いつつあるとの動きは宰相が掴んでいた。
モントロンとシェフェール。この国きっての有力貴族である両家が
結びつくことは王家にとっての脅威である、という宰相の助言。
政略として他国に嫁がせるのではなく、いずれは普通の娘として臣に降嫁を、
と願っていた娘と年の釣り合う後継ぎがいるシェフェール家。
そして何より、かつて愛した人の面影を宿したルイーズの姿に、
私は決断を下した。早々に執り行われていた両家の“見合い”のことも、
そこで誓われた幼い二人の“約束”のことも、何も知らずに。


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秋の木の葉が散りゆくように、娘も、妃も、将来を嘱望していた若き臣も
結局みな私の手をすり抜けていってしまった。
この手に残されたのは母を求めて泣き叫ぶいたいけな幼子だけ。
母があんなことになってしまった以上、この子とて楽に王位につけるわけもない。
夕暮れに染まる玉座に一人佇み、取り出したのは黄玉の指輪。
妃たちには沢山の宝石を贈った。金剛石、紅玉、緑玉に青玉……
その身に付けさせていたものは国の威を表すもの。
高価で、貴重で、豪奢でなければならないそれに、私の意思は介入しない。
だが、これは……これだけは、私が私の意志で選んだもの。
誰に見せるでもない、彼女と、私のためだけに選んだもの。

「私はどこで、間違えてしまったのだろうな……」

簡素な黄玉に口づける王の姿を一人の女に見られていたことに、
私はこの時気付けなかった。





ブログ初出2009/6/9

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