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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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童話の悪役モチーフSSS集。その2。

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私は平凡な中流階級の家に生まれた。
平凡な顔に平凡な身体つき、特に気が利いたわけでもない、平凡な受け答え。
そんな私が平凡ではなくなったのは、金持ちの商人であった彼と出会った時からだった。
 
『お嬢さん、林檎を落としましたよ!』
 
買い物からの帰り道、私にそう声をかけてくれた身なりの良い青年に、私の心はざわめいた。
 
『まぁ! どうもありがとうございます』
 
林檎を受け取った私に、彼はくすくすと笑い出し、遂に堪えきれないというように声を上げた。
 
『ああおかしい! 今どき何て純粋なお嬢さんだろう!
あなたは今日、林檎をどこで買ったというのです?
これは私が最初から持っていた林檎です。
私はあなたを“引っかけた”のですよ、お嬢さん』
 
そう微笑んだ彼の顔が、余りにも優しそうだったから。
私は騙されたことへの憤りも忘れ、あっという間に恋に落ちた。
そうして、幸せのうちに彼に嫁ぎ、二人の可愛い娘にも恵まれた頃。
客として夫の店に出入りしていた、とある貴族と知り合った。
 
『お願いだ、もう少し金を貸してくれないか?』
 
『そうは言っても、あなた様は既にこんなにも未払いのお金が……』
 
その貴族は夫に莫大な額の借金をしていた。
貴族というのはとかく金というものが入用な身分である。
彼の夫人は世間知らずで病弱な身体、そして明日をも知れぬ命だ、
と聞いたのはいつのことだっただろう。
夫人が亡くなり、その葬儀に出席したことをきっかけに、
私は彼と頻繁に会話を交わすようになった。
 
『最近随分あのお方と親しいようだけど、よく気を付けた方がいい。
特にご夫人を亡くされてからは、借金もかさんでいるし、危険な目をしているからね』
 
そう夫が私に忠告して数日後、彼は帰らぬ人となった。
突然の事故。馬車が橋の上で横転し、真冬の川に投げ出されるとは!
葬儀の場には、あの貴族も訪れていた。
私と二言三言言葉を交わし、痛ましげな表情(かお)で別れを告げた彼の真の姿を、
私は屋敷の裏庭で見つけた。
 
『ご苦労だったな。後は遺産を手に入れた奥方のお心次第だ』
 
『そんなこと、相手が貴族様となりゃあ、もう決まったも同然ですぜ』
 
下卑た声音で会話を交わす、我が家の馬丁と男の会話。
私は夫の死が仕組まれたものであったことを知った。
何てこと! 何たること! 私の夫が、愛する人が、お金のためだけに!
憎しみが身を焦がし、激しい怒りが胸に宿った。
それから間もなく、彼から結婚を申し込まれた私はそれを受けた。
全ては、復讐のために。
 
私はまず、新しい夫となった仇の男に毒を盛って殺した。
そうして男が何より可愛がっていた娘に、辛い仕打ちを施した。
娘は父親と同じ瞳の色をしていた。私はそれが何より憎かった。許せなかった。
だから……
 
私は後悔していない。
しているとすれば唯一、何も知らずに義理の妹を甚振り続けた
愛する娘たちだけに、心からの懺悔と真実を告げたいと思う。
愚かな母親のせいで、これから一生奴隷のように召し使われる哀れな可愛い娘たち!
そうでなければ、一体誰が解ってくれよう?
夫の悲劇も、あの男の罪も、私の苦しみも!





眠り姫の魔女

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私は平凡な中流階級の家に生まれた。
平凡な顔に平凡な身体つき、特に気が利いたわけでもない、平凡な受け答え。
そんな私が平凡ではなくなったのは、金持ちの商人であった彼と出会った時からだった。
 
『お嬢さん、林檎を落としましたよ!』
 
買い物からの帰り道、私にそう声をかけてくれた身なりの良い青年に、私の心はざわめいた。
 
『まぁ! どうもありがとうございます』
 
林檎を受け取った私に、彼はくすくすと笑い出し、遂に堪えきれないというように声を上げた。
 
『ああおかしい! 今どき何て純粋なお嬢さんだろう!
あなたは今日、林檎をどこで買ったというのです?
これは私が最初から持っていた林檎です。
私はあなたを“引っかけた”のですよ、お嬢さん』
 
そう微笑んだ彼の顔が、余りにも優しそうだったから。
私は騙されたことへの憤りも忘れ、あっという間に恋に落ちた。
そうして、幸せのうちに彼に嫁ぎ、二人の可愛い娘にも恵まれた頃。
客として夫の店に出入りしていた、とある貴族と知り合った。
 
『お願いだ、もう少し金を貸してくれないか?』
 
『そうは言っても、あなた様は既にこんなにも未払いのお金が……』
 
その貴族は夫に莫大な額の借金をしていた。
貴族というのはとかく金というものが入用な身分である。
彼の夫人は世間知らずで病弱な身体、そして明日をも知れぬ命だ、
と聞いたのはいつのことだっただろう。
夫人が亡くなり、その葬儀に出席したことをきっかけに、
私は彼と頻繁に会話を交わすようになった。
 
『最近随分あのお方と親しいようだけど、よく気を付けた方がいい。
特にご夫人を亡くされてからは、借金もかさんでいるし、危険な目をしているからね』
 
そう夫が私に忠告して数日後、彼は帰らぬ人となった。
突然の事故。馬車が橋の上で横転し、真冬の川に投げ出されるとは!
葬儀の場には、あの貴族も訪れていた。
私と二言三言言葉を交わし、痛ましげな表情(かお)で別れを告げた彼の真の姿を、
私は屋敷の裏庭で見つけた。
 
『ご苦労だったな。後は遺産を手に入れた奥方のお心次第だ』
 
『そんなこと、相手が貴族様となりゃあ、もう決まったも同然ですぜ』
 
下卑た声音で会話を交わす、我が家の馬丁と男の会話。
私は夫の死が仕組まれたものであったことを知った。
何てこと! 何たること! 私の夫が、愛する人が、お金のためだけに!
憎しみが身を焦がし、激しい怒りが胸に宿った。
それから間もなく、彼から結婚を申し込まれた私はそれを受けた。
全ては、復讐のために。
 
私はまず、新しい夫となった仇の男に毒を盛って殺した。
そうして男が何より可愛がっていた娘に、辛い仕打ちを施した。
娘は父親と同じ瞳の色をしていた。私はそれが何より憎かった。許せなかった。
だから……
 
私は後悔していない。
しているとすれば唯一、何も知らずに義理の妹を甚振り続けた
愛する娘たちだけに、心からの懺悔と真実を告げたいと思う。
愚かな母親のせいで、これから一生奴隷のように召し使われる哀れな可愛い娘たち!
そうでなければ、一体誰が解ってくれよう?
夫の悲劇も、あの男の罪も、私の苦しみも!





眠り姫の魔女

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