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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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トリップ前の出来事。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……っ!」
 
ぐるんっと振り向いた私の目に映ったのは、今最も会ってはいけない人。
そう、まさに暁から乗り換えようとしている彼――登吾さんだった。
 
「と、登吾さん……」
 
あからさまに動揺する私の背後を覗き込んだ登吾さんは、
 
「そちらの方は……?」
 
と、至極当然の疑問を口にする。
 
「ええっと……そのう……」
 
言葉に詰まる私を押しのけて、暁が登吾さんの前に進み出て、
 
「葉谷さんと去年まで同じ会社に勤めていました、森条暁と言います。はじめまして」
 
と爽やかに挨拶する。
 
「ああ、あなたもN社に? 私は現在N社と提携させて戴いている
Kカンパニーの林原登吾と言います。どうぞよろしく」
 
名刺を交換する二人の姿を、私はハラハラしながら見守る。
 
「Kカンパニーの林原さん、と言うと、社長とご縁が?」
 
「ああ、社長の伸吾は私の父です」
 
「ではいずれは父君の後を継がれるんですね」
 
「あなたのようにご自分で会社を起こされた方には、経営者としての技量は
到底及ばないでしょうが……そうなるでしょうね」
 
「いえいえ、Kカンパニーの次期社長はたいそう優秀だという噂は耳に入って来ますよ。
社長になられたあかつきには、うちの会社もどうぞご懇意に」
 
ビジネスライクな会話が終わるまで呆然としていた私に、声をかけたのは暁だった。
 
「おい、どうしたんだ、ボーっとして」
 
「え、ああ、うん……あれ、登吾……林原さんは?」
 
「接待で来てるから、ってもう帰ったぞ」
 
「そ、そう……」
 
気まずい沈黙。
どうしよう、今まで新旧が鉢合わせたことってないからこーゆー時どうすればいいか
わかんないのよねー。まあどうせ暁とは別れるつもりだったからいいとして、
登吾さん何か言ってたりしなかったかしら?
 
「みちる」
 
暁の声に、私は唐突に現実に引き戻された。
 
「なに?」
 
「あれだろ、お前の新しいオトコ」
 
「ななななな……なにいって……」
 
暁の言葉に思考が麻痺する。
 
「今日が最後だって、俺さっき言っただろ? ちゃんと気づいてんだよ。
お前の考えることなんてお見通しだ。極めつけはあの名刺だな。
Kカンパニーの次期社長を捕まえるとは……さすがみちるだよな。俺も負けるわ」
 
「お、怒らないの……?」
 
暁、怒ってよ、お願いだから。私のこと、失いたくないって引き止めてよ。
別れようと思っていたのに、それと矛盾する思考が止まらない。
私の頭の中でそれはもう、ほとんど暁に対しての哀願に近いものとなっていた。けれど、
 
「……幸せになれよ、みちる」
 
暁も、今までの彼氏と同じだった。心のどこかで、暁だけは“違う”と思っていた。
私のことを引き止めてくれる唯一の人なんじゃないか、って。それなのに――
 
「ありがとう、暁……ごめんね」
 
掠れる喉から言葉を搾り出した後、どうやって家まで辿り着いたのか覚えていない。
 
私たちの別れは、余りにもあっけないものだった。一年も付き合っていたのに。
今まで一番、愛されている実感のある恋だったのに。
暁といるのが一番、楽しかったのに――
私は初めて、「恋人との別れに胸を痛めて泣く」という行為を経験した。
 
 
~~~
 
 
次の日、目覚めても尚、私は暗い気持ちを引きずったままだった。
今日の午後は、登吾さんと一緒の仕事なのに……。
暁のこと、何て説明しよう? こんな顔のまま、会いたくない……。
無常にも時は過ぎ、Kカンパニーから登吾さんがやって来た。仕事の休憩時間、
 
「ちょっといい?」
 
と顔を出した彼の誘いを、彼女である私が断るわけには行かない。
説明しなければ。暁とはきっちりと別れたこと。今の私が登吾さん一筋であること。
そうしてニッコリ微笑んで甘えれば、大抵のオトコは私という女を信じてしまう。
こんな胸の痛みなんて、すぐ消えてしまう――
 
「あの、君が昨日一緒にいた森条さんて人……」
 
やはり来た。
 
「あっ、あのね、あの人は……っ!」
 
咄嗟に口を挟もうとした私を、彼の手がそっと制した。
 
「何も言わなくていいよ。みちるさんは、彼のことが好きなんだろう……?」
 
「え、ちっ、違うの! 彼とはもう……」
 
登吾さんはふっと微笑んで
 
「君の彼を見る目は、心底幸せそうで、楽しそうで、キラキラしてたよ。
本当は、聞いてたんだ。みちるさんが辞めてしまった上司と付き合っている、って噂……。
でも君は、僕なんかにも笑いかけてくれたから……つい、調子に乗ってしまった」
 
「登吾さん……」
 
登吾さんの言葉に、頭の中が混乱する。
私の暁を見る目……? て言うか、暁とのことを知ってた……!?
 
「だから君が彼の元に行きたいなら、そうすればいい。
いいよ、私のことはかまわないから。みちるさん……ありがとう、さようなら」
 
サヨウナラ。また、言われてしまった。暁だけじゃなく、登吾さんにまで。
私は、誰からも必要とされてない。私は、何がしたかったんだろう――?
 
フラフラとした足取りのまま、会社を出て、駅に向かう。混乱して真っ白な思考。
階段から足を踏み外したのは、当然の運命(さだめ)だったのかもしれない。






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「……っ!」
 
ぐるんっと振り向いた私の目に映ったのは、今最も会ってはいけない人。
そう、まさに暁から乗り換えようとしている彼――登吾さんだった。
 
「と、登吾さん……」
 
あからさまに動揺する私の背後を覗き込んだ登吾さんは、
 
「そちらの方は……?」
 
と、至極当然の疑問を口にする。
 
「ええっと……そのう……」
 
言葉に詰まる私を押しのけて、暁が登吾さんの前に進み出て、
 
「葉谷さんと去年まで同じ会社に勤めていました、森条暁と言います。はじめまして」
 
と爽やかに挨拶する。
 
「ああ、あなたもN社に? 私は現在N社と提携させて戴いている
Kカンパニーの林原登吾と言います。どうぞよろしく」
 
名刺を交換する二人の姿を、私はハラハラしながら見守る。
 
「Kカンパニーの林原さん、と言うと、社長とご縁が?」
 
「ああ、社長の伸吾は私の父です」
 
「ではいずれは父君の後を継がれるんですね」
 
「あなたのようにご自分で会社を起こされた方には、経営者としての技量は
到底及ばないでしょうが……そうなるでしょうね」
 
「いえいえ、Kカンパニーの次期社長はたいそう優秀だという噂は耳に入って来ますよ。
社長になられたあかつきには、うちの会社もどうぞご懇意に」
 
ビジネスライクな会話が終わるまで呆然としていた私に、声をかけたのは暁だった。
 
「おい、どうしたんだ、ボーっとして」
 
「え、ああ、うん……あれ、登吾……林原さんは?」
 
「接待で来てるから、ってもう帰ったぞ」
 
「そ、そう……」
 
気まずい沈黙。
どうしよう、今まで新旧が鉢合わせたことってないからこーゆー時どうすればいいか
わかんないのよねー。まあどうせ暁とは別れるつもりだったからいいとして、
登吾さん何か言ってたりしなかったかしら?
 
「みちる」
 
暁の声に、私は唐突に現実に引き戻された。
 
「なに?」
 
「あれだろ、お前の新しいオトコ」
 
「ななななな……なにいって……」
 
暁の言葉に思考が麻痺する。
 
「今日が最後だって、俺さっき言っただろ? ちゃんと気づいてんだよ。
お前の考えることなんてお見通しだ。極めつけはあの名刺だな。
Kカンパニーの次期社長を捕まえるとは……さすがみちるだよな。俺も負けるわ」
 
「お、怒らないの……?」
 
暁、怒ってよ、お願いだから。私のこと、失いたくないって引き止めてよ。
別れようと思っていたのに、それと矛盾する思考が止まらない。
私の頭の中でそれはもう、ほとんど暁に対しての哀願に近いものとなっていた。けれど、
 
「……幸せになれよ、みちる」
 
暁も、今までの彼氏と同じだった。心のどこかで、暁だけは“違う”と思っていた。
私のことを引き止めてくれる唯一の人なんじゃないか、って。それなのに――
 
「ありがとう、暁……ごめんね」
 
掠れる喉から言葉を搾り出した後、どうやって家まで辿り着いたのか覚えていない。
 
私たちの別れは、余りにもあっけないものだった。一年も付き合っていたのに。
今まで一番、愛されている実感のある恋だったのに。
暁といるのが一番、楽しかったのに――
私は初めて、「恋人との別れに胸を痛めて泣く」という行為を経験した。
 
 
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次の日、目覚めても尚、私は暗い気持ちを引きずったままだった。
今日の午後は、登吾さんと一緒の仕事なのに……。
暁のこと、何て説明しよう? こんな顔のまま、会いたくない……。
無常にも時は過ぎ、Kカンパニーから登吾さんがやって来た。仕事の休憩時間、
 
「ちょっといい?」
 
と顔を出した彼の誘いを、彼女である私が断るわけには行かない。
説明しなければ。暁とはきっちりと別れたこと。今の私が登吾さん一筋であること。
そうしてニッコリ微笑んで甘えれば、大抵のオトコは私という女を信じてしまう。
こんな胸の痛みなんて、すぐ消えてしまう――
 
「あの、君が昨日一緒にいた森条さんて人……」
 
やはり来た。
 
「あっ、あのね、あの人は……っ!」
 
咄嗟に口を挟もうとした私を、彼の手がそっと制した。
 
「何も言わなくていいよ。みちるさんは、彼のことが好きなんだろう……?」
 
「え、ちっ、違うの! 彼とはもう……」
 
登吾さんはふっと微笑んで
 
「君の彼を見る目は、心底幸せそうで、楽しそうで、キラキラしてたよ。
本当は、聞いてたんだ。みちるさんが辞めてしまった上司と付き合っている、って噂……。
でも君は、僕なんかにも笑いかけてくれたから……つい、調子に乗ってしまった」
 
「登吾さん……」
 
登吾さんの言葉に、頭の中が混乱する。
私の暁を見る目……? て言うか、暁とのことを知ってた……!?
 
「だから君が彼の元に行きたいなら、そうすればいい。
いいよ、私のことはかまわないから。みちるさん……ありがとう、さようなら」
 
サヨウナラ。また、言われてしまった。暁だけじゃなく、登吾さんにまで。
私は、誰からも必要とされてない。私は、何がしたかったんだろう――?
 
フラフラとした足取りのまま、会社を出て、駅に向かう。混乱して真っ白な思考。
階段から足を踏み外したのは、当然の運命(さだめ)だったのかもしれない。






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