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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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お客さま。

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「で、どれがお前のオンナだって?」
 
……部屋に入ってくるなり、そう言い放った仏頂面の持ち主に、
私のこめかみにピキンと青筋が立った。
この部屋の中にいる女性の中でいっちばん豪奢なドレスを着て、アーノルドの横に
立っているのだから、一目でそれと気づいて良さそうなものでしょーよ!
 
「ああ、紹介するよ。シャープ兄さん。僕の妃、ミチルだ」
 
アーノルドは従兄弟の失礼な言にも、にこにこしながら私を紹介する。
 
「はじめまして。ミチルです」
 
私も社交辞令として笑顔を取り繕い、
どんなオトコでも一瞬で魅了するような微笑を浮かべて挨拶した。
が、返ってきたのは……
 
「うげ。お前、オンナの趣味悪いな」
 
という台詞だった。
眉を顰めたその顔は、確かにこれ以上ないくらい男らしく整って――
鮮やかな金髪碧眼と相まってアルとは違う意味で間違いなく美形、と言えるものだけれど。
性根、最悪。
私の中でヤツは、敵@異世界その101号に認定された。
え、何でそんなに敵がいるのか、って?
そこはオンナの事情、ってもんよ。
敵の数は、良いオンナの証!……って意気込んでいると。
 
「もう、シャープさんったら!
初対面の方の前で、いきなりそんなこと言うなんて、失礼ですよ!」
 
目の前のサイテー男のかなり下から、鈴を転がすような声が聞こえた。
 
「だって……ホントのことだろ?」
 
下を見ながら呟くヤツの胸を、
 
「もうっ!」
 
と少し背伸びをしながら小突いたのは、小さな女の子。
長い黒髪、大きな黒い目、ピンクの唇、つるつるの肌……
わ、若い! そして小さい!
ええっと、私が162cmだから……140cm代後半、ってとこかしら!?
 
