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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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今日のリスト追加物件→①『楢山節考』3.11の福島で「まるで平成の姥捨て山」とおっしゃってる被災者の方の話を聞いて、ふと「アレ映画観ただけで本読んでなくね?」と気づいたから。『西部戦線~』と同じ理由ですね。②『斜陽』コレも某番組でフィ○ランド高校生が読んだって言ってたから。(どんだけ張り合ってんの?^^)いくら一族や人間性がアレだとしても芸術家なんて大体がそうだし、読まずに批判はできないよなぁ、と手ぇ出すことに。ブクオフの百円コーナーにあると良いんだけど(´・ω・`)

あと昨日の『KANO』の件で考えたことは、日.本はアメ○カとの諸々についてこんな映画・フィクションはとてもじゃないが作れないだろうな、って。どう描いても批判が来るからなのかもしれないけど、「大日○帝国の支配地域」を舞台にした作品も作れていなければ、戦後の占領期から現代に到るまでの生々しい外国との交わりを、相手の視点も含めて表現したような作品を少なくとも私は知らない。「支配・あるいは干渉や侵略を受けた側」によって『クーカム』や『KANO』のような映画が作られヒットする、ということ自体が日/本人の感覚からすれば正直信じられないし、差別的かもしれないけどそういう歴史すら萌え変換しないといけないような立場に留まらなくて良かった、・・・ぶっちゃけギリ列強(先進国)滑り込みセーフできて良かった、と思ってしまった。いくら米.軍基地があってカップルが多くても、「そっちの側」には行きたくない、というギリギリのプライドというか優劣の意識が存在してしまっているのかも。その点はアジア主義とか言ってる癖に本当に申し訳なく感じるm(__)m
それだけじゃなしに、『太陽』・『終戦のエンペラー』のような、支配された側というよりも戦った側から見た相手の視点を、決してネガティヴオンリーではなく中立的な要素も加えて描くような話も作れてないな、って。彼らは戦勝国でウチらは敗戦国だからかもしれないけれど、例えば原.爆という大きなテーマ一つにしても、何故彼らは開発し落とすことを決めたのか、その後の向こうで起きた科学者たちの葛藤や、悲劇として捉えてくれた人々の存在、世界がどんだけビビッて焦ったか、という視点がすっぽり抜け落ちて、自分たちだけの内に籠った物語になってしまっている。零/戦や特/攻系もそうですよ。相手方の視点が抜けている。どれほどの恐怖を抱かせ狂気に映ったのか、そして後のテ○リストたちにどんな影響を与えてしまったのか。政治的に難しい立ち位置や事情もあるんだろうけど、結局うちらは自分たちの視点でしかものを見れない島国民で、そこが一番のウィークポイントであると同時に強みでもあったのかな、と。ネット社会でこのガラパゴス価値観がどこまでバレずに存続して、あるいは外の見方を逆に取り込んで変えることができるようになるのかはわかりませんが、ちょっと注目して考えないといけない点かもなー、とか思った。

で、以下タイトル通りの感想。

何か一言で、す さ ま じ か っ た・・・!Σ( ̄□ ̄;)ノーベ○賞候補にできなかったわけも納得。これほど「ハッキリしない複雑な構成とスッキリしない煙に巻いた結末」に安堵する小説が他にあるだろうか?いや、ない。(反語ktkr。笑)あー、良かった綺麗なオチがつかなくて!って読み終えるのビクビクぐすぐず渋っていた身としては歓喜ヽ(´▽`)/ワーイ これで安心して作家読みできるわ。すげぇ好みってか「狙う」気が全く無い、書きたいものをひたすら吐き出さずにはいられずに書き散らかすタイプの作家さん=つまり非常に好みだということが分かって一安心です☆世間受けや文壇の評価とか気にするタイプなら、アレもコレも全く別の方向にかっとんだあらすじの話ばっかり続けて書けないもんねぇ。

煩わしい外界の全てからシャットダウンされた狭い箱の中で解放され自由になる魂。ある意味で、狭い場所を好む子供と同じように母親のお腹の中の胎児に還る気持ちなのかもしれない。≪Aの場合≫最後の「匿名の市民だけのための匿名の都市のことを一度でも夢見たことのある者だったら、他人事ではない、つねにAと同じ危険にさらされているはずなのだ」という部分にまず力強く頷きました((´∀`)ウンウン 
≪安全装置を、とりあえず≫に出てくるのが一応「本物の」街で最も古い箱男らしく、彼がノートの著者ということに(この時点では)設定されている。この章で彼は懇切丁寧に「箱男」の実態について解説した上で、「自殺の意志はない」「浮浪者とは違う」という独特のプライドもまた垣間見せる。「心の方向感覚の麻痺」を持病とする箱男にとって、箱はどこか別の世界への出口、というのがラストへと繋がるフラグだったのかと思うと(((゜Д゜;)))gkbr 「存在しないも同様の天性の殺され屋」うっわー、箱女になりたい気持ちが増すばかり、と感じる自分はまだ病んでる最中なんだなー、と嗤いつつ、元カメラマンの彼が撮影したということになっている(と思われる)四枚目の家族?が映った写真の注釈「見ることには愛があるが、見られることには憎悪がある。見られる傷みに耐えようとして、人は歯をむくのだ。しかし誰もが見るだけの人間になるわけにはいかない。見られた者が見返せば、こんどは見ていた者が、見られる側にまわってしまうのだ。」これほど共感できる文章があるだろうか。どんなに「自意識過剰」と言われても、怖いんですよ人の視線が!自分がすごく観察してしまってソレを好む性質な分、余計にな!我ながら面倒くさいしキモい自覚はあるんですけど(-_-;)
その≪写真についての補足説明≫で方向だけじゃなく時間間隔の麻痺も箱男の持病の一つ、って何かコレも解るなぁ。ヒキってるとカレンダーいらないし、本とか動画さまよってると時間ものすごく経ってたりするもんね。空気銃で撃たれた箱男が狙撃者にむしろ新たな仲間誕生の予感を感じて親近感さえおぼえた、というのは『阿Q~』の精神勝利のやり方に近いように感じたかな(´・ω・`) 覗き・隠し撮りへの興味から遂に自分がいつでも“外”の世界を小さな箱の内側から覗く立場になれる箱男になってしまったという元カメラマンの心情・・・なるほどー、と思っちゃった(笑)
≪それから何度かぼくは居眠りをした≫貝殻草と夢の話。贋魚の、たとえようもない欠乏感。「どんな好奇心だって、けっきょく最後は、手で触って確かめてみるのでなければ本当の満足なんてありえない」声帯を持たぬ魚でありながら言葉を使って悩む二重感覚に、魚の墜落という不可思議な概念。死んだ魚でさえ海面に浮かび上がる中、贋魚が墜落するには逆墜落、死の危険が賭けられた、空気に溺れるという行為によって夢は醒めるはず、と綴る箱男。この辺の文章の比喩や表現がとっても綺麗で面白いです!「贋物であることに免疫になってしまったぼく」、「箱男はけっきょく箱男のままでいるしかないらしい」この辺はノートの著者が誰なのか改めて混乱させてくる仕掛けやなー(´Д`;)

≪約束の履行≫により現金を受け取り箱を捨てる羽目になった箱男だが、彼はヤドカリのように無理に引出されると千切れて死んでしまう、という弱さに同意@ダメ人間\(^O^)/ 「別の世界に脱皮する時にだけ箱を脱げる」「もっとも箱男という人間の蛹から、どんな生き物が這い出してくるのやら、ぼくにだってさっぱり分らない。」あー、うん、既に中身は空なんじゃないかな?私の例を見るに(笑)
≪鏡の中から≫箱の中から見る世界と普通の人間の目に映る景色の違いの表現に思わずハッとさせられた。基本的に足元しか見えない箱の中の視点では「あらゆる細部が均質になり、同格の意味を帯びる。」「遠近が定まらず、輪郭が曖昧」で自分と立場が似通っているからそんな風景が好きだ、と言う箱男。「箱から覗いているかぎり、どんな風景も見飽きることがない」というのはある意味真理なのかな、と思った。でもって遂に病院を訪ねた彼はお目当ての彼女と贋箱男とのある場面を目撃してしまう。「願望の幻」覗き趣味への自問と告白、「あらゆる場所を覗いてまわりたいが、かと言って、世間を穴だらけにするわけにもいけず、そこで思いついた携帯用の穴が箱だったのかもしれない。」うーん、深い><
「彼女」への執着をあらわに「贋箱男」への嫉妬を覚えながら「現実の裸に想像が追い付いたり出来るわけがない。見ている間だけしか存在してくれないから、見たいと思う欲望も切実になる。見るのをやめたとたんに、消えてしまうから。」からの「裸の所有権」話は納得と「んん?」って気持ちが混ざってちょっと複雑・・・(^ω^;) 贋箱男に向かって「そんなことを続けていると、いまに本当に出られなくなってしまうぞ。・・・彼女があんな取引(5万で箱を買うから脱いで捨てろ、という)を思いついたそもそもの狙いも……あいつをこんなふうに箱に閉じ込めてしまうことだったのかもしれないのだ。そして彼女も自由になる。ぼくもこれを機会に、箱と手を切ってみることにしたらどうだろう。」と希望的観測を勝手に並べ立てた挙句、結局箱を手放せずに「決心しさえすれば何時だってできること」「箱から出るだけなら、なんでもない。なんでもないから、無理に出ようとしないだけのことである。ただ、出来ることなら、誰かに手を貸してほしいと思うのだ。」恐らく恋慕が芽生えつつある「彼女」への想いを込めたフレーズなのだろうけど、すごく自分の心境にシンクロしてしまって。・゜・(ノД`)・゜・。自分へのごまかしや言い訳が利かなくなってきた時、どうすりゃ良いか分かんなくて、苦しくてひたすら友達や色んな人に嫌なこと何もかも吐き出してしまってきたこの数か月。一度「箱」に籠ったら、脱け出すのは本当に至難の業なんですよね。甘えに他ならないんだけどorz
次の≪挿入文≫によって明かされる前章の出来事についての衝撃の真相Σ(゜Д゜;) 次の章≪書いているぼくと 書かれているぼくとの~≫で再び箱男さん登場。「箱が移動するトンネルなら、裸の彼女はトンネルの出口に差し込む、まばゆい光。・・・この三年間、ぼくが待ちつづけていたのはたしかにこの機会だったように思う。」「いまさら箱に未練なんかあるものか。未練どころか、もううんざりである。出口あってのトンネルなのだ。」うーん、恋は人を変えるとは言うけど、ここまで来ると乖離性人格障害でも患ってらっしゃる?と思ってしまう域(笑)Bの残骸を見つけた時の彼の心情、「自分の(箱の)死を思い浮かべたことはなかった。時が来れば、水滴が蒸発するように、自然に消えてしまえるつもりでいた。しかしこれが現実なのだ。」それなんだよね、あの時もこの時も、結局ためらった理由は(;_;)とこの部分も大いに共感。「箱の死が、そのままBの肉体的な死だったとは限らない。・・・この箱の残骸は、蝶になって飛び立った蛹の殻かもしれないのだ。出来ればそう思いたかった。そうでも思わなければやりきれない。」この部分、まごうかたなき彼の本音なのだろう、と感じた(泣)所持品の単純化の話で「切り捨てにもおのずと限度がある。貯めるのにも苦労はあるが、捨てる努力はそれ以上だ。なにか自分の持物につかまっていないと、風に吹き飛ばされそうで不安なのだ。」この文章も非常に同意せざるを得ない。だから色々ガラクタみたいなものでも捨てられないし、自分の一部みたいになってしまった本とかは絶対処分できないんだよー><

