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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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雨ときどきセックス嫌悪』続編。
タイトル通りの要素が含まれますので苦手な方はご注意ください。

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「うん……うん、だから今日は帰れないってば。サユリんちに泊めてもらうから。
……いいよ、迎えに来ないで」
 
濡れた髪を拭いながら、携帯を耳元に当てた彼女の背中をそっと見やる。
貸したTシャツの襟ぐりの少し上、隠れるか、隠れないかの絶妙な位置に、その痕はあった。
以前、彼女が必死に隠そうとしていたもの。私が見てみぬフリをしてきたもの。
今日一日で、それが壊れる予感を、私は感じていた。
 
「おうち、大丈夫そう?」
 
フゥ、と溜め息を吐いて携帯を手放した彼女に、努めて自然な調子で話しかける。
 
「うん。……たぶん」
 
彼女は少し困ったように笑って、頷いた。
外は雷雨。雨は、一晩中止まないと天気予報が告げていた。
 
「……気持ち悪いって、思わないの?」
 
静かに問いかける、彼女の声。あの日も、激しい雨が降っていた。
 
「さっきの電話の相手……弟さん?」
 
知っていて、知らないフリ。彼女を、傷つけたくなかった。
 
「うん、そうだよ」
 
彼女はすっと立ち上がった。窓の外を見つめる視線が遠くを彷徨う。
真っ直ぐで、強い瞳だった。
 
 
~~~
 
 
『あの、ナオミは、うちの姉はどこにいますか!?』
 
校門で、傘を手にしたずぶ濡れの少年に話しかけられたとき、
私も、一緒にいた幼馴染も驚きを隠せなかった。
 
『さあ、わかんない……ナオミちゃんは、もう帰ったんじゃないかなぁ?』
 
『そんな……っ!』
 
慌てて答えた私に彼は焦ったように舌打ちをして、その後すぐに頭を下げた。
 
『すいません、どうもありがとうございましたっ!』
 
告げるや否や、再び雨の中に駆け出していった思春期の少年の背中。
思えばそれが、始まりの時だったのかもしれない。
 
『何だぁ、アレ?』
 
『さぁ……ナオミちゃんの弟さんかなぁ?』
 
呆然と呟いて、少年を見送った翌日。
 
『昨日、弟さんみたいな子が探しに来てたよ。ちゃんと濡れずに家帰れた?』
 
と話しかけた私に、ナオミは一瞬顔を強張らせて、次に頬を染め、
溜め息とも吐息とも付かぬ息を吐き出しながらこう答えた。
 
『うん……ごめんね』
 
気の強いナオミが初めて見せた、安堵のような、哀しみのような表情に、
思わず目を見開く。
 
『弟さん、ナオミちゃんのこと大好きなんだね。あんな必死になって……』
 
『やめて!』
 
話を誤魔化すようにからかう私の言葉を、常に無い強い口調で彼女は遮った。
 
『そんなことない……お母さんに、頼まれただけだから』
 
いつも冷静な彼女の綻び。
それがどこから生じるものか、日を追うごとに気づいていかざるを得なかった。
 
 
~~~
 
 
時たま顔を合わせると無表情に会釈をする。
背も伸び、体つきもたくましくなった彼女の弟。
あの雨の日から変わることなく、姉を見つめる目はどこまでも優しく……深い。
そして彼女も、また。
 
「彼氏がいない」と公言し、またその素振りを見せたことがない彼女が、
最初に隙を見せたのは共に訪れた下着売り場でのことだった。
カーテンの向こうの、狭い更衣室。彼女は店員の採寸を断った。
ブラウスの隙間から、うっすらと覗くそれに、気づかないふりをしてきた私。
その私に、彼女がハッキリとした言葉で伝えた瞬間だった。
 