「君がオトさん?」
 
アルが声を掛けると、彼女は慌てて
 
「はい! ご挨拶が遅れてすみません。この度シャープさんの……その……」
 
真っ赤になってしどろもどろになる彼女の肩をぐっと引き寄せて、サイテー男が
 
「俺の妃になったオトだ。」
 
と告げた。
 
「あ、あの、オトです。はじめまして……」
 
頬を染めながらも、にっこりと微笑んだ彼女は、それはそれは可愛らしかった。
 
「……ていうか、ロリコン?」
 
思わず呟くと、
 
「ミ、ミチルッ!」
 
アルが慌てて私に声を掛け、ハッ、と気づいた時には
サイテー男にものすごい顔で睨まれていた。
やっぱり、後ろめたいんだ……。
 
「アーノルド! お前、自分のオンナにどんな教育してんだ!?」
 
「ちょっと、なんで私がアーノルドに教育なんかされなくちゃいけないのよ!?」
 
「自分のオンナをきちんとしつけんのは男の役目だろう!?」
 
「何そのふっるい考え方! 私は私、もうハタチ過ぎの立派なレディなんだから、
誰かの指図を受ける覚えはないわよ!」
 
「ハン、どこがレディだ、ただの年増じゃねえか!」
 
「なんですってぇ~!?」
 
「あ、あの、二人とも、落ち着いて……」
 
いきなり口げんかを始めた私たちに、おずおずと声を掛けてきた挑戦者アーノルド。
 
「お前は黙ってろ!」
 
「あんたは黙ってて!」
 
同時に叫ばれた言葉に、彼の挑戦は虚しく敗れ去った……。
 
 
~~~
 
 
「あのぉ~、お二人とも、それくらいにしたらどぉですかぁ?」

怒鳴りあいに息もゼェゼェ上がり始めた頃、またもや下の方から聞こえてきた
可愛らしい声に、私たちは一旦口を閉じてそちらに目線を移す。
先ほどのロリっ娘(こ)……ゴホン! 若くて可愛い女の子が、
うるうるした大きな瞳でこちらを見上げていた。
げ! 何このどこぞの消費者金融のCM顔負けの子犬ビーム……!
あたしこういうの、結構弱いのよね……。
視線を逸らそうとアーノルドを探すと、彼は自分の胸くらいの背丈しかないロリ……
ええっと、オトさん(より「ちゃん」のほうが似合いそうな感じだけど)の後ろで、
相変わらずオドオドと心細そうにこちらの様子を伺う有様。
ああ、もう。いくら顔良し財力良しの王子様だって、情けないったらありゃしない!
と一人ため息をついていると、アーノルドがこちらの機嫌を取るようにニコニコしながら、
 
「あのさ、あっちにお茶の準備が出来たようだし、
まだミチルとオトさんとの正式なご挨拶もしてないから……あの……その……」
 
と切り出してきた。
ああ、いけないいけない、サイテー男のせいで<お客様をもてなす>という
妃としての大事な役目をうっかり忘れるところだった!
 
「……そうね、お茶にしましょう。オトさん、どうぞこちらへ」
 
彼女に向かってにっこり微笑み、テーブルに向かおうとした私を、
サイテー男がギロッと睨みつけてきた。
 
「あぁ、ごめんなさい、ミュージックキングダム国王陛下もよろしかったらどうぞ?
お好みが難しい陛下のお口に会うものがお出しできるかどうかは分かりませんけどね」
 
あんたなんかと親しげな親戚付き合いなんか絶対してやんないんだから!
という皮肉を含んだ言葉に、ヤツはムスッとした顔で
 
「お前、ホント良い根性してるな」
 
と答えた。
当たり前でしょ? これでも世知辛い現代社会の荒波に揉まれて来たんだから。
王宮でヌクヌク与えられたことだけをこなしてれば良かったアンタとはワケが違うのよ!
 
……でも、最近セレブって、思ったほど幸せじゃないのかも、って思い始めた。
最初から色んなものを与えられてる、ってことは、それに必ず応えないといけない、
ってことだ。最初から、絶対的な「責任」を背負わされている。選択の余地はない。
登吾さんやアーノルドを見ていて、ふと私の脳裏を掠めた疑問。
彼らはそれで本当に幸せなのか、って。
そんな彼らの傍で生きて、私は幸せになれるのか……って。
私や暁は、なんだかんだ言って好き放題やってきたもんなぁ。
これだけ良いオトコを狙って打算的に生きてきて、今更何言ってんだろう。
ものすごく勝手極まりない考えだ、ってことは分かってる。
 
だけど、今なら、分かる。私は暁の、自由なところが好きだったのだ。
社会的地位にも、他人の視線にも、決して何者にも捉われない彼。
気ままに生きているようで、その実誰よりも他人からの
賞賛・評価を求めている私にとって、彼は憧れだった。
他人からは私と彼が“同類”であるかのように見えたらしいが、決してそんなことはない。
誰よりも近くて、誰よりも遠い、それが私にとっての、森条暁という存在だった。








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優しい旦那さま。

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「そんなことないさ」
 
え? 今の聞こえてた? アーノルドを見返すと、
 
「あれ、魔力が強いと心読めるの言ってなかったっけ?」
 
ととぼけたように聞いてきた。
 
「聞いてないわよそんなのっ! じゃあ何!?
今までの私の打算や動揺なんかも全部お見通しだったわけ!?
なんでそれで結婚したのよ、このばかーっ!!」
 
悔しさと羞恥でいっぱいになりながらアーノルドに掴みかかると、
彼はその手を優しく受け止め、
 
「人の気持ちが分かってしまうのはあんまり楽しいことじゃないし、もちろん
普段はなるべく読まないようにしてるよ。最初は君がどんな気持ちで
近づいてきてるのか分かって……あまりいい気持ちはしなかったけど。
君は“それだけ”の人じゃなかったから、いつしか本当に君を好きになって……
それからは、出来るだけ君の心は読まないようにしてきたんだ」
 
と言った。私は彼の言葉が信じられずに、唇をわななかせながら叫んだ。
 
「私の考えてることわかって、どうしてそれで、好きになれるの?
本当の私は、誰かに愛されるような人間じゃない。
誰にも必要としてもらえない人間なのに、なんで……!?」
 
「それは違うよ、ミチル。君は真っ直ぐで、きれいな女性だ。
見掛けは派手だし、虚勢を張っていても、本当は素直で純粋な心の持ち主じゃないか。
君があちらの世界でどんな経験をしてきたのかはわからないけど、
きっと君と深く関わったことのある人間なら、間違いなく
君の見た目だけじゃなく、中身にも惹かれるはずだよ」
 
「アーノルド……」
 
アーノルドはどこまでも優しい微笑を浮かべて、私を見つめる。
彼の心の中をそのまま写し取ったような、澄み切った空のように真っ青な眼差し。
その瞳に私が写る。醜く取り乱した私。
アーノルドの瞳は澄んでいるが故に、他人の心までを映し出す鏡のようだ。
 このボケボケ王子、たまにはこんなクサイ台詞もしっかり言えるんじゃない……!
 
ずっと、誰かに愛されたかった。愛されてなかったわけじゃない。
それでも、誰かの「一番」になりたかった。必要とされたかった。
 
『君がそうしたいなら』
 
その台詞は「キミガイナクテモベツニヘイキ」と聞こえた。
仕事よりも、友達よりも私を選んで。私だけを見て。私は、「私」だけの場所が欲しかったのだ。
「どうしても、君がいなくちゃダメだ」と言ってくれる人を求めていたのだ。
 
アーノルドが、「本当の私」を知ってくれた。理解してくれた。
もしかしたら、今度こそ……。私の胸の中に、小さな希望の光が宿ったように感じた。
 
 
~~~
 
 
「いとこぉ?」
 
「ああ、僕の従兄にあたるミュージックキングダムの国王夫妻が
一週間後に我が国を訪問されることが決まったんだ。
君にも紹介するよ、ミチル。ああ、お祝いを用意しておかなきゃ……!」
 
側近が丁重に持ってきた手紙の封を開けた途端、慌てだしたアーノルドに
その原因を問うと、彼はこんな答えを返してきた。王様が従兄、ね……。
まあヤツ自身も未来の王様なんだから何の不思議もないのだけれど。
つくづく、すごいオトコを捕まえてしまった……。
 
「お祝いって?」
 
私の質問に、アーノルドはにっこりと微笑んで
 
「シャープ兄さん……ミュージックキングダムの国王は、
つい最近結婚式を挙げたばかりなんだよ。今回の各国訪問も、
視察という形を取ってはいるけど実際にはハネムーンみたいなものじゃないかな?
異世界から来た王妃様にこの世界のいいところを見せて回りたいんだと思うよ」
 
と告げた。ふーん、こっちの世界でも“ハネムーン”なんてやるのねぇ。
私とアーノルドの場合はどうなるのかしら……、って!
 
「今、なんて言った?」
 
「え、だからシャープは今回来るのは新婚旅行だ、って……」
 
「その前! っていうか後っていうか……あ~もう!
とにかく、その王様の奥さんがどっから来たって!?」
 
「え、王妃のオトさんは確か……」
 
「たしか!?」
 
「ミチルと同じように、異なる世界から、来たって……」
 
「……!!」
 
異なる世界……ここから見て異世界……って地球のこと?
いや、ここがあるってことは「地球」以外のパラレルワールドもいくつもあるかも……。
大体、“オト”って名前が微妙よね。男なんだか女なんだかいくつなんだか。
仮に地球人だったとしてもどこの国の人かもわかんないじゃない!
 
「ミチル、どうかした?」
 
ブツクサ呟きながら自分の思考に陥ってしまっていた私に、アーノルドの能天気な声がかかる。
 
「もう、うるさいわね! 少し黙ってて!」
 
もし“オトさん”が地球人だったら、どうやって来たのか聞けるかもしれない。
そしたら帰るヒントだって少しは……、って違う違う。私は別に帰りたくなんかないじゃない。
ここにいたら一生贅沢ができるし、国一番のセレブの妻だし……。
でも、少し地球の話もできたら、嬉しいかな……。
 
「なによ?」
 
ふと、視線に気づいてアーノルドを見ると、彼はとろけそうに優しい微笑を浮かべていた。
出た、必殺王子スマイル。
ボッ、と顔がほてりそうになるのをごまかすように、乱暴に問うと、彼は
 
「やっぱり、同じところから来た人に会うのは嬉しいんだなぁ、と思って」
 
と答えた。
 
「まだ同じとこから来たかどうかはわかんないじゃない」
 
私が口を尖らすと、アーノルドはそっとこちらに近づいてきた。
 
「でも、ここでの立場は同じだろう? ……慣れない世界で、頑張ってる。
だからオトさんに会えたら、ミチルはきっと喜ぶんじゃないかな、と思って」
 
「アーノルド、あんたまさか……」
 
私のために、わざわざ他国の国王夫妻を招いてくれたの?
 
「ちょうどよくシャープ兄さんから手紙が来たからね」
 
悪戯にウィンクして見せたアーノルドに、私は小さく
 
「バカ……」
 
と呟いて、ぎゅっ、と手を握った。
彼の大きな手から伝わる温もりは、地球にいるあの人を思い出させた。
少しだけ懐かしい、そしてとても切ない気持ちと共に。







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結婚に関するゴタゴタ。

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「ミチル? どうしてもできないなら代わりに僕がやろうか?」
 
「ああ……うん、お願い。
って、代わりにあんたがやるのもアリならさっさとそう言いなさいよ!」
 
ぼんやりと回想にふける私に声を掛けてきた王子―今まさに私の夫となったばかりの、
アーノルド・ジフ・サンルース……あーもうまどろっこしいわね、とにかく、
そんな感じのオウジサマの言葉にピキンと来て言い返すと、
周りの女官たちの冷たい視線が突き刺さった。
アルが魔法陣の上で何やらブツブツと怪しげな呪文を唱え始めると、魔法陣の周囲は
青い光に包まれ、霧のような水蒸気の塊(みたいなもの)が漂い始める。
う~ん、ファンタジィだなあ。この世界に来て当初は随分ビビッたっけ。 


 
駅の階段から落ちて気を失った私が目覚めたのは、
いかにもカントリーなこじんまりとしたログハウスだった。
 
「……?」
 
私、駅にいたのよね? いつのまに湖畔のキャンプ場に……!?
状況把握がまったくできない私の前に、現れたのは小さなおばあさん。
優しいおばあさんは、私がこの国の人間でないとわかると、魔法でこちらの言葉が
解るようにしてくれ、この世界の基本的な仕組みについておしえてくれた。
ちなみに私がおばあさんに真っ先に尋ねたことは、
 
「この世界で一番セレブな独身男性(注:ハゲデブ不細工を除く)って誰ですか!?」
 
……悪かったわね、これが私の生き様よ!
そこでおばあさんが教えてくれたのが、今私の隣にいる彼……
“スプリングランド王太子アーノルド・ジフ・サンルース”
(……二回もフルネーム言うの疲れる)な訳だ。
帰れる保証がない以上、とりあえずいいオトコを捕まえておかねば!
とおばあさんのツテを頼って王宮に侍女として入り込んだのは二ヶ月前。
すぐに持ち前の根性を生かしてアーノルドに近づき、今日の婚儀に漕ぎ着けたのである。


 
でも……よく考えたら彼は王族。婚姻許可が下りるまでも大変だったし、
儀式やら仕来たりやら……これからもっと苦労しそう。
私はげんなりとため息を吐いて、“祖霊”なる水蒸気の塊(みたいなもの)と
話をしているらしい夫を見やる。ただでさえ私は地球人だし……
魔法なんて未だに半信半疑なのに……。ブツブツ愚痴をこぼしていると、
 
