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『生きて生きて生きて』国王サイド。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
おまえは今も、安らかな眠りを得てはいないのだろうか?
その細い首筋に刃が落とされ、もうどれくらいになるだろう?
あの娘は王籍を剥奪して辺境に追いやった。
あれから、何人もの女が私の横に並んでは消えていった。
何人もの子が生まれては、育つことなく幼い命を散らせていった。
人は皆、おまえの呪いなのだという。
おまえの呪いならば何故、真っ先に私に降りかからぬ?
頭に戴く重い冠に、冷たく固い玉座。
私には背負いきれない、けれど背負わなければならぬ全てのもの。
ぜんぶ、全部投げ捨ててしまいたかった。
慕われても、崇められても、世界の全てがそう望んでも……
此処にいるのが苦痛だった。おまえと、出会うまで。
~~~
「陛下」
暗い影を纏う眼差し。力なく微笑む顔。
その母によく似た、細く透きとおるような声が好きだった。
「あなたったら、いつも無愛想で可愛げがないわね。
我が家の娘たちは代々良いお家の殿方に見初められることで家に貢献してきたのですよ?
お姉様のように少しは笑顔ってものを作れないの?」
娘とは似ても似つかぬ艶やかな母親が、説教を垂れる姿を幾度か目にした。
おまえの母は、幼かった私を気まぐれに導いた初めての女(ひと)だった。
齢を重ね、その容貌に衰えを見せ始めた彼女は、己が長女を妃の侍女にと差し出した。
母親の面差しを持つその娘が、何を意図して私に近づいたかは明らかであり、
私はそれに応えた。
そうして、私の子を身籠った娘を隠れ家へと移したと同時に、
その妹であるおまえが城へとやってきた。
暗い色の髪、くすんだ色の瞳。
何もかもが美しい母や姉とは異なるその少女は、不思議と私を惹きつけた。
何を言っても笑わず、何をやっても驚かない。そんなおまえを、傍に置きたくなった。
いつもいつも隣にいて、もしいつか心から微笑む日がくれば、
その笑顔を一番最初に見たいと……。
おまえが何のために私を受け入れたのか、当時の私は知らなかった。
強引であったとも、挑発に乗せられたとも言えるかたちで、その関係は始まった。
共にいるためなら、どんなことでも厭わなかった。
道に叛き、臣に諌められ、民に謗られても構わない。
ただおまえがいるだけで、世界は色づき、肩に感じる重みは和らいだ。
娘が生まれて後、私はますます子供を欲するようになった。
王位を譲ることのできる男子を。
早々に退位し、穏やかな暮らしを送りたかった。おまえと、二人で……。
あの女に手をつけたのは、そんな焦りからだったのかもしれない。
~~~
「陛下、ご存知ありませんの……?」
最初に『呪い』に斃れた女から、閨の中で囁かれた噂。
「幾人もの殿方と関係を持っていらっしゃるそうですわよ。
何でも、実の弟君までお相手だとか……。城の皆が知っておりますわ」
「それは、まことか……?」
私の言に、女はゆっくりと頷いた。全てが真実ではない、と解っていた。
不貞の理由も、それが私自身とこの女のせいであることも、全て……、それなのに。
「あれを、処刑する」
私の宣言に、女は薄気味の悪い笑みを浮かべて腕に絡みついてきた。
その手を乱暴に振り払い、立ち上がる。ねっとりと汗に湿った女の肌よりも、
何度も触れた冷たく白いおまえの肌が、堪らなく恋しかった。
~~~
逆光の中寄り添う姉弟に、この世で一番美しいものを眺めているような錯覚を覚えた。
そしてすぐに、そう感じた自分自身を消してしまいたくなった。
お前を処刑した真の理由は、その光景が忘れられなかったから。
醜い理由。言い訳にすらならぬ、恐ろしい理由。
私がおまえの一番になることは未来永劫ないのだと知ってしまったあの日、あの光景。
それが脳裏から離れない私に、あの女の言が最後の引き金を引いた。
だから、私はあの男を殺した。誰よりも先に探し出し、その喉元を掻き切った。
おまえの憎しみも、恨みも、全てが降りかかることを承知で。
その細い首筋に刃が落とされ、もうどれくらいになるだろう?
あの娘は王籍を剥奪して辺境に追いやった。
あれから、何人もの女が私の横に並んでは消えていった。
何人もの子が生まれては、育つことなく幼い命を散らせていった。
人は皆、おまえの呪いなのだという。
おまえの呪いならば何故、真っ先に私に降りかからぬ?
