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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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変わりゆく後宮と、リリアーヌの身に起こった変化。

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ゲオルクとの婚儀から半年が過ぎた。わたくしの暮らす後宮には、ゲオルクがエステンより連れ参った妾たちが“側室”の地位を得、我が者顔で贅沢三昧の日々を送っている。そしてその“側室”の一人には、かつてわたくしの友人であった我が国の貴族の娘、イヴェットもいつの間にか加わっていた。
 
「イヴェット、どうして……どうしてあなたが!?」
 
問いかけるわたくしに、イヴェットはすまして答えた。
 
「あら、だってゲオルク陛下はわたくしを側室に取り立てて下さる、とお約束して下さったんですもの! この国の皇帝たちときたら、先代も先々代もこれほど立派な後宮をお持ちになりながら、住まわれるのは皇后陛下ただお一人。皇帝と縁(えにし)を結ぶことを望む家々や娘たちの存在など、少しもお考えくださらなかったのですもの。まぁ先帝セドリック陛下に関しては、それも仕方のないことだったのかもしれませんけれど……」
 
チラリとこちらを流し見る瞳に、先々帝の娘であった先帝皇后(わたくし)への揶揄が籠る。
 
「あなたには……ヴィラール貴族としての誇りはないのですか!? わたくしたちの国を乗っ取った、あの野蛮な皇帝の側室となることがそれほどまでに嬉しいと!?」
 
「おやおや、その『野蛮な皇帝』を夜毎受け入れている、という意味ではあなたとて同じではありませんか、『皇后陛下』」
 
背後から聞こえてきた声と、跪くイヴェットの姿に振り向けば、側室の一人であるアデーレを腕に絡ませたままのゲオルクが慇懃な笑みを浮かべて近づいてくるところだった。イヴェットはその発言にクスクスと嗤いを堪え切れずにいる。
 
「……これはこれは皇帝陛下。よもや昼間から後宮においでになるとは思いもよりませんでしたわ」
 
羞恥と憤りの限界を堪え、膝を折ってかたちばかりの挨拶をすると、彼は苦笑して未だねっとりと身体を寄せ合ったままのアデーレと含み笑いを交わしてみせた。
 
「“生粋の皇族”であらせられるリリアーヌには余り見られたくなかった姿だな……。でもこいつが明け方まで離してくれないもんだから、起きたらこんな時間になっていてね」
 
アデーレはゲオルクがエステンから伴った愛妾たちの中でも一番の古株で、元はどこぞの娼館にいた彼の情婦であったとも聞く。豊満な肉体に男に媚びるかのような下品な笑みを浮かべ、我が者顔にこの後宮の実質的な支配者であるかのごとく振る舞うこの女のことが、わたくしは嫌いだった。 父が、セドリック様が大切に慈しんできたこの宮が変えられてしまう、失われてしまう!
 
「それにしてもゲオルク、今度の王妃様……ああ違った、皇后様でいらしたわね。って、随分とお綺麗だし馬鹿じゃないのね! あのクリスティーネ王女とは大違い!」 
 
黙り込むわたくしにかけられたアデーレの言葉に、亡きエステン王女の名前が混じり、わたくしは思わず顔を上げた。
 
「あの方ったら、父王陛下が亡くなられてあたしたちが堂々と王宮に出入りするようになったら、それはもう毎日ヒステリーの嵐で! ベソベソと泣き出すわ大声で喚き散らすわ、本当にあたしもマルガも大変だったわ。ねぇ、マルガ?」
 
アデーレと同じくゲオルクがエステンから伴った側室の一人、傍らの木陰で寝そべっていたマルガがアデーレの言にゆっくりと起き上がり、頷いてみせる。
 
「そうね、王女といっても多少顔立ちや物腰がお上品、ってだけで身体も頭も使えない方だったから、あたしたちに嫉妬してたんじゃないかしら? アデーレ。でも最期は少しお可哀想だったわ。折角陛下の久しぶりのお渡りだ、って喜んでいらっしゃったのに」
 
「あっという間に毒でコロリ、ですものね! 確かにあの方は邪魔だったけど、一国の王女殿下に対してアレはいくら何でも酷かったと思うわよ、ゲオルク」
 
淡々と、まるでわたくしに聞かせてでもいるかのようにわざと丁寧に事の仔細を話している側室たちの言葉を、受け止めることを心が拒む。それではやはりゲオルクの王妃は、エステン王国のクリスティーネ王女は!
 
「こらこらおまえたち、お喋りが過ぎるぞ。リリアーヌがすっかり怯えてしまっているじゃないか。皆の者、今聞いた話は一応他言無用に。エステンなど、もうとうに滅びた国だが、一体どこに“忠義の残党”なる者が紛れ込んでいるか分からぬからな」
 
 
~~~
 
 
クスクスと嘲笑を洩らす側室たちの間をすり抜け、何とか己の部屋に帰りついたわたくしはフラフラとソファに倒れ込んだ。やはり、クリスティーネ王女は暗殺された。自らの夫であるゲオルクに毒を盛られて! それではわたくしもいつか……
 
「……うっ……!」
 
込み上げる吐き気に手水場へと駆け込んだわたくしに、腹心の女官であるシルヴィが心配そうに駆け寄ってくる。
 
「皇后様! 大丈夫ですか? ……あのような女たちの言うことなど、気にすることはございません」
 
「ええ、そうねシルヴィ。わたくしはちっとも気にしてなどいないわ。大丈夫、だいじょう……ぶ……よ……」
 
「皇后様! リリアーヌ様! 誰か、誰かお医者様を……!」
 
 
~~~
 
 
次に目覚めたとき、わたくしは自分の寝台の上に横たわり、枕辺にはゲオルクがエステンから連れて来た侍医のヘルマンが座っていた。
 
「皇后陛下、お目覚めになられましたか。まずは一言お祝いを。この度は、まことにおめでとうございます」
 
「一体何が……めでたいと言うのです?」
 
力の入らない身体で首だけを動かしてヘルマンに問えば、彼は笑って答えた。
 
「ご懐妊が判ったのですよ。三か月というところでしょう。皇帝陛下にとっても初めてのお子が、皇后陛下のお腹(はら)に宿るとは何ともめでたい!」
 
「……なんですって?」
 
わたくしは頭の中が真っ白になった。ゲオルクの、セドリック様を殺したゲオルクの子が、今わたくしの腹の中に! わたくしが身籠るはずだったのは、わたくしが生むはずだったのはセドリック様のお子だった。そのセドリック様と三年も夫婦として暮らしながら一度も授からなかった赤子が、たった半年で! ああ、何ということだろう。きっとゲオルクはわたくしに、皇族の女に己が長子を生ませるつもりで、これまで芽生えた命は葬ってきたのだろう。ゴットホルト王と、クリスティーネ王女と同じように! この子は大勢の命の犠牲の上に成り立っている。ああ、何ということだろう!
 
「夜には皇帝陛下もこちらにお見えになります。どうかそれまでごゆるりと休まれ、決して無茶はなさいませんよう」
 
そう告げるヘルマンの言葉に促されるようにわたくしの意識は沈み、それから二度と浮上することはなかった。






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ゲオルクとの婚儀から半年が過ぎた。わたくしの暮らす後宮には、ゲオルクがエステンより連れ参った妾たちが“側室”の地位を得、我が者顔で贅沢三昧の日々を送っている。そしてその“側室”の一人には、かつてわたくしの友人であった我が国の貴族の娘、イヴェットもいつの間にか加わっていた。
 
「イヴェット、どうして……どうしてあなたが!?」
 
問いかけるわたくしに、イヴェットはすまして答えた。
 
「あら、だってゲオルク陛下はわたくしを側室に取り立てて下さる、とお約束して下さったんですもの! この国の皇帝たちときたら、先代も先々代もこれほど立派な後宮をお持ちになりながら、住まわれるのは皇后陛下ただお一人。皇帝と縁(えにし)を結ぶことを望む家々や娘たちの存在など、少しもお考えくださらなかったのですもの。まぁ先帝セドリック陛下に関しては、それも仕方のないことだったのかもしれませんけれど……」
 
チラリとこちらを流し見る瞳に、先々帝の娘であった先帝皇后(わたくし)への揶揄が籠る。
 
「あなたには……ヴィラール貴族としての誇りはないのですか!? わたくしたちの国を乗っ取った、あの野蛮な皇帝の側室となることがそれほどまでに嬉しいと!?」
 
「おやおや、その『野蛮な皇帝』を夜毎受け入れている、という意味ではあなたとて同じではありませんか、『皇后陛下』」
 
背後から聞こえてきた声と、跪くイヴェットの姿に振り向けば、側室の一人であるアデーレを腕に絡ませたままのゲオルクが慇懃な笑みを浮かべて近づいてくるところだった。イヴェットはその発言にクスクスと嗤いを堪え切れずにいる。
 
「……これはこれは皇帝陛下。よもや昼間から後宮においでになるとは思いもよりませんでしたわ」
 
羞恥と憤りの限界を堪え、膝を折ってかたちばかりの挨拶をすると、彼は苦笑して未だねっとりと身体を寄せ合ったままのアデーレと含み笑いを交わしてみせた。
 
「“生粋の皇族”であらせられるリリアーヌには余り見られたくなかった姿だな……。でもこいつが明け方まで離してくれないもんだから、起きたらこんな時間になっていてね」
 
アデーレはゲオルクがエステンから伴った愛妾たちの中でも一番の古株で、元はどこぞの娼館にいた彼の情婦であったとも聞く。豊満な肉体に男に媚びるかのような下品な笑みを浮かべ、我が者顔にこの後宮の実質的な支配者であるかのごとく振る舞うこの女のことが、わたくしは嫌いだった。 父が、セドリック様が大切に慈しんできたこの宮が変えられてしまう、失われてしまう!
 
「それにしてもゲオルク、今度の王妃様……ああ違った、皇后様でいらしたわね。って、随分とお綺麗だし馬鹿じゃないのね! あのクリスティーネ王女とは大違い!」 
 
黙り込むわたくしにかけられたアデーレの言葉に、亡きエステン王女の名前が混じり、わたくしは思わず顔を上げた。
 
「あの方ったら、父王陛下が亡くなられてあたしたちが堂々と王宮に出入りするようになったら、それはもう毎日ヒステリーの嵐で! ベソベソと泣き出すわ大声で喚き散らすわ、本当にあたしもマルガも大変だったわ。ねぇ、マルガ?」
 
アデーレと同じくゲオルクがエステンから伴った側室の一人、傍らの木陰で寝そべっていたマルガがアデーレの言にゆっくりと起き上がり、頷いてみせる。
 
「そうね、王女といっても多少顔立ちや物腰がお上品、ってだけで身体も頭も使えない方だったから、あたしたちに嫉妬してたんじゃないかしら? アデーレ。でも最期は少しお可哀想だったわ。折角陛下の久しぶりのお渡りだ、って喜んでいらっしゃったのに」
 
「あっという間に毒でコロリ、ですものね! 確かにあの方は邪魔だったけど、一国の王女殿下に対してアレはいくら何でも酷かったと思うわよ、ゲオルク」
 
淡々と、まるでわたくしに聞かせてでもいるかのようにわざと丁寧に事の仔細を話している側室たちの言葉を、受け止めることを心が拒む。それではやはりゲオルクの王妃は、エステン王国のクリスティーネ王女は!
 
「こらこらおまえたち、お喋りが過ぎるぞ。リリアーヌがすっかり怯えてしまっているじゃないか。皆の者、今聞いた話は一応他言無用に。エステンなど、もうとうに滅びた国だが、一体どこに“忠義の残党”なる者が紛れ込んでいるか分からぬからな」
 
 
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クスクスと嘲笑を洩らす側室たちの間をすり抜け、何とか己の部屋に帰りついたわたくしはフラフラとソファに倒れ込んだ。やはり、クリスティーネ王女は暗殺された。自らの夫であるゲオルクに毒を盛られて! それではわたくしもいつか……
 
「……うっ……!」
 
込み上げる吐き気に手水場へと駆け込んだわたくしに、腹心の女官であるシルヴィが心配そうに駆け寄ってくる。
 
「皇后様! 大丈夫ですか? ……あのような女たちの言うことなど、気にすることはございません」
 
「ええ、そうねシルヴィ。わたくしはちっとも気にしてなどいないわ。大丈夫、だいじょう……ぶ……よ……」
 
「皇后様! リリアーヌ様! 誰か、誰かお医者様を……!」
 
 
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次に目覚めたとき、わたくしは自分の寝台の上に横たわり、枕辺にはゲオルクがエステンから連れて来た侍医のヘルマンが座っていた。
 
「皇后陛下、お目覚めになられましたか。まずは一言お祝いを。この度は、まことにおめでとうございます」
 
「一体何が……めでたいと言うのです?」
 
力の入らない身体で首だけを動かしてヘルマンに問えば、彼は笑って答えた。
 
「ご懐妊が判ったのですよ。三か月というところでしょう。皇帝陛下にとっても初めてのお子が、皇后陛下のお腹(はら)に宿るとは何ともめでたい!」
 
「……なんですって?」
 
わたくしは頭の中が真っ白になった。ゲオルクの、セドリック様を殺したゲオルクの子が、今わたくしの腹の中に! わたくしが身籠るはずだったのは、わたくしが生むはずだったのはセドリック様のお子だった。そのセドリック様と三年も夫婦として暮らしながら一度も授からなかった赤子が、たった半年で! ああ、何ということだろう。きっとゲオルクはわたくしに、皇族の女に己が長子を生ませるつもりで、これまで芽生えた命は葬ってきたのだろう。ゴットホルト王と、クリスティーネ王女と同じように! この子は大勢の命の犠牲の上に成り立っている。ああ、何ということだろう!
 
「夜には皇帝陛下もこちらにお見えになります。どうかそれまでごゆるりと休まれ、決して無茶はなさいませんよう」
 
そう告げるヘルマンの言葉に促されるようにわたくしの意識は沈み、それから二度と浮上することはなかった。






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