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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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ここからゲオルク視点。途中時間軸も一気に飛びますのでご注意。

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エステンより伴った優秀な侍医ヘルマンからリリアーヌの懐妊を聞いた瞬間、俺は己の計画が再び大きく前進したことを知り、ほくそ笑んだ。これまで葬ってきた幾人かの我が子たちも、これで浮かばれることだろう。
 
リリアーヌ。あの恐ろしく美しい毛並みをヤマアラシのごとく逆立てて俺を睨めつける、俺の后。気位高い姫君は“蛮族”たる俺の子を身籠った事実をどう受け止めているだろうか。そう楽しみに想像を巡らせながら訪れた皇后の部屋は、それまでとはすっかり雰囲気の異なるものへと変貌していた。
 
「……皇帝陛下、ようこそいらせられました」
 
出迎えた女官たちの表情(かお)は、皆一様に暗い。
 
「どうした? 何があったのだ?」
 
と問いかける前に、奥の間からリリアーヌが姿を現した。
 
「まぁ、陛下。来て下さったのね、嬉しいわ。聞いて下さい、わたくしとうとう陛下のお子を授かりましたの! 本当はわたくしが一番にお知らせしたかったのですけれど、きっとヘルマンがもう陛下のお耳にお入れしていることでしょうね……」
 
明るく、眩ゆいばかりの笑顔を振りまいてみせるリリアーヌの姿は初めて見る。彼女に最も長く仕えている、という女官のシルヴィを振り返れば、彼女は悲しそうに首を振ってこう告げた。
 
「侍医(せんせい)がお帰りになられてから皇后様は再びお眠りになり、次に目を覚まされた時には既にこのような有様でございました。畏れ多いことながらおそらく皇后様は陛下を……先帝・セドリック様と思い込まれておいでかと」
 
シルヴィの言葉に、納得してリリアーヌを見やる。子が出来たことを喜んではくれないのか、祝福してはくれないのか、と不安そうにたゆたう長い睫毛に縁取られた大きな碧い瞳。こんな眼差しを、俺は彼女から向けられたことは一度もない。こんな頼りなげな彼女を目にしたことは一度もない。俺は勝った、と思った。この高飛車な女の心を粉々に砕いてやったのだ、と。俺をセドリックと思い込んだこの女は、これから先二度と俺に逆らわず、従順で理想的な后となるだろう。そしてその姿を見た根強い反エステンのヴィラール臣民どもも、きっと俺に従うようになるだろう。俺は今にも大声を上げて笑い出したい気分だった。
 
「そうか、それはいい……。ああ、リリアーヌ、不安にさせたね。まずは君に“おめでとう”と告げるべきだった。おめでとうリリアーヌ、そしてありがとう。嬉しいよ、“私”の子供を身籠ってくれて……」
 
頬に軽く口付けをすると以前ならばすぐに手を叩き落されたものだが、“今”のリリアーヌは顔中を薔薇色に染めて、心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
 
ああ、俺は遂にリリアーヌを支配した! この国そのものである皇后を、内からも外からも完全に手に入れてやったのだ! この『卑しい』俺、かつては名字すら持たなかったゲオルクが!
 
高らかに笑い、リリアーヌを寝台へと運ぶ俺の後ろ姿を、背後で女官たちが心配そうに見守っていた。しかしやがては彼女たちも、何が主の心の平穏にとって大切なことかを理解し、俺を、俺をセドリックと認識する主を受け入れるようになるだろう。何せ俺は紛れもないリリアーヌの夫! このヴィラール帝国の現皇帝であるのだから!
 
 
~~~
 
 
皇后リリアーヌと俺の間には、四人の皇子と三人の皇女が生まれた。懐いてみれば、リリアーヌは実に可愛らしい女だった。元々その艶やかで美しい容姿は今まで見た数多の女たちの中で一番と言って良いほど気に入っていたし、皇女らしい気品と一見相反する家庭的な側面……料理や裁縫を好み、俺や子供たちの口に入るもの、身に付けるものを全て自分であつらえ、もしくは管理しようとする様は素直に微笑ましかった。例えそれが、俺を幼きころより慕い続けた前夫、セドリックと信じきって行われたことであったとしても。
 
 
~~~
 
 
「陛下は最近皇后の部屋にしか行かれませんのね。寂しいわ」
 
「何よあの女、子供が出来た途端手のひら返しちゃって。陛下も陛下よね、いくらこの国の皇族の血が欲しいからって」
 
妾(おんな)たちの戯言は聞き飽きた。いつの間にか後宮は閑散とし、古くからの馴染であるアデーレとマルガを初め、ほんの少数の行くあてのない女たちだけが残る場所となり果てていた。
 
「ヴィラール帝国に後宮はあれど、その主は皇后だけ……皇帝の心の奥に、ただ一人住まうことができるのは皇后だけ……とは、よく言ったものですわね、陛下」
 
にっこりと微笑むアデーレに、皇后の寝所へと足を急いでいた俺は苦い笑みを返した。
 
「皇后様のお加減は未だに回復なさらないとか……?」
 
「うるさい! 黙れ、アデーレ!」
 
「まぁ、怖い。初めて見ましたわ。そんなに取り乱して誰かを怒鳴るあなたなんて」
 
ここ暫くその室を訪うことの無かったかつての情婦アデーレは、俺の怒声にほんの少し寂しそうに笑い、頬をするりと一撫でして去っていった。
 
 
~~~
 
 
アデーレの言葉通り、リリアーヌは末娘であるミレーヌを生んで以来、 ずっと床に臥したままの状態が続いている。ヘルマンからも
 
『今年いっぱいもつかどうか……お覚悟なさいませ』
 
と告げられていた。
 
リリアーヌが死ぬ。俺がこの国を手に入れるために最も必要だった手駒、どんな兵士よりも、どんな参謀よりも“役に立った”俺の后(おんな)が! ……最後まで、俺を“俺”だと認識しないまま、先帝セドリックだと思い込んだまま……。そうだ、その方が都合が良い、と信じ込ませてきたのは自分ではないか。それなのに今になって感じるこの焦燥は、悔恨は一体何なのだ!? リリアーヌにとって、あの女にとって俺は一生“セドリックのまぼろし”で終わるのか? それが、多くの血を流しこの強大な帝国を乗っ取った俺への罰だというのか!?
 
「へい……か……、いらしてらしたのね」
 
枕辺に蹲る私に気がつくと、リリアーヌは衰えた身体を必死に起こそうとしてみせた。
 
「駄目だリリアーヌ、起き上がってはいけない」
 
「別に一度や二度起き上がったくらいで……運命(さだめ)からは逃れられませんわ」
 
どこか遠い目をして呟くリリアーヌの言葉が、俺の心に突き刺さる。
 
「リリアーヌ、おまえはすぐに良くなる。子供たちは皆、おまえが元気になって抱きしめてくれるのを待っている。子供たちを、私を置いて逝ってしまっても良いのか? リリアーヌ」
 
俺の言葉に、リリアーヌはクスリと笑った。
 
「あなたは別に、わたくしに置いていかれようと一向に構わないのでは?」
 
「……それはどういう意味だ、リリアーヌ?」
 
怪訝そうな眼差しを彼女に向ければ、彼女はまたゆるりと微笑んでこう告げた。
 
「……いいえ、陛下。わたくしは陛下の足枷になりたくはないのです。わたくしが言うまでもないことは承知の上で申し上げますが、どうかわたくし亡き後は遠慮なく新しいお后様を娶られて幸せにおなり下さいませ」
 
「そのような不吉なことを言うな!」
 
今にも儚く消え失せてしまいそうなその白い手を強く握りしめる。これまで誰を亡くしたときも、葬ったときもこんなことはしたことが無かった。これほどまでに胸を引きちぎられるような痛みを感じることも無かった!
 
「陛下……わたくし、幸せでしたわ。陛下の后となって、可愛い子供たちに恵まれて」
 
本当に幸せそうに微笑む、やつれきった面ざしに堪えかねて俺は叫んだ。
 
「違う、違うんだ、リリアーヌ! おまえの『陛下』は……セドリックはもう十六年も前に俺が殺した! おまえの目の前にいるおまえの夫……今の皇帝は“俺”なんだ、リリアーヌ!」







 

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エステンより伴った優秀な侍医ヘルマンからリリアーヌの懐妊を聞いた瞬間、俺は己の計画が再び大きく前進したことを知り、ほくそ笑んだ。これまで葬ってきた幾人かの我が子たちも、これで浮かばれることだろう。
 
リリアーヌ。あの恐ろしく美しい毛並みをヤマアラシのごとく逆立てて俺を睨めつける、俺の后。気位高い姫君は“蛮族”たる俺の子を身籠った事実をどう受け止めているだろうか。そう楽しみに想像を巡らせながら訪れた皇后の部屋は、それまでとはすっかり雰囲気の異なるものへと変貌していた。
 
「……皇帝陛下、ようこそいらせられました」
 
出迎えた女官たちの表情(かお)は、皆一様に暗い。
 
「どうした? 何があったのだ?」
 
と問いかける前に、奥の間からリリアーヌが姿を現した。
 
「まぁ、陛下。来て下さったのね、嬉しいわ。聞いて下さい、わたくしとうとう陛下のお子を授かりましたの! 本当はわたくしが一番にお知らせしたかったのですけれど、きっとヘルマンがもう陛下のお耳にお入れしていることでしょうね……」
 
明るく、眩ゆいばかりの笑顔を振りまいてみせるリリアーヌの姿は初めて見る。彼女に最も長く仕えている、という女官のシルヴィを振り返れば、彼女は悲しそうに首を振ってこう告げた。
 
「侍医(せんせい)がお帰りになられてから皇后様は再びお眠りになり、次に目を覚まされた時には既にこのような有様でございました。畏れ多いことながらおそらく皇后様は陛下を……先帝・セドリック様と思い込まれておいでかと」
 
シルヴィの言葉に、納得してリリアーヌを見やる。子が出来たことを喜んではくれないのか、祝福してはくれないのか、と不安そうにたゆたう長い睫毛に縁取られた大きな碧い瞳。こんな眼差しを、俺は彼女から向けられたことは一度もない。こんな頼りなげな彼女を目にしたことは一度もない。俺は勝った、と思った。この高飛車な女の心を粉々に砕いてやったのだ、と。俺をセドリックと思い込んだこの女は、これから先二度と俺に逆らわず、従順で理想的な后となるだろう。そしてその姿を見た根強い反エステンのヴィラール臣民どもも、きっと俺に従うようになるだろう。俺は今にも大声を上げて笑い出したい気分だった。
 
「そうか、それはいい……。ああ、リリアーヌ、不安にさせたね。まずは君に“おめでとう”と告げるべきだった。おめでとうリリアーヌ、そしてありがとう。嬉しいよ、“私”の子供を身籠ってくれて……」
 
頬に軽く口付けをすると以前ならばすぐに手を叩き落されたものだが、“今”のリリアーヌは顔中を薔薇色に染めて、心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
 
ああ、俺は遂にリリアーヌを支配した! この国そのものである皇后を、内からも外からも完全に手に入れてやったのだ! この『卑しい』俺、かつては名字すら持たなかったゲオルクが!
 
高らかに笑い、リリアーヌを寝台へと運ぶ俺の後ろ姿を、背後で女官たちが心配そうに見守っていた。しかしやがては彼女たちも、何が主の心の平穏にとって大切なことかを理解し、俺を、俺をセドリックと認識する主を受け入れるようになるだろう。何せ俺は紛れもないリリアーヌの夫! このヴィラール帝国の現皇帝であるのだから!
 
 
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皇后リリアーヌと俺の間には、四人の皇子と三人の皇女が生まれた。懐いてみれば、リリアーヌは実に可愛らしい女だった。元々その艶やかで美しい容姿は今まで見た数多の女たちの中で一番と言って良いほど気に入っていたし、皇女らしい気品と一見相反する家庭的な側面……料理や裁縫を好み、俺や子供たちの口に入るもの、身に付けるものを全て自分であつらえ、もしくは管理しようとする様は素直に微笑ましかった。例えそれが、俺を幼きころより慕い続けた前夫、セドリックと信じきって行われたことであったとしても。
 
 
