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「最近のブラジャーって、最初からみんなパットが入ってるじゃない?」
マニキュアを塗ったばかりの爪と睨めっこをしながら、彼女が呟く。
「だから、みんなの言うAカップとかBカップとかの感覚って、
パットを装着した上でのサイズなわけよね」
ああ、それで。
何となく納得したような表情を浮かべた私に、彼女は微笑んで見せた。
「AからCまでの子は、大抵パットを付けたままブラをするわ。
E以上の子は、パットを外して使う。
だから、パットをしてないEカップの子はDくらいに見えるし、
パットを付けたCの子とそう変わらない大きさに見えるかもしれない」
「ふうん」
気のない相槌を打つ私を気にする風でもなく、彼女は言葉を続けた。
「一番難しいのは、Dくらいの子ね。パットを付けたり付けなかったり。判断に困るわ」
乾きかけた爪に向かい、ふう、と息を吹きかける横顔は、息を呑むほど美しい。
「どうして、マユミさんはそんなに女の子の胸のサイズを知りたがるの?」
「あら、だって私好きなのよ。おっきいオッパイ」
私の問いかけに、ケロリと答えて見せた彼女は、いわゆる“同性愛者”というやつだ。
どっちつかずの私にとって、憧れのひと。
~~~
『男のセックスは、部品を嵌め込むセックスよ。
男と女はその部品がぴったり嵌まるけど、男と男は少しいびつな形になるから
ちょっと痛いのよね。でもね、女のセックスは違うわ。嵌め込むんじゃなくて、
溶け合うの。身体と身体がこれ以上ないくらいくっついて、一つになるの。
サユリちゃんの好きなカタツムリの交尾に近いわね。
私は部品を嵌め込むより溶け合う方が好き。だから、女の子が好きよ』
以前彼女が言っていた同性を愛する理由が、私には眩しく映った。
彼女とならば一つになってみたい。
そんな、漠然とした憧れを抱いていたあの頃。
女の身体を、ようやく愛しいと思えるかも知れないと淡い期待を感じていたあの頃。
~~~
「でもE以上って、中々かわいい下着ないじゃない。マユミさんはどうしてるの?」
大きい胸が好きだという彼女は、自身もまた豊満な肉体の持ち主だ。
「海外から取り寄せてるの。ちょっと高いけど」
ウィンクをして見せた目許は、いつも濡れるような輝きを放っている。
「いいなぁ。いいなぁ。マユミさんは、何でも持ってていいなぁ」
八つ当たりなのか、独り言なのか分からない本音。
彼女は困ったように笑って、私の頬を撫でた。
「……ねえ、マユミさん。“レンアイ”ってどうやってするの?」
男にも女にもなれない。自分で自分が分からない。
そんな私が、“レンアイ”なんてできるのだろうか。
彼女自身に、彼女への想いを否定されてから。
ずっと私は迷っている。自分はどこか欠けた人間なのではないかと。
「さあ……ねえ?」
こればっかりは私にも分からない、と呟いて顔を背けた彼女は、
いそいそと化粧を終えて、カバンに財布と携帯を入れた。
きっとこれから、恋人との逢瀬に出かけるのだろう。
「……マユミさん」
ローファーに足を通し、玄関のドアノブに手をかけたまま、私は振り向く。
「なあに? サユリちゃん」
ルージュを塗り終えた彼女が、鏡台の前から私を見る。
「また、来てもいい?」
縋るように問いかけた私に、彼女はまた少し寂し気な、
どこか困ったような微笑を浮かべた。
「いいわよ。いつでも」
私はようやく安心して、アパートを去る。
夕暮れが目に沁みる。彼の顔が、心に浮かんだ。
→『雨ときどきセックス嫌悪』
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「最近のブラジャーって、最初からみんなパットが入ってるじゃない?」
マニキュアを塗ったばかりの爪と睨めっこをしながら、彼女が呟く。
「だから、みんなの言うAカップとかBカップとかの感覚って、
パットを装着した上でのサイズなわけよね」
ああ、それで。
何となく納得したような表情を浮かべた私に、彼女は微笑んで見せた。
「AからCまでの子は、大抵パットを付けたままブラをするわ。
E以上の子は、パットを外して使う。
だから、パットをしてないEカップの子はDくらいに見えるし、
パットを付けたCの子とそう変わらない大きさに見えるかもしれない」
「ふうん」
気のない相槌を打つ私を気にする風でもなく、彼女は言葉を続けた。
「一番難しいのは、Dくらいの子ね。パットを付けたり付けなかったり。判断に困るわ」
乾きかけた爪に向かい、ふう、と息を吹きかける横顔は、息を呑むほど美しい。
「どうして、マユミさんはそんなに女の子の胸のサイズを知りたがるの?」
「あら、だって私好きなのよ。おっきいオッパイ」
私の問いかけに、ケロリと答えて見せた彼女は、いわゆる“同性愛者”というやつだ。
どっちつかずの私にとって、憧れのひと。
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『男のセックスは、部品を嵌め込むセックスよ。
男と女はその部品がぴったり嵌まるけど、男と男は少しいびつな形になるから
ちょっと痛いのよね。でもね、女のセックスは違うわ。嵌め込むんじゃなくて、
溶け合うの。身体と身体がこれ以上ないくらいくっついて、一つになるの。
サユリちゃんの好きなカタツムリの交尾に近いわね。
私は部品を嵌め込むより溶け合う方が好き。だから、女の子が好きよ』
以前彼女が言っていた同性を愛する理由が、私には眩しく映った。
彼女とならば一つになってみたい。
そんな、漠然とした憧れを抱いていたあの頃。
女の身体を、ようやく愛しいと思えるかも知れないと淡い期待を感じていたあの頃。
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「でもE以上って、中々かわいい下着ないじゃない。マユミさんはどうしてるの?」
大きい胸が好きだという彼女は、自身もまた豊満な肉体の持ち主だ。
「海外から取り寄せてるの。ちょっと高いけど」
ウィンクをして見せた目許は、いつも濡れるような輝きを放っている。
「いいなぁ。いいなぁ。マユミさんは、何でも持ってていいなぁ」
八つ当たりなのか、独り言なのか分からない本音。
彼女は困ったように笑って、私の頬を撫でた。
「……ねえ、マユミさん。“レンアイ”ってどうやってするの?」
男にも女にもなれない。自分で自分が分からない。
そんな私が、“レンアイ”なんてできるのだろうか。
彼女自身に、彼女への想いを否定されてから。
ずっと私は迷っている。自分はどこか欠けた人間なのではないかと。
「さあ……ねえ?」
こればっかりは私にも分からない、と呟いて顔を背けた彼女は、
いそいそと化粧を終えて、カバンに財布と携帯を入れた。
きっとこれから、恋人との逢瀬に出かけるのだろう。
「……マユミさん」
ローファーに足を通し、玄関のドアノブに手をかけたまま、私は振り向く。
「なあに? サユリちゃん」
ルージュを塗り終えた彼女が、鏡台の前から私を見る。
「また、来てもいい?」
縋るように問いかけた私に、彼女はまた少し寂し気な、
どこか困ったような微笑を浮かべた。
「いいわよ。いつでも」
私はようやく安心して、アパートを去る。
夕暮れが目に沁みる。彼の顔が、心に浮かんだ。
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