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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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廉2ページ目

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「レンアイとシューチャクって、どう違うワケ?」

「は?」

佑樹の家からの帰り道。
ふと、傍らの祥太郎に問掛けると、彼は怪訝な表情でこちらを見返した。

「佑も、祥も、玲奈も。みんな、執着してるように見える。
咲也子さんや、遥香さんや、オレに。でも、それが“コイ”なんだろ?
ただのシューチャクとどう違うの?」

からかうように笑ったオレに、祥は少し怒ったようだ。
黙りこんで、こちらを睨みつけてくる。

「……お前の世界は、まだお前のもんなんだな」

険しい表情がふっと緩んだ瞬間、祥が呟いた言葉。

その意味が理解できなくて、胸の中の形にならない苛立ちは、一層増した。


~~~


情事が終わると、玲奈はいつもオレの腕をしっかり握り締めたまま隣に横たわり、
ピロートークをねだる。本当ならすぐにでも出て行ってほしいのに、
眠りに落ちるまでしがみついた腕は決して離れようとしない。
仕方なしに紡ぎだされる意味のない会話に、玲奈はじっと耳を傾け続けるのだ。

「例えばさ、オレと佑と祥が三人で雪山に行って、遭難したとするじゃん?」

「……」

「食糧が全部尽きて、誰かがその身を犠牲にしないと
みんな死んでしまう状況になったとする」

「……」

玲奈は一言も言葉を発することなく、ただ視線を宙に彷徨わせている。

「オレは躊躇わずに他の二人を殺すね。
普段あれだけ一緒にいる、大事な友達でも。オレは、そういう奴だよ」

だからいい加減、こんな男を求め続けるのはやめた方が良い、
そう言おうとした時だった。

「そんなの、誰だってそうだよ」

玲奈が口を開いた。

「廉は普通だよ。人間なんてみんな、自分が一番可愛いんだから」

でも、お前は違うだろ? 佑も、祥も。
もし、一緒に遭難したのがオレだったら。咲也子さんだったら。遥香さんだったら。
真っ先に自分の身を犠牲にして、相手を救おうとするだろ?
理解できない。……気持ち悪い。

「れん、れん、廉はおかしくなんかないよ。私は廉が、大好きだよ」

オレの目を、真っ直ぐに覗き込んで、玲奈が言った。抑えてきた感情が爆発する。

「何でそんなこと言えんだよ!? お前オレのこと、何もかも知ってる訳じゃねぇだろ!?」

「分かるわよ!」

玲奈はそう叫ぶと、サイドテーブルに置いてあったペンに手を伸ばし、オレの腕を掴んだ。
掌に記されたのは「Rena」の綴り。「a」の字を隠すように、
玲奈がオレより一回り小さなその手を、そっと重ねる。

「私の中には、廉がいるもの」

今にも泣き出しそうな、震えた声と同時に、細い腕がオレの肩に回された。

「好きになってくれなくてもいいの。その代わり、誰のことも見ないで。
私と同じように、誰のことも、愛さないで……」

鼻先に香る、シトラスの香り。前にオレが好きだと言った香り。涙が、こぼれた。
あぁ、こいつの世界は、きっとオレのものなんだな、と漠然と思った。

可哀想だ、と。オレを想う玲奈のことが可哀想だと、その時初めて思った。


~~~


いつもの昼下がり、学校の屋上。フェンスにもたれて風に当たる。
少しだけ冷たい風が、頬を撫でる。ああ、気持ちいい。

「この前言ってた、オレの世界がまだオレのもんだ、って話」

「あぁ?」

唐突に話題を降ると、祥は面倒くさそうに読んでいた漫画から顔を上げた。
佑は、古文の教科書と格闘している。

「アレ、玲奈見てたら何となく分かった」

オレの台詞に、少し考え込むような表情を浮かべた後、祥は短く

「そうか」

とだけ答えた。

「可哀想だ、と思った」

佑を手伝ってやろうと移動しながら呟いた言葉に、祥は目を見開いた。
いつのまにか佑も教科書を閉じ、こちらを見ている。

「でも少しだけ、羨ましくなった」

こぼれ落ちた本音。佑と祥は一瞬沈黙した後、少し切なげな微笑を浮かべた。

「オレ、佑と祥のことは好きなんだけどなぁ……」

冗談めかして呟いた言葉が、青空の下に虚しく響く。
気がつくと背後には佑と祥がいて、二人ともオレの肩をポン、と叩いた。

いつかこの世界が、オレのものじゃなくなる日が来るのだろうか。
次に見える世界は、どんな色をした世界なんだろうか。

ブーッ……ブーッ……
携帯のバイブが鳴る。
ディスプレイを見て、すぐに返信を打ち始めたオレをからかうように祥が言った。

「あれ~? 今日はちゃんと返事、してあげるんだね?」

佑がにこにこと笑いながらオレの手元を見つめる。

「……たまには、ね」

にっこりと微笑んだオレが、よっぽど意外だったのか、
きょとんとして固まる祥を尻目に、送信を終えた携帯を閉じて、オレは鼻歌を吹いた。

今日も、世界はオレのもの。





後書き
  2B(咲也子の付箋)

