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反乱軍の将と亡国の王女、幼き日の約束の結末。中世欧風。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「姫さまっ!」
扉を開いて飛び込んで来たのは、予想通りの人物だった。
そう……彼は、反乱軍を率いる将軍。
そう……彼は、反乱軍を率いる将軍。
滅び行く城に唯一人残った私を真っ先に見つけ出すのは、幼なじみの彼だとわかっていた。
「助けに来た。一緒に行こう!」
「レイフ、あんたって本当に馬鹿ね……」
必死の形相で迫る青年を、呆れ返って見つめると、
彼はキョトンとした目でこちらを見つめ返してきた。
彼はキョトンとした目でこちらを見つめ返してきた。
~~~
『あーぁ、お城の外に行ってみたいなぁ』
脳裏に蘇って来たのは、幼い頃の自分。
外の世界を欲していた自分。
『行けばいいじゃん』
傍らで笑う、あどけない幼なじみ。
『だめよ。私は王女だもん。普通の子と違うもの。
あーぁ、“姫”をやめて、レイフみたく普通の子になれればいいのに……』
『じゃあ俺が、メアリーを普通の子にしてあげる! “姫”をやめさせてあげるよ!』
『ムリよ。できっこないわ』
『ムリじゃないよ。約束する!』
『本当?』
『うん、絶対! 約束!』
遠い日の指切り。愚かな、愛しい約束。
~~~
「私はこの城を出ないわ。グリフィス王族として、この国と運命を共にする」
私の言葉に、レイフは目を見開いて叫ぶ。
「何でだよ!? 姫様のために、ここまで来たのに……」
どこまでも真っすぐな男。彼は何も変わらない。
自分と同じ身分の可愛らしい妻を迎え、既に三人の子の父親となっていても……。
反乱軍の長として、大勢の兵を束ねる立場にあっても……。
その瞳のひたむきさは、幼い頃と少しも変わっていない。
苦しいほどに恋しい。憎いほどに愛しい。この、愚かな男が。
「レイフ、あなた、欲しくて欲しくて堪らないものはあって?」
私の突然の問いに、彼は戸惑いの表情を浮かべた。
きっとこの男は、何かを渇望することを知らない。
いつも他人のために、他人の求めるものを与える立場であったから。
彼は恋を知らないのだ。
唯一人の人を得られぬ、あの飢えを、渇きを、焦燥を知らないのだ。
唯一人の人を得られぬ、あの飢えを、渇きを、焦燥を知らないのだ。
恋を知らぬまま結婚し、子を儲ける……何て彼らしい生き方だろうか!
私は不意に笑い出したくなった。レイフが怪訝そうにこちらを見つめる。
「私はね、確かに自由が欲しかったわ。
でも、今はそれ以上に欲しいものができてしまった」
でも、今はそれ以上に欲しいものができてしまった」
そう、だから私は彼と共には行けない。彼の妻と子と、彼の幸せを見たくないから。
「さよなら、レイフ」
私は両手に握りしめた懐刀を、自分の胸に突き刺した。
「ひめっ……メアリーッ!」
レイフが駆け寄って血だらけの私を抱き寄せる。
あぁ……これでいい。これで、彼の中に私を残すことができる。
私は己が持つ表情(かお)の中で、最も美しいであろう微笑を浮かべた。
彼のために、彼を見つめて。
「ありがとう、馬鹿なレイフ」
大好きよ……
最後の言葉は、彼に届いたのだろうか。
最後の言葉は、彼に届いたのだろうか。
~~~
「メアリー! ……メアリーッ!」
どれだけ名を呼んでも、もう彼女はピクリとも動かない。
「俺が本当に君のためだけに“約束”を守ったと思ってるのか!?」
美しい亡き殻に向かって思わず叫ぶ。
約束を守ったのは、反乱を起こしたのは……自分のためだ。
もう一度、メアリーに会いたい。他愛ない世間話をして、ケンカをして、笑い合いたい。
例え自分が触れることを許されなくても。
己を突き動かしたのは、その一心だけだったのだ。それなのに……
己を突き動かしたのは、その一心だけだったのだ。それなのに……
「一度しか言わないから聞いてくれる? 愛してるよ、メアリー」
冷たい唇に口づけた後、反乱軍の将は姫の血に濡れた懐刀を自らの心臓に突き立てた。
ブログ初出2008/8/2
→続編『薄闇』(レイフの妻と親友視点)
目次(中世欧風)
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「姫さまっ!」
