忍者ブログ
ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


反乱軍の将と亡国の王女、幼き日の約束の結末。中世欧風。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「姫さまっ!」
 
扉を開いて飛び込んで来たのは、予想通りの人物だった。
そう……彼は、反乱軍を率いる将軍。
滅び行く城に唯一人残った私を真っ先に見つけ出すのは、幼なじみの彼だとわかっていた。
 
「助けに来た。一緒に行こう!」
 
「レイフ、あんたって本当に馬鹿ね……」
 
必死の形相で迫る青年を、呆れ返って見つめると、
彼はキョトンとした目でこちらを見つめ返してきた。
 
 
~~~
 
 
『あーぁ、お城の外に行ってみたいなぁ』
 
脳裏に蘇って来たのは、幼い頃の自分。
外の世界を欲していた自分。
 
『行けばいいじゃん』
 
傍らで笑う、あどけない幼なじみ。
 
『だめよ。私は王女だもん。普通の子と違うもの。
あーぁ、“姫”をやめて、レイフみたく普通の子になれればいいのに……』
 
『じゃあ俺が、メアリーを普通の子にしてあげる! “姫”をやめさせてあげるよ!』
 
『ムリよ。できっこないわ』
 
『ムリじゃないよ。約束する!』
 
『本当?』
 
『うん、絶対! 約束!』
 
遠い日の指切り。愚かな、愛しい約束。
 
 
~~~
 
 
「私はこの城を出ないわ。グリフィス王族として、この国と運命を共にする」
 
私の言葉に、レイフは目を見開いて叫ぶ。
 
「何でだよ!? 姫様のために、ここまで来たのに……」
 
どこまでも真っすぐな男。彼は何も変わらない。
自分と同じ身分の可愛らしい妻を迎え、既に三人の子の父親となっていても……。
反乱軍の長として、大勢の兵を束ねる立場にあっても……。
その瞳のひたむきさは、幼い頃と少しも変わっていない。
苦しいほどに恋しい。憎いほどに愛しい。この、愚かな男が。
 
 「レイフ、あなた、欲しくて欲しくて堪らないものはあって?」
 
私の突然の問いに、彼は戸惑いの表情を浮かべた。
きっとこの男は、何かを渇望することを知らない。
いつも他人のために、他人の求めるものを与える立場であったから。
彼は恋を知らないのだ。
唯一人の人を得られぬ、あの飢えを、渇きを、焦燥を知らないのだ。
恋を知らぬまま結婚し、子を儲ける……何て彼らしい生き方だろうか!
私は不意に笑い出したくなった。レイフが怪訝そうにこちらを見つめる。
 
「私はね、確かに自由が欲しかったわ。
でも、今はそれ以上に欲しいものができてしまった」
 
そう、だから私は彼と共には行けない。彼の妻と子と、彼の幸せを見たくないから。
 
「さよなら、レイフ」
 
私は両手に握りしめた懐刀を、自分の胸に突き刺した。
 
「ひめっ……メアリーッ!」
 
レイフが駆け寄って血だらけの私を抱き寄せる。
あぁ……これでいい。これで、彼の中に私を残すことができる。
私は己が持つ表情(かお)の中で、最も美しいであろう微笑を浮かべた。
彼のために、彼を見つめて。
 
「ありがとう、馬鹿なレイフ」
 
大好きよ……
最後の言葉は、彼に届いたのだろうか。
 
 
~~~

 
「メアリー! ……メアリーッ!」
 
どれだけ名を呼んでも、もう彼女はピクリとも動かない。
 
「俺が本当に君のためだけに“約束”を守ったと思ってるのか!?」
 
美しい亡き殻に向かって思わず叫ぶ。
約束を守ったのは、反乱を起こしたのは……自分のためだ。
もう一度、メアリーに会いたい。他愛ない世間話をして、ケンカをして、笑い合いたい。
例え自分が触れることを許されなくても。
己を突き動かしたのは、その一心だけだったのだ。それなのに……
 
「一度しか言わないから聞いてくれる? 愛してるよ、メアリー」
 
冷たい唇に口づけた後、反乱軍の将は姫の血に濡れた懐刀を自らの心臓に突き立てた。






ブログ初出2008/8/2

→続編『薄闇』(レイフの妻と親友視点)

目次(中世欧風)

拍手[0回]

PR


追記を閉じる▲

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「姫さまっ!」
 
扉を開いて飛び込んで来たのは、予想通りの人物だった。
そう……彼は、反乱軍を率いる将軍。
滅び行く城に唯一人残った私を真っ先に見つけ出すのは、幼なじみの彼だとわかっていた。
 
「助けに来た。一緒に行こう!」
 
「レイフ、あんたって本当に馬鹿ね……」
 
必死の形相で迫る青年を、呆れ返って見つめると、
彼はキョトンとした目でこちらを見つめ返してきた。
 
 
~~~
 