 
~~~
 
 
『気持ち悪いでしょ?』の続きを、私は確かに知っている。
 
彼女の期待する答え。私の思う答え。そうして暫しの沈黙……
正確に言えば、窓の外からひっきりなしに轟く雷鳴の音が響いてはいたが。
逡巡を経た後、私は静かに口を開いた。
 
「私はさ、善悪の定義なんて場所とか、時代とか、人によってコロコロ変わるもんだ、
って思ってるし、“今”何が正しくて何が悪いかなんてわかんないよ。決めらんない。
……ただ、それが“イケナイ”って言われてる世の中だって解ってても
そうしたい、って覚悟決めてるなら、私はそれでいいと思う。
文句とか、批判とかは言わないし、言えないよ」
 
本当は、止めるべきだったのかもしれない。
それは間違ってるんだよ、お互いの“シアワセ”を考えるなら早くやめなよ、と。
そう告げなかった私は、冷たくて酷い友達なのかもしれない。
でも言わなかった。言えなかった。だって。
 
「あんたたちが“イケナイ” なら、私だって……」
 
“男”を呪い、“女”を憎み、同性に叶わない気持ちを抱いた。
何が違うというのだろう? ただ、正常な命のリレーから外れたもの同士。

何かが崩れ落ちるように泣き出した彼女に向かって呟いた私の囁きは
轟音に溶けゆき、闇の中へと消えて行った。





→『暴風ときどき引きこもり

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「うん……うん、だから今日は帰れないってば。サユリんちに泊めてもらうから。
……いいよ、迎えに来ないで」
 
濡れた髪を拭いながら、携帯を耳元に当てた彼女の背中をそっと見やる。
貸したTシャツの襟ぐりの少し上、隠れるか、隠れないかの絶妙な位置に、その痕はあった。
以前、彼女が必死に隠そうとしていたもの。私が見てみぬフリをしてきたもの。
今日一日で、それが壊れる予感を、私は感じていた。
 
「おうち、大丈夫そう?」
 
フゥ、と溜め息を吐いて携帯を手放した彼女に、努めて自然な調子で話しかける。
 
「うん。……たぶん」
 
彼女は少し困ったように笑って、頷いた。
外は雷雨。雨は、一晩中止まないと天気予報が告げていた。
 
「……気持ち悪いって、思わないの?」
 
静かに問いかける、彼女の声。あの日も、激しい雨が降っていた。
 
「さっきの電話の相手……弟さん?」
 
知っていて、知らないフリ。彼女を、傷つけたくなかった。
 
「うん、そうだよ」
 
彼女はすっと立ち上がった。窓の外を見つめる視線が遠くを彷徨う。
真っ直ぐで、強い瞳だった。
 
 
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『あの、ナオミは、うちの姉はどこにいますか!?』
 
校門で、傘を手にしたずぶ濡れの少年に話しかけられたとき、
私も、一緒にいた幼馴染も驚きを隠せなかった。
 
『さあ、わかんない……ナオミちゃんは、もう帰ったんじゃないかなぁ?』
 
『そんな……っ!』
 
慌てて答えた私に彼は焦ったように舌打ちをして、その後すぐに頭を下げた。
 
『すいません、どうもありがとうございましたっ!』
 
告げるや否や、再び雨の中に駆け出していった思春期の少年の背中。
思えばそれが、始まりの時だったのかもしれない。
 
『何だぁ、アレ?』
 
『さぁ……ナオミちゃんの弟さんかなぁ?』
 
呆然と呟いて、少年を見送った翌日。
 
『昨日、弟さんみたいな子が探しに来てたよ。ちゃんと濡れずに家帰れた?』
 
と話しかけた私に、ナオミは一瞬顔を強張らせて、次に頬を染め、
溜め息とも吐息とも付かぬ息を吐き出しながらこう答えた。
 
『うん……ごめんね』
 
気の強いナオミが初めて見せた、安堵のような、哀しみのような表情に、
思わず目を見開く。
 
『弟さん、ナオミちゃんのこと大好きなんだね。あんな必死になって……』
 
『やめて!』
 
話を誤魔化すようにからかう私の言葉を、常に無い強い口調で彼女は遮った。
 
『そんなことない……お母さんに、頼まれただけだから』
 
いつも冷静な彼女の綻び。
それがどこから生じるものか、日を追うごとに気づいていかざるを得なかった。
 
 
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時たま顔を合わせると無表情に会釈をする。
背も伸び、体つきもたくましくなった彼女の弟。
あの雨の日から変わることなく、姉を見つめる目はどこまでも優しく……深い。
そして彼女も、また。
 
「彼氏がいない」と公言し、またその素振りを見せたことがない彼女が、
最初に隙を見せたのは共に訪れた下着売り場でのことだった。
カーテンの向こうの、狭い更衣室。彼女は店員の採寸を断った。
ブラウスの隙間から、うっすらと覗くそれに、気づかないふりをしてきた私。
その私に、彼女がハッキリとした言葉で伝えた瞬間だった。
 
 
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『気持ち悪いでしょ?』の続きを、私は確かに知っている。
 
彼女の期待する答え。私の思う答え。そうして暫しの沈黙……
正確に言えば、窓の外からひっきりなしに轟く雷鳴の音が響いてはいたが。
逡巡を経た後、私は静かに口を開いた。
 
「私はさ、善悪の定義なんて場所とか、時代とか、人によってコロコロ変わるもんだ、
って思ってるし、“今”何が正しくて何が悪いかなんてわかんないよ。決めらんない。
……ただ、それが“イケナイ”って言われてる世の中だって解ってても
そうしたい、って覚悟決めてるなら、私はそれでいいと思う。
文句とか、批判とかは言わないし、言えないよ」
 
本当は、止めるべきだったのかもしれない。
それは間違ってるんだよ、お互いの“シアワセ”を考えるなら早くやめなよ、と。
そう告げなかった私は、冷たくて酷い友達なのかもしれない。
でも言わなかった。言えなかった。だって。
 
「あんたたちが“イケナイ” なら、私だって……」
 
“男”を呪い、“女”を憎み、同性に叶わない気持ちを抱いた。
何が違うというのだろう? ただ、正常な命のリレーから外れたもの同士。

何かが崩れ落ちるように泣き出した彼女に向かって呟いた私の囁きは
轟音に溶けゆき、闇の中へと消えて行った。





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