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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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いいふうふの日記念SSSと言い張りたい・・・orz

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「久しぶりねぇ……」

仰々しく近衛隊を派遣すると告げた息子をなだめ、一人では持ち切れないほどの
大きな花束を渡そうとする侍女を押し止めてその中から数本のマーガレットを抜き取り、
王太后たるその人は簡素な馬車で夫の墓所へと向かっていた。

彼女が顔も知らずに婚約し、愛称も呼ばず初夜の床についた相手は、
結婚から一年も経たぬうちに帰らぬ人となってしまった。
国境際の小競り合いで、運悪く流れ矢に当たった彼を間抜けな王だと人は嗤った。
少しだけ膨れた腹を抱えて、彼女は悲しみにくれてなどいられなかった。
戦の事後処理、国王代理への就任、そして出産に育児……余りにも慌ただしく時は過ぎた。
そうして二十年、彼女の息子は立派に成人を迎え、王位を継いだ。
喜ばしいことに、先日は隣国の姫との婚姻も成った。
若い国王夫妻の仲は睦まじく、彼女も後見役として、また母としての役目を終え
人生で初めて穏やかにまどろむことのできる時間を得たのだ。

夫の命日を思い出すことができたのも、そんな気持ちの余裕を取り戻したせいだろうか。
彼の死の知らせを最初に聞いた時、自分がどんな表情(かお)をしていたのか、
どんな言葉を発したのか既に彼女は覚えていない。ただ、最後に別れた時の夫の表情――
困ったように垂れた目尻と、何かを言いたげに薄く開かれた唇だけが、強く印象に残っている。

「あの人は、どんな顔をしていたのかしら。何を思っていたのかしら」

幸せそうに寄り添う息子夫婦を見るたびに、彼女はそんなことを考えるようになっていた。

「私の傍であんな風に笑っていたかしら? あの人は私と結ばれて、幸せだったのかしら?」

濃い灰色の瞳、癖の強いこげ茶色の髪、それから、それから――
鼻や耳はどんなかたちをしていたかしら? 手は大きかった?
体温は高めで、声は低かったように思う。息子に似ているのは笑い方。
初め少し堪えるように顔を歪めて、それから耐えきれずに吹き出す。

『く……くっくっく……ぶはっ、あっはっはっはっは!』

少しずつ、少しずつ蘇る夫の記憶。もう何年も、墓にさえ訪れることは無かった。

「あんまり良い妃とは言えないわね……」

好きな花が何かも分からずに、ただ自分の好きなマーガレットを選んでこの場所にやってきた。
一国の主が眠る墓としては余りに簡素に過ぎるその墓の、
白く美しい十字の傍にかがみこみ小さな花束を立てかける。
花言葉は、愛の誠実。愛していたのかも、愛されていたのかも分からぬ相手に
手向けるには余りに可笑しな花だったと、彼女は一人自嘲した。
 
「あんれ、王太后様、さすがはご夫婦だなぁ。ちゃあんと先王様のお好きな花を分かっておいでだ」
 
そんな彼女の背後から現れたのは墓守の老人。
 
「陛下もマーガレットがお好きだったのですか?」
 
やや面食らった表情で問うた王太后に、老人は苦笑まじりにこう応じた。
 
「そらなぁ……大事な方と同じ名前の花だから」
 
その答えに王太后は大きく目を見開き、そして言葉を失った。
マーガレット――それは、何年も何年も呼ばれることの無かった彼女自身の名。
この二十年、彼女は“女王陛下”であり、“母上”であり、“王太后様”として生きてきた。
何故己がこの花を愛したのか、すっかり忘れてしまっていた。
 
『行って来る……留守を頼むな、マーガレット』
 
最後にその名を呼んだのは彼だった。
今となっては二度と聞けぬ声、二度と見られぬ眼差し、二度と触れられぬ手の持ち主。
王太后は、マーガレットはゆっくりと瞳を閉ざし、そして微笑んだ。
ぼんやりとしていたはずの輪郭が、今では鮮明に浮かび上がる。
ああ、あの人は確かに自分の夫だった。自分は確かに、あの人の妻であったのだ。
そう認めた瞬間、胸の内から込み上げる喜び。同じものを、彼も感じていてくれたなら。
 
「陛下……――――――」
 
二十年ぶりに紡ぐその名を、彼女は愛しげに呼んだ。






 






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『花墓』暗くないバージョンかよ!っていう。
墓前と言うシチュエーションが好きすぎてごめんなさいm(__)m
そんでもって11/22の誕生花調べたらマーガレットだったんですよ・・・
どんだけネタ被りだよっていう・・・でも折角時事ネタなんだから、と強行。
好物詰め込めて楽しかったです(笑)