扉を開いて飛び込んで来たのは、予想通りの人物だった。
そう……彼は、反乱軍を率いる将軍。
そう……彼は、反乱軍を率いる将軍。
滅び行く城に唯一人残った私を真っ先に見つけ出すのは、幼なじみの彼だとわかっていた。
「助けに来た。一緒に行こう!」
「レイフ、あんたって本当に馬鹿ね……」
必死の形相で迫る青年を、呆れ返って見つめると、
彼はキョトンとした目でこちらを見つめ返してきた。
彼はキョトンとした目でこちらを見つめ返してきた。
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『あーぁ、お城の外に行ってみたいなぁ』
脳裏に蘇って来たのは、幼い頃の自分。
外の世界を欲していた自分。
『行けばいいじゃん』
傍らで笑う、あどけない幼なじみ。
『だめよ。私は王女だもん。普通の子と違うもの。
あーぁ、“姫”をやめて、レイフみたく普通の子になれればいいのに……』
『じゃあ俺が、メアリーを普通の子にしてあげる! “姫”をやめさせてあげるよ!』
『ムリよ。できっこないわ』
『ムリじゃないよ。約束する!』
『本当?』
『うん、絶対! 約束!』
遠い日の指切り。愚かな、愛しい約束。
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「私はこの城を出ないわ。グリフィス王族として、この国と運命を共にする」
私の言葉に、レイフは目を見開いて叫ぶ。
「何でだよ!? 姫様のために、ここまで来たのに……」
どこまでも真っすぐな男。彼は何も変わらない。
自分と同じ身分の可愛らしい妻を迎え、既に三人の子の父親となっていても……。
反乱軍の長として、大勢の兵を束ねる立場にあっても……。
その瞳のひたむきさは、幼い頃と少しも変わっていない。
苦しいほどに恋しい。憎いほどに愛しい。この、愚かな男が。
「レイフ、あなた、欲しくて欲しくて堪らないものはあって?」
私の突然の問いに、彼は戸惑いの表情を浮かべた。
きっとこの男は、何かを渇望することを知らない。
いつも他人のために、他人の求めるものを与える立場であったから。
彼は恋を知らないのだ。
唯一人の人を得られぬ、あの飢えを、渇きを、焦燥を知らないのだ。
唯一人の人を得られぬ、あの飢えを、渇きを、焦燥を知らないのだ。
恋を知らぬまま結婚し、子を儲ける……何て彼らしい生き方だろうか!
私は不意に笑い出したくなった。レイフが怪訝そうにこちらを見つめる。
「私はね、確かに自由が欲しかったわ。
でも、今はそれ以上に欲しいものができてしまった」
でも、今はそれ以上に欲しいものができてしまった」
そう、だから私は彼と共には行けない。彼の妻と子と、彼の幸せを見たくないから。
「さよなら、レイフ」
私は両手に握りしめた懐刀を、自分の胸に突き刺した。
「ひめっ……メアリーッ!」
レイフが駆け寄って血だらけの私を抱き寄せる。
あぁ……これでいい。これで、彼の中に私を残すことができる。
私は己が持つ表情(かお)の中で、最も美しいであろう微笑を浮かべた。
彼のために、彼を見つめて。
「ありがとう、馬鹿なレイフ」
大好きよ……
最後の言葉は、彼に届いたのだろうか。
最後の言葉は、彼に届いたのだろうか。
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「メアリー! ……メアリーッ!」
どれだけ名を呼んでも、もう彼女はピクリとも動かない。
「俺が本当に君のためだけに“約束”を守ったと思ってるのか!?」
美しい亡き殻に向かって思わず叫ぶ。
約束を守ったのは、反乱を起こしたのは……自分のためだ。
もう一度、メアリーに会いたい。他愛ない世間話をして、ケンカをして、笑い合いたい。
例え自分が触れることを許されなくても。
己を突き動かしたのは、その一心だけだったのだ。それなのに……
己を突き動かしたのは、その一心だけだったのだ。それなのに……
「一度しか言わないから聞いてくれる? 愛してるよ、メアリー」
冷たい唇に口づけた後、反乱軍の将は姫の血に濡れた懐刀を自らの心臓に突き立てた。
ブログ初出2008/8/2
→続編『薄闇』(レイフの妻と親友視点)
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