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母親のヒモに恋する中学生。
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「ねぇユウジ、あたしとカケオチしてよ」
何十回目になるか分からない懇願の言葉に、彼は自堕落に壁に寄りかかった
姿勢を崩すことも、膝の上に広げたスポーツ新聞から視線を上げることもなく
そっけない返事を返した。
「マジむり」
コタツ兼用の四角いちゃぶ台に頬杖を付きながら、あたしは溜め息を吐き出す。
「まだダメかぁ。まぁったく、あんなオバサンのどこがいいわけぇ?
やっぱり金? 金稼いでるから?」
ユウジはホステスとして働くあたしのママ(ユウジは「マサコさん」と呼ぶ)
のヒモで、元ホストだ。 ユウジがこの家に転がり込んで、早二年。
整った顔立ちは伸び放題の癖毛と不精ひげに隠され、やることなすこと全てが
テキトーで無気力な彼を、あたしは初めて会った瞬間から想い続けている。
一目惚れ、つまり運命の出会いってやつだと思う、って言ったら、
ユウジは鼻で笑っていたけれど。
確かにママは職業柄、三十半ばという年齢よりは綺麗だと思うけど、
十も年の離れたユウジが未だに彼女を愛しているとは思えない。
……最近では“あっち”の方も大分ご無沙汰みたいだし。
一緒にいる時間は、交わす言葉はあたしの方がずっと多いのに。
やっぱり、養ってもらえるから? 働きたくないから? 面倒くさいから……?
悶々としながら唇を尖らせ、シャープペンシルを握る。
ちゃぶ台の上には数学の課題。ちっとも解らないユウジの心の中と同じように、
あたしにとっては難問だらけのプリントだ。
「つーかおまえ、口より先に手動かせ。
オトコ口説くより先にやらなきゃいけないこと、山ほどあんだろ」
「いーんだもん。あたし中学出たらママと同じシゴトして、ママより稼いで、
絶対ユウジのこと養ってあげるんだから」
あたしの言葉に、ユウジは苦笑してポンポン、とあたしの頭を撫でる。
「おまえなぁ、俺だって一応高校くらい行ったんだぞ……」
「途中で辞めちゃったけど?」
先回りして悪戯に笑った私に、ユウジはムッとしたように反論した。
「しょーがねぇだろ。ダチの濡れ衣被んねぇといけなかったんだから」
ユウジは本当にこういうところがバカだと思う。
友達を庇って退学して、ホストになってヒモになって……
どんどんどんどん堕ちていくばかりの人生の、底の底があたしだったら、
そんな嬉しいことはない。 中学を卒業するまで、あと九ヶ月。
それまでに、ユウジはあたしのところまで堕ちてきてくれるだろうか。
受験勉強より何より、そっちの方が気になって手が進まない。
「来年の春になったら、さ」
「え?」
唐突なユウジの呟きに、プリントから顔を上げると、ユウジは相変わらず
やる気なさげに壁にもたれたまま、あたしをじっと見つめていた。
「オレ、働くから。ここ、出ていくから」
「……何よ、それ。ママには言ったの?」
沢山色々すごく悩んで、ユウジをママから奪い取る方法を考えていたのに。
ユウジは九ヶ月の猶予期間すら、無為に潰して行ってしまおうというのか。
ひどい、それは酷い、あんまりだ……。
「いや、言ってない。親子の間にヒビ入れんのはさすがにまだ早いと思うし」
潤んだ瞳で睨んだあたしに、ユウジは訳の分からないことを言う。
「だから、おまえは高校行けよ。カケオチなんかしなくても、
ちゃんと一緒にいられるように、頑張ってみるから」
「なんで……だって今まで、」
一気に溢れ出た涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら問いかけた私に、
ユウジはまたうっすらと微笑ってみせた。
「おまえさ、何でオレが今の今までこの家に“ただ”居たと思ってんの?
オレとマサコさんの関係がとっくに切れたも同然のことなんか、知ってんだろ?」
ホストを辞めたのは、夜しか家にいない中学生のあたしと一緒にいるため。
“マサコさんの娘”としてしか扱ってくれなかったのは、中学生のあたしを守るため。
「さすがに中坊はねぇよなぁ、と思ってたんだけどなぁ……」
ポリポリと掻いてみせた頭からこぼれ落ちるフケですら、とっても愛しい。
「ほらね、言った通りでしょ? やっぱり運命だったんだよ、あたしたち!」
感極まって大声で叫んだあたしの頭を、ユウジは
「声がでかい!」
と思いっきり叩いたけれど、それが彼なりの照れ隠しであることくらい、
二年も共に暮らしたあたしにはお見通しだった。
とりあえずユウジとはその先も一緒にいられそうだから、
卒業までの九ヶ月は計画を変更して、図書館にでも通い詰めることにしようっと!
