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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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『破れ鍋の底』続編。ユウジ視点。

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「いいわよ、別れてあげても。ただし条件があるわ。
マイはちゃんと高校に合格して、きちんと卒業すること。
ユウジは同じ会社に少なくともきっちり三年は勤めること」
 
それは若干肌寒い風を感じるようになった初秋のことだった。
ようやく春からの就職先が決まり、転居を申し出たオレにこの家の主で養い手、
マイの母であるマサコさんが告げた条件。
マイに関しては何も言っていないのに、出された条件の中に
しっかりマイのことが触れられているのはさすが、といったところか。
傍らで好物のシュークリームを頬張っていたマイは、
今にもかぶりつこうとしたその口のままあんぐりと固まっている。
 
「人生何年先輩だと思ってるの? 私を出し抜こうったって、そうはいかないんだから」
 
にっこりと微笑んだマサコさんの顔があんまりