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本当の性同一性障害とは若干異なりますが
そういう要素が出てくるので苦手な方はご遠慮ください。
そういう要素が出てくるので苦手な方はご遠慮ください。
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時々、乳房というものをどうしようもなく鬱陶しく感じて、
切り落としたくなるような衝動に駆られる。
切り落としたくなるような衝動に駆られる。
むしろ、女としての自分の身体を切り裂いて棄ててしまいたい、そんな衝動。
何だか酷く、苛々する。
「普段そんな格好ばっかしてるのに?」
Eカップの胸元を強調するピッタリとしたキャミソールにミニスカート、
薄いカーディガンを羽織っただけの私を指差し、彼は嗤う。
薄いカーディガンを羽織っただけの私を指差し、彼は嗤う。
「……この前ママにも言われたわ。一緒に買い物に行ったデパートで、
襟ぐりの開いたサマーセーターを見てママったら、
『わあ、この服サユリっぽい!』って」
襟ぐりの開いたサマーセーターを見てママったら、
『わあ、この服サユリっぽい!』って」
「おまえ、親にまで乳キャラ扱いされてんのかよ!」
私の言葉に、彼はクックッと声を立てて笑った。
「だって、他にアピールできるとこが無いんだから仕方ないじゃない」
憮然として呟けば、彼はポリポリと頭を掻きながら首を傾げて見せた。
「わっかんねーなぁ。コンプレックスの源なのに、アピールポイントなんだ?」
「……あのね、トオル」
彼の問いかけに、私は口を開く。
「ん、何?」
彼は興味深げに私の顔を覗き込む。
「私ね、女でいたいの。女としての私にとっては、おっきな胸は嬉しいの」
「はあ?」
先ほどまで女の身体を切り裂きたい、とまで言っていた私の言葉を、
まるで理解できないというように彼は眉を顰めた。
まるで理解できないというように彼は眉を顰めた。
「でも、女でいたくないの。男になりたいの。でも、男になりたくないの」
彼はますます怪訝な表情で、こちらを見る。
「あのね、時々、手術受けようかなぁ、って思うの」
「……はぁ」
「でも、いざ切り取ったらきっと後で物凄く後悔するんだ、私」
「……そう」
「だって、女としての私には、必要なんだもん、これが」
「……うん」
「でも、時々凄く邪魔になるの。取り外し可能だったらいいのにね?」
「オイ!」
笑いながら言うと、呆けたように私の言葉に耳を傾けていた彼から、
ようやくまともなツッコミが入った。
ようやくまともなツッコミが入った。
「女でいたくなくなるの。嫌なの。女でいるのも、男になるのも。
どっちにもなりたいし、どっちにもなりたくない。
どうして、人間には性別なんかあるんだろう?
カタツムリみたく、両方持ってればいいと思わない?」
どっちにもなりたいし、どっちにもなりたくない。
どうして、人間には性別なんかあるんだろう?
カタツムリみたく、両方持ってればいいと思わない?」
そう言って彼を見上げれば、彼は困ったようにため息を吐いた。
「カタツムリって、おまえなぁ……」
「カタツムリの交尾、昔トオルも一緒に見たでしょ?
二匹がピッタリくっついて、隙間からニョロニョロ卵が流れてきて。
あれ、面白かったじゃない。人間もそうやって子作りすればいいよ」
二匹がピッタリくっついて、隙間からニョロニョロ卵が流れてきて。
あれ、面白かったじゃない。人間もそうやって子作りすればいいよ」
私はカタツムリが好きだった。
雨の季節は毎年カタツムリを取りに行って、産卵を終えるまで育てていた。
雨の季節は毎年カタツムリを取りに行って、産卵を終えるまで育てていた。
「そんなグロイ話、思い出させんなよ」
彼はそう言って私の頭を小突く。
「うちのパパ、ママのヒモじゃない?」
「……まあな」
「いっつもね、困るんだ。
『お父さんは何のお仕事をしてるんですか?』って聞かれると」
『お父さんは何のお仕事をしてるんですか?』って聞かれると」
「そうだな」
彼は頬杖をつきながら、私の言葉に時たま相槌を打つ。
その、ゴツゴツと節くれだった手の甲が、愛しくて憎らしい。
「あとね、ママ時々言われるの。
『旦那さんと子供さんを養われるなんて、大変でしょう?』って。
『そんなテーサイの悪いこと、そろそろやめなさい』って。
口で直接言うんじゃなくて、色んなとこで」
『旦那さんと子供さんを養われるなんて、大変でしょう?』って。
『そんなテーサイの悪いこと、そろそろやめなさい』って。
口で直接言うんじゃなくて、色んなとこで」
「おま、それ……」
「私、よくママの会社顔出してたじゃない?