「ミチル、終わったよ」
 
とアーノルドが満面の笑みで声を掛けてくる。
いつのまにか部屋は元通り。水蒸気の塊も消えている。
 
「じゃあ……後は寝るだけなのね」
 
あーぁ、疲れたぁ。
結婚式だけでこんなに疲れるなんて……もう今日は早くぐっすり眠りたいなぁ……。
 
「ははっ! 異国からの花嫁は随分と積極的でいらっしゃる」
 
声を上げて笑うノーザム公……
アーノルドの叔父君の発言に、彼は顔を真っ赤にして叫んだ。
 
「ミチル! レディーの方から、そ、そういった、よ、夜のことに関する発言は……っ!」
 
「?」
 
……もしかして今日って、俗に言う“初夜”ってやつ!?
アルはいい年こいて今の今まで私に触れようとはしてこなかったけど……。
もしやそれは伝統にのっとって今日まで待ってた、ってやつなのかしら!?
やだなぁ、私いわゆる純潔の乙女でもないし……て言うか、アーノルドとヤるなんて考えらんない!
いや、結婚したんだからヤらないといけないんだけど……。
え!? 嘘、何でこんな時にアイツの顔が……
そっか、最後に寝たのアイツだもんな……登吾さんとはまだそこまで行ってなかったし。
 
嫌だ。アイツ以外に抱かれたくない。帰りたい。
 
「ミチル?」
 
混乱してパニクりながらもハッと顔を上げると、アーノルドは優しく微笑んで
 
「僕は君が嫌がることを無理強いする気はないから。安心していいよ」
 
と告げた。優しいアーノルド。お金持ちで、権力者で、ハンサムで……。
それなのにどうして私は、日本を忘れられないんだろう。
気がつくと、アイツのことばかり思い出してしまうんだろう?もう、終わってしまったのに。
 
「会いたいよ……」
 
小さな独り言を聞いている人がいたなんて、私は思ってもいなかった。
 
 
~~~
 
 
「だからね、僕は彼女を帰してあげたいんですよ」
 
「じゃから、無理だと言っておろう」
 
「こちらの世界に来られたのだから、方法はあるはずです」
 
婚儀の翌日。王宮の一室、夫の部屋から聞こえてくる
押し問答が気になって扉を開けると、そこにいたのは……
 
「おばあさんっ!」
 
「おお、ミチル。久しぶりじゃのう。元気にしておったか?」
 
私を助けてくれた優しいおばあさんが、アーノルドの向かいの椅子にゆったりと腰を下ろしていた。
そう、おばあさんの正体は、元王宮魔術師リンダ・バーディ。
現在は引退して田舎に引きこもっているが、その強大な魔力は現在でも衰えず、
国中の魔法使いの権威として、尊敬と信望を集めている。
だから私に翻訳こ○にゃく能力を与えることとかも、簡単にできたのよね……。
で、そのおばあさんがアーノルドに呼び出されるなんて……しかも、私の話?
帰すとか帰さないとか……。
 
「アーノルドは私に、ここにいてほしくないの?」
 
「いや、そういうわけじゃない! できれば側にいてほしいけど……でも……」
 
「ならいいじゃない。私は帰りたくなんてないわ」
 
「君は……どうしてそんな嘘を吐くの?」
 
「嘘なんかじゃないわ」
 
「嘘だ」
 
「うーそーじゃなーいー!」
 
「嘘吐き!」
 
子供のような喧嘩を始めた私たちの口が、突如ピタっと閉じられる。
 
「んーっ、んんっ!」
 
「んんんんんっ!」
 
「お主らはガキか。うるさくて叶わんわ。夫婦でよく話し合ってから、この婆を呼ぶのじゃな。
ミチルが本当に帰ることを望むのならば、方法を教えてやらぬこともない」
 
おばあさんの魔法で口を塞がれた私たちは、無言でその背中を見送った。
 
 
~~~
 
 
「ぷはっ! 死ぬかと思った……鼻詰まってたら本当に死んでたわよ、もう!」
 
「そうなる前にばばさまは魔法をといてくれると思うけどね。
もしくは声を奪う魔法に変換するか」
 
真面目に答えるアーノルドをキッと睨みつけ、
 
「私、帰らないからね!」
 
と改めて宣言する。なんでこんなにムキになっているのか、自分でもわからない。
きっと私は怖いのだ。自分が必要とされなかったあの世界に戻るのが。
そして、この世界でも“必要でない存在”となってしまうのが。
一方で、こんなにもあの世界に帰りたいと――あの人に会いたいと願っているというのに。
 
私って最低な女……





 



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トリップ前の出来事。

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「……っ!」
 
ぐるんっと振り向いた私の目に映ったのは、今最も会ってはいけない人。
そう、まさに暁から乗り換えようとしている彼――登吾さんだった。
 
「と、登吾さん……」
 
あからさまに動揺する私の背後を覗き込んだ登吾さんは、
 
「そちらの方は……?」
 
と、至極当然の疑問を口にする。
 
「ええっと……そのう……」
 
言葉に詰まる私を押しのけて、暁が登吾さんの前に進み出て、
 
「葉谷さんと去年まで同じ会社に勤めていました、森条暁と言います。はじめまして」
 
と爽やかに挨拶する。
 
「ああ、あなたもN社に? 私は現在N社と提携させて戴いている
Kカンパニーの林原登吾と言います。どうぞよろしく」
 
名刺を交換する二人の姿を、私はハラハラしながら見守る。
 
「Kカンパニーの林原さん、と言うと、社長とご縁が?」
 
「ああ、社長の伸吾は私の父です」
 
「ではいずれは父君の後を継がれるんですね」
 
「あなたのようにご自分で会社を起こされた方には、経営者としての技量は
到底及ばないでしょうが……そうなるでしょうね」
 
「いえいえ、Kカンパニーの次期社長はたいそう優秀だという噂は耳に入って来ますよ。
社長になられたあかつきには、うちの会社もどうぞご懇意に」
 
ビジネスライクな会話が終わるまで呆然としていた私に、声をかけたのは暁だった。
 
「おい、どうしたんだ、ボーっとして」
 
「え、ああ、うん……あれ、登吾……林原さんは?」
 
「接待で来てるから、ってもう帰ったぞ」
 
「そ、そう……」
 
気まずい沈黙。
どうしよう、今まで新旧が鉢合わせたことってないからこーゆー時どうすればいいか
わかんないのよねー。まあどうせ暁とは別れるつもりだったからいいとして、
登吾さん何か言ってたりしなかったかしら?
 
「みちる」
 
暁の声に、私は唐突に現実に引き戻された。
 
「なに?」
 
「あれだろ、お前の新しいオトコ」
 
「ななななな……なにいって……」
 
暁の言葉に思考が麻痺する。
 
「今日が最後だって、俺さっき言っただろ? ちゃんと気づいてんだよ。
お前の考えることなんてお見通しだ。極めつけはあの名刺だな。
Kカンパニーの次期社長を捕まえるとは……さすがみちるだよな。俺も負けるわ」
 
「お、怒らないの……?」
 
暁、怒ってよ、お願いだから。私のこと、失いたくないって引き止めてよ。
別れようと思っていたのに、それと矛盾する思考が止まらない。
私の頭の中でそれはもう、ほとんど暁に対しての哀願に近いものとなっていた。けれど、
 
「……幸せになれよ、みちる」
 
暁も、今までの彼氏と同じだった。心のどこかで、暁だけは“違う”と思っていた。
私のことを引き止めてくれる唯一の人なんじゃないか、って。それなのに――
 
「ありがとう、暁……ごめんね」
 
掠れる喉から言葉を搾り出した後、どうやって家まで辿り着いたのか覚えていない。
 
私たちの別れは、余りにもあっけないものだった。一年も付き合っていたのに。
今まで一番、愛されている実感のある恋だったのに。
暁といるのが一番、楽しかったのに――
私は初めて、「恋人との別れに胸を痛めて泣く」という行為を経験した。
 