頭に戴く重い冠に、冷たく固い玉座。
私には背負いきれない、けれど背負わなければならぬ全てのもの。
ぜんぶ、全部投げ捨ててしまいたかった。
慕われても、崇められても、世界の全てがそう望んでも……
此処にいるのが苦痛だった。おまえと、出会うまで。
~~~
「陛下」
暗い影を纏う眼差し。力なく微笑む顔。
その母によく似た、細く透きとおるような声が好きだった。
「あなたったら、いつも無愛想で可愛げがないわね。
我が家の娘たちは代々良いお家の殿方に見初められることで家に貢献してきたのですよ?
お姉様のように少しは笑顔ってものを作れないの?」
娘とは似ても似つかぬ艶やかな母親が、説教を垂れる姿を幾度か目にした。
おまえの母は、幼かった私を気まぐれに導いた初めての女(ひと)だった。
齢を重ね、その容貌に衰えを見せ始めた彼女は、己が長女を妃の侍女にと差し出した。
母親の面差しを持つその娘が、何を意図して私に近づいたかは明らかであり、
私はそれに応えた。
そうして、私の子を身籠った娘を隠れ家へと移したと同時に、
その妹であるおまえが城へとやってきた。
暗い色の髪、くすんだ色の瞳。
何もかもが美しい母や姉とは異なるその少女は、不思議と私を惹きつけた。
何を言っても笑わず、何をやっても驚かない。そんなおまえを、傍に置きたくなった。
いつもいつも隣にいて、もしいつか心から微笑む日がくれば、
その笑顔を一番最初に見たいと……。
おまえが何のために私を受け入れたのか、当時の私は知らなかった。
強引であったとも、挑発に乗せられたとも言えるかたちで、その関係は始まった。
共にいるためなら、どんなことでも厭わなかった。
道に叛き、臣に諌められ、民に謗られても構わない。
ただおまえがいるだけで、世界は色づき、肩に感じる重みは和らいだ。
娘が生まれて後、私はますます子供を欲するようになった。
王位を譲ることのできる男子を。
早々に退位し、穏やかな暮らしを送りたかった。おまえと、二人で……。
あの女に手をつけたのは、そんな焦りからだったのかもしれない。
~~~
「陛下、ご存知ありませんの……?」
最初に『呪い』に斃れた女から、閨の中で囁かれた噂。
「幾人もの殿方と関係を持っていらっしゃるそうですわよ。
何でも、実の弟君までお相手だとか……。城の皆が知っておりますわ」
「それは、まことか……?」
私の言に、女はゆっくりと頷いた。全てが真実ではない、と解っていた。
不貞の理由も、それが私自身とこの女のせいであることも、全て……、それなのに。
「あれを、処刑する」
私の宣言に、女は薄気味の悪い笑みを浮かべて腕に絡みついてきた。
その手を乱暴に振り払い、立ち上がる。ねっとりと汗に湿った女の肌よりも、
何度も触れた冷たく白いおまえの肌が、堪らなく恋しかった。
~~~
逆光の中寄り添う姉弟に、この世で一番美しいものを眺めているような錯覚を覚えた。
そしてすぐに、そう感じた自分自身を消してしまいたくなった。
お前を処刑した真の理由は、その光景が忘れられなかったから。
醜い理由。言い訳にすらならぬ、恐ろしい理由。
私がおまえの一番になることは未来永劫ないのだと知ってしまったあの日、あの光景。
それが脳裏から離れない私に、あの女の言が最後の引き金を引いた。
だから、私はあの男を殺した。誰よりも先に探し出し、その喉元を掻き切った。
おまえの憎しみも、恨みも、全てが降りかかることを承知で。
あの男は、おまえにとってそれほど大切な存在(もの)だったのだろうか?
おまえの処刑より前に首を切られた、あの哀れな弟は。
~~~
これが『呪い』だと言うのなら、間もなく成就を迎えるだろう。私自身の、死をもって。
そしてその後この国は、生き残った唯一の我が子であるあの娘が女王として
統べることになるのだろう。庶子の即位は平易なものとはいかない。
不幸な生い立ちを背負ったあの娘に、これから一層の受難が待ち受けることは
目に見えている。
おまえの死も、娘の不幸も、沢山の妃たちも、何も望んではいなかった。
望んだのはたった一つ。おまえを、おまえだけを、心の底から愛しみたかった。
おまえに、愛してほしかった!
愛するおまえ。
裏切り者の妃。
口付け一つで命を落とした、哀れな私の……
ブログ初出2008/5/30
→後書き
弟サイド『Punish Punish Punish』
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おまえは今も、安らかな眠りを得てはいないのだろうか?
