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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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生きて生きて生きて』・『Love Love Love』弟サイド。

拍手[4回]

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あなたは今、何を思っていますか?
 
この首が切り落とされて、もうどのくらいになるでしょう?
あの娘は女王になりました。
人々から蔑まれ、謗られながらも自らの足で立ち上がる女王に。
幾年月、行方知れずのあなたの代わりに、私は彼女を見守ってきました。
あなたはどこにいるのですか? 
一体どこで、たった独り憎しみの澱に沈んでいるのですか?
早く、早く、共に地獄で眠りたい。
 
ぼんやりと霞む視界に、実態を持たぬ手足。
あなたへの想いのみが、私をこの世に止まらせる。
 
ぜんぶ、全部どうなっても良かった。
疎まれても、侮られても、世界の全てが嘲笑っても……あなたと、共にいられるのなら。
 
あなたは未だ見つからない。
あの女が死んでも、王が死んでも、こちらを振り向いてくれないのなら。
いっそ私が、あなたに憎まれていたかった……!
 
 
~~~
 
 
「レオ」
 
こっそりと名を呼ぶ声、周囲を窺ってみせる眼差し。
私に近づいて安心したように微笑む、その笑顔が好きでした。
嫡男でありながら不具に生まれつき、屋敷に引きこもるようにして暮らす私に、
唯一優しく接してくれたのはあなたでした。あなたは、私が外を恐れて
閉じこもっているのだと思っていたのかもしれませんが、本当は弱視の長男を
人目に晒すことを恥じた両親が、私に屋敷を出ぬよう忠告していたのです。
だから彼らは、一族の重要な“資源”である姉上たちに私が近づくことを厭った。
何度か私の元にいるところが見つかり、母上に叱られても、
あなたは毎日私の部屋を訪れてくれました。
独りぼっちの私にとって、あなたはたった一人の女(ひと)だった。
あなたが、城に行かれるまで……。
 
身籠った上の姉上に代わり、城に上がったあなたに何が起きたか察した時、
あなたは既に王の娘を腹に宿していました。
何も分からぬまま、上がっていく爵位。消えていくあなたとの時間。
耐えられなかった。人々の陰口より、冷たい視線より、何よりあなたが傍にいないことに。
 
 
~~~
 
 
告白しましょう、姉上。あの噂を流したのは私です。
おしゃべりな侍女に相談に乗ってもらうふりをして嘘を話し、
更にはあの女の前で思わせぶりな態度を取れば簡単でした。
あなたは少しも気づいていなかったようだけれど。
 
そうして、城中に噂が蔓延したあの日。
王がいることを知っていて、私はあなたに口付けた。
初めて触れる唇は少し冷たく、乾いていて。
腕の中でかすかに身じろぐあなたの可愛らしかったこと!
王は愚かです。私の思惑通り、私とあなたを同じ運命に導いてくれた。
姉と弟、本来なら交わることの無い運命を、最後の最後に結び付けてくれた。
 
刺客は、思ったよりも早くやってきました。
そしてそれは驚くべきことに、王自身であったのです。
何かに追い詰められているかのような燃える眼差しに、私は王の想いの丈を知りました。
だから、嗤ってやったのです。思い知るがいい、と。私と姉上の、愛の深さを。
最期の記憶は、飛び散る紅い血。姉上と同じ、愛しき我が血。
あの世ですぐにあなたに会えると、そう思っていました。
そして今度こそ、二人で、二人だけの夢の中で眠りにつけると。それなのに……
 
 
~~~
 
 
許せなかった。王が、あの男が、あなたの柔肌に触れることが。
たとえそれが、あなたの私を想う心がさせたことであったとしても。
殺される瞬間、私は王に勝ったと思っていました。けれどそれは違いました。
あなたは彼への憎しみに捉われたまま、いつまで経っても私のところへは戻ってこない。
 
あなたは純粋すぎたのです。あなたは本当の私を知らない。
あなたが愛したのは、あの純朴で優しい片輪の弟……!
 
ああ、姉上! 
何もかもお話したい。全ては私が仕組んだことだったのだと。
あなたの死も、娘の不幸も、あの男の不実も、あなたの憎しみの源である私の死さえも……!
全ては、自らが望んだことであったのだと。
私はあなたに罰を乞う。
 
愛するあなた。
私の姉上。
口付け一つで命を落とした、哀れな私の……





ブログ初出2008/6/16
 


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生きて生きて生きて』国王サイド。

拍手[2回]


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おまえは今も、安らかな眠りを得てはいないのだろうか?

その細い首筋に刃が落とされ、もうどれくらいになるだろう?
あの娘は王籍を剥奪して辺境に追いやった。
あれから、何人もの女が私の横に並んでは消えていった。
何人もの子が生まれては、育つことなく幼い命を散らせていった。
人は皆、おまえの呪いなのだという。
おまえの呪いならば何故、真っ先に私に降りかからぬ?

頭に戴く重い冠に、冷たく固い玉座。
私には背負いきれない、けれど背負わなければならぬ全てのもの。

ぜんぶ、全部投げ捨ててしまいたかった。
慕われても、崇められても、世界の全てがそう望んでも……
此処にいるのが苦痛だった。おまえと、出会うまで。


