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風の町に生まれたセイと、空の国に生まれたアメは二歳違いの従兄妹同士であった。
二人の父にあたるキリとウンは仲の良い双子の兄弟であったので、
離れたところに住んでいても二人は幼いころより頻繁に顔を合わせていた。
ところが、二人の仲は極めて悪かった。
あけっぴろげで大雑把な性格のセイと、大人しく繊細なアメ。
正反対の気性と、二人の祖父母より贈られた雪の結晶の存在が、彼らの仲をこじらせていた。
「アメ、早くおまえの結晶を寄こせよ! それで俺の腕輪を作るんだから!」
「嫌よ、セイ。あんたこそ、その雪の結晶を寄こしなさいよ!
あたしはそれで耳飾りを作れるわ!」
それぞれの家に贈られた雪の結晶を取り合って、二人はいつも喧嘩をした。
幼いころから、年ごろを迎えてもそれは全く変わることは無かった。
そんなある日のことだった。
~~~
「アメ、僕と結婚してくれないか? 僕は将来この空の国を治めることになっている。
君のようにしっかりした人に、傍にいてほしいんだ」
空の国の伯父の元を訪れたセイは偶然、アメが求婚されている現場に出くわした。
アメに求婚していたのは、空の王子であるヨウだった。
セイはその光景に、ふつふつと滾るような苛立ちを感じた。
「…………」
黙り込むアメに、ヨウは微笑んで
「返事は急がないから、考えてみてほしい」
と告げて去っていった。俯いて何かを考え込むアメの横顔に、
隠れていたセイは何とも言えぬ焦りを感じ、思わず茂みから飛び出した。
「セイ!?」
驚いてこちらを見るアメに、セイが吐き出せたのはいつものような憎まれ口だけたった。
「フン、わざと見たんじゃないからな。たまたま通りかかったら、聞こえちまっただけだ。
良かったじゃないか、いずれは空の国のお妃様なんて。
まぁ、俺も風の町の長を継がないか、って今の町長様から打診されているけどな」
「覗き見するなんて酷いわ!
私、まだヨウと結婚するって決めたわけじゃないのに……!」
そのとき、気丈なアメの瞳からポロポロと透明な雫が滴った。
その雫は雲を突き抜け、空の下の地上へと降り注ぐ。
初めて見るアメの涙にセイは慌て、何とか言葉を紡ごうとしたが、
乾いた唇からは何の音も出てこなかった。
アメはそのまま踵を返して走り去り、セイが風の町へと帰った後も、
地上にはしばらくアメの涙が降り続けていた。
~~~
「セイったら、アメに今度は何をしたの? 随分長いようだけど」
空から水の雫が降り始めて十日目、
心配そうに問うてきた母・フウの言葉に、セイは憮然として
「別にどうもしない。
アメが空の王子に結婚を申し込まれていたから、お祝いを言っただけだ」
と答えた。フウは息子の返事に驚いて思わず大声を上げた。
「まぁ! あなた、アメが空の王子と結婚してもいいのって言うの!?」
セイが首を傾げて母を見ると、彼女は苦笑して息子の頬を撫でた。
「あなたはどうして自分の雪の結晶を持っているのに、アメの雪の結晶を欲しいと思ったの?
アメだって、自分の分の結晶があるのに、あなたの結晶を欲しがったのは何故かしら?
腕輪や耳飾りは“建前”に過ぎないわ。セイ、もう一度よく考えてごらんなさい」
優しい母の言葉に、セイが普段は深く悩ますことのない頭を悩ませて丸一日。
ようやく出た答えに、彼は急いで空の国へと赴いた。
~~~
「アメ!」
暗雲が垂れこめる空の国では、アメとヨウの結婚の準備が着々と進んでいた。
アメがヨウに求婚されたことは空の国の民皆が知っていたし、
空の王子であるヨウの求婚を断る娘などいるはずがないと、空の民は信じていた。
花嫁衣装を前にしたアメの元に突然現れたセイに、アメは目を見開いて彼を見た。
「セイ! どうしてここに!?」
セイの予想通り、アメの頬からはキラキラと輝く透明な雫が滴り続けていた。
それをセイは初めて、雪の結晶よりも綺麗だと思った。
「空の王妃になるのはやめろ! 俺と一緒に行こう!