その細い首筋に刃が落とされ、もうどれくらいになるだろう?
あの娘は王籍を剥奪して辺境に追いやった。
あれから、何人もの女が私の横に並んでは消えていった。
何人もの子が生まれては、育つことなく幼い命を散らせていった。
人は皆、おまえの呪いなのだという。
おまえの呪いならば何故、真っ先に私に降りかからぬ?
頭に戴く重い冠に、冷たく固い玉座。
私には背負いきれない、けれど背負わなければならぬ全てのもの。
ぜんぶ、全部投げ捨ててしまいたかった。
慕われても、崇められても、世界の全てがそう望んでも……
此処にいるのが苦痛だった。おまえと、出会うまで。
~~~
「陛下」
暗い影を纏う眼差し。力なく微笑む顔。
その母によく似た、細く透きとおるような声が好きだった。
「あなたったら、いつも無愛想で可愛げがないわね。
我が家の娘たちは代々良いお家の殿方に見初められることで家に貢献してきたのですよ?
お姉様のように少しは笑顔ってものを作れないの?」
娘とは似ても似つかぬ艶やかな母親が、説教を垂れる姿を幾度か目にした。
おまえの母は、幼かった私を気まぐれに導いた初めての女(ひと)だった。
齢を重ね、その容貌に衰えを見せ始めた彼女は、己が長女を妃の侍女にと差し出した。
母親の面差しを持つその娘が、何を意図して私に近づいたかは明らかであり、
私はそれに応えた。
そうして、私の子を身籠った娘を隠れ家へと移したと同時に、
その妹であるおまえが城へとやってきた。
暗い色の髪、くすんだ色の瞳。
何もかもが美しい母や姉とは異なるその少女は、不思議と私を惹きつけた。
何を言っても笑わず、何をやっても驚かない。そんなおまえを、傍に置きたくなった。
いつもいつも隣にいて、もしいつか心から微笑む日がくれば、
その笑顔を一番最初に見たいと……。
おまえが何のために私を受け入れたのか、当時の私は知らなかった。
強引であったとも、挑発に乗せられたとも言えるかたちで、その関係は始まった。
共にいるためなら、どんなことでも厭わなかった。
道に叛き、臣に諌められ、民に謗られても構わない。
ただおまえがいるだけで、世界は色づき、肩に感じる重みは和らいだ。
娘が生まれて後、私はますます子供を欲するようになった。
王位を譲ることのできる男子を。
早々に退位し、穏やかな暮らしを送りたかった。おまえと、二人で……。
あの女に手をつけたのは、そんな焦りからだったのかもしれない。
~~~
「陛下、ご存知ありませんの……?」
最初に『呪い』に斃れた女から、閨の中で囁かれた噂。
「幾人もの殿方と関係を持っていらっしゃるそうですわよ。
何でも、実の弟君までお相手だとか……。城の皆が知っておりますわ」
「それは、まことか……?」
私の言に、女はゆっくりと頷いた。全てが真実ではない、と解っていた。
不貞の理由も、それが私自身とこの女のせいであることも、全て……、それなのに。
「あれを、処刑する」
私の宣言に、女は薄気味の悪い笑みを浮かべて腕に絡みついてきた。
その手を乱暴に振り払い、立ち上がる。ねっとりと汗に湿った女の肌よりも、
何度も触れた冷たく白いおまえの肌が、堪らなく恋しかった。
~~~
逆光の中寄り添う姉弟に、この世で一番美しいものを眺めているような錯覚を覚えた。
そしてすぐに、そう感じた自分自身を消してしまいたくなった。
お前を処刑した真の理由は、その光景が忘れられなかったから。
醜い理由。言い訳にすらならぬ、恐ろしい理由。
私がおまえの一番になることは未来永劫ないのだと知ってしまったあの日、あの光景。
それが脳裏から離れない私に、あの女の言が最後の引き金を引いた。
だから、私はあの男を殺した。誰よりも先に探し出し、その喉元を掻き切った。
おまえの憎しみも、恨みも、全てが降りかかることを承知で。
その細い首筋に刃が落とされ、もうどれくらいになるだろう?
あの娘は王籍を剥奪して辺境に追いやった。
あれから、何人もの女が私の横に並んでは消えていった。
何人もの子が生まれては、育つことなく幼い命を散らせていった。
人は皆、おまえの呪いなのだという。
おまえの呪いならば何故、真っ先に私に降りかからぬ?