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「陛下は最近皇后の部屋にしか行かれませんのね。寂しいわ」
 
「何よあの女、子供が出来た途端手のひら返しちゃって。陛下も陛下よね、いくらこの国の皇族の血が欲しいからって」
 
妾(おんな)たちの戯言は聞き飽きた。いつの間にか後宮は閑散とし、古くからの馴染であるアデーレとマルガを初め、ほんの少数の行くあてのない女たちだけが残る場所となり果てていた。
 
「ヴィラール帝国に後宮はあれど、その主は皇后だけ……皇帝の心の奥に、ただ一人住まうことができるのは皇后だけ……とは、よく言ったものですわね、陛下」
 
にっこりと微笑むアデーレに、皇后の寝所へと足を急いでいた俺は苦い笑みを返した。
 
「皇后様のお加減は未だに回復なさらないとか……?」
 
「うるさい! 黙れ、アデーレ!」
 
「まぁ、怖い。初めて見ましたわ。そんなに取り乱して誰かを怒鳴るあなたなんて」
 
ここ暫くその室を訪うことの無かったかつての情婦アデーレは、俺の怒声にほんの少し寂しそうに笑い、頬をするりと一撫でして去っていった。
 
 
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アデーレの言葉通り、リリアーヌは末娘であるミレーヌを生んで以来、 ずっと床に臥したままの状態が続いている。ヘルマンからも
 
『今年いっぱいもつかどうか……お覚悟なさいませ』
 
と告げられていた。
 
リリアーヌが死ぬ。俺がこの国を手に入れるために最も必要だった手駒、どんな兵士よりも、どんな参謀よりも“役に立った”俺の后(おんな)が! ……最後まで、俺を“俺”だと認識しないまま、先帝セドリックだと思い込んだまま……。そうだ、その方が都合が良い、と信じ込ませてきたのは自分ではないか。それなのに今になって感じるこの焦燥は、悔恨は一体何なのだ!? リリアーヌにとって、あの女にとって俺は一生“セドリックのまぼろし”で終わるのか? それが、多くの血を流しこの強大な帝国を乗っ取った俺への罰だというのか!?
 
「へい……か……、いらしてらしたのね」
 
枕辺に蹲る私に気がつくと、リリアーヌは衰えた身体を必死に起こそうとしてみせた。
 
「駄目だリリアーヌ、起き上がってはいけない」
 
「別に一度や二度起き上がったくらいで……運命(さだめ)からは逃れられませんわ」
 
どこか遠い目をして呟くリリアーヌの言葉が、俺の心に突き刺さる。
 
「リリアーヌ、おまえはすぐに良くなる。子供たちは皆、おまえが元気になって抱きしめてくれるのを待っている。子供たちを、私を置いて逝ってしまっても良いのか? リリアーヌ」
 
俺の言葉に、リリアーヌはクスリと笑った。
 
「あなたは別に、わたくしに置いていかれようと一向に構わないのでは?」
 
「……それはどういう意味だ、リリアーヌ?」
 
怪訝そうな眼差しを彼女に向ければ、彼女はまたゆるりと微笑んでこう告げた。
 
「……いいえ、陛下。わたくしは陛下の足枷になりたくはないのです。わたくしが言うまでもないことは承知の上で申し上げますが、どうかわたくし亡き後は遠慮なく新しいお后様を娶られて幸せにおなり下さいませ」
 
「そのような不吉なことを言うな!」
 
今にも儚く消え失せてしまいそうなその白い手を強く握りしめる。これまで誰を亡くしたときも、葬ったときもこんなことはしたことが無かった。これほどまでに胸を引きちぎられるような痛みを感じることも無かった!
 
「陛下……わたくし、幸せでしたわ。陛下の后となって、可愛い子供たちに恵まれて」
 
本当に幸せそうに微笑む、やつれきった面ざしに堪えかねて俺は叫んだ。
 
「違う、違うんだ、リリアーヌ! おまえの『陛下』は……セドリックはもう十六年も前に俺が殺した! おまえの目の前にいるおまえの夫……今の皇帝は“俺”なんだ、リリアーヌ!」







 

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