俺の雪の結晶をおまえにやるから……おまえの結晶を、俺にくれ」
セイの必死な叫びに、アメは十一日ぶりの笑顔を見せた。
「それならセイ、水の里のおじい様とおばあ様にお願いして、結晶を指輪にしてもらいましょう。
そうして、お互いの薬指に嵌めるのよ!」
可愛らしいアメの答えにセイは自ずから笑みがこぼれ、
二人は手を取り合って空の国を旅立った。
その日、天から地へと降り続けた雨はようやく止み、晴れ渡った空には
二人の未来を祝福するように大きな大きな虹の橋がかかっていた。
~~~
それから、一年の月日が経った。セイとアメは様々な土地を転々とし、
火の社と水の里の狭間の地にようやく腰を据えた。
「セイ、お腹の子の名前は決まったの?」
膨らんだ腹を撫でつつ問うた妻の一言に、セイは笑顔で答えた。
「ああ、“コウ”にしようかと思ってる」
「“コウ”だなんて! それは不吉な火の神の名前でしょう?
私たちもその血を引いていることになるけれど……」
眉根を寄せたアメに、セイは頭(かぶり)を振ってこう告げた。
「いいや、違う。コウは架け橋。火と水を繋ぐように、天と地を繋ぐように、
美しく大きな七色の虹の“コウ”だよ、アメ」
「“コウ”……虹……」
アメが空を見上げると、そこにはアメがセイの手を取り
空の国を出たあの日と同じように、大きな虹がかかっていた。
虹の袂には火の社。虹の果てには水の里。
どちらも、火の神の末である自分たちを快く歓迎してくれた。
昔はいがみ合っていた両者の間でも、近頃では祖父母の尽力もあってか
ポツポツと小さな交流が生まれ始めていると聞く。
「素敵な名前ね、セイ」
アメは微笑んだ。
腹の中の子も、母の内でまるで己が名を誇っているかのように大きく跳ねた。
→シリーズ完結編『紅と蓮』
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風の町に生まれたセイと、空の国に生まれたアメは二歳違いの従兄妹同士であった。
二人の父にあたるキリとウンは仲の良い双子の兄弟であったので、
離れたところに住んでいても二人は幼いころより頻繁に顔を合わせていた。
ところが、二人の仲は極めて悪かった。
あけっぴろげで大雑把な性格のセイと、大人しく繊細なアメ。
正反対の気性と、二人の祖父母より贈られた雪の結晶の存在が、彼らの仲をこじらせていた。
「アメ、早くおまえの結晶を寄こせよ! それで俺の腕輪を作るんだから!」
「嫌よ、セイ。あんたこそ、その雪の結晶を寄こしなさいよ!
あたしはそれで耳飾りを作れるわ!」
それぞれの家に贈られた雪の結晶を取り合って、二人はいつも喧嘩をした。
幼いころから、年ごろを迎えてもそれは全く変わることは無かった。
そんなある日のことだった。
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「アメ、僕と結婚してくれないか? 僕は将来この空の国を治めることになっている。
君のようにしっかりした人に、傍にいてほしいんだ」
空の国の伯父の元を訪れたセイは偶然、アメが求婚されている現場に出くわした。
アメに求婚していたのは、空の王子であるヨウだった。
セイはその光景に、ふつふつと滾るような苛立ちを感じた。
「…………」
黙り込むアメに、ヨウは微笑んで
「返事は急がないから、考えてみてほしい」
と告げて去っていった。俯いて何かを考え込むアメの横顔に、
隠れていたセイは何とも言えぬ焦りを感じ、思わず茂みから飛び出した。
「セイ!?」
驚いてこちらを見るアメに、セイが吐き出せたのはいつものような憎まれ口だけたった。
「フン、わざと見たんじゃないからな。たまたま通りかかったら、聞こえちまっただけだ。
良かったじゃないか、いずれは空の国のお妃様なんて。
まぁ、俺も風の町の長を継がないか、って今の町長様から打診されているけどな」
「覗き見するなんて酷いわ!