頭に戴く重い冠に、冷たく固い玉座。
私には背負いきれない、けれど背負わなければならぬ全てのもの。
ぜんぶ、全部投げ捨ててしまいたかった。
慕われても、崇められても、世界の全てがそう望んでも……
此処にいるのが苦痛だった。おまえと、出会うまで。
~~~
「陛下」
暗い影を纏う眼差し。力なく微笑む顔。
その母によく似た、細く透きとおるような声が好きだった。
「あなたったら、いつも無愛想で可愛げがないわね。
我が家の娘たちは代々良いお家の殿方に見初められることで家に貢献してきたのですよ?
お姉様のように少しは笑顔ってものを作れないの?」
娘とは似ても似つかぬ艶やかな母親が、説教を垂れる姿を幾度か目にした。
おまえの母は、幼かった私を気まぐれに導いた初めての女(ひと)だった。
齢を重ね、その容貌に衰えを見せ始めた彼女は、己が長女を妃の侍女にと差し出した。
母親の面差しを持つその娘が、何を意図して私に近づいたかは明らかであり、
私はそれに応えた。
そうして、私の子を身籠った娘を隠れ家へと移したと同時に、
その妹であるおまえが城へとやってきた。
暗い色の髪、くすんだ色の瞳。
何もかもが美しい母や姉とは異なるその少女は、不思議と私を惹きつけた。
何を言っても笑わず、何をやっても驚かない。そんなおまえを、傍に置きたくなった。
いつもいつも隣にいて、もしいつか心から微笑む日がくれば、
その笑顔を一番最初に見たいと……。
おまえが何のために私を受け入れたのか、当時の私は知らなかった。
強引であったとも、挑発に乗せられたとも言えるかたちで、その関係は始まった。
共にいるためなら、どんなことでも厭わなかった。
道に叛き、臣に諌められ、民に謗られても構わない。
ただおまえがいるだけで、世界は色づき、肩に感じる重みは和らいだ。
娘が生まれて後、私はますます子供を欲するようになった。
王位を譲ることのできる男子を。
早々に退位し、穏やかな暮らしを送りたかった。おまえと、二人で……。
あの女に手をつけたのは、そんな焦りからだったのかもしれない。
~~~
「陛下、ご存知ありませんの……?」
最初に『呪い』に斃れた女から、閨の中で囁かれた噂。
「幾人もの殿方と関係を持っていらっしゃるそうですわよ。
何でも、実の弟君までお相手だとか……。城の皆が知っておりますわ」
「それは、まことか……?」
私の言に、女はゆっくりと頷いた。全てが真実ではない、と解っていた。
不貞の理由も、それが私自身とこの女のせいであることも、全て……、それなのに。
「あれを、処刑する」
私の宣言に、女は薄気味の悪い笑みを浮かべて腕に絡みついてきた。
その手を乱暴に振り払い、立ち上がる。ねっとりと汗に湿った女の肌よりも、
何度も触れた冷たく白いおまえの肌が、堪らなく恋しかった。
~~~
逆光の中寄り添う姉弟に、この世で一番美しいものを眺めているような錯覚を覚えた。
そしてすぐに、そう感じた自分自身を消してしまいたくなった。
お前を処刑した真の理由は、その光景が忘れられなかったから。
醜い理由。言い訳にすらならぬ、恐ろしい理由。
私がおまえの一番になることは未来永劫ないのだと知ってしまったあの日、あの光景。
それが脳裏から離れない私に、あの女の言が最後の引き金を引いた。
だから、私はあの男を殺した。誰よりも先に探し出し、その喉元を掻き切った。
おまえの憎しみも、恨みも、全てが降りかかることを承知で。
あの男は、おまえにとってそれほど大切な存在(もの)だったのだろうか?
おまえの処刑より前に首を切られた、あの哀れな弟は。
~~~
これが『呪い』だと言うのなら、間もなく成就を迎えるだろう。私自身の、死をもって。
そしてその後この国は、生き残った唯一の我が子であるあの娘が女王として
統べることになるのだろう。庶子の即位は平易なものとはいかない。
不幸な生い立ちを背負ったあの娘に、これから一層の受難が待ち受けることは
目に見えている。
おまえの死も、娘の不幸も、沢山の妃たちも、何も望んではいなかった。
望んだのはたった一つ。おまえを、おまえだけを、心の底から愛しみたかった。
おまえに、愛してほしかった!
愛するおまえ。
裏切り者の妃。
口付け一つで命を落とした、哀れな私の……
ブログ初出2008/5/30
→後書き
弟サイド『Punish Punish Punish』
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