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SSS。『源氏物語』の藤壺と王命婦がモチーフ。
源氏と不義の関係に陥る前です。
源氏と不義の関係に陥る前です。
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「ないものねだり、というものかしら?」
「は?」
主がぼそりと呟いた言葉に、
王命婦は些か面食らったようにぼんやりと返事をした。
王命婦は些か面食らったようにぼんやりと返事をした。
彼女の主……藤壺の見つめる先では、
『当代一の貴公子』と呼ばれる光源氏の君が女房達と戯れている。
『当代一の貴公子』と呼ばれる光源氏の君が女房達と戯れている。
「あの方に愛の言葉を囁かれることを願う女人方も、
一度で良いからあの方に愛の言葉を伝えてみたいわたくしも」
一度で良いからあの方に愛の言葉を伝えてみたいわたくしも」
扇越しに口元は隠され、はっきりと窺えない表情で藤壺は続けた。
王命婦は知っていた。否、彼女だけが知っている。
源氏の真の想いの在り処も、それを拒み続けている藤壺の想いも。
「あの方を愛し、愛されることを望んでおいでの方は
星の数ほどいらっしゃるでしょう。
それでもきっとわたくしほど、あの方を愛することを望んでいる女はいない。
そうは思わなくて? 命婦」
星の数ほどいらっしゃるでしょう。
それでもきっとわたくしほど、あの方を愛することを望んでいる女はいない。
そうは思わなくて? 命婦」
ようやくこちらを向いた藤壺の笑みに、王命婦は胸を締め付けられる心地がした。
「浄土に召されることができたら、わたくしの望みは叶うかしら?
いいえ、同じ蓮に乗ることもできない身の上なら、
いっそ地獄に堕ちれば叶うのかしら……」
いいえ、同じ蓮に乗ることもできない身の上なら、
いっそ地獄に堕ちれば叶うのかしら……」
「宮様!」
泣きもせず、滔々と言葉を紡ぐ藤壺に、王命婦は堪え切れず叫んだ。
「嫌だわ、命婦。ほんの冗談よ。さあ早くこの文を返してきてちょうだい。
『わたくしにはこんなものをいただく謂れはございませんから』と」
『わたくしにはこんなものをいただく謂れはございませんから』と」
差し出されたのは藤の一枝に巻かれた美しい薄様の紙。
あの瀟洒な青年が、精一杯の想いを込めて綴ったであろう、
真に愛する人への恋文。
真に愛する人への恋文。
「……本当に、よろしいのですか?」
文を受け取ったまま立ち上がり、振り返った王命婦を見上げた藤壺の目には、
ついぞ見ることのなかった熱い雫が浮かんでいた。
ついぞ見ることのなかった熱い雫が浮かんでいた。
「早く行きなさい、命婦。わたくしが紙と筆を手にしてしまう前に」
そうして、あの方とわたくしを果てのない地獄へと誘ってしまう前に――
言外に木霊した藤壺の声に、王命婦は急いで踵を返した。
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「ないものねだり、というものかしら?」
「は?」
主がぼそりと呟いた言葉に、
王命婦は些か面食らったようにぼんやりと返事をした。
王命婦は些か面食らったようにぼんやりと返事をした。
彼女の主……藤壺の見つめる先では、
『当代一の貴公子』と呼ばれる光源氏の君が女房達と戯れている。
『当代一の貴公子』と呼ばれる光源氏の君が女房達と戯れている。
「あの方に愛の言葉を囁かれることを願う女人方も、
一度で良いからあの方に愛の言葉を伝えてみたいわたくしも」
一度で良いからあの方に愛の言葉を伝えてみたいわたくしも」
扇越しに口元は隠され、はっきりと窺えない表情で藤壺は続けた。
王命婦は知っていた。否、彼女だけが知っている。
源氏の真の想いの在り処も、それを拒み続けている藤壺の想いも。
「あの方を愛し、愛されることを望んでおいでの方は
星の数ほどいらっしゃるでしょう。
それでもきっとわたくしほど、あの方を愛することを望んでいる女はいない。
そうは思わなくて? 命婦」
星の数ほどいらっしゃるでしょう。
それでもきっとわたくしほど、あの方を愛することを望んでいる女はいない。
そうは思わなくて? 命婦」
ようやくこちらを向いた藤壺の笑みに、王命婦は胸を締め付けられる心地がした。
「浄土に召されることができたら、わたくしの望みは叶うかしら?
いいえ、同じ蓮に乗ることもできない身の上なら、
いっそ地獄に堕ちれば叶うのかしら……」
いいえ、同じ蓮に乗ることもできない身の上なら、
いっそ地獄に堕ちれば叶うのかしら……」
「宮様!」
泣きもせず、滔々と言葉を紡ぐ藤壺に、王命婦は堪え切れず叫んだ。
「嫌だわ、命婦。ほんの冗談よ。さあ早くこの文を返してきてちょうだい。
『わたくしにはこんなものをいただく謂れはございませんから』と」
『わたくしにはこんなものをいただく謂れはございませんから』と」
差し出されたのは藤の一枝に巻かれた美しい薄様の紙。
あの瀟洒な青年が、精一杯の想いを込めて綴ったであろう、
真に愛する人への恋文。
真に愛する人への恋文。
「……本当に、よろしいのですか?」
文を受け取ったまま立ち上がり、振り返った王命婦を見上げた藤壺の目には、
ついぞ見ることのなかった熱い雫が浮かんでいた。
ついぞ見ることのなかった熱い雫が浮かんでいた。
「早く行きなさい、命婦。わたくしが紙と筆を手にしてしまう前に」
そうして、あの方とわたくしを果てのない地獄へと誘ってしまう前に――
言外に木霊した藤壺の声に、王命婦は急いで踵を返した。
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