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お客さま。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「で、どれがお前のオンナだって?」
……部屋に入ってくるなり、そう言い放った仏頂面の持ち主に、
私のこめかみにピキンと青筋が立った。
この部屋の中にいる女性の中でいっちばん豪奢なドレスを着て、アーノルドの横に
立っているのだから、一目でそれと気づいて良さそうなものでしょーよ!
「ああ、紹介するよ。シャープ兄さん。僕の妃、ミチルだ」
アーノルドは従兄弟の失礼な言にも、にこにこしながら私を紹介する。
「はじめまして。ミチルです」
私も社交辞令として笑顔を取り繕い、
どんなオトコでも一瞬で魅了するような微笑を浮かべて挨拶した。
が、返ってきたのは……
「うげ。お前、オンナの趣味悪いな」
という台詞だった。
眉を顰めたその顔は、確かにこれ以上ないくらい男らしく整って――
鮮やかな金髪碧眼と相まってアルとは違う意味で間違いなく美形、と言えるものだけれど。
性根、最悪。
私の中でヤツは、敵@異世界その101号に認定された。
え、何でそんなに敵がいるのか、って?
そこはオンナの事情、ってもんよ。
敵の数は、良いオンナの証!……って意気込んでいると。
「もう、シャープさんったら!
初対面の方の前で、いきなりそんなこと言うなんて、失礼ですよ!」
目の前のサイテー男のかなり下から、鈴を転がすような声が聞こえた。
「だって……ホントのことだろ?」
下を見ながら呟くヤツの胸を、
「もうっ!」
と少し背伸びをしながら小突いたのは、小さな女の子。
長い黒髪、大きな黒い目、ピンクの唇、つるつるの肌……
わ、若い! そして小さい!
ええっと、私が162cmだから……140cm代後半、ってとこかしら!?
「君がオトさん?」
アルが声を掛けると、彼女は慌てて
「はい! ご挨拶が遅れてすみません。この度シャープさんの……その……」
真っ赤になってしどろもどろになる彼女の肩をぐっと引き寄せて、サイテー男が
「俺の妃になったオトだ。」
と告げた。
「あ、あの、オトです。はじめまして……」
頬を染めながらも、にっこりと微笑んだ彼女は、それはそれは可愛らしかった。
「……ていうか、ロリコン?」
思わず呟くと、
「ミ、ミチルッ!」
アルが慌てて私に声を掛け、ハッ、と気づいた時には
サイテー男にものすごい顔で睨まれていた。
やっぱり、後ろめたいんだ……。
「アーノルド! お前、自分のオンナにどんな教育してんだ!?」
「ちょっと、なんで私がアーノルドに教育なんかされなくちゃいけないのよ!?」
「自分のオンナをきちんとしつけんのは男の役目だろう!?」
「何そのふっるい考え方! 私は私、もうハタチ過ぎの立派なレディなんだから、
誰かの指図を受ける覚えはないわよ!」
「ハン、どこがレディだ、ただの年増じゃねえか!」
「なんですってぇ~!?」
「あ、あの、二人とも、落ち着いて……」
いきなり口げんかを始めた私たちに、おずおずと声を掛けてきた挑戦者アーノルド。
「お前は黙ってろ!」
「あんたは黙ってて!」
同時に叫ばれた言葉に、彼の挑戦は虚しく敗れ去った……。
~~~
「あのぉ~、お二人とも、それくらいにしたらどぉですかぁ?」
怒鳴りあいに息もゼェゼェ上がり始めた頃、またもや下の方から聞こえてきた
可愛らしい声に、私たちは一旦口を閉じてそちらに目線を移す。
先ほどのロリっ娘(こ)……ゴホン! 若くて可愛い女の子が、
うるうるした大きな瞳でこちらを見上げていた。
げ! 何このどこぞの消費者金融のCM顔負けの子犬ビーム……!
あたしこういうの、結構弱いのよね……。
視線を逸らそうとアーノルドを探すと、彼は自分の胸くらいの背丈しかないロリ……
ええっと、オトさん(より「ちゃん」のほうが似合いそうな感じだけど)の後ろで、
相変わらずオドオドと心細そうにこちらの様子を伺う有様。
ああ、もう。いくら顔良し財力良しの王子様だって、情けないったらありゃしない!
と一人ため息をついていると、アーノルドがこちらの機嫌を取るようにニコニコしながら、
「あのさ、あっちにお茶の準備が出来たようだし、
まだミチルとオトさんとの正式なご挨拶もしてないから……あの……その……」
と切り出してきた。
ああ、いけないいけない、サイテー男のせいで<お客様をもてなす>という
妃としての大事な役目をうっかり忘れるところだった!
「……そうね、お茶にしましょう。オトさん、どうぞこちらへ」
彼女に向かってにっこり微笑み、テーブルに向かおうとした私を、
サイテー男がギロッと睨みつけてきた。
「あぁ、ごめんなさい、ミュージックキングダム国王陛下もよろしかったらどうぞ?
お好みが難しい陛下のお口に会うものがお出しできるかどうかは分かりませんけどね」
あんたなんかと親しげな親戚付き合いなんか絶対してやんないんだから!
という皮肉を含んだ言葉に、ヤツはムスッとした顔で
「お前、ホント良い根性してるな」
と答えた。
当たり前でしょ? これでも世知辛い現代社会の荒波に揉まれて来たんだから。
王宮でヌクヌク与えられたことだけをこなしてれば良かったアンタとはワケが違うのよ!
……でも、最近セレブって、思ったほど幸せじゃないのかも、って思い始めた。
最初から色んなものを与えられてる、ってことは、それに必ず応えないといけない、
ってことだ。最初から、絶対的な「責任」を背負わされている。選択の余地はない。
ってことだ。最初から、絶対的な「責任」を背負わされている。選択の余地はない。
登吾さんやアーノルドを見ていて、ふと私の脳裏を掠めた疑問。
彼らはそれで本当に幸せなのか、って。
そんな彼らの傍で生きて、私は幸せになれるのか……って。
そんな彼らの傍で生きて、私は幸せになれるのか……って。
私や暁は、なんだかんだ言って好き放題やってきたもんなぁ。
これだけ良いオトコを狙って打算的に生きてきて、今更何言ってんだろう。
ものすごく勝手極まりない考えだ、ってことは分かってる。
だけど、今なら、分かる。私は暁の、自由なところが好きだったのだ。
社会的地位にも、他人の視線にも、決して何者にも捉われない彼。
気ままに生きているようで、その実誰よりも他人からの
賞賛・評価を求めている私にとって、彼は憧れだった。
他人からは私と彼が“同類”であるかのように見えたらしいが、決してそんなことはない。
誰よりも近くて、誰よりも遠い、それが私にとっての、森条暁という存在だった。
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「で、どれがお前のオンナだって?」
……部屋に入ってくるなり、そう言い放った仏頂面の持ち主に、
私のこめかみにピキンと青筋が立った。
この部屋の中にいる女性の中でいっちばん豪奢なドレスを着て、アーノルドの横に
立っているのだから、一目でそれと気づいて良さそうなものでしょーよ!
「ああ、紹介するよ。シャープ兄さん。僕の妃、ミチルだ」
アーノルドは従兄弟の失礼な言にも、にこにこしながら私を紹介する。
「はじめまして。ミチルです」
私も社交辞令として笑顔を取り繕い、
どんなオトコでも一瞬で魅了するような微笑を浮かべて挨拶した。
が、返ってきたのは……
「うげ。お前、オンナの趣味悪いな」
という台詞だった。
眉を顰めたその顔は、確かにこれ以上ないくらい男らしく整って――
鮮やかな金髪碧眼と相まってアルとは違う意味で間違いなく美形、と言えるものだけれど。
性根、最悪。
私の中でヤツは、敵@異世界その101号に認定された。
え、何でそんなに敵がいるのか、って?
そこはオンナの事情、ってもんよ。
敵の数は、良いオンナの証!……って意気込んでいると。
「もう、シャープさんったら!
初対面の方の前で、いきなりそんなこと言うなんて、失礼ですよ!」
目の前のサイテー男のかなり下から、鈴を転がすような声が聞こえた。
「だって……ホントのことだろ?」
下を見ながら呟くヤツの胸を、
「もうっ!」
と少し背伸びをしながら小突いたのは、小さな女の子。
長い黒髪、大きな黒い目、ピンクの唇、つるつるの肌……
わ、若い! そして小さい!
ええっと、私が162cmだから……140cm代後半、ってとこかしら!?
「君がオトさん?」
アルが声を掛けると、彼女は慌てて
「はい! ご挨拶が遅れてすみません。この度シャープさんの……その……」
真っ赤になってしどろもどろになる彼女の肩をぐっと引き寄せて、サイテー男が
「俺の妃になったオトだ。」
と告げた。
「あ、あの、オトです。はじめまして……」
頬を染めながらも、にっこりと微笑んだ彼女は、それはそれは可愛らしかった。
「……ていうか、ロリコン?」
思わず呟くと、
「ミ、ミチルッ!」
アルが慌てて私に声を掛け、ハッ、と気づいた時には
サイテー男にものすごい顔で睨まれていた。
やっぱり、後ろめたいんだ……。
「アーノルド! お前、自分のオンナにどんな教育してんだ!?」
「ちょっと、なんで私がアーノルドに教育なんかされなくちゃいけないのよ!?」
「自分のオンナをきちんとしつけんのは男の役目だろう!?」
「何そのふっるい考え方! 私は私、もうハタチ過ぎの立派なレディなんだから、
誰かの指図を受ける覚えはないわよ!」
「ハン、どこがレディだ、ただの年増じゃねえか!」
「なんですってぇ~!?」
「あ、あの、二人とも、落ち着いて……」
いきなり口げんかを始めた私たちに、おずおずと声を掛けてきた挑戦者アーノルド。
「お前は黙ってろ!」
「あんたは黙ってて!」
同時に叫ばれた言葉に、彼の挑戦は虚しく敗れ去った……。
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「あのぉ~、お二人とも、それくらいにしたらどぉですかぁ?」
怒鳴りあいに息もゼェゼェ上がり始めた頃、またもや下の方から聞こえてきた
可愛らしい声に、私たちは一旦口を閉じてそちらに目線を移す。
先ほどのロリっ娘(こ)……ゴホン! 若くて可愛い女の子が、
うるうるした大きな瞳でこちらを見上げていた。
げ! 何このどこぞの消費者金融のCM顔負けの子犬ビーム……!
あたしこういうの、結構弱いのよね……。
視線を逸らそうとアーノルドを探すと、彼は自分の胸くらいの背丈しかないロリ……
ええっと、オトさん(より「ちゃん」のほうが似合いそうな感じだけど)の後ろで、
相変わらずオドオドと心細そうにこちらの様子を伺う有様。
ああ、もう。いくら顔良し財力良しの王子様だって、情けないったらありゃしない!
と一人ため息をついていると、アーノルドがこちらの機嫌を取るようにニコニコしながら、
「あのさ、あっちにお茶の準備が出来たようだし、
まだミチルとオトさんとの正式なご挨拶もしてないから……あの……その……」
と切り出してきた。
ああ、いけないいけない、サイテー男のせいで<お客様をもてなす>という
妃としての大事な役目をうっかり忘れるところだった!
「……そうね、お茶にしましょう。オトさん、どうぞこちらへ」
彼女に向かってにっこり微笑み、テーブルに向かおうとした私を、
サイテー男がギロッと睨みつけてきた。
「あぁ、ごめんなさい、ミュージックキングダム国王陛下もよろしかったらどうぞ?
お好みが難しい陛下のお口に会うものがお出しできるかどうかは分かりませんけどね」
あんたなんかと親しげな親戚付き合いなんか絶対してやんないんだから!
という皮肉を含んだ言葉に、ヤツはムスッとした顔で
「お前、ホント良い根性してるな」
と答えた。
当たり前でしょ? これでも世知辛い現代社会の荒波に揉まれて来たんだから。
王宮でヌクヌク与えられたことだけをこなしてれば良かったアンタとはワケが違うのよ!
……でも、最近セレブって、思ったほど幸せじゃないのかも、って思い始めた。
最初から色んなものを与えられてる、ってことは、それに必ず応えないといけない、
ってことだ。最初から、絶対的な「責任」を背負わされている。選択の余地はない。
ってことだ。最初から、絶対的な「責任」を背負わされている。選択の余地はない。
登吾さんやアーノルドを見ていて、ふと私の脳裏を掠めた疑問。
彼らはそれで本当に幸せなのか、って。
そんな彼らの傍で生きて、私は幸せになれるのか……って。
そんな彼らの傍で生きて、私は幸せになれるのか……って。
私や暁は、なんだかんだ言って好き放題やってきたもんなぁ。
これだけ良いオトコを狙って打算的に生きてきて、今更何言ってんだろう。
ものすごく勝手極まりない考えだ、ってことは分かってる。
だけど、今なら、分かる。私は暁の、自由なところが好きだったのだ。
社会的地位にも、他人の視線にも、決して何者にも捉われない彼。
気ままに生きているようで、その実誰よりも他人からの
賞賛・評価を求めている私にとって、彼は憧れだった。
他人からは私と彼が“同類”であるかのように見えたらしいが、決してそんなことはない。
誰よりも近くて、誰よりも遠い、それが私にとっての、森条暁という存在だった。
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