 
『あーぁ、お城の外に行ってみたいなぁ』
 
脳裏に蘇って来たのは、幼い頃の自分。
外の世界を欲していた自分。
 
『行けばいいじゃん』
 
傍らで笑う、あどけない幼なじみ。
 
『だめよ。私は王女だもん。普通の子と違うもの。
あーぁ、“姫”をやめて、レイフみたく普通の子になれればいいのに……』
 
『じゃあ俺が、メアリーを普通の子にしてあげる! “姫”をやめさせてあげるよ!』
 
『ムリよ。できっこないわ』
 
『ムリじゃないよ。約束する!』
 
『本当?』
 
『うん、絶対! 約束!』
 
遠い日の指切り。愚かな、愛しい約束。
 
 
~~~
 
 
「私はこの城を出ないわ。グリフィス王族として、この国と運命を共にする」
 
私の言葉に、レイフは目を見開いて叫ぶ。
 
「何でだよ!? 姫様のために、ここまで来たのに……」
 
どこまでも真っすぐな男。彼は何も変わらない。
自分と同じ身分の可愛らしい妻を迎え、既に三人の子の父親となっていても……。
反乱軍の長として、大勢の兵を束ねる立場にあっても……。
その瞳のひたむきさは、幼い頃と少しも変わっていない。
苦しいほどに恋しい。憎いほどに愛しい。この、愚かな男が。
 
 「レイフ、あなた、欲しくて欲しくて堪らないものはあって?」
 
私の突然の問いに、彼は戸惑いの表情を浮かべた。
きっとこの男は、何かを渇望することを知らない。
いつも他人のために、他人の求めるものを与える立場であったから。
彼は恋を知らないのだ。
唯一人の人を得られぬ、あの飢えを、渇きを、焦燥を知らないのだ。
恋を知らぬまま結婚し、子を儲ける……何て彼らしい生き方だろうか!
私は不意に笑い出したくなった。レイフが怪訝そうにこちらを見つめる。
 
「私はね、確かに自由が欲しかったわ。
でも、今はそれ以上に欲しいものができてしまった」
 
そう、だから私は彼と共には行けない。彼の妻と子と、彼の幸せを見たくないから。
 
「さよなら、レイフ」
 
私は両手に握りしめた懐刀を、自分の胸に突き刺した。
 
「ひめっ……メアリーッ!」
 
レイフが駆け寄って血だらけの私を抱き寄せる。
あぁ……これでいい。これで、彼の中に私を残すことができる。
私は己が持つ表情(かお)の中で、最も美しいであろう微笑を浮かべた。
彼のために、彼を見つめて。
 
「ありがとう、馬鹿なレイフ」
 
大好きよ……
最後の言葉は、彼に届いたのだろうか。
 
 
~~~

 
「メアリー! ……メアリーッ!」
 
どれだけ名を呼んでも、もう彼女はピクリとも動かない。
 
「俺が本当に君のためだけに“約束”を守ったと思ってるのか!?」
 
美しい亡き殻に向かって思わず叫ぶ。
約束を守ったのは、反乱を起こしたのは……自分のためだ。
もう一度、メアリーに会いたい。他愛ない世間話をして、ケンカをして、笑い合いたい。
例え自分が触れることを許されなくても。
己を突き動かしたのは、その一心だけだったのだ。それなのに……
 
「一度しか言わないから聞いてくれる? 愛してるよ、メアリー」
 
冷たい唇に口づけた後、反乱軍の将は姫の血に濡れた懐刀を自らの心臓に突き立てた。






ブログ初出2008/8/2

→続編『薄闇』(レイフの妻と親友視点)

目次(中世欧風)

拍手[0回]

PR

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:
   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック