×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
祥太郎2ページ目
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「今日は佑樹休みだっけ?」
「うん、咲也子さんの三回忌ー」
一人いないだけで、こんなに寂しいもんなんだな、とボンヤリ思う。
いつものサボり場所、学校の屋上。
廉と二人、座り込むそこは、太陽に照らされて、何だか少し広すぎる。
「律儀に行くもんなんだなー」
「そりゃ行くでしょ、佑は」
当たり前のように言った廉の態度に、ずっと胸に抱いていた疑問が口をつく。
「一瞬だけ想いが通じたけど、もう二度と会えない相手を想い続けるのと、
いつでも会えるけど、一生想いが通じることのない相手を想い続けるのは、
どっちが辛いんだろうな」
俺の言葉に、廉は驚いたようにこちらを見つめた。
「祥……」
咎めるような廉の声。それでも俺は、止まらなかった。
ずっとずっと、体の奥で燻っていた重苦しいものが、滔々と流れ出る。
「俺、いつも比べてるんだ。俺と佑は、どっちがマシだろう、って。
そんで最後は、いっつも、佑の方が可哀想だって。俺の方がまだマシだって。
そう自分に言い聞かせて、安心するんだ」
「……」
黙りこんだ廉に、俺は自らを嘲る。
「最低だろ? 俺。こんなの、友達って言えねぇよな。
佑の、あいつの、友達なのに、俺……」
喋り続けるうちに、知らず知らず視界が滲む。
俺は、なんて、小さいんだろう。俺は、なんて、醜いんだろう。
『人と比べて自分が幸せとか、寂しいこと考えるなよ』
しばらく前に聞いた、三山先輩の言葉が頭をよぎる。
煩い、うるさい。
じゃあ俺を、誰と比べなくても幸せだと思えるようにしてくれよ。
あのひとの心を、俺に譲ってくれよ。お願いだから……
「……佑は、幸せだと思うよ」
沈黙を破って、廉は呟いた。
「え?」
濡れた目を擦りながら、俺が問い返すと、廉は真っ直ぐにこちらを見つめてこう問うてきた。
「この間、Bのシャー芯見つけた時の佑の顔、覚えてる?」
脳裏に蘇るのは、本当に嬉しそうな、キラキラしたあいつの笑顔。
「ああ……」
と答えると、廉はクスリと微笑んだ。
「佑は、幸せだよ。咲也子さんが死んでも、気持ちは繋がってる、って信じてられるから」
天を仰いだ廉の瞳は、どこか空虚なガラス玉のようだった。
「だから、佑は怒んないと思う。お前がそんなこと考えてるって言っても、
佑は笑って、言うと思う。『いいよ、俺、幸せだから』って」
涙が、頬を伝った。胸が熱かった。
佑が、死んだ叔母を一途に想い続けるあいつが、とても愛しいと思った。
どうして俺は、あいつと自分を比べようとしたんだろう。
あいつが咲也子さんを想う気持ちと、
俺が遥香さんを想う気持ちは、きっと全く別の次元にあるのに。
「……祥もきっと、幸せになれるよ」
にっこりと笑って廉が言う。そんな確証はどこにもない。だけど。
「サンキュ、廉……」
少しはにかみながら、小さな声でそう言うと、廉はガチャガチャと鞄を開け始めた。
「お礼はいいから、これ問いてよ」
取り出したのは、数学ⅠAの教科書。
今日提出の課題を、まだ問いていなかったことを思い出す。
「おい……そんなオチかよ」
渋々教科書を受けとると、廉は悪びれもせず歌うように呟いた。
「だって、数学苦手だも~ん」
ⅠAは、好きじゃない。でも、こいつらと一緒なら。あのひとを、追い掛けていられるなら。
ⅠAでも、ⅡBじゃなくても。 悪く、ないかな……。
→後書き
≠(廉1ページ目)
PR
追記を閉じる▲
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「今日は佑樹休みだっけ?」
「うん、咲也子さんの三回忌ー」
一人いないだけで、こんなに寂しいもんなんだな、とボンヤリ思う。
いつものサボり場所、学校の屋上。
廉と二人、座り込むそこは、太陽に照らされて、何だか少し広すぎる。
「律儀に行くもんなんだなー」
「そりゃ行くでしょ、佑は」
当たり前のように言った廉の態度に、ずっと胸に抱いていた疑問が口をつく。
「一瞬だけ想いが通じたけど、もう二度と会えない相手を想い続けるのと、
いつでも会えるけど、一生想いが通じることのない相手を想い続けるのは、
どっちが辛いんだろうな」
俺の言葉に、廉は驚いたようにこちらを見つめた。
「祥……」
咎めるような廉の声。それでも俺は、止まらなかった。
ずっとずっと、体の奥で燻っていた重苦しいものが、滔々と流れ出る。
「俺、いつも比べてるんだ。俺と佑は、どっちがマシだろう、って。
そんで最後は、いっつも、佑の方が可哀想だって。俺の方がまだマシだって。
そう自分に言い聞かせて、安心するんだ」
「……」
黙りこんだ廉に、俺は自らを嘲る。
「最低だろ? 俺。こんなの、友達って言えねぇよな。
佑の、あいつの、友達なのに、俺……」
喋り続けるうちに、知らず知らず視界が滲む。
俺は、なんて、小さいんだろう。俺は、なんて、醜いんだろう。
『人と比べて自分が幸せとか、寂しいこと考えるなよ』
しばらく前に聞いた、三山先輩の言葉が頭をよぎる。
煩い、うるさい。
じゃあ俺を、誰と比べなくても幸せだと思えるようにしてくれよ。
あのひとの心を、俺に譲ってくれよ。お願いだから……
「……佑は、幸せだと思うよ」
沈黙を破って、廉は呟いた。
「え?」
濡れた目を擦りながら、俺が問い返すと、廉は真っ直ぐにこちらを見つめてこう問うてきた。
「この間、Bのシャー芯見つけた時の佑の顔、覚えてる?」
脳裏に蘇るのは、本当に嬉しそうな、キラキラしたあいつの笑顔。
「ああ……」
と答えると、廉はクスリと微笑んだ。
「佑は、幸せだよ。咲也子さんが死んでも、気持ちは繋がってる、って信じてられるから」
天を仰いだ廉の瞳は、どこか空虚なガラス玉のようだった。
「だから、佑は怒んないと思う。お前がそんなこと考えてるって言っても、
佑は笑って、言うと思う。『いいよ、俺、幸せだから』って」
涙が、頬を伝った。胸が熱かった。
佑が、死んだ叔母を一途に想い続けるあいつが、とても愛しいと思った。
どうして俺は、あいつと自分を比べようとしたんだろう。
あいつが咲也子さんを想う気持ちと、
俺が遥香さんを想う気持ちは、きっと全く別の次元にあるのに。
「……祥もきっと、幸せになれるよ」
にっこりと笑って廉が言う。そんな確証はどこにもない。だけど。
「サンキュ、廉……」
少しはにかみながら、小さな声でそう言うと、廉はガチャガチャと鞄を開け始めた。
「お礼はいいから、これ問いてよ」
取り出したのは、数学ⅠAの教科書。
今日提出の課題を、まだ問いていなかったことを思い出す。
「おい……そんなオチかよ」
渋々教科書を受けとると、廉は悪びれもせず歌うように呟いた。
「だって、数学苦手だも~ん」
ⅠAは、好きじゃない。でも、こいつらと一緒なら。あのひとを、追い掛けていられるなら。
ⅠAでも、ⅡBじゃなくても。 悪く、ないかな……。
→後書き
≠(廉1ページ目)
PR
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック