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SSS。『源氏物語』の紫の上と少納言がモチーフ。
源氏と結ばれた後です。
源氏と結ばれた後です。
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「かごのとり、みたいなものかしら?」
「は?」
籠の中の小鳥のくちばしに指先を遊ばせながら主が呟いた言葉に、
少納言は戸惑いを露わに答えを返した。
少納言は戸惑いを露わに答えを返した。
彼女の主……紫の上は、『当代一の貴公子』と呼ばれる
光源氏の君の最愛の妻として遇されている。
光源氏の君の最愛の妻として遇されている。
「沢山の殿方と比べて『あの方が一番』と褒めたたえる他の女人方と違って、
一も二もなくあの方しか知らないわたくしは」
一も二もなくあの方しか知らないわたくしは」
一心に小鳥を見つめる主の瞳に、無邪気以外の表情は何も浮かんでいない。
少納言は知らない。
否、少納言だけではなく源氏にも、誰にも紫の上の心の内はわからない。
否、少納言だけではなく源氏にも、誰にも紫の上の心の内はわからない。
「あの方を手にして、あの方を手放すことを恐れておいでの方は
星の数ほどいらっしゃるでしょう。それでもきっとわたくしほど、
あの方に手放されることを怖れている女はいない。そうでしょう? 少納言」
星の数ほどいらっしゃるでしょう。それでもきっとわたくしほど、
あの方に手放されることを怖れている女はいない。そうでしょう? 少納言」
小鳥を指の先に乗せた紫の上の笑みに、
少納言は今にも泣き出しそうな気持ちに駆られた。
少納言は今にも泣き出しそうな気持ちに駆られた。
「さあ、お行き。外の世界を眺めておいで」
手の上の小鳥を、紫の上は空に放つ。
「上様!」
雛の頃から、少女の頃から、彼女が如何にあの小鳥を可愛がっていたか。
少納言の叫びに、紫の上は困ったように微笑んだ。
「大丈夫よ、少納言。少し見ていてごらんなさい」
小鳥は庭を飛び回り、嬉しそうにさえずった。そうして結局、二人の目の届かぬ
塀の外には出ることのないまま、再び紫の上の手の中に戻ってきた。
塀の外には出ることのないまま、再び紫の上の手の中に戻ってきた。
「ほら、言った通りでしょう? かごのとりは、知っているのよ。
かごを出てしまったら決して生きてはいけないことを」
たとえ、本当に捕まえたかった鳥の“代わり”として囲われている身だったとしても――
かごを出てしまったら決して生きてはいけないことを」
たとえ、本当に捕まえたかった鳥の“代わり”として囲われている身だったとしても――
紫の上の少しだけ潤みを帯びた瞳が物語るその言葉に、
少納言は返事を返すことができなかった。
少納言は返事を返すことができなかった。
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「かごのとり、みたいなものかしら?」
「は?」
籠の中の小鳥のくちばしに指先を遊ばせながら主が呟いた言葉に、
少納言は戸惑いを露わに答えを返した。
少納言は戸惑いを露わに答えを返した。
彼女の主……紫の上は、『当代一の貴公子』と呼ばれる
光源氏の君の最愛の妻として遇されている。
光源氏の君の最愛の妻として遇されている。
「沢山の殿方と比べて『あの方が一番』と褒めたたえる他の女人方と違って、
一も二もなくあの方しか知らないわたくしは」
一も二もなくあの方しか知らないわたくしは」
一心に小鳥を見つめる主の瞳に、無邪気以外の表情は何も浮かんでいない。
少納言は知らない。
否、少納言だけではなく源氏にも、誰にも紫の上の心の内はわからない。
否、少納言だけではなく源氏にも、誰にも紫の上の心の内はわからない。
「あの方を手にして、あの方を手放すことを恐れておいでの方は
星の数ほどいらっしゃるでしょう。それでもきっとわたくしほど、
あの方に手放されることを怖れている女はいない。そうでしょう? 少納言」
星の数ほどいらっしゃるでしょう。それでもきっとわたくしほど、
あの方に手放されることを怖れている女はいない。そうでしょう? 少納言」
小鳥を指の先に乗せた紫の上の笑みに、
少納言は今にも泣き出しそうな気持ちに駆られた。
少納言は今にも泣き出しそうな気持ちに駆られた。
「さあ、お行き。外の世界を眺めておいで」
手の上の小鳥を、紫の上は空に放つ。
「上様!」
雛の頃から、少女の頃から、彼女が如何にあの小鳥を可愛がっていたか。
少納言の叫びに、紫の上は困ったように微笑んだ。
「大丈夫よ、少納言。少し見ていてごらんなさい」
小鳥は庭を飛び回り、嬉しそうにさえずった。そうして結局、二人の目の届かぬ
塀の外には出ることのないまま、再び紫の上の手の中に戻ってきた。
塀の外には出ることのないまま、再び紫の上の手の中に戻ってきた。
「ほら、言った通りでしょう? かごのとりは、知っているのよ。
かごを出てしまったら決して生きてはいけないことを」
たとえ、本当に捕まえたかった鳥の“代わり”として囲われている身だったとしても――
かごを出てしまったら決して生きてはいけないことを」
たとえ、本当に捕まえたかった鳥の“代わり”として囲われている身だったとしても――
紫の上の少しだけ潤みを帯びた瞳が物語るその言葉に、
少納言は返事を返すことができなかった。
少納言は返事を返すことができなかった。
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