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雨の日の別れ。前後編SSS。後編楼主サイド。
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「ほな、旦那はん……お世話に、なりました」
常と変わらぬはんなりとした微笑みを浮かべ、お楽は深々と頭を下げた。
「……達者でな」
どうにか口の端を持ち上げて絞り出した言葉に、お楽はまたにこりと頷いて、
迎えの駕籠へと乗り込んだ。
迎えの駕籠へと乗り込んだ。
廓の妓を送り出す―見慣れた、光景。
廓の主として喜ぶべき場面。
普段賑やかに祭りの如く行われるそれは、
ことお楽に関しては呆気ないほど静かに終わった。
ことお楽に関しては呆気ないほど静かに終わった。
~~~
『うちみたいな年増がようやく出て行くゆう時に、そんな大層なお祝いなんて
返って恥ずかしおす。旦那はんにそっと見送ってもろたらそれで十分やわ』
返って恥ずかしおす。旦那はんにそっと見送ってもろたらそれで十分やわ』
口元に柔らかな微笑みを浮かべて、けれど伏せた瞳に寂しさを滲ませながら、
お楽は告げた。
お楽は告げた。
本来なら廓の主である自分を通して行われるはずの、身請け話。
契約が全て整ってから、お楽と、身請け人の五筒屋の隠居から聞かされた時は、
まさに青天の霹靂。
まさに青天の霹靂。
『わてはどうしてもお楽が欲しいんや。金はいくらでも出す。
のう、村木はん。あれを、譲ってくれんかのぅ……?』
のう、村木はん。あれを、譲ってくれんかのぅ……?』
法外な額の小判を提示されて断れるほど、想いに盲目にはなれなかった。
何よりお楽が、それを望んだ。
楼主と遊女、といういつ果てるともしれない危うい関係でありながら、
心のどこかで思っていた。
心のどこかで思っていた。
ずっと、ずっと……この女は、傍にいてくれるのではないか、と。
夢はしょせん幻想に過ぎなかったのだけれど。
~~~
~~~
近頃、廓の周りで自分とお楽の噂が取沙汰されていることには気づいていた。
廓の主が、大切な商品である妓に手を付ける……
周囲の嘲笑、侮蔑はまぬがれない、あってはならないこと。
この栄楼そのものの評判を地に落とし、己の社会的信用を失う。
お楽が五筒屋からの落籍の話を飲んだのは、その頃だった。
自分と、この廓を守るために。
わてはあいつに、「好きや」って言うたことがあったやろか……?
ふと、脳裏を掠める疑問。
二人の間に、いつも言葉は無かった。
ほんの少しの隙間を見つけて抱き合うのが、精一杯の想いを伝える術だった。
それでもお楽は……吉江は、あんなにも懸命に、自分を愛してくれていたのに。
「こないに酷い男を、よくもまあ……」
思わず漏れた独り言。乾いた自嘲がこぼれる。
ぽつぽつ
しとしと
いつの間にか降り出した雨に、いつぞや訪れた茶屋の出来事が、頭を過ぎる。
あの時もお楽は、微笑っていた。
「吉江……、よしえ……!」
泪はとめどなく溢れて、頬を濡らす。
空は今日も、泪雨。
→後書き
前編(遊女サイド)
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「ほな、旦那はん……お世話に、なりました」
常と変わらぬはんなりとした微笑みを浮かべ、お楽は深々と頭を下げた。
「……達者でな」
どうにか口の端を持ち上げて絞り出した言葉に、お楽はまたにこりと頷いて、
迎えの駕籠へと乗り込んだ。
迎えの駕籠へと乗り込んだ。
廓の妓を送り出す―見慣れた、光景。
廓の主として喜ぶべき場面。
普段賑やかに祭りの如く行われるそれは、
ことお楽に関しては呆気ないほど静かに終わった。
ことお楽に関しては呆気ないほど静かに終わった。
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『うちみたいな年増がようやく出て行くゆう時に、そんな大層なお祝いなんて
返って恥ずかしおす。旦那はんにそっと見送ってもろたらそれで十分やわ』
返って恥ずかしおす。旦那はんにそっと見送ってもろたらそれで十分やわ』
口元に柔らかな微笑みを浮かべて、けれど伏せた瞳に寂しさを滲ませながら、
お楽は告げた。
お楽は告げた。
本来なら廓の主である自分を通して行われるはずの、身請け話。
契約が全て整ってから、お楽と、身請け人の五筒屋の隠居から聞かされた時は、
まさに青天の霹靂。
まさに青天の霹靂。
『わてはどうしてもお楽が欲しいんや。金はいくらでも出す。
のう、村木はん。あれを、譲ってくれんかのぅ……?』
のう、村木はん。あれを、譲ってくれんかのぅ……?』
法外な額の小判を提示されて断れるほど、想いに盲目にはなれなかった。
何よりお楽が、それを望んだ。
楼主と遊女、といういつ果てるともしれない危うい関係でありながら、
心のどこかで思っていた。
心のどこかで思っていた。
ずっと、ずっと……この女は、傍にいてくれるのではないか、と。
夢はしょせん幻想に過ぎなかったのだけれど。
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近頃、廓の周りで自分とお楽の噂が取沙汰されていることには気づいていた。
廓の主が、大切な商品である妓に手を付ける……
周囲の嘲笑、侮蔑はまぬがれない、あってはならないこと。
この栄楼そのものの評判を地に落とし、己の社会的信用を失う。
お楽が五筒屋からの落籍の話を飲んだのは、その頃だった。
自分と、この廓を守るために。
わてはあいつに、「好きや」って言うたことがあったやろか……?
ふと、脳裏を掠める疑問。
二人の間に、いつも言葉は無かった。
ほんの少しの隙間を見つけて抱き合うのが、精一杯の想いを伝える術だった。
それでもお楽は……吉江は、あんなにも懸命に、自分を愛してくれていたのに。
「こないに酷い男を、よくもまあ……」
思わず漏れた独り言。乾いた自嘲がこぼれる。
ぽつぽつ
しとしと
いつの間にか降り出した雨に、いつぞや訪れた茶屋の出来事が、頭を過ぎる。
あの時もお楽は、微笑っていた。
「吉江……、よしえ……!」
泪はとめどなく溢れて、頬を濡らす。
空は今日も、泪雨。
→後書き
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