で、病院を訪ねた箱男の語るニュース中毒のくだり「世界ってのは、沸きっぱなしの薬罐みたいなものなのさ。ちょっとでも眼を離している隙に、地球の形だって変りかねない。」まさに5年前、地球の裏側にいた人々にとってはその通りの出来事が起こったと言えるでしょうね。うちらは身を以て地軸がズレる揺れを体験したけど・・・。ニュースを聞かないと不安なのは臆病だから、「当人にとっちゃ深刻な話さ。ニュースを読んだり聞いたりするだけで、一日の大半がつぶれてしまうんだからな。自分で自分の意志の弱さに腹を立てながら、それでも泣く泣くラジオやテレビから離れられない。いくら漁りまわったところで、べつに事実に近付いた訳じゃないくらい百も承知していながら、やめられないんだ。ぼくに必要なのは、事実でも体験でもなく、きまり文句に要約されたニュースという形式だったのかもしれない。」ラジオやテレビ→ネットに変えたら、少し前の自分と丸きり同じ状況(´-`) 一つの出来事についてあらゆる視点から情報集めないと不安でした。自分の感想は合ってるのか、一義的な物の見方に囚われてしまってはいないか。あとヒキってるから純粋にそれで物事を知った気になれてた。実際の現場に行って見たいとか経験したいという気持ちは全くなくて、ただ頭の中に情報を蓄積して妄想の道具にしたかっただけ@最悪^^#ビキビキ そりゃせっかく歴史専攻行っても特に意味なかったわけだわ。
箱男さんの解毒剤は目の前で起きた見知らぬ男の突然死だった。(私の場合は父が倒れたことかな?もうすっかり元気だけど)絶対にニュースにはならないのに、当人にとっては最も大きな変化を引き起こす「死」。「自分も変化したけど、外の世界も変化しちゃって、もうこれ以上変化のしようがないんだ。どんな大ニュースも追いつけないほどの、大変化さ。」「人はただ安心するためにニュースを聞いているだけなんだ。どんな大ニュースを聞かされたところで、聞いている人間はまだちゃんと生きているわけだからな。本当の大ニュースは、世界の終りを告げる、最後のニュースだろう。もちろんそいつが聞けたら本望だよ。ひとりぼっちで世界を手放さなくてもすむんだからな。考えてみれば、ぼくが中毒にかかったのも、結局のところその最後の放送を聞きのがすまいとする焦りだったような気がする。しかし、ニュースが続いているかぎり、絶対に最後にはならないんだ。まだ最後ではありません、というお知らせなのさ。・・・でもあなたはまだなんとか生きてます(エンドレス)」これ凄く実感としてクるものがある。私が中毒に陥ったのは震災の後からだったもん。マジでヤバい状態の時、人はニュースというものを聞く手段が無い。聞けるだけ己の無事を実感し安堵する。「ニュースを聞かない人間に悪人はいない・・・ニュースを信じないということは、つまり変化を信じないという事だろう、ぼくもむりやりここに変化を持込んだりするつもりは無いということさ。」このセリフも解釈が難しいけどその通りかもしれない、と思わせる複雑な感想(-_-;)・・・正直まだ中毒から脱し切れてはいないので。

贋箱男との対峙で持ちかけられた「彼女」と箱に関する取引のやりとりで蘇る、幼い日の屈辱の記憶。暗い所でわざわざ小さな字の本や雑誌を読みふけるようになったのは「見ることからも、見られることからも、ただ逃げ出したかっただけ」という箱男さん(つД`) わかるよー!そこまで視力悪くないけど(笑)その後に続く「ぼくは自分の醜さをよく心得ている。・・・もっとも、醜いのはなにもぼくだけではなく、人間の九十九パーセントまでが出来損いなのだ。人類は毛を失ったから衣服を発明したのではなく、裸の醜さを自覚して衣服で隠そうとしたために、毛が退化してしまったのだ・・・それでも人々がなんとか他人の視線に耐えて生きていけるのは、人間の眼の不正確さと錯覚に期待するからなのだ。なるべく他人と見分けがつきにくいように工夫したり、こちらが露骨な視線を向けなければ向こうも遠慮してくれるだろうと、伏目がちな人生を送ることにもなる。・・・「覗き」という行為が侮りの眼をもって見られるのも、自分が覗かれる側に回りたくないからだろう」ここから箱男に到るまでの過程の吐露が、すべての人間に通じ得る根源的な感情、誰もが持っている狂気と理性の狭間をありありと表現している文章ではないか、と感じた。
註釈の露出狂のくだり、ここも後半部へのフラグ立てですね。過剰性欲ではなく抑制されすぎた性表現である場合が多い、と。異性に興味を抱きながら実在する個々の存在には病的な羞恥心を覚える余りそういった行為に走る。醜さの自覚、鏡に映した相手への視姦行為、と。ナルホド・・・?(このエピソードに関しては正直マジ勘弁、と感じた記憶しかないのでホント触れたくない)
しかし箱男は「彼女」に対して夢を抱き過ぎているような気がするな。「強力万能浄化装置」と「欲望解放装置」の二つを兼ね備えた女なんかいるわけねーだろ、都合良いな全く(^ω^#) とにかく“誰か”を、特に歪んだ性癖ゆえに孤独に身を浸してきた経歴の持ち主としてはその欲望を満たしてくれる存在を求めずにいられない気持ちはわかるけどさ。選択の責任を負いたくない、と語っていた彼女について贋箱男は「人間過信」と表現する。「なんでも衝動的にやってしまい、咎められると簡単にあやまる。あやまりさえすれば、どんな罪でも帳消しになると信じ込んでいるらしい」ふーむ。(・ω・)) 彼女の身体の魅力についての男たちの変態的(笑)やりとりに続く生物の求愛行動の話、だから自分は全力で苦手で受け入れられないのかな、と思った。「境界線を越えた侵入者への攻撃本能。人間の場合のラインは半径二メートル半くらいの位置。その至近距離では敵の正体を見破ろうにも、かえって見きわめにくい。役に立つのは、触角と嗅覚だけになる。」混んでる電車に乗ってるだけで痴漢いなくても気持ち悪くて堪らなくなるのもそのせいなんですかねぇ?(´-`)

この先一気に急展開、というか虚構(妄想)と現実が入り混じり、誰と誰が対話しているのか混乱させる構成に。誰がノートの著者なのか、という核心に迫る会話。時計に封をした「君」、金縛り状態の「彼女」、「実在している人物は一人だけ・・・このノートを書き続けている誰か……ぜんぶがその誰かの独り言にすぎない・・・必死に箱にしがみつづけるために、このまま永遠にでも書きつづける腹なんじゃないかな」そしてその「誰か」の言い訳じみたズボンへの執着。「文明社会というのは、一種のズボン社会」確かにそうかも、特に男の人の場合(・・;) 時間をかけて垢をこそげ落とした後の倦怠感、箱男として過ごした三年の間に「骨だけ残して、すっかり垢の塊りになってしまったのかもしれない・・・あと三年かけて骨までこそげたところで、垢は落ちっこない……」自分へのどうしようもない諦めと絶望の気持ちが切々と伝わってくる(´;ω;`)ブワッ
でもって会話相手のはずだった贋箱男?の正体が箱の落書だってー!?「定員一名かぎりの密室……誰にも覗けないのだから、真似のしようもない、顔の裏側・・・これがぼくの履歴書・・・必要なものは、なんでもここに揃っているんだ。」やっぱりちょっと箱男羨ましい@病み人間orz 時間軸が狂ってるよ、と指摘してくる「落書」に自分のノートなんだからどう書こうが勝手だろう、と返した男に、「このノートの筆者を、君だと決めてかかる必要なんかどこにもないんだ。君以外の誰かが筆者であっても、いっこうに差支えない」と空想のはずのキャラがまーた混乱させてきやがる(´Д`;) 想像、実在、空想、無実、実在、証明・・・ここまでの全ての出来事の境界線が曖昧に溶けて混ざり合い、錯綜し無意味なものであったかのようにすら感じさせる。「どういうつもりなの公房さーん!?」と頭掻きむしって叫び出したくなる場面ですね(笑)