→後書き
続編『破れ鍋の底』(ママ視点)
目次(現代)
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「ねぇユウジ、あたしとカケオチしてよ」
何十回目になるか分からない懇願の言葉に、彼は自堕落に壁に寄りかかった
姿勢を崩すことも、膝の上に広げたスポーツ新聞から視線を上げることもなく
そっけない返事を返した。
「マジむり」
コタツ兼用の四角いちゃぶ台に頬杖を付きながら、あたしは溜め息を吐き出す。
「まだダメかぁ。まぁったく、あんなオバサンのどこがいいわけぇ?
やっぱり金? 金稼いでるから?」
ユウジはホステスとして働くあたしのママ(ユウジは「マサコさん」と呼ぶ)
のヒモで、元ホストだ。 ユウジがこの家に転がり込んで、早二年。
整った顔立ちは伸び放題の癖毛と不精ひげに隠され、やることなすこと全てが
テキトーで無気力な彼を、あたしは初めて会った瞬間から想い続けている。
一目惚れ、つまり運命の出会いってやつだと思う、って言ったら、
ユウジは鼻で笑っていたけれど。
確かにママは職業柄、三十半ばという年齢よりは綺麗だと思うけど、
十も年の離れたユウジが未だに彼女を愛しているとは思えない。
……最近では“あっち”の方も大分ご無沙汰みたいだし。
一緒にいる時間は、交わす言葉はあたしの方がずっと多いのに。
やっぱり、養ってもらえるから? 働きたくないから? 面倒くさいから……?
悶々としながら唇を尖らせ、シャープペンシルを握る。
ちゃぶ台の上には数学の課題。ちっとも解らないユウジの心の中と同じように、
あたしにとっては難問だらけのプリントだ。
「つーかおまえ、口より先に手動かせ。
オトコ口説くより先にやらなきゃいけないこと、山ほどあんだろ」
「いーんだもん。あたし中学出たらママと同じシゴトして、ママより稼いで、
絶対ユウジのこと養ってあげるんだから」
あたしの言葉に、ユウジは苦笑してポンポン、とあたしの頭を撫でる。
「おまえなぁ、俺だって一応高校くらい行ったんだぞ……」
「途中で辞めちゃったけど?」
先回りして悪戯に笑った私に、ユウジはムッとしたように反論した。
「しょーがねぇだろ。ダチの濡れ衣被んねぇといけなかったんだから」
ユウジは本当にこういうところがバカだと思う。
友達を庇って退学して、ホストになってヒモになって……
どんどんどんどん堕ちていくばかりの人生の、底の底があたしだったら、
そんな嬉しいことはない。 中学を卒業するまで、あと九ヶ月。
それまでに、ユウジはあたしのところまで堕ちてきてくれるだろうか。
受験勉強より何より、そっちの方が気になって手が進まない。
「来年の春になったら、さ」
「え?」
唐突なユウジの呟きに、プリントから顔を上げると、ユウジは相変わらず
やる気なさげに壁にもたれたまま、あたしをじっと見つめていた。
「オレ、働くから。ここ、出ていくから」
「……何よ、それ。ママには言ったの?」
沢山色々すごく悩んで、ユウジをママから奪い取る方法を考えていたのに。
ユウジは九ヶ月の猶予期間すら、無為に潰して行ってしまおうというのか。
ひどい、それは酷い、あんまりだ……。
「いや、言ってない。親子の間にヒビ入れんのはさすがにまだ早いと思うし」
潤んだ瞳で睨んだあたしに、ユウジは訳の分からないことを言う。
「だから、おまえは高校行けよ。カケオチなんかしなくても、
ちゃんと一緒にいられるように、頑張ってみるから」
「なんで……だって今まで、」
一気に溢れ出た涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら問いかけた私に、
ユウジはまたうっすらと微笑ってみせた。
「おまえさ、何でオレが今の今までこの家に“ただ”居たと思ってんの?
オレとマサコさんの関係がとっくに切れたも同然のことなんか、知ってんだろ?」
ホストを辞めたのは、夜しか家にいない中学生のあたしと一緒にいるため。
“マサコさんの娘”としてしか扱ってくれなかったのは、中学生のあたしを守るため。
「さすがに中坊はねぇよなぁ、と思ってたんだけどなぁ……」
ポリポリと掻いてみせた頭からこぼれ落ちるフケですら、とっても愛しい。
「ほらね、言った通りでしょ? やっぱり運命だったんだよ、あたしたち!」
感極まって大声で叫んだあたしの頭を、ユウジは
「声がでかい!」
と思いっきり叩いたけれど、それが彼なりの照れ隠しであることくらい、
二年も共に暮らしたあたしにはお見通しだった。
とりあえずユウジとはその先も一緒にいられそうだから、
卒業までの九ヶ月は計画を変更して、図書館にでも通い詰めることにしようっと!
→後書き
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