私、まだヨウと結婚するって決めたわけじゃないのに……!」
そのとき、気丈なアメの瞳からポロポロと透明な雫が滴った。
その雫は雲を突き抜け、空の下の地上へと降り注ぐ。
初めて見るアメの涙にセイは慌て、何とか言葉を紡ごうとしたが、
乾いた唇からは何の音も出てこなかった。
アメはそのまま踵を返して走り去り、セイが風の町へと帰った後も、
地上にはしばらくアメの涙が降り続けていた。
~~~
「セイったら、アメに今度は何をしたの? 随分長いようだけど」
空から水の雫が降り始めて十日目、
心配そうに問うてきた母・フウの言葉に、セイは憮然として
「別にどうもしない。
アメが空の王子に結婚を申し込まれていたから、お祝いを言っただけだ」
と答えた。フウは息子の返事に驚いて思わず大声を上げた。
「まぁ! あなた、アメが空の王子と結婚してもいいのって言うの!?」
セイが首を傾げて母を見ると、彼女は苦笑して息子の頬を撫でた。
「あなたはどうして自分の雪の結晶を持っているのに、アメの雪の結晶を欲しいと思ったの?
アメだって、自分の分の結晶があるのに、あなたの結晶を欲しがったのは何故かしら?
腕輪や耳飾りは“建前”に過ぎないわ。セイ、もう一度よく考えてごらんなさい」
優しい母の言葉に、セイが普段は深く悩ますことのない頭を悩ませて丸一日。
ようやく出た答えに、彼は急いで空の国へと赴いた。
~~~
「アメ!」
暗雲が垂れこめる空の国では、アメとヨウの結婚の準備が着々と進んでいた。
アメがヨウに求婚されたことは空の国の民皆が知っていたし、
空の王子であるヨウの求婚を断る娘などいるはずがないと、空の民は信じていた。
花嫁衣装を前にしたアメの元に突然現れたセイに、アメは目を見開いて彼を見た。
「セイ! どうしてここに!?」
セイの予想通り、アメの頬からはキラキラと輝く透明な雫が滴り続けていた。
それをセイは初めて、雪の結晶よりも綺麗だと思った。
「空の王妃になるのはやめろ! 俺と一緒に行こう!
俺の雪の結晶をおまえにやるから……おまえの結晶を、俺にくれ」
セイの必死な叫びに、アメは十一日ぶりの笑顔を見せた。
「それならセイ、水の里のおじい様とおばあ様にお願いして、結晶を指輪にしてもらいましょう。
そうして、お互いの薬指に嵌めるのよ!」
可愛らしいアメの答えにセイは自ずから笑みがこぼれ、
二人は手を取り合って空の国を旅立った。
その日、天から地へと降り続けた雨はようやく止み、晴れ渡った空には
二人の未来を祝福するように大きな大きな虹の橋がかかっていた。
~~~
それから、一年の月日が経った。セイとアメは様々な土地を転々とし、
火の社と水の里の狭間の地にようやく腰を据えた。
「セイ、お腹の子の名前は決まったの?」
膨らんだ腹を撫でつつ問うた妻の一言に、セイは笑顔で答えた。
「ああ、“コウ”にしようかと思ってる」
「“コウ”だなんて! それは不吉な火の神の名前でしょう?
私たちもその血を引いていることになるけれど……」
眉根を寄せたアメに、セイは頭(かぶり)を振ってこう告げた。
「いいや、違う。コウは架け橋。火と水を繋ぐように、天と地を繋ぐように、
美しく大きな七色の虹の“コウ”だよ、アメ」
「“コウ”……虹……」
アメが空を見上げると、そこにはアメがセイの手を取り
空の国を出たあの日と同じように、大きな虹がかかっていた。
虹の袂には火の社。虹の果てには水の里。
どちらも、火の神の末である自分たちを快く歓迎してくれた。
昔はいがみ合っていた両者の間でも、近頃では祖父母の尽力もあってか
ポツポツと小さな交流が生まれ始めていると聞く。
「素敵な名前ね、セイ」
アメは微笑んだ。
腹の中の子も、母の内でまるで己が名を誇っているかのように大きく跳ねた。
→シリーズ完結編『紅と蓮』