何回も通ってると、子供だって気づくよ」
何回も通ってると、子供だって気づくよ」
思い出したくない記憶に、ふっと苦い笑みがこぼれる。
いつも優しい微笑を絶やさない母の、笑顔が途切れた瞬間。
いつも優しい微笑を絶やさない母の、笑顔が途切れた瞬間。
「男とか女とか大っ嫌いなのに、その境目を誰よりも気にしてんのは私なの」
「ジェンダーコンプレックスのカタマリだもんな、おまえ」
「……そうだね」
そっと、手のひらを自分の乳房に当ててみる。
さっきまであんなにも引き千切りたい衝動に駆られていた乳房が、
今度は何だかとても、愛しいものに思えた。
さっきまであんなにも引き千切りたい衝動に駆られていた乳房が、
今度は何だかとても、愛しいものに思えた。
→『曇り時々レズビアン』
目次(現代)
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時々、乳房というものをどうしようもなく鬱陶しく感じて、
切り落としたくなるような衝動に駆られる。
切り落としたくなるような衝動に駆られる。
むしろ、女としての自分の身体を切り裂いて棄ててしまいたい、そんな衝動。
何だか酷く、苛々する。
「普段そんな格好ばっかしてるのに?」
Eカップの胸元を強調するピッタリとしたキャミソールにミニスカート、
薄いカーディガンを羽織っただけの私を指差し、彼は嗤う。
薄いカーディガンを羽織っただけの私を指差し、彼は嗤う。
「……この前ママにも言われたわ。一緒に買い物に行ったデパートで、
襟ぐりの開いたサマーセーターを見てママったら、
『わあ、この服サユリっぽい!』って」
襟ぐりの開いたサマーセーターを見てママったら、
『わあ、この服サユリっぽい!』って」
「おまえ、親にまで乳キャラ扱いされてんのかよ!」
私の言葉に、彼はクックッと声を立てて笑った。
「だって、他にアピールできるとこが無いんだから仕方ないじゃない」
憮然として呟けば、彼はポリポリと頭を掻きながら首を傾げて見せた。
「わっかんねーなぁ。コンプレックスの源なのに、アピールポイントなんだ?」
「……あのね、トオル」
彼の問いかけに、私は口を開く。
「ん、何?」
彼は興味深げに私の顔を覗き込む。
「私ね、女でいたいの。女としての私にとっては、おっきな胸は嬉しいの」
「はあ?」
先ほどまで女の身体を切り裂きたい、とまで言っていた私の言葉を、
まるで理解できないというように彼は眉を顰めた。
まるで理解できないというように彼は眉を顰めた。
「でも、女でいたくないの。男になりたいの。でも、男になりたくないの」
彼はますます怪訝な表情で、こちらを見る。
「あのね、時々、手術受けようかなぁ、って思うの」
「……はぁ」
「でも、いざ切り取ったらきっと後で物凄く後悔するんだ、私」
「……そう」
「だって、女としての私には、必要なんだもん、これが」
「……うん」
「でも、時々凄く邪魔になるの。取り外し可能だったらいいのにね?」
「オイ!」
笑いながら言うと、呆けたように私の言葉に耳を傾けていた彼から、
ようやくまともなツッコミが入った。
ようやくまともなツッコミが入った。
「女でいたくなくなるの。嫌なの。女でいるのも、男になるのも。
どっちにもなりたいし、どっちにもなりたくない。
どうして、人間には性別なんかあるんだろう?
カタツムリみたく、両方持ってればいいと思わない?」
どっちにもなりたいし、どっちにもなりたくない。
どうして、人間には性別なんかあるんだろう?
カタツムリみたく、両方持ってればいいと思わない?」
そう言って彼を見上げれば、彼は困ったようにため息を吐いた。
「カタツムリって、おまえなぁ……」
「カタツムリの交尾、昔トオルも一緒に見たでしょ?
二匹がピッタリくっついて、隙間からニョロニョロ卵が流れてきて。
あれ、面白かったじゃない。人間もそうやって子作りすればいいよ」
二匹がピッタリくっついて、隙間からニョロニョロ卵が流れてきて。
あれ、面白かったじゃない。人間もそうやって子作りすればいいよ」
私はカタツムリが好きだった。
雨の季節は毎年カタツムリを取りに行って、産卵を終えるまで育てていた。
雨の季節は毎年カタツムリを取りに行って、産卵を終えるまで育てていた。
「そんなグロイ話、思い出させんなよ」
彼はそう言って私の頭を小突く。
「うちのパパ、ママのヒモじゃない?」
「……まあな」
「いっつもね、困るんだ。
『お父さんは何のお仕事をしてるんですか?』って聞かれると」
『お父さんは何のお仕事をしてるんですか?』って聞かれると」
「そうだな」
彼は頬杖をつきながら、私の言葉に時たま相槌を打つ。
その、ゴツゴツと節くれだった手の甲が、愛しくて憎らしい。
「あとね、ママ時々言われるの。
『旦那さんと子供さんを養われるなんて、大変でしょう?』って。
『そんなテーサイの悪いこと、そろそろやめなさい』って。
口で直接言うんじゃなくて、色んなとこで」
『旦那さんと子供さんを養われるなんて、大変でしょう?』って。
『そんなテーサイの悪いこと、そろそろやめなさい』って。
口で直接言うんじゃなくて、色んなとこで」
「おま、それ……」
「私、よくママの会社顔出してたじゃない?
何回も通ってると、子供だって気づくよ」
何回も通ってると、子供だって気づくよ」
思い出したくない記憶に、ふっと苦い笑みがこぼれる。
いつも優しい微笑を絶やさない母の、笑顔が途切れた瞬間。
いつも優しい微笑を絶やさない母の、笑顔が途切れた瞬間。
「男とか女とか大っ嫌いなのに、その境目を誰よりも気にしてんのは私なの」
「ジェンダーコンプレックスのカタマリだもんな、おまえ」
「……そうだね」
そっと、手のひらを自分の乳房に当ててみる。
さっきまであんなにも引き千切りたい衝動に駆られていた乳房が、
今度は何だかとても、愛しいものに思えた。
さっきまであんなにも引き千切りたい衝動に駆られていた乳房が、
今度は何だかとても、愛しいものに思えた。
→『曇り時々レズビアン』
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