 
~~~
 
 
次の日、目覚めても尚、私は暗い気持ちを引きずったままだった。
今日の午後は、登吾さんと一緒の仕事なのに……。
暁のこと、何て説明しよう? こんな顔のまま、会いたくない……。
無常にも時は過ぎ、Kカンパニーから登吾さんがやって来た。仕事の休憩時間、
 
「ちょっといい?」
 
と顔を出した彼の誘いを、彼女である私が断るわけには行かない。
説明しなければ。暁とはきっちりと別れたこと。今の私が登吾さん一筋であること。
そうしてニッコリ微笑んで甘えれば、大抵のオトコは私という女を信じてしまう。
こんな胸の痛みなんて、すぐ消えてしまう――
 
「あの、君が昨日一緒にいた森条さんて人……」
 
やはり来た。
 
「あっ、あのね、あの人は……っ!」
 
咄嗟に口を挟もうとした私を、彼の手がそっと制した。
 
「何も言わなくていいよ。みちるさんは、彼のことが好きなんだろう……?」
 
「え、ちっ、違うの! 彼とはもう……」
 
登吾さんはふっと微笑んで
 
「君の彼を見る目は、心底幸せそうで、楽しそうで、キラキラしてたよ。
本当は、聞いてたんだ。みちるさんが辞めてしまった上司と付き合っている、って噂……。
でも君は、僕なんかにも笑いかけてくれたから……つい、調子に乗ってしまった」
 
「登吾さん……」
 
登吾さんの言葉に、頭の中が混乱する。
私の暁を見る目……? て言うか、暁とのことを知ってた……!?
 
「だから君が彼の元に行きたいなら、そうすればいい。
いいよ、私のことはかまわないから。みちるさん……ありがとう、さようなら」
 
サヨウナラ。また、言われてしまった。暁だけじゃなく、登吾さんにまで。
私は、誰からも必要とされてない。私は、何がしたかったんだろう――?
 
フラフラとした足取りのまま、会社を出て、駅に向かう。混乱して真っ白な思考。
階段から足を踏み外したのは、当然の運命(さだめ)だったのかもしれない。








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ゆる~いノリのトリップコメディ。
デンパンブックス様にて連載していたものの再掲です。

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「マジ無理」
 
思わず固まって呟いた私の顔を覗き込んだのは、金髪に青い目の美青年。
まるでおとぎ話に出てくる王子様のような……って、ホントに王子なんだけど。
 
「どうしたの? ミチル。ほら、早く魔法陣の上に乗って」
 
いやいやいやいや乗ったところで私には何もできないんですけど?
 
「……アーノルドさん、私がどこから来たのか、知ってるわよね?」
 
「ああ、“チキュウ”という星の“ニホン”とかいう国だろう?」
 
「そこと“ここ”がまっっったく違う国で、私のいたところには
魔法なんてものは存在しない、ってことも言ったわよね?」
 
「ああ、ミチルに魔力がないのはわかってるよ」
 
「じゃあどうして私は今この部屋にいて、あまつさえこんなキンキラキンの
魔法陣とやらの前で王家の祖霊だかなんだか得体の知れないモノを
召還するように迫られているのかしら?」
 
「だってそれは婚姻の儀式の一つだから仕方がないよ。
僕の妃になりたいと言ったのは君だろう?」
 
「だ、だからって、こんなの聞いてなーいっっっ!!!!!」
 
大声を上げた私、葉谷みちるは25歳、れっきとした現代日本のOLである。
何の因果か三ヶ月前、駅の階段から転げ落ちた私は、気がついたらここ――
スプリングランドというらしい、安易なネーミングの異世界に辿り着いていた。
そこを治めるのはサンルース王家。
 
自慢じゃないが、私は俗に“魔性の女”と言われる類の女である。
“キレイ”と“カワイイ”の中間に位置する男ウケのする容姿。
それに加えて、男をオトすための手練手管は中々のものだと自負している。
そんな私の信条は、「常に上を見ること」だ。
例え格好良くてエリートの彼と付き合っていても、いつ、どんな場所でも
「彼より上の男はいないか?」と注意を怠らず、自分磨きにも手を抜かない。
そして彼より上の男が現れたら、何の罪悪感もナシにそちらに乗り換えるのである。
悪女?そう言いたければ言いなさいよ。
私は自分の願望に忠実なだけ。騙される男の方が悪いのよ。
それに……今まで、新しいオトコに乗り換える時に古いオトコと揉めたことは、一度だってない。
 
それが密かにコンプレックスなのよね……。
 
どの彼も大抵、『君がそうしたいなら……』と、アッサリと去っていくのだ。
 
向こうも私に本気じゃなかったのかしら?
それにしては、付き合っている時に他の女の影なんて見えないし。
私って、隣に置いて表面的な付き合いをする分には良いけど、
執着するほどの魅力がない女なのかしら……?
 
「もしも引き止めてくれたら、この人に決めよう、って思うのに」
 
ひとりでに漏れた言葉に、こちらの世界に来る直前に起きた苦い出来事を思い出した。
 
 
~~~
 
 
その日私は、一年間付き合った彼と最後のデートをしていた。
新しい彼が現れたから、別れを告げるつもりだったのだ。
古いオトコの名は、森条暁(あきら)。元職場の上司である。
今まで一人のオトコと持って半年だった私が、
一年も彼と付き合ったのはハッキリ言って奇跡に近い。
元々上司と部下だった時から口げんかばかりで、私の男性遍歴やぶっちゃけ
本性も知っている彼に対しては自分を偽る必要がなく、居心地が良かった。
対する新しいオトコの名は林原登吾。取引先の社長令息である。
暁は半年前に会社を退職し、約束されたエリート街道を捨てて独力で新しい会社を起こした。
その経営を軌道に載せるため、私と会う暇もないくらい必死で働いている暁と、
既に安定した社長の椅子が待機している登吾さん。
私の信条に従えばいくら社長とは言え不安定な将来しか見えない暁を捨て、
登吾さんを選ぶのは当然のことだ。
だから、久々の逢瀬となったその日、暁に別れを告げよう……そう思っていたのだ。
 
「夕メシ何がいい?」
 
「う~ん、そうねぇ、イタリアンかなぁ」
 
「なら会社の近くのあの店行こーぜ。お前、好きだったろう?」
 
「えっ……あそこはイヤ!」
 
「……なんでだよ?」
 
「いいじゃない。会社の近くでもう何度も行ってるんだし。
今日は行ったことないお店に入りたいの!」
 
「……ったく、我がままだなお前」
 
会社の近くのイタリアンレストラン……Partenza。
 
――『俺じゃダメなのか?』
 
蘇ってくるのは、目の前にいるシブイ二枚目の低く響く声。
暁に初めて告白めいた言葉をもらったあの店を、
別れの思い出の場所なんかにしたくなかった。
そのことに、暁は気づいていたのだろうか……?
私はこの時の自分の判断を、後々ものすごく後悔することになる。
 
「ほら、着いたぞ」
 
暁が連れて来てくれたのは、高級ホテルの中のレストランだった。
どうしよう、まさか部屋取るとか言われたら……別れるつもりで来てるのに……
 
「どうしたの? Sホテルなんて、奮発しちゃって。急に変更したにしては随分豪勢じゃない?」
 
内心の動揺を隠して、私は暁に軽口を叩く。
 
「まあ、最後くらいはな……」
 
暁がぼそっと呟いた言葉に驚いて、
 
「それってどういう……?」
 
と私が問い返した時、後ろから声が掛かった。
 
「……みちるさん?」







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