~~~


「陛下」

暗い影を纏う眼差し。力なく微笑む顔。
その母によく似た、細く透きとおるような声が好きだった。

「あなたったら、いつも無愛想で可愛げがないわね。
我が家の娘たちは代々良いお家の殿方に見初められることで家に貢献してきたのですよ?
お姉様のように少しは笑顔ってものを作れないの?」

娘とは似ても似つかぬ艶やかな母親が、説教を垂れる姿を幾度か目にした。
おまえの母は、幼かった私を気まぐれに導いた初めての女(ひと)だった。
齢を重ね、その容貌に衰えを見せ始めた彼女は、己が長女を妃の侍女にと差し出した。
母親の面差しを持つその娘が、何を意図して私に近づいたかは明らかであり、
私はそれに応えた。
そうして、私の子を身籠った娘を隠れ家へと移したと同時に、
その妹であるおまえが城へとやってきた。

暗い色の髪、くすんだ色の瞳。
何もかもが美しい母や姉とは異なるその少女は、不思議と私を惹きつけた。
何を言っても笑わず、何をやっても驚かない。そんなおまえを、傍に置きたくなった。
いつもいつも隣にいて、もしいつか心から微笑む日がくれば、
その笑顔を一番最初に見たいと……。

おまえが何のために私を受け入れたのか、当時の私は知らなかった。
強引であったとも、挑発に乗せられたとも言えるかたちで、その関係は始まった。

共にいるためなら、どんなことでも厭わなかった。
道に叛き、臣に諌められ、民に謗られても構わない。
ただおまえがいるだけで、世界は色づき、肩に感じる重みは和らいだ。

娘が生まれて後、私はますます子供を欲するようになった。
王位を譲ることのできる男子を。
早々に退位し、穏やかな暮らしを送りたかった。おまえと、二人で……。

あの女に手をつけたのは、そんな焦りからだったのかもしれない。


~~~


「陛下、ご存知ありませんの……?」

最初に『呪い』に斃れた女から、閨の中で囁かれた噂。

「幾人もの殿方と関係を持っていらっしゃるそうですわよ。
何でも、実の弟君までお相手だとか……。城の皆が知っておりますわ」

「それは、まことか……?」

私の言に、女はゆっくりと頷いた。全てが真実ではない、と解っていた。
不貞の理由も、それが私自身とこの女のせいであることも、全て……、それなのに。

「あれを、処刑する」

私の宣言に、女は薄気味の悪い笑みを浮かべて腕に絡みついてきた。
その手を乱暴に振り払い、立ち上がる。ねっとりと汗に湿った女の肌よりも、
何度も触れた冷たく白いおまえの肌が、堪らなく恋しかった。


~~~


逆光の中寄り添う姉弟に、この世で一番美しいものを眺めているような錯覚を覚えた。
そしてすぐに、そう感じた自分自身を消してしまいたくなった。
お前を処刑した真の理由は、その光景が忘れられなかったから。
醜い理由。言い訳にすらならぬ、恐ろしい理由。

私がおまえの一番になることは未来永劫ないのだと知ってしまったあの日、あの光景。
それが脳裏から離れない私に、あの女の言が最後の引き金を引いた。

だから、私はあの男を殺した。誰よりも先に探し出し、その喉元を掻き切った。
おまえの憎しみも、恨みも、全てが降りかかることを承知で。

あの男は、おまえにとってそれほど大切な存在(もの)だったのだろうか?
おまえの処刑より前に首を切られた、あの哀れな弟は。


~~~


これが『呪い』だと言うのなら、間もなく成就を迎えるだろう。私自身の、死をもって。
そしてその後この国は、生き残った唯一の我が子であるあの娘が女王として
統べることになるのだろう。庶子の即位は平易なものとはいかない。
不幸な生い立ちを背負ったあの娘に、これから一層の受難が待ち受けることは
目に見えている。

おまえの死も、娘の不幸も、沢山の妃たちも、何も望んではいなかった。
望んだのはたった一つ。おまえを、おまえだけを、心の底から愛しみたかった。
おまえに、愛してほしかった!

愛するおまえ。
裏切り者の妃。
口付け一つで命を落とした、哀れな私の……
 





ブログ初出2008/5/30

後書き
  弟サイド『Punish Punish Punish』


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当初のモチーフはアン・ブーリン。※近親間の恋愛要素あり

拍手[1回]


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おまえは今、どこにいるの?

この薄暗い塔のてっぺんに閉じ込められて、もうどれくらいになるかしら?
あの娘は泣いていないかしら?
お姉様とその子どもはどこに消えたのかしら?
あの女はもう堂々と王の隣に侍っているのかしら?

自由を縛る錆び付いた鎖に、埃にまみれた黴臭い寝台。
それだけが、今私が持ちうる全て。

ぜんぶ、全部おまえのためだった。
憎まれても、蔑まれても、世界の全てが敵となっても……
おまえがいたから、私は此処にいた。

処刑は明日だと告げられた。それでも良い。
あの女が幸せになっても、私の娘が不幸になっても。
ただ、おまえが生きていてくれるなら。
 

~~~
 

「姉上」

控えめに呼びかける声、少しぎこちない笑顔。
父と同じはしばみ色の瞳が映し出す、穏やかな優しさが好きだった。

「また、叔父さまに嫌味を言われて何も言い返せなかったの?
ひいおじいさまやおじいさまが頑張ってこられたおかげで、今があるのですよ。
折角ここまで来たのに……あなたは気弱過ぎて、我が家を潰してしまうわ」

弟とは正反対の華やかで気の強い姉が、小言を言うのはいつものこと。

そう、本来ここにいたのは姉だった。
王の求める母と良く似た容姿を持つ、あの美しい姉……!
王の子を身篭った姉の代わりに、王妃に仕えたことは幸運だったのか、
それとも不運であったのだろうか?
王に近づけば、望むものが手に入る。母のように、姉のように、王妃のように……。

生まれつき視力の弱い弟。
不具の彼が、一族の跡取りとして遇されることへの風当たりは強かった。
はしばみ色は己を取り巻く冷たい空気に怯え、杖を片手に邸に引きこもってばかりいた。
話し相手と言えば私だけ。いつも二人きり、此処と同じように、薄暗い部屋で。
父も母も溜め息混じりに彼を見詰め、
水面下で従弟を養子に迎える話が進んでいるとの噂が広まっていた。

弟を、誰にも文句を言われない存在にしたかった。
私が王を誘惑したのか、王が私をかどわかしたのか分からぬまま、その関係は始まった。

王は子どもを欲していた。国を継ぐことの出来る男の子を。
王妃の持たぬその子を生まねば、私は今の地位を追われる。そして、弟も……。

あの男と手を結んだのはそのためだった。
 

~~~


「姉上、もうおやめください……」

はしばみ色が哀しみに揺らぎ、私を射る。

「私は姉上に、犠牲になってほしくはないのです。お願いです。
私はこれ以上何も望みません。お優しかった以前の姉上に、どうかお戻り下さい……」

「弟よ……」

以前の私。
万事控えめに楚々として、部屋の端に縮こまって立ちすくんでいたあの田舎娘……!

「もう、戻れませぬ」

私の囁きに、弟はその瞳から黄金(こがね)の雫を溢し、私の身体を抱きしめた。
懐かしい、その温もり。たった一度、かすめた唇の潮の香りが、堪らなく愛しかった。
よもやそれを、見ている者があるとは思わずに……。
 

~~~
 

姦通、しかも近親姦の罪に問われた女が、王の傍に在り続けることは不可能だった。
己に害が及ぶことを恐れたあの男は、既に国を後にした。
残りの三人は、冤罪で共に裁きを受けることとなる。
そして、私の愛しい弟は……逃げ延びてくれたのだと、そう信じなければ死んでいけない。

結局娘の父親は、誰なのかは分からない。王であるのか、あの男であるのか……
この世で最も愛しい男の子を生むことが叶わぬ身なれば、最早どちらだって構わない。
父に母を殺される哀れな娘! 
これから私生児としてたった一人で生きねばならぬ哀れな娘!
許せとは言わない。ただ一つ、母の愚かな想いを伝えたい。

弟よ。ああ、弟よ!
もしも死んでしまったなら、もしも殺されてしまったなら。私はこの国を許さない。
あの女を許さない。王を、王の子を、王の子を生む女を許さない。
王がどこで何人女を抱こうが、そのため私が邪魔になろうが、
私が処刑されようが、そんなことはどうだって良い。
望みの果ての代償として、どんなものでも贖おう。

ただ一つだけ、一つだけ……おまえの命だけは。未来永劫渡しはしない。

愛するおまえ。
私の弟。
口付け一つで国を追われた、哀れな私の……





ブログ初出2008/5/9

後書き
  国王サイド『Love Love Love』
  弟サイド『Punish Punish Punish』
 


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