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「レンアイとシューチャクって、どう違うワケ?」

「は?」

佑樹の家からの帰り道。
ふと、傍らの祥太郎に問掛けると、彼は怪訝な表情でこちらを見返した。

「佑も、祥も、玲奈も。みんな、執着してるように見える。
咲也子さんや、遥香さんや、オレに。でも、それが“コイ”なんだろ?
ただのシューチャクとどう違うの?」

からかうように笑ったオレに、祥は少し怒ったようだ。
黙りこんで、こちらを睨みつけてくる。

「……お前の世界は、まだお前のもんなんだな」

険しい表情がふっと緩んだ瞬間、祥が呟いた言葉。

その意味が理解できなくて、胸の中の形にならない苛立ちは、一層増した。


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情事が終わると、玲奈はいつもオレの腕をしっかり握り締めたまま隣に横たわり、
ピロートークをねだる。本当ならすぐにでも出て行ってほしいのに、
眠りに落ちるまでしがみついた腕は決して離れようとしない。
仕方なしに紡ぎだされる意味のない会話に、玲奈はじっと耳を傾け続けるのだ。

「例えばさ、オレと佑と祥が三人で雪山に行って、遭難したとするじゃん?」

「……」

「食糧が全部尽きて、誰かがその身を犠牲にしないと
みんな死んでしまう状況になったとする」

「……」

玲奈は一言も言葉を発することなく、ただ視線を宙に彷徨わせている。

「オレは躊躇わずに他の二人を殺すね。
普段あれだけ一緒にいる、大事な友達でも。オレは、そういう奴だよ」

だからいい加減、こんな男を求め続けるのはやめた方が良い、
そう言おうとした時だった。

「そんなの、誰だってそうだよ」

玲奈が口を開いた。

「廉は普通だよ。人間なんてみんな、自分が一番可愛いんだから」

でも、お前は違うだろ? 佑も、祥も。
もし、一緒に遭難したのがオレだったら。咲也子さんだったら。遥香さんだったら。
真っ先に自分の身を犠牲にして、相手を救おうとするだろ?
理解できない。……気持ち悪い。

「れん、れん、廉はおかしくなんかないよ。私は廉が、大好きだよ」

オレの目を、真っ直ぐに覗き込んで、玲奈が言った。抑えてきた感情が爆発する。

「何でそんなこと言えんだよ!? お前オレのこと、何もかも知ってる訳じゃねぇだろ!?」

「分かるわよ!」

玲奈はそう叫ぶと、サイドテーブルに置いてあったペンに手を伸ばし、オレの腕を掴んだ。
掌に記されたのは「Rena」の綴り。「a」の字を隠すように、
玲奈がオレより一回り小さなその手を、そっと重ねる。

「私の中には、廉がいるもの」

今にも泣き出しそうな、震えた声と同時に、細い腕がオレの肩に回された。

「好きになってくれなくてもいいの。その代わり、誰のことも見ないで。
私と同じように、誰のことも、愛さないで……」

鼻先に香る、シトラスの香り。前にオレが好きだと言った香り。涙が、こぼれた。
あぁ、こいつの世界は、きっとオレのものなんだな、と漠然と思った。

可哀想だ、と。オレを想う玲奈のことが可哀想だと、その時初めて思った。


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いつもの昼下がり、学校の屋上。フェンスにもたれて風に当たる。
少しだけ冷たい風が、頬を撫でる。ああ、気持ちいい。

「この前言ってた、オレの世界がまだオレのもんだ、って話」

「あぁ?」

唐突に話題を降ると、祥は面倒くさそうに読んでいた漫画から顔を上げた。
佑は、古文の教科書と格闘している。

「アレ、玲奈見てたら何となく分かった」

オレの台詞に、少し考え込むような表情を浮かべた後、祥は短く

「そうか」

とだけ答えた。

「可哀想だ、と思った」

佑を手伝ってやろうと移動しながら呟いた言葉に、祥は目を見開いた。
いつのまにか佑も教科書を閉じ、こちらを見ている。

「でも少しだけ、羨ましくなった」

こぼれ落ちた本音。佑と祥は一瞬沈黙した後、少し切なげな微笑を浮かべた。

「オレ、佑と祥のことは好きなんだけどなぁ……」

冗談めかして呟いた言葉が、青空の下に虚しく響く。
気がつくと背後には佑と祥がいて、二人ともオレの肩をポン、と叩いた。

いつかこの世界が、オレのものじゃなくなる日が来るのだろうか。
次に見える世界は、どんな色をした世界なんだろうか。

ブーッ……ブーッ……
携帯のバイブが鳴る。
ディスプレイを見て、すぐに返信を打ち始めたオレをからかうように祥が言った。

「あれ~? 今日はちゃんと返事、してあげるんだね?」

佑がにこにこと笑いながらオレの手元を見つめる。

「……たまには、ね」

にっこりと微笑んだオレが、よっぽど意外だったのか、
きょとんとして固まる祥を尻目に、送信を終えた携帯を閉じて、オレは鼻歌を吹いた。

今日も、世界はオレのもの。





後書き
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