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「久しぶりねぇ……」

仰々しく近衛隊を派遣すると告げた息子をなだめ、一人では持ち切れないほどの
大きな花束を渡そうとする侍女を押し止めてその中から数本のマーガレットを抜き取り、
王太后たるその人は簡素な馬車で夫の墓所へと向かっていた。

彼女が顔も知らずに婚約し、愛称も呼ばず初夜の床についた相手は、
結婚から一年も経たぬうちに帰らぬ人となってしまった。
国境際の小競り合いで、運悪く流れ矢に当たった彼を間抜けな王だと人は嗤った。
少しだけ膨れた腹を抱えて、彼女は悲しみにくれてなどいられなかった。
戦の事後処理、国王代理への就任、そして出産に育児……余りにも慌ただしく時は過ぎた。
そうして二十年、彼女の息子は立派に成人を迎え、王位を継いだ。
喜ばしいことに、先日は隣国の姫との婚姻も成った。
若い国王夫妻の仲は睦まじく、彼女も後見役として、また母としての役目を終え
人生で初めて穏やかにまどろむことのできる時間を得たのだ。

夫の命日を思い出すことができたのも、そんな気持ちの余裕を取り戻したせいだろうか。
彼の死の知らせを最初に聞いた時、自分がどんな表情(かお)をしていたのか、
どんな言葉を発したのか既に彼女は覚えていない。ただ、最後に別れた時の夫の表情――
困ったように垂れた目尻と、何かを言いたげに薄く開かれた唇だけが、強く印象に残っている。

「あの人は、どんな顔をしていたのかしら。何を思っていたのかしら」

幸せそうに寄り添う息子夫婦を見るたびに、彼女はそんなことを考えるようになっていた。

「私の傍であんな風に笑っていたかしら? あの人は私と結ばれて、幸せだったのかしら?」

濃い灰色の瞳、癖の強いこげ茶色の髪、それから、それから――
鼻や耳はどんなかたちをしていたかしら? 手は大きかった?
体温は高めで、声は低かったように思う。息子に似ているのは笑い方。
初め少し堪えるように顔を歪めて、それから耐えきれずに吹き出す。

『く……くっくっく……ぶはっ、あっはっはっはっは!』

少しずつ、少しずつ蘇る夫の記憶。もう何年も、墓にさえ訪れることは無かった。

「あんまり良い妃とは言えないわね……」

好きな花が何かも分からずに、ただ自分の好きなマーガレットを選んでこの場所にやってきた。
一国の主が眠る墓としては余りに簡素に過ぎるその墓の、
白く美しい十字の傍にかがみこみ小さな花束を立てかける。
花言葉は、愛の誠実。愛していたのかも、愛されていたのかも分からぬ相手に
手向けるには余りに可笑しな花だったと、彼女は一人自嘲した。
 
「あんれ、王太后様、さすがはご夫婦だなぁ。ちゃあんと先王様のお好きな花を分かっておいでだ」
 
そんな彼女の背後から現れたのは墓守の老人。
 
「陛下もマーガレットがお好きだったのですか?」
 
やや面食らった表情で問うた王太后に、老人は苦笑まじりにこう応じた。
 
「そらなぁ……大事な方と同じ名前の花だから」
 
その答えに王太后は大きく目を見開き、そして言葉を失った。
マーガレット――それは、何年も何年も呼ばれることの無かった彼女自身の名。
この二十年、彼女は“女王陛下”であり、“母上”であり、“王太后様”として生きてきた。
何故己がこの花を愛したのか、すっかり忘れてしまっていた。
 
『行って来る……留守を頼むな、マーガレット』
 
最後にその名を呼んだのは彼だった。
今となっては二度と聞けぬ声、二度と見られぬ眼差し、二度と触れられぬ手の持ち主。
王太后は、マーガレットはゆっくりと瞳を閉ざし、そして微笑んだ。
ぼんやりとしていたはずの輪郭が、今では鮮明に浮かび上がる。
ああ、あの人は確かに自分の夫だった。自分は確かに、あの人の妻であったのだ。
そう認めた瞬間、胸の内から込み上げる喜び。同じものを、彼も感じていてくれたなら。
 
「陛下……――――――」
 
二十年ぶりに紡ぐその名を、彼女は愛しげに呼んだ。






 






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『花墓』暗くないバージョンかよ!っていう。
墓前と言うシチュエーションが好きすぎてごめんなさいm(__)m
そんでもって11/22の誕生花調べたらマーガレットだったんですよ・・・
どんだけネタ被りだよっていう・・・でも折角時事ネタなんだから、と強行。
好物詰め込めて楽しかったです(笑)

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