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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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幼くして亡くなった『トモダチ』への思い。SSS。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



竹下が結婚するだとか、森崎がママになるだとか聞く度に、
君のことを思い出すんだ。

シュウちゃん。

シュウちゃん、俺もやっと、就職先が決まったよ。



会いに来るのは何年ぶりだろう?
もしかしたら、十年以上前のあの日以来かもしれないな。
実感なんか全然湧かなくて、
ピカピカの墓石がミニチュアの公衆便所みたく見えたあの日。
シュウちゃんの、納骨の日。
小さなシュウちゃんの骨壺に、大人たちはみんな泣いてた。
俺とヒロシは訳も分からずに、
ギュッと手を握ったまま線香の匂いの中に立ち尽くしていた。
あんな小さな壺がシュウちゃんだなんて、信じられる訳がなかったんだ。

ヒロシは結局親の跡を継いだみたいだよ。
浪人してようやく大学を出る俺なんかとは違って、
手早いことに嫁さんも、子供もいるんだってさ。
シュウちゃん。
もしもシュウちゃんが生きてたら、今頃は社会人として頑張ってたんだろうか。
ヒロシみたいに早々に結婚して家庭を持っていたんだろうか。
記憶の中のシュウちゃんは、あどけなく笑うやんちゃなガキ大将のまま。
その顔すらも、今はぼやけてハッキリしない。


~~~


墓地は丘の上にあった。

「こんな見晴らしいいとこなら、もっと早く来てれば良かったなー」

呟きながら、君の墓を探す。
確か一昨年、おじいさんも亡くなったと聞いたっけ。
三回忌の年なら、ある程度綺麗な状態を保っているだろう。

見つけ出した墓は、記憶の中にあるそれよりも遥かに小さく見えた。
墓の脇には、萎れた菊の花束と共に薄汚れたミニ四駆が備えられていた。
シュウちゃんが好きだったミニ四駆。
お兄さんに教えてもらった、というシュウちゃんの車は、
仲間内の誰のものよりも速く走った。
シュウちゃんに勝ちたくて、新しいパーツを買いに
連れて行ってくれと何度もねだった週末。
あの時夢中になって手にしていたそれらは、今押し入れの中に眠っている。



シュウちゃん。
俺が、今までここを訪れることがなかったのは……
認めたくなかったんだ。
隔たってしまった自分を。
シュウちゃんの死を。
認めてしまったら、友達ではなくなってしまう気がして。

七歳の子供とハタチ過ぎの大人が、友達になれるとは思えない。
けれど彼は永遠に七歳で、俺は三十歳になり、四十歳になる。



「シュウちゃん、ごめんな……」

墓石の上に、ポンと手を置いて涙を拭う。
それから、君の好きだったコーラを、ミニ四駆の脇に備えた。
昔は、ラジオ体操の後に配られる最後の一本を巡って
大ゲンカを繰り広げたこともあるコーラの缶。

「……俺、今はビールの方が好きなんだ」

そこにはいない君に向かって笑ってみせれば、木々が風にそっと揺れた。



いつかあちらに行ったら、君はまた俺に笑いかけてくれるだろうか。
俺のことを「トモダチ」と呼んでくれるだろうか。



ミニ四駆が、一瞬カタッと音を立てた気がした。
そっと持ち上げて、夕陽にかざせば、君の小さな手が目に浮かんだ。

「忘れないよ、きっと」

死んでしまったから、思い出すのかもしれない。
生きていたら、ヒロシのようにいつのまにか疎遠になっていたのかもしれない。
こんな俺は、歪んでいるのかもしれない。

それでも、君がいたことだけは……忘れたくないんだ。
確かに、『トモダチ』だったのだから。

風が優しく頬を撫でた。
あの頃と同じように、彼がすぐ傍で微笑っているような気がした。

 



後書き
 

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竹下が結婚するだとか、森崎がママになるだとか聞く度に、
君のことを思い出すんだ。

シュウちゃん。

シュウちゃん、俺もやっと、就職先が決まったよ。



会いに来るのは何年ぶりだろう?
もしかしたら、十年以上前のあの日以来かもしれないな。
実感なんか全然湧かなくて、
ピカピカの墓石がミニチュアの公衆便所みたく見えたあの日。
シュウちゃんの、納骨の日。
小さなシュウちゃんの骨壺に、大人たちはみんな泣いてた。
俺とヒロシは訳も分からずに、
ギュッと手を握ったまま線香の匂いの中に立ち尽くしていた。
あんな小さな壺がシュウちゃんだなんて、信じられる訳がなかったんだ。

ヒロシは結局親の跡を継いだみたいだよ。
浪人してようやく大学を出る俺なんかとは違って、
手早いことに嫁さんも、子供もいるんだってさ。
シュウちゃん。
もしもシュウちゃんが生きてたら、今頃は社会人として頑張ってたんだろうか。
ヒロシみたいに早々に結婚して家庭を持っていたんだろうか。
記憶の中のシュウちゃんは、あどけなく笑うやんちゃなガキ大将のまま。
その顔すらも、今はぼやけてハッキリしない。


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墓地は丘の上にあった。

「こんな見晴らしいいとこなら、もっと早く来てれば良かったなー」

呟きながら、君の墓を探す。
確か一昨年、おじいさんも亡くなったと聞いたっけ。
三回忌の年なら、ある程度綺麗な状態を保っているだろう。

見つけ出した墓は、記憶の中にあるそれよりも遥かに小さく見えた。
墓の脇には、萎れた菊の花束と共に薄汚れたミニ四駆が備えられていた。
シュウちゃんが好きだったミニ四駆。
お兄さんに教えてもらった、というシュウちゃんの車は、
仲間内の誰のものよりも速く走った。
シュウちゃんに勝ちたくて、新しいパーツを買いに
連れて行ってくれと何度もねだった週末。
あの時夢中になって手にしていたそれらは、今押し入れの中に眠っている。



シュウちゃん。
俺が、今までここを訪れることがなかったのは……
認めたくなかったんだ。
隔たってしまった自分を。
シュウちゃんの死を。
認めてしまったら、友達ではなくなってしまう気がして。

七歳の子供とハタチ過ぎの大人が、友達になれるとは思えない。
けれど彼は永遠に七歳で、俺は三十歳になり、四十歳になる。



「シュウちゃん、ごめんな……」

墓石の上に、ポンと手を置いて涙を拭う。
それから、君の好きだったコーラを、ミニ四駆の脇に備えた。
昔は、ラジオ体操の後に配られる最後の一本を巡って
大ゲンカを繰り広げたこともあるコーラの缶。

「……俺、今はビールの方が好きなんだ」

そこにはいない君に向かって笑ってみせれば、木々が風にそっと揺れた。



いつかあちらに行ったら、君はまた俺に笑いかけてくれるだろうか。
俺のことを「トモダチ」と呼んでくれるだろうか。



ミニ四駆が、一瞬カタッと音を立てた気がした。
そっと持ち上げて、夕陽にかざせば、君の小さな手が目に浮かんだ。

「忘れないよ、きっと」

死んでしまったから、思い出すのかもしれない。
生きていたら、ヒロシのようにいつのまにか疎遠になっていたのかもしれない。
こんな俺は、歪んでいるのかもしれない。

それでも、君がいたことだけは……忘れたくないんだ。
確かに、『トモダチ』だったのだから。

風が優しく頬を撫でた。
あの頃と同じように、彼がすぐ傍で微笑っているような気がした。

 



後書き
 

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