でもって次の≪供述書≫でやっと贋箱男、と箱男が呼んでいた「医者」の真実が見えてくる。≪Cの場合≫を代弁してくれるのは、箱男の変死体として見つかったヤク中の軍医自身。そっくりなノートに、初っ端の≪ぼくの場合≫と同じ書き出し。ノートの筆者の正体はまたこれで藪の中。軍医自身による嘱託殺人の行動予定表を過去形で作る「君」。彼が「すでに見てしまった着弾地」を早く読みたいと願う軍医。「君は神経質すぎるよ。なぜもっと実際的になれないのだ。いくら力んでみたって、いずれ出来ることしかできないのに。」・・・真理や。この後の青と死の誘惑に関する描写がとても綺麗。軍医の殺害を箱男の溺死に見せかけるための手段として用いるはずだった「箱」。本物に5万で箱を捨てろ、と「彼女」が持ちかけた理由も見えてきますね。「もしかすると、君は箱に深入りしすぎたんじゃないかな。手段にすぎなかった箱に、中毒しかけているのかもしれない。たしかに箱も、危険な青の発生源だと聞いている。」それで贋医者は贋箱男に(((@_@;)))アワワワワ でも軍医殿に言わせると「いくら深刻ぶったところで、しょせん贋箱男なのである。君が、君をやめるなんてことは、出来っこない。」
≪続・供述書≫暗に当時の医学界を批判しつつ罪を認め反省する言葉を必死に綴る贋医者くん。「被害意識のない被害者が被害者でないとすれば、加害者意識のない私も加害者ではないと申したいのでありますが、だからと言って法をおかして良いとは考えません。」このくだり、患者に対してだけじゃなく軍医殿を殺すことについても必死に自分に言い訳してるんやな、と>< で、更に第三者として存在していたのかと思ってきた箱男がそもそも贋医者によるでっち上げ工作、あーそうだよな、ノートの筆者が二人のどっちかだとすれば(以下略)とまた衝撃の事実が!@混乱Σ( ̄□ ̄;)

≪死刑執行人に罪はない≫遺体安置室にいる軍医の安らいだ気持ち「比率が棺桶そっくりなのも、憎悪や不平不満や怒りの感情などといった、人間的防御反応をまったく失くしてしまったぼくにはすこぶる居心地がいいのである。」やっべ、メッチャ『地下室の手記』思い起こさせるやんけ(ノ∀`) やっと殺しに来てくれたのにドアの前でためらっている「君」の気配に「いまさら私に希望を吹き込むような偽善はよしてくれ。口に入れてしゃぶってみるまでは、どんな飴玉でも、けっこう固く感じられるものだ。しかしすぐに噛み砕いてしまいたくなる。一度砕けた飴玉は、もう元には戻らない。」と軍医自身の死を求める強い思い、決意の固さがうかがえて(つД`) 「心配はご無用、いくら未練があろうと、未練は未練にすぎない。これ以上生きのびるべきでないことは、ちゃんとぼくの理性が心得ている。・・・しかしこの理性も、満ち潮に洗われはじめた海岸の砂の城のように脆く、はかない。・・・とたんにぼくは前言をひるがえし、意地汚く死にさからい始めそうな気がする。(「彼女」への想いと妄想を散々語り尽し)・・・彼女に対する情感が煮詰められて、けっきょく食欲に収斂してしまうらしいのだ。そこまで食欲が嵩じれば、いやでも生に執着せざるを得なくなる。・・・自殺だってれっきとした行為の一種であり、行為である以上、理性や願望だけではなかなか実現してくれない。わずかな未練や食欲が、二の足を踏む口実になってしまう。」
このくだり読んで性自認→食欲不振→自己処理願望という数か月の自分自身の心理状況が整理できましたm(__)m 実に心から、彼とは真逆の方向に納得です。じゃあもう一生元の食欲を取り戻すことは無いかもしれないけど、自己処理のタイミングだけは間違えないように頑張るわ軍医殿!という気持ち(´∀`)bハハッ とにかく何とか自立してからじゃないと申し訳ないし・・・自然死に見せかけたいし・・・まぁ途中で消極的にでも自分からは止めよう、となるか(少なくとも今の時点では一応まだ止めとこう、だけど)どう転ぶかよくわかんないけど。性と食と生きることへの欲はぜーんぶセットで、丸ごと失っちゃった(あるいは過去に初めから存在しなかった欲を無理に作りだそうとした反動)から今こうなってんのか、という教えを与えてくれてありがとう、という感じです(笑)
まさに自分を殺している最中の「君」に向かって「君にはもうこれ以上耐えられない。だから耐える必要なんかないと前から言っているんじゃないか。殺人だなどと大げさに考えずに、腐敗の進行を食い止めるのだと思えば済むことである。」と心の中で語りかける軍医。ベッドのスプリングが奏でる野辺送りの歌が「ひどく陽気で、ちょっぴり感傷的」とこのシーン本当に哀切を帯びた美しさ。すすり泣く「彼女」の姿にも、贋医者と「彼女」の人間味を感じて切なくなる(;_;)

≪最後の挿入文≫「真相」「真の筆者」「真の目的」あーそういえば残ってたね、ってこの段階まで来るとそんな感じ(笑)「君」って誰?読者?「想像の産物ではあっても、嘘ではない。嘘は相手を言いくるめて真実から遠ざけることだが、想像はむしろ相手を真実にみちびくための近道になりうるものだ。」詭弁じゃね?(´Д`) 真相の告白は義務の問題ではなく、現実の利害がからんだ問題だと語る「ぼく」による安楽死の判決文批判は、上でぶっちゃけたような病みを抱えた私を激しく頷かせてしまう要素がある。「肉体的次元にこだわりすぎて、人間解釈のうえであまりにも小心すぎるし、通俗すぎる。心の病だって肉の苦痛に負けず劣らず、見るにしのびない場合があるはずだろう。・・・ぼくが言いたかったのは法律の届かない場所に住む人間が相手なら、いずれすべての殺人が安楽死だということなのだ。・・・箱男殺しも罪にはなり得ない。・・・箱男も法律的には最初から存在さえ認められていない存在である・・・だから、誰が本当の箱男であったかをたずねるよりも、むしろ誰が箱男でなかったかを突き止めるほうが、ずっと手っ取り早い真相への接近法だと思うのだ。」だから私は“彼ら”に共感し、そうなりたいと羨んだのか。安楽死、殺しても罪にはならない、存在さえ認められていない存在に。
名前も診療所も妻も、全てをCに譲渡した軍医と、本名と身分を全て借りていた立場のCは、どちらもある意味「最初から存在さえ認められていない存在」と言えるかもしれない。という事は?余計混乱してくるなぁ(-_-;)「馴れてしまえば、どこにいようと時間は箱男を中心に、同心円を描いてまわりはじめるのだ。・・・箱の中で退屈するようではいずれ贋物にきまっている。そこで、考えてみてほしいのだ。いったい誰が、箱男ではなかったのか。誰が、箱男になりそこなったのか。」

≪Dの場合≫に出てくる女教師は、もしかして別居してピアノを教えながら生計を立てているという軍医の妻「奈奈」さんだろうか?
間に挟まれている写真の一枚目、表紙に使われているバックミラーに映る家。「小さなものを見つめていると、生きていてもいいと思う。・・・大きすぎるものを眺めていると、死んでしまいたくなる。」この気持ち凄くよく分かります。小さいと見えていたものが段々大きくなって潰されそうになる悪夢小さい頃からよく見る。ディズ○ーランド行って『イッツ・ア・スモール・ワールド』とか流れてるとパニック起こしそうになりますよ。酷い矛盾だもん。世界は広いしランドも広い、それなのに「small」だと!?錯覚させないでくれ。怖いんですよ、ひねくれているというか歪んでる発想だと解っているけどそういう視覚よりも心理的な錯覚が。小さくて狭い世界ならみんな同じ感覚・考え方だって思っちゃうじゃん。でも実際は家族とだって違う。人の心は一人分だって海のように深く広い(私の底なしの空洞も)。その距離の広さ、大きさに堪らなく惹きつけられるけど呑み込まれそうで押しつぶされそうで怖い。すごく好きなものに出会った時、精神的な衝撃を受けた時いつも胸がモヤモヤして悪夢を見るのはそういうことだと思います。三枚目のホームレスの写真「ここは箱男の街。匿名が市民の義務となり、誰でも無い者だけに許された居住権。登録された一切のものが、登録されたというそのことによって裁かれるのだ。」安楽死のくだりで出ていた話と重なりますね。四枚目の廃車置き場「走り続けたが追いつけなかった人々の贋のゴール 審判も観客もとうに引揚げてしまった夜の競技場」贋箱男・あるいは贋医者の顛末を予感させる文言。
思春期にありがちな性的興味が高じての最初の覗き嗜好の覚醒から手痛いしっぺ返しを食らったD少年は、これから箱男への道を歩むことになるのだろうか?それとも・・・。

≪………………≫の章で「本物」を名乗る箱男がやっと現れ、「彼女」がちゃんと箱を脱いでくれないと困る、と告げる。贋医者だった「先生」はどうやら街へ出かけたらしい。彼が戻る気もなさそう、と告げる「彼女」に箱男は「ぼくは贋物だったんだ。」と白状する。「でもこのノートは本物なんだよ。本物の箱男からあずかった遺書なのさ。」つまり、変死体となった軍医の?けれど後に続く「すべての遺書が額面どおり、つねに真実を告白するものとは決まっていない。死んでいく者には、生き残る連中には分らないやっかみもあれば嫉妬もある。なかには「真相」という空手形に対するうらみが骨身に徹していて、せめて棺桶の蓋くらいは「嘘」の釘で止めてやろうという、ひねくれ者だっているはずだ。ただ遺書だというだけで鵜呑みにするわけにはいかないのである。」という記述がこれまた!(´Д`;)ドウイウコトナノー⁉

≪夢の中では~≫の章のショパンと父の切なさ。露出狂に関する前述のフラグ回収(ただの立ちションを婚約者に見られちゃっただけだったのに><)初めは結婚式のお約束の馬として箱を被り、そのまま箱を脱がなくなった父。年月が経ち小さな絵で名を成したショパンは、その代金入れと化した“父が入っているはず”の箱の中身すら気にならなくなっている。彼の憂鬱はただ一つ、「画のなかの彼女(元婚約者)がいつまでも昔のままなのに、本物の彼女は経った年月の分だけ歳をとってしまったはずで、もう取返しようがないということ」

≪開幕五分前≫この章の「君」はこれまで出てきた「彼女=看護師見習いの葉子」だろうか?「熱風自体のなかに、その終末の予感がひそんでいる」ふたりの間に吹く熱気。普通の恋愛とはまるで異質な、終わりから始まる逆説的な恋。「愛することは美しいが、愛されることはみにくい。」あー、うん私もどっちかと言うとソレに同意するクチ(-_-)) 「失恋から始まった愛には、だからまるっきり影がないわけだ。美しいかどうかは知らないが、ともかくこの痛みには悔いがない」彼の語る真意が理解できずに話の理由を問いただす「君」に、彼は「作中人物の一人になる義務」を強要する。なぜ、と聞く「君」に対して「大事なのは結末じゃない。必要なのは現在この熱風を肌に受け止めているという、その事実なのさ。・・・眠っていた言葉や感覚が高圧電気をおびたように、青い光を発してあふれ出すのは、こうした熱風の中でなんだ。人間が魂を実体として眼にすることが出来る、得がたい時なんだ。」何か急に恋愛物感高まりだしたな(笑)「その調子でくどけば、絶対に自分は傷つかずにすむわけね。」と皮肉を返す「君」に「半分は真実かもしれない。でも別の半面を君がまったく認められないというなら、もうやめてもいいんだよ。」と。「君」が無理をしていると見抜きながら彼は続ける。「時間は大事にしたい。しかし、時間を取り戻そうとは思わない。・・・すばらしい言葉の森と官能の海……そっと君の肌に指を触れただけで、時が停リ永遠がやってくる。この熱風の苦痛の中で、ぼくは死にいたるまで消えない、肉の変形術をほどこされるのだ」コイツやべぇ葉子さん逃げてえぇー!(>Д<;)キャー

≪そして閉幕の~≫「ぼくは間違っていなかった。失敗したかもしれないが、間違ってはいなかった。失敗は少しも後悔の理由にはならない。ぼくは別に結末のために生きて来たわけではないからだ。」この言葉、とても好きです。こういう風に考えられれば、もっと楽に生きられるのかもしれない、と場面やストーリー的に全く場違いの発想ながら純粋にそう思ってしまった。「彼女」が去った後でドアを塞ぐ計画を練る「ぼく」。窓や通気口は既に塞いであるらしい。「建物全体が完全に外界から遮断されて、出口も入口もなくなるのだ。そうした上でぼくは出発する。箱男にしか出来ない脱出だ。」窒息するよ!?Σ(゜Д゜;) 彼女と一言も言葉を交わさずに別れたことへの心残りを語りつつ「言葉が役に立ってくれる段階は既に過ぎ去ってしまっていた。眼を見交わしただけで、すべてが理解できた。完全すぎるものは、崩壊の過程に現れる現象の一つにしかすぎないのだ。」何という深い表現・・・。例の遺体安置室(軍医を殺した部屋)を気にしているということは、やはり元カメラマンじゃなくて贋医者の方なのか?
裸でくっついて自堕落な生活を送りながらも、それは「本当に楽観的だったのだろうか。ぼくらは最初から、ただ希望を放棄していただけなのだと思う。情熱とは、燃えつきようとする衝動なのだ。ぼくらは燃えつきようとして焦っていただけなのかもしれない。燃えつきる前に中断することは恐れていたが、現世的な持続を願っていたかどうかは疑わしい。」余りに破滅的な、けれどこういう状態(共犯・あるいは秘密の共有関係)に陥ってしまった男女にありがちな感情ですな(´-`) 体の一部をたえず接触させ、半径二・五メートル以内にいた二人。「その距離だとほとんど相手が見えないのだが、べつに不都合は感じない。・・・それ以上に、相手から見られていないという開放感が大きかった。ぼくは彼女の前で、部分に分解してしまっていた。・・・言葉そのものがすでに意味をなくしかけていた。時間も停止してしまっていた。・・・どんなに長く燃えつづけても、燃えつきてしまえば一瞬で終ることだった。」だから「ぼく」は彼女が裸ではなく服を着けて「ぼく」を見上げているのに気づいたとき、「さしたる混乱もなく、ちょっぴり振出しに戻った(何たって終わりから始まった恋だったんですもんね(^^;)ような落胆をおぼえただけですませられた。」と。けれど「振出しだったら、もう一度最初からやりなおしがきくのだろうか。もちろん何度でもやりなおしはきくはずだ。・・・しかし、何度やりなおしてみたところで、いずれまたこの同じ場所、同じ時間が繰返されるだけのことだろう。」という記述が切な過ぎて(´;ω;`)ブワッ

時計の文字盤の話はなるほどー、と思った。8は一日に二度ざらついた眼で見られるから風化して、逆に2は夜閉じた眼が無停車で通過してくれるから減り方も半分ですむ。けれど「もしまんべんなく風化した平らな時計を持っている者がいたら それはスタートしそこなった一周おくれの彼」全世界の睡眠障害を患ってらっしゃる皆さんがギクリとしたことだろう、私も含めて(^^)b 気づけばこの時間だもんね☆「だからいつも世界は一周進みすぎている 彼が見ているつもりになっているのはまだ始まってもいない世界 幻の時 開幕のベルも聞かずに劇は終わった」何コレ、何の暗喩なの・・・?(((゜Д゜;)))gkbr

再度≪………………≫の章。「彼女」閉じ込められっぱなしなのかよ!服もちゃんと着てて?玄関も非常階段も厳重に閉めきったって!?(@Д@;)アワワワワこえぇ!服を着ている彼女に見られるのが我慢ならないから、無効化するために電源を切った闇の中なら裸も同じ条件になり、彼女は再びやさしくなるとな?「箱から出るかわりに、世界を箱の中に閉じ込めてやる。いまこそ世界が眼を閉じてしまうべきなのだ。きっと思い通りになってくれるだろう。」途中までまるで自分の話、と思うくらい激しく共感していたけれど、ここで完全に彼と私は全く違う発想の元に動いているのだ、と哀れに思った(´・ω・`) 私は世界をどうこうしたいんじゃなくて、素晴らしい世界から自分という異物を少しでも除去、あるいは見えなくしたいんだもん。いないも同然の存在になりたいという動機が異なる。世界はこのまま眼を開いて、広がり続けてほしいよ。・・・と、彼女の部屋を訪ねてみると何とそこはただの路地裏でした。つまり全ては浮浪者の一形態としての箱男の妄想の話だったのだろうか?
「彼女を探し出さなければならない。しかし、もうそこから先には一歩も進む余地がない。ここもけっきょくは閉ざされた空間の一部であることに変りはなさそうだ。それにしても、彼女はどこに消えたのだろう。・・・さらに一歩踏み出してみたら、どうなるのかな。好奇心はある。しかし似たようなものだろう。いずれ同じ建物の中での出来事にすぎないのだ。」もしかして、ここで例えられている「建物」は街・ひいては世界全体を指すのだろうか?「世界を箱の中に閉じ込めてやる。」そう考えることで箱男なりに精神の安定を図ろうと?「大きなものを見ると死にたくなる」から、一つの建物の中に収まるくらい小さいものだと街や世界を捉えなおすことで均衡を保とうとしたのではないか、と似たような病気?を抱える身として考えちゃった(・・;)

落書のための余白の話は、人の持つ時間や人生そのものについて暗示しているのかもしれない。じゅうぶんに確保しておくべき余白、いやそれはいつだってじゅうぶんに決まっている。「いくら落書にはげんでみたところで、余白を埋めつくしたり出来っこない。・・・ある種の落書は余白そのものなのだ。すくなくも自分の署名に必要な空白だけは、いつまでも残っていてくれる。」だから白が怖いんだよねー正直。個人的に小、中と新しい学校に入学することが続きまして、綺麗すぎる学校って逆に怖いんですよ。古い小学校に転校して味のある図書室の本の匂いに接した時や、歴史ある高校の机の落書き盛り沢山な光景に何かホッとして愛着感じちゃいましたもん。人間、というか生き物の痕跡が残っていない空白の場所って、自分たちがソコを埋めていかないといけない、というプレッシャーや、圧倒的な無機物の感触?触感?に押しつぶされそうで苦手です。
「じっさい箱というやつは、いったん内側から眺めると迷路なのだ。もがけばもがくほど、その迷路に新しい節をつくって、ますます中の仕組みをもつれさせてしまう。」きっとこのフレーズには世界中の精神病患者や悩みのドツボにハマっておいでの皆さんが、自分の心や人生そのものの有様を重ね見て全力で同意なさることだろう(つД`) 特に現代版箱男、ヒッキーのみんな!「姿を消した彼女だって、この迷路の何処かにひそんでいることだけは確かなのだ。べつに逃げ去ったわけではなく、ぼくの居場所を見つけ出せずにいるだけのことだろう。いまならはっきりと確信をもって言うことが出来る。ぼくは少しも後悔なんかしていない。手掛りが多ければ、真相もその手掛りの数だけ存在していていいわけだ。」・・・素晴らしい!ブラボー!!ファンタスティコー!!!(゜m゜;)パチパチパチパチ
私が『わたしを離さないで』の感想で述べたカズオ・イシグロの絶妙な“日系”感がその結末の曖昧さ、読み手に託す意図にある、っていうのをより混沌として壮大なスケールでやってのけた、まさにそんな作品じゃないですか!?@握りこぶしo(`Д′)=3 結論から言うと何が真実でも、誰が箱男でも贋物でも、彼女だの君だの女教師が奈奈でも葉子でも良いんですよ。どう捉えようと自由、公房さんはその可能性を与えてくれた。どのストーリーでも納得できる手掛り、誰が死んでようが生きてようが、何中毒だろうが、どこをさまよってんのか、一件の家の中での出来事なのか。「ぼく」と「彼女」が本当のトコどういう関係だったのか。それでなお作品として空中分解してないわけよ。同時に作家として人間の本性とか世の中の不条理なんかの矛盾や真理を鋭く突いてもきている。あぁ何つーか、どういうことなのか分からなくて混乱しているけど、その混乱がむしろ喜ばしい。良かった、答えが出なくて!って全力で思える本に出会えたのは(以下略)

次は何に行こうかな?ちょっと続けて行くと沼に落っこちそうだから安定剤+花粉+風邪で頭ボーッとしてるし、分かりやすそうな『日の名残り』行っとこうかな。で、『壁』読みつつブクオフ巡りしたいなぁ。何かはあると信じて・・・。ある本読んでも良いんだけど、その時欲望が向いてる方と上手く噛み合わないと、せっかく読み始めても何かイマイチ楽しめないし集中できないんだよね><

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何か一言で、す さ ま じ か っ た・・・!Σ( ̄□ ̄;)ノーベ○賞候補にできなかったわけも納得。これほど「ハッキリしない複雑な構成とスッキリしない煙に巻いた結末」に安堵する小説が他にあるだろうか?いや、ない。(反語ktkr。笑)あー、良かった綺麗なオチがつかなくて!って読み終えるのビクビクぐすぐず渋っていた身としては歓喜ヽ(´▽`)/ワーイ これで安心して作家読みできるわ。すげぇ好みってか「狙う」気が全く無い、書きたいものをひたすら吐き出さずにはいられずに書き散らかすタイプの作家さん=つまり非常に好みだということが分かって一安心です☆世間受けや文壇の評価とか気にするタイプなら、アレもコレも全く別の方向にかっとんだあらすじの話ばっかり続けて書けないもんねぇ。

煩わしい外界の全てからシャットダウンされた狭い箱の中で解放され自由になる魂。ある意味で、狭い場所を好む子供と同じように母親のお腹の中の胎児に還る気持ちなのかもしれない。≪Aの場合≫最後の「匿名の市民だけのための匿名の都市のことを一度でも夢見たことのある者だったら、他人事ではない、つねにAと同じ危険にさらされているはずなのだ」という部分にまず力強く頷きました((´∀`)ウンウン 
≪安全装置を、とりあえず≫に出てくるのが一応「本物の」街で最も古い箱男らしく、彼がノートの著者ということに(この時点では)設定されている。この章で彼は懇切丁寧に「箱男」の実態について解説した上で、「自殺の意志はない」「浮浪者とは違う」という独特のプライドもまた垣間見せる。「心の方向感覚の麻痺」を持病とする箱男にとって、箱はどこか別の世界への出口、というのがラストへと繋がるフラグだったのかと思うと(((゜Д゜;)))gkbr 「存在しないも同様の天性の殺され屋」うっわー、箱女になりたい気持ちが増すばかり、と感じる自分はまだ病んでる最中なんだなー、と嗤いつつ、元カメラマンの彼が撮影したということになっている(と思われる)四枚目の家族?が映った写真の注釈「見ることには愛があるが、見られることには憎悪がある。見られる傷みに耐えようとして、人は歯をむくのだ。しかし誰もが見るだけの人間になるわけにはいかない。見られた者が見返せば、こんどは見ていた者が、見られる側にまわってしまうのだ。」これほど共感できる文章があるだろうか。どんなに「自意識過剰」と言われても、怖いんですよ人の視線が!自分がすごく観察してしまってソレを好む性質な分、余計にな!我ながら面倒くさいしキモい自覚はあるんですけど(-_-;)
その≪写真についての補足説明≫で方向だけじゃなく時間間隔の麻痺も箱男の持病の一つ、って何かコレも解るなぁ。ヒキってるとカレンダーいらないし、本とか動画さまよってると時間ものすごく経ってたりするもんね。空気銃で撃たれた箱男が狙撃者にむしろ新たな仲間誕生の予感を感じて親近感さえおぼえた、というのは『阿Q~』の精神勝利のやり方に近いように感じたかな(´・ω・`) 覗き・隠し撮りへの興味から遂に自分がいつでも“外”の世界を小さな箱の内側から覗く立場になれる箱男になってしまったという元カメラマンの心情・・・なるほどー、と思っちゃった(笑)
≪それから何度かぼくは居眠りをした≫貝殻草と夢の話。贋魚の、たとえようもない欠乏感。「どんな好奇心だって、けっきょく最後は、手で触って確かめてみるのでなければ本当の満足なんてありえない」声帯を持たぬ魚でありながら言葉を使って悩む二重感覚に、魚の墜落という不可思議な概念。死んだ魚でさえ海面に浮かび上がる中、贋魚が墜落するには逆墜落、死の危険が賭けられた、空気に溺れるという行為によって夢は醒めるはず、と綴る箱男。この辺の文章の比喩や表現がとっても綺麗で面白いです!「贋物であることに免疫になってしまったぼく」、「箱男はけっきょく箱男のままでいるしかないらしい」この辺はノートの著者が誰なのか改めて混乱させてくる仕掛けやなー(´Д`;)

≪約束の履行≫により現金を受け取り箱を捨てる羽目になった箱男だが、彼はヤドカリのように無理に引出されると千切れて死んでしまう、という弱さに同意@ダメ人間\(^O^)/ 「別の世界に脱皮する時にだけ箱を脱げる」「もっとも箱男という人間の蛹から、どんな生き物が這い出してくるのやら、ぼくにだってさっぱり分らない。」あー、うん、既に中身は空なんじゃないかな?私の例を見るに(笑)
≪鏡の中から≫箱の中から見る世界と普通の人間の目に映る景色の違いの表現に思わずハッとさせられた。基本的に足元しか見えない箱の中の視点では「あらゆる細部が均質になり、同格の意味を帯びる。」「遠近が定まらず、輪郭が曖昧」で自分と立場が似通っているからそんな風景が好きだ、と言う箱男。「箱から覗いているかぎり、どんな風景も見飽きることがない」というのはある意味真理なのかな、と思った。でもって遂に病院を訪ねた彼はお目当ての彼女と贋箱男とのある場面を目撃してしまう。「願望の幻」覗き趣味への自問と告白、「あらゆる場所を覗いてまわりたいが、かと言って、世間を穴だらけにするわけにもいけず、そこで思いついた携帯用の穴が箱だったのかもしれない。」うーん、深い><
「彼女」への執着をあらわに「贋箱男」への嫉妬を覚えながら「現実の裸に想像が追い付いたり出来るわけがない。見ている間だけしか存在してくれないから、見たいと思う欲望も切実になる。見るのをやめたとたんに、消えてしまうから。」からの「裸の所有権」話は納得と「んん?」って気持ちが混ざってちょっと複雑・・・(^ω^;) 贋箱男に向かって「そんなことを続けていると、いまに本当に出られなくなってしまうぞ。・・・彼女があんな取引(5万で箱を買うから脱いで捨てろ、という)を思いついたそもそもの狙いも……あいつをこんなふうに箱に閉じ込めてしまうことだったのかもしれないのだ。そして彼女も自由になる。ぼくもこれを機会に、箱と手を切ってみることにしたらどうだろう。」と希望的観測を勝手に並べ立てた挙句、結局箱を手放せずに「決心しさえすれば何時だってできること」「箱から出るだけなら、なんでもない。なんでもないから、無理に出ようとしないだけのことである。ただ、出来ることなら、誰かに手を貸してほしいと思うのだ。」恐らく恋慕が芽生えつつある「彼女」への想いを込めたフレーズなのだろうけど、すごく自分の心境にシンクロしてしまって。・゜・(ノД`)・゜・。自分へのごまかしや言い訳が利かなくなってきた時、どうすりゃ良いか分かんなくて、苦しくてひたすら友達や色んな人に嫌なこと何もかも吐き出してしまってきたこの数か月。一度「箱」に籠ったら、脱け出すのは本当に至難の業なんですよね。甘えに他ならないんだけどorz
次の≪挿入文≫によって明かされる前章の出来事についての衝撃の真相Σ(゜Д゜;) 次の章≪書いているぼくと 書かれているぼくとの~≫で再び箱男さん登場。「箱が移動するトンネルなら、裸の彼女はトンネルの出口に差し込む、まばゆい光。・・・この三年間、ぼくが待ちつづけていたのはたしかにこの機会だったように思う。」「いまさら箱に未練なんかあるものか。未練どころか、もううんざりである。出口あってのトンネルなのだ。」うーん、恋は人を変えるとは言うけど、ここまで来ると乖離性人格障害でも患ってらっしゃる?と思ってしまう域(笑)Bの残骸を見つけた時の彼の心情、「自分の(箱の)死を思い浮かべたことはなかった。時が来れば、水滴が蒸発するように、自然に消えてしまえるつもりでいた。しかしこれが現実なのだ。」それなんだよね、あの時もこの時も、結局ためらった理由は(;_;)とこの部分も大いに共感。「箱の死が、そのままBの肉体的な死だったとは限らない。・・・この箱の残骸は、蝶になって飛び立った蛹の殻かもしれないのだ。出来ればそう思いたかった。そうでも思わなければやりきれない。」この部分、まごうかたなき彼の本音なのだろう、と感じた(泣)所持品の単純化の話で「切り捨てにもおのずと限度がある。貯めるのにも苦労はあるが、捨てる努力はそれ以上だ。なにか自分の持物につかまっていないと、風に吹き飛ばされそうで不安なのだ。」この文章も非常に同意せざるを得ない。だから色々ガラクタみたいなものでも捨てられないし、自分の一部みたいになってしまった本とかは絶対処分できないんだよー><

で、病院を訪ねた箱男の語るニュース中毒のくだり「世界ってのは、沸きっぱなしの薬罐みたいなものなのさ。ちょっとでも眼を離している隙に、地球の形だって変りかねない。」まさに5年前、地球の裏側にいた人々にとってはその通りの出来事が起こったと言えるでしょうね。うちらは身を以て地軸がズレる揺れを体験したけど・・・。ニュースを聞かないと不安なのは臆病だから、「当人にとっちゃ深刻な話さ。ニュースを読んだり聞いたりするだけで、一日の大半がつぶれてしまうんだからな。自分で自分の意志の弱さに腹を立てながら、それでも泣く泣くラジオやテレビから離れられない。いくら漁りまわったところで、べつに事実に近付いた訳じゃないくらい百も承知していながら、やめられないんだ。ぼくに必要なのは、事実でも体験でもなく、きまり文句に要約されたニュースという形式だったのかもしれない。」ラジオやテレビ→ネットに変えたら、少し前の自分と丸きり同じ状況(´-`) 一つの出来事についてあらゆる視点から情報集めないと不安でした。自分の感想は合ってるのか、一義的な物の見方に囚われてしまってはいないか。あとヒキってるから純粋にそれで物事を知った気になれてた。実際の現場に行って見たいとか経験したいという気持ちは全くなくて、ただ頭の中に情報を蓄積して妄想の道具にしたかっただけ@最悪^^#ビキビキ そりゃせっかく歴史専攻行っても特に意味なかったわけだわ。
箱男さんの解毒剤は目の前で起きた見知らぬ男の突然死だった。(私の場合は父が倒れたことかな?もうすっかり元気だけど)絶対にニュースにはならないのに、当人にとっては最も大きな変化を引き起こす「死」。「自分も変化したけど、外の世界も変化しちゃって、もうこれ以上変化のしようがないんだ。どんな大ニュースも追いつけないほどの、大変化さ。」「人はただ安心するためにニュースを聞いているだけなんだ。どんな大ニュースを聞かされたところで、聞いている人間はまだちゃんと生きているわけだからな。本当の大ニュースは、世界の終りを告げる、最後のニュースだろう。もちろんそいつが聞けたら本望だよ。ひとりぼっちで世界を手放さなくてもすむんだからな。考えてみれば、ぼくが中毒にかかったのも、結局のところその最後の放送を聞きのがすまいとする焦りだったような気がする。しかし、ニュースが続いているかぎり、絶対に最後にはならないんだ。まだ最後ではありません、というお知らせなのさ。・・・でもあなたはまだなんとか生きてます(エンドレス)」これ凄く実感としてクるものがある。私が中毒に陥ったのは震災の後からだったもん。マジでヤバい状態の時、人はニュースというものを聞く手段が無い。聞けるだけ己の無事を実感し安堵する。「ニュースを聞かない人間に悪人はいない・・・ニュースを信じないということは、つまり変化を信じないという事だろう、ぼくもむりやりここに変化を持込んだりするつもりは無いということさ。」このセリフも解釈が難しいけどその通りかもしれない、と思わせる複雑な感想(-_-;)・・・正直まだ中毒から脱し切れてはいないので。

贋箱男との対峙で持ちかけられた「彼女」と箱に関する取引のやりとりで蘇る、幼い日の屈辱の記憶。暗い所でわざわざ小さな字の本や雑誌を読みふけるようになったのは「見ることからも、見られることからも、ただ逃げ出したかっただけ」という箱男さん(つД`) わかるよー!そこまで視力悪くないけど(笑)その後に続く「ぼくは自分の醜さをよく心得ている。・・・もっとも、醜いのはなにもぼくだけではなく、人間の九十九パーセントまでが出来損いなのだ。人類は毛を失ったから衣服を発明したのではなく、裸の醜さを自覚して衣服で隠そうとしたために、毛が退化してしまったのだ・・・それでも人々がなんとか他人の視線に耐えて生きていけるのは、人間の眼の不正確さと錯覚に期待するからなのだ。なるべく他人と見分けがつきにくいように工夫したり、こちらが露骨な視線を向けなければ向こうも遠慮してくれるだろうと、伏目がちな人生を送ることにもなる。・・・「覗き」という行為が侮りの眼をもって見られるのも、自分が覗かれる側に回りたくないからだろう」ここから箱男に到るまでの過程の吐露が、すべての人間に通じ得る根源的な感情、誰もが持っている狂気と理性の狭間をありありと表現している文章ではないか、と感じた。
註釈の露出狂のくだり、ここも後半部へのフラグ立てですね。過剰性欲ではなく抑制されすぎた性表現である場合が多い、と。異性に興味を抱きながら実在する個々の存在には病的な羞恥心を覚える余りそういった行為に走る。醜さの自覚、鏡に映した相手への視姦行為、と。ナルホド・・・?(このエピソードに関しては正直マジ勘弁、と感じた記憶しかないのでホント触れたくない)
しかし箱男は「彼女」に対して夢を抱き過ぎているような気がするな。「強力万能浄化装置」と「欲望解放装置」の二つを兼ね備えた女なんかいるわけねーだろ、都合良いな全く(^ω^#) とにかく“誰か”を、特に歪んだ性癖ゆえに孤独に身を浸してきた経歴の持ち主としてはその欲望を満たしてくれる存在を求めずにいられない気持ちはわかるけどさ。選択の責任を負いたくない、と語っていた彼女について贋箱男は「人間過信」と表現する。「なんでも衝動的にやってしまい、咎められると簡単にあやまる。あやまりさえすれば、どんな罪でも帳消しになると信じ込んでいるらしい」ふーむ。(・ω・)) 彼女の身体の魅力についての男たちの変態的(笑)やりとりに続く生物の求愛行動の話、だから自分は全力で苦手で受け入れられないのかな、と思った。「境界線を越えた侵入者への攻撃本能。人間の場合のラインは半径二メートル半くらいの位置。その至近距離では敵の正体を見破ろうにも、かえって見きわめにくい。役に立つのは、触角と嗅覚だけになる。」混んでる電車に乗ってるだけで痴漢いなくても気持ち悪くて堪らなくなるのもそのせいなんですかねぇ?(´-`)

この先一気に急展開、というか虚構(妄想)と現実が入り混じり、誰と誰が対話しているのか混乱させる構成に。誰がノートの著者なのか、という核心に迫る会話。時計に封をした「君」、金縛り状態の「彼女」、「実在している人物は一人だけ・・・このノートを書き続けている誰か……ぜんぶがその誰かの独り言にすぎない・・・必死に箱にしがみつづけるために、このまま永遠にでも書きつづける腹なんじゃないかな」そしてその「誰か」の言い訳じみたズボンへの執着。「文明社会というのは、一種のズボン社会」確かにそうかも、特に男の人の場合(・・;) 時間をかけて垢をこそげ落とした後の倦怠感、箱男として過ごした三年の間に「骨だけ残して、すっかり垢の塊りになってしまったのかもしれない・・・あと三年かけて骨までこそげたところで、垢は落ちっこない……」自分へのどうしようもない諦めと絶望の気持ちが切々と伝わってくる(´;ω;`)ブワッ
でもって会話相手のはずだった贋箱男?の正体が箱の落書だってー!?「定員一名かぎりの密室……誰にも覗けないのだから、真似のしようもない、顔の裏側・・・これがぼくの履歴書・・・必要なものは、なんでもここに揃っているんだ。」やっぱりちょっと箱男羨ましい@病み人間orz 時間軸が狂ってるよ、と指摘してくる「落書」に自分のノートなんだからどう書こうが勝手だろう、と返した男に、「このノートの筆者を、君だと決めてかかる必要なんかどこにもないんだ。君以外の誰かが筆者であっても、いっこうに差支えない」と空想のはずのキャラがまーた混乱させてきやがる(´Д`;) 想像、実在、空想、無実、実在、証明・・・ここまでの全ての出来事の境界線が曖昧に溶けて混ざり合い、錯綜し無意味なものであったかのようにすら感じさせる。「どういうつもりなの公房さーん!?」と頭掻きむしって叫び出したくなる場面ですね(笑)

でもって次の≪供述書≫でやっと贋箱男、と箱男が呼んでいた「医者」の真実が見えてくる。≪Cの場合≫を代弁してくれるのは、箱男の変死体として見つかったヤク中の軍医自身。そっくりなノートに、初っ端の≪ぼくの場合≫と同じ書き出し。ノートの筆者の正体はまたこれで藪の中。軍医自身による嘱託殺人の行動予定表を過去形で作る「君」。彼が「すでに見てしまった着弾地」を早く読みたいと願う軍医。「君は神経質すぎるよ。なぜもっと実際的になれないのだ。いくら力んでみたって、いずれ出来ることしかできないのに。」・・・真理や。この後の青と死の誘惑に関する描写がとても綺麗。軍医の殺害を箱男の溺死に見せかけるための手段として用いるはずだった「箱」。本物に5万で箱を捨てろ、と「彼女」が持ちかけた理由も見えてきますね。「もしかすると、君は箱に深入りしすぎたんじゃないかな。手段にすぎなかった箱に、中毒しかけているのかもしれない。たしかに箱も、危険な青の発生源だと聞いている。」それで贋医者は贋箱男に(((@_@;)))アワワワワ でも軍医殿に言わせると「いくら深刻ぶったところで、しょせん贋箱男なのである。君が、君をやめるなんてことは、出来っこない。」
≪続・供述書≫暗に当時の医学界を批判しつつ罪を認め反省する言葉を必死に綴る贋医者くん。「被害意識のない被害者が被害者でないとすれば、加害者意識のない私も加害者ではないと申したいのでありますが、だからと言って法をおかして良いとは考えません。」このくだり、患者に対してだけじゃなく軍医殿を殺すことについても必死に自分に言い訳してるんやな、と>< で、更に第三者として存在していたのかと思ってきた箱男がそもそも贋医者によるでっち上げ工作、あーそうだよな、ノートの筆者が二人のどっちかだとすれば(以下略)とまた衝撃の事実が!@混乱Σ( ̄□ ̄;)

≪死刑執行人に罪はない≫遺体安置室にいる軍医の安らいだ気持ち「比率が棺桶そっくりなのも、憎悪や不平不満や怒りの感情などといった、人間的防御反応をまったく失くしてしまったぼくにはすこぶる居心地がいいのである。」やっべ、メッチャ『地下室の手記』思い起こさせるやんけ(ノ∀`) やっと殺しに来てくれたのにドアの前でためらっている「君」の気配に「いまさら私に希望を吹き込むような偽善はよしてくれ。口に入れてしゃぶってみるまでは、どんな飴玉でも、けっこう固く感じられるものだ。しかしすぐに噛み砕いてしまいたくなる。一度砕けた飴玉は、もう元には戻らない。」と軍医自身の死を求める強い思い、決意の固さがうかがえて(つД`) 「心配はご無用、いくら未練があろうと、未練は未練にすぎない。これ以上生きのびるべきでないことは、ちゃんとぼくの理性が心得ている。・・・しかしこの理性も、満ち潮に洗われはじめた海岸の砂の城のように脆く、はかない。・・・とたんにぼくは前言をひるがえし、意地汚く死にさからい始めそうな気がする。(「彼女」への想いと妄想を散々語り尽し)・・・彼女に対する情感が煮詰められて、けっきょく食欲に収斂してしまうらしいのだ。そこまで食欲が嵩じれば、いやでも生に執着せざるを得なくなる。・・・自殺だってれっきとした行為の一種であり、行為である以上、理性や願望だけではなかなか実現してくれない。わずかな未練や食欲が、二の足を踏む口実になってしまう。」
このくだり読んで性自認→食欲不振→自己処理願望という数か月の自分自身の心理状況が整理できましたm(__)m 実に心から、彼とは真逆の方向に納得です。じゃあもう一生元の食欲を取り戻すことは無いかもしれないけど、自己処理のタイミングだけは間違えないように頑張るわ軍医殿!という気持ち(´∀`)bハハッ とにかく何とか自立してからじゃないと申し訳ないし・・・自然死に見せかけたいし・・・まぁ途中で消極的にでも自分からは止めよう、となるか(少なくとも今の時点では一応まだ止めとこう、だけど)どう転ぶかよくわかんないけど。性と食と生きることへの欲はぜーんぶセットで、丸ごと失っちゃった(あるいは過去に初めから存在しなかった欲を無理に作りだそうとした反動)から今こうなってんのか、という教えを与えてくれてありがとう、という感じです(笑)
まさに自分を殺している最中の「君」に向かって「君にはもうこれ以上耐えられない。だから耐える必要なんかないと前から言っているんじゃないか。殺人だなどと大げさに考えずに、腐敗の進行を食い止めるのだと思えば済むことである。」と心の中で語りかける軍医。ベッドのスプリングが奏でる野辺送りの歌が「ひどく陽気で、ちょっぴり感傷的」とこのシーン本当に哀切を帯びた美しさ。すすり泣く「彼女」の姿にも、贋医者と「彼女」の人間味を感じて切なくなる(;_;)

≪最後の挿入文≫「真相」「真の筆者」「真の目的」あーそういえば残ってたね、ってこの段階まで来るとそんな感じ(笑)「君」って誰?読者?「想像の産物ではあっても、嘘ではない。嘘は相手を言いくるめて真実から遠ざけることだが、想像はむしろ相手を真実にみちびくための近道になりうるものだ。」詭弁じゃね?(´Д`) 真相の告白は義務の問題ではなく、現実の利害がからんだ問題だと語る「ぼく」による安楽死の判決文批判は、上でぶっちゃけたような病みを抱えた私を激しく頷かせてしまう要素がある。「肉体的次元にこだわりすぎて、人間解釈のうえであまりにも小心すぎるし、通俗すぎる。心の病だって肉の苦痛に負けず劣らず、見るにしのびない場合があるはずだろう。・・・ぼくが言いたかったのは法律の届かない場所に住む人間が相手なら、いずれすべての殺人が安楽死だということなのだ。・・・箱男殺しも罪にはなり得ない。・・・箱男も法律的には最初から存在さえ認められていない存在である・・・だから、誰が本当の箱男であったかをたずねるよりも、むしろ誰が箱男でなかったかを突き止めるほうが、ずっと手っ取り早い真相への接近法だと思うのだ。」だから私は“彼ら”に共感し、そうなりたいと羨んだのか。安楽死、殺しても罪にはならない、存在さえ認められていない存在に。
名前も診療所も妻も、全てをCに譲渡した軍医と、本名と身分を全て借りていた立場のCは、どちらもある意味「最初から存在さえ認められていない存在」と言えるかもしれない。という事は?余計混乱してくるなぁ(-_-;)「馴れてしまえば、どこにいようと時間は箱男を中心に、同心円を描いてまわりはじめるのだ。・・・箱の中で退屈するようではいずれ贋物にきまっている。そこで、考えてみてほしいのだ。いったい誰が、箱男ではなかったのか。誰が、箱男になりそこなったのか。」

≪Dの場合≫に出てくる女教師は、もしかして別居してピアノを教えながら生計を立てているという軍医の妻「奈奈」さんだろうか?
間に挟まれている写真の一枚目、表紙に使われているバックミラーに映る家。「小さなものを見つめていると、生きていてもいいと思う。・・・大きすぎるものを眺めていると、死んでしまいたくなる。」この気持ち凄くよく分かります。小さいと見えていたものが段々大きくなって潰されそうになる悪夢小さい頃からよく見る。ディズ○ーランド行って『イッツ・ア・スモール・ワールド』とか流れてるとパニック起こしそうになりますよ。酷い矛盾だもん。世界は広いしランドも広い、それなのに「small」だと!?錯覚させないでくれ。怖いんですよ、ひねくれているというか歪んでる発想だと解っているけどそういう視覚よりも心理的な錯覚が。小さくて狭い世界ならみんな同じ感覚・考え方だって思っちゃうじゃん。でも実際は家族とだって違う。人の心は一人分だって海のように深く広い(私の底なしの空洞も)。その距離の広さ、大きさに堪らなく惹きつけられるけど呑み込まれそうで押しつぶされそうで怖い。すごく好きなものに出会った時、精神的な衝撃を受けた時いつも胸がモヤモヤして悪夢を見るのはそういうことだと思います。三枚目のホームレスの写真「ここは箱男の街。匿名が市民の義務となり、誰でも無い者だけに許された居住権。登録された一切のものが、登録されたというそのことによって裁かれるのだ。」安楽死のくだりで出ていた話と重なりますね。四枚目の廃車置き場「走り続けたが追いつけなかった人々の贋のゴール 審判も観客もとうに引揚げてしまった夜の競技場」贋箱男・あるいは贋医者の顛末を予感させる文言。
思春期にありがちな性的興味が高じての最初の覗き嗜好の覚醒から手痛いしっぺ返しを食らったD少年は、これから箱男への道を歩むことになるのだろうか?それとも・・・。

≪………………≫の章で「本物」を名乗る箱男がやっと現れ、「彼女」がちゃんと箱を脱いでくれないと困る、と告げる。贋医者だった「先生」はどうやら街へ出かけたらしい。彼が戻る気もなさそう、と告げる「彼女」に箱男は「ぼくは贋物だったんだ。」と白状する。「でもこのノートは本物なんだよ。本物の箱男からあずかった遺書なのさ。」つまり、変死体となった軍医の?けれど後に続く「すべての遺書が額面どおり、つねに真実を告白するものとは決まっていない。死んでいく者には、生き残る連中には分らないやっかみもあれば嫉妬もある。なかには「真相」という空手形に対するうらみが骨身に徹していて、せめて棺桶の蓋くらいは「嘘」の釘で止めてやろうという、ひねくれ者だっているはずだ。ただ遺書だというだけで鵜呑みにするわけにはいかないのである。」という記述がこれまた!(´Д`;)ドウイウコトナノー⁉

≪夢の中では~≫の章のショパンと父の切なさ。露出狂に関する前述のフラグ回収(ただの立ちションを婚約者に見られちゃっただけだったのに><)初めは結婚式のお約束の馬として箱を被り、そのまま箱を脱がなくなった父。年月が経ち小さな絵で名を成したショパンは、その代金入れと化した“父が入っているはず”の箱の中身すら気にならなくなっている。彼の憂鬱はただ一つ、「画のなかの彼女(元婚約者)がいつまでも昔のままなのに、本物の彼女は経った年月の分だけ歳をとってしまったはずで、もう取返しようがないということ」

≪開幕五分前≫この章の「君」はこれまで出てきた「彼女=看護師見習いの葉子」だろうか?「熱風自体のなかに、その終末の予感がひそんでいる」ふたりの間に吹く熱気。普通の恋愛とはまるで異質な、終わりから始まる逆説的な恋。「愛することは美しいが、愛されることはみにくい。」あー、うん私もどっちかと言うとソレに同意するクチ(-_-)) 「失恋から始まった愛には、だからまるっきり影がないわけだ。美しいかどうかは知らないが、ともかくこの痛みには悔いがない」彼の語る真意が理解できずに話の理由を問いただす「君」に、彼は「作中人物の一人になる義務」を強要する。なぜ、と聞く「君」に対して「大事なのは結末じゃない。必要なのは現在この熱風を肌に受け止めているという、その事実なのさ。・・・眠っていた言葉や感覚が高圧電気をおびたように、青い光を発してあふれ出すのは、こうした熱風の中でなんだ。人間が魂を実体として眼にすることが出来る、得がたい時なんだ。」何か急に恋愛物感高まりだしたな(笑)「その調子でくどけば、絶対に自分は傷つかずにすむわけね。」と皮肉を返す「君」に「半分は真実かもしれない。でも別の半面を君がまったく認められないというなら、もうやめてもいいんだよ。」と。「君」が無理をしていると見抜きながら彼は続ける。「時間は大事にしたい。しかし、時間を取り戻そうとは思わない。・・・すばらしい言葉の森と官能の海……そっと君の肌に指を触れただけで、時が停リ永遠がやってくる。この熱風の苦痛の中で、ぼくは死にいたるまで消えない、肉の変形術をほどこされるのだ」コイツやべぇ葉子さん逃げてえぇー!(>Д<;)キャー

≪そして閉幕の~≫「ぼくは間違っていなかった。失敗したかもしれないが、間違ってはいなかった。失敗は少しも後悔の理由にはならない。ぼくは別に結末のために生きて来たわけではないからだ。」この言葉、とても好きです。こういう風に考えられれば、もっと楽に生きられるのかもしれない、と場面やストーリー的に全く場違いの発想ながら純粋にそう思ってしまった。「彼女」が去った後でドアを塞ぐ計画を練る「ぼく」。窓や通気口は既に塞いであるらしい。「建物全体が完全に外界から遮断されて、出口も入口もなくなるのだ。そうした上でぼくは出発する。箱男にしか出来ない脱出だ。」窒息するよ!?Σ(゜Д゜;) 彼女と一言も言葉を交わさずに別れたことへの心残りを語りつつ「言葉が役に立ってくれる段階は既に過ぎ去ってしまっていた。眼を見交わしただけで、すべてが理解できた。完全すぎるものは、崩壊の過程に現れる現象の一つにしかすぎないのだ。」何という深い表現・・・。例の遺体安置室(軍医を殺した部屋)を気にしているということは、やはり元カメラマンじゃなくて贋医者の方なのか?
裸でくっついて自堕落な生活を送りながらも、それは「本当に楽観的だったのだろうか。ぼくらは最初から、ただ希望を放棄していただけなのだと思う。情熱とは、燃えつきようとする衝動なのだ。ぼくらは燃えつきようとして焦っていただけなのかもしれない。燃えつきる前に中断することは恐れていたが、現世的な持続を願っていたかどうかは疑わしい。」余りに破滅的な、けれどこういう状態(共犯・あるいは秘密の共有関係)に陥ってしまった男女にありがちな感情ですな(´-`) 体の一部をたえず接触させ、半径二・五メートル以内にいた二人。「その距離だとほとんど相手が見えないのだが、べつに不都合は感じない。・・・それ以上に、相手から見られていないという開放感が大きかった。ぼくは彼女の前で、部分に分解してしまっていた。・・・言葉そのものがすでに意味をなくしかけていた。時間も停止してしまっていた。・・・どんなに長く燃えつづけても、燃えつきてしまえば一瞬で終ることだった。」だから「ぼく」は彼女が裸ではなく服を着けて「ぼく」を見上げているのに気づいたとき、「さしたる混乱もなく、ちょっぴり振出しに戻った(何たって終わりから始まった恋だったんですもんね(^^;)ような落胆をおぼえただけですませられた。」と。けれど「振出しだったら、もう一度最初からやりなおしがきくのだろうか。もちろん何度でもやりなおしはきくはずだ。・・・しかし、何度やりなおしてみたところで、いずれまたこの同じ場所、同じ時間が繰返されるだけのことだろう。」という記述が切な過ぎて(´;ω;`)ブワッ

時計の文字盤の話はなるほどー、と思った。8は一日に二度ざらついた眼で見られるから風化して、逆に2は夜閉じた眼が無停車で通過してくれるから減り方も半分ですむ。けれど「もしまんべんなく風化した平らな時計を持っている者がいたら それはスタートしそこなった一周おくれの彼」全世界の睡眠障害を患ってらっしゃる皆さんがギクリとしたことだろう、私も含めて(^^)b 気づけばこの時間だもんね☆「だからいつも世界は一周進みすぎている 彼が見ているつもりになっているのはまだ始まってもいない世界 幻の時 開幕のベルも聞かずに劇は終わった」何コレ、何の暗喩なの・・・?(((゜Д゜;)))gkbr

再度≪………………≫の章。「彼女」閉じ込められっぱなしなのかよ!服もちゃんと着てて?玄関も非常階段も厳重に閉めきったって!?(@Д@;)アワワワワこえぇ!服を着ている彼女に見られるのが我慢ならないから、無効化するために電源を切った闇の中なら裸も同じ条件になり、彼女は再びやさしくなるとな?「箱から出るかわりに、世界を箱の中に閉じ込めてやる。いまこそ世界が眼を閉じてしまうべきなのだ。きっと思い通りになってくれるだろう。」途中までまるで自分の話、と思うくらい激しく共感していたけれど、ここで完全に彼と私は全く違う発想の元に動いているのだ、と哀れに思った(´・ω・`) 私は世界をどうこうしたいんじゃなくて、素晴らしい世界から自分という異物を少しでも除去、あるいは見えなくしたいんだもん。いないも同然の存在になりたいという動機が異なる。世界はこのまま眼を開いて、広がり続けてほしいよ。・・・と、彼女の部屋を訪ねてみると何とそこはただの路地裏でした。つまり全ては浮浪者の一形態としての箱男の妄想の話だったのだろうか?
「彼女を探し出さなければならない。しかし、もうそこから先には一歩も進む余地がない。ここもけっきょくは閉ざされた空間の一部であることに変りはなさそうだ。それにしても、彼女はどこに消えたのだろう。・・・さらに一歩踏み出してみたら、どうなるのかな。好奇心はある。しかし似たようなものだろう。いずれ同じ建物の中での出来事にすぎないのだ。」もしかして、ここで例えられている「建物」は街・ひいては世界全体を指すのだろうか?「世界を箱の中に閉じ込めてやる。」そう考えることで箱男なりに精神の安定を図ろうと?「大きなものを見ると死にたくなる」から、一つの建物の中に収まるくらい小さいものだと街や世界を捉えなおすことで均衡を保とうとしたのではないか、と似たような病気?を抱える身として考えちゃった(・・;)

落書のための余白の話は、人の持つ時間や人生そのものについて暗示しているのかもしれない。じゅうぶんに確保しておくべき余白、いやそれはいつだってじゅうぶんに決まっている。「いくら落書にはげんでみたところで、余白を埋めつくしたり出来っこない。・・・ある種の落書は余白そのものなのだ。すくなくも自分の署名に必要な空白だけは、いつまでも残っていてくれる。」だから白が怖いんだよねー正直。個人的に小、中と新しい学校に入学することが続きまして、綺麗すぎる学校って逆に怖いんですよ。古い小学校に転校して味のある図書室の本の匂いに接した時や、歴史ある高校の机の落書き盛り沢山な光景に何かホッとして愛着感じちゃいましたもん。人間、というか生き物の痕跡が残っていない空白の場所って、自分たちがソコを埋めていかないといけない、というプレッシャーや、圧倒的な無機物の感触?触感?に押しつぶされそうで苦手です。
「じっさい箱というやつは、いったん内側から眺めると迷路なのだ。もがけばもがくほど、その迷路に新しい節をつくって、ますます中の仕組みをもつれさせてしまう。」きっとこのフレーズには世界中の精神病患者や悩みのドツボにハマっておいでの皆さんが、自分の心や人生そのものの有様を重ね見て全力で同意なさることだろう(つД`) 特に現代版箱男、ヒッキーのみんな!「姿を消した彼女だって、この迷路の何処かにひそんでいることだけは確かなのだ。べつに逃げ去ったわけではなく、ぼくの居場所を見つけ出せずにいるだけのことだろう。いまならはっきりと確信をもって言うことが出来る。ぼくは少しも後悔なんかしていない。手掛りが多ければ、真相もその手掛りの数だけ存在していていいわけだ。」・・・素晴らしい!ブラボー!!ファンタスティコー!!!(゜m゜;)パチパチパチパチ
私が『わたしを離さないで』の感想で述べたカズオ・イシグロの絶妙な“日系”感がその結末の曖昧さ、読み手に託す意図にある、っていうのをより混沌として壮大なスケールでやってのけた、まさにそんな作品じゃないですか!?@握りこぶしo(`Д′)=3 結論から言うと何が真実でも、誰が箱男でも贋物でも、彼女だの君だの女教師が奈奈でも葉子でも良いんですよ。どう捉えようと自由、公房さんはその可能性を与えてくれた。どのストーリーでも納得できる手掛り、誰が死んでようが生きてようが、何中毒だろうが、どこをさまよってんのか、一件の家の中での出来事なのか。「ぼく」と「彼女」が本当のトコどういう関係だったのか。それでなお作品として空中分解してないわけよ。同時に作家として人間の本性とか世の中の不条理なんかの矛盾や真理を鋭く突いてもきている。あぁ何つーか、どういうことなのか分からなくて混乱しているけど、その混乱がむしろ喜ばしい。良かった、答えが出なくて!って全力で思える本に出会えたのは(以下略)

次は何に行こうかな?ちょっと続けて行くと沼に落っこちそうだから安定剤+花粉+風邪で頭ボーッとしてるし、分かりやすそうな『日の名残り』行っとこうかな。で、『壁』読みつつブクオフ巡りしたいなぁ。何かはあると信じて・・・。ある本読んでも良いんだけど、その時欲望が向いてる方と上手く噛み合わないと、せっかく読み始めても何かイマイチ楽しめないし集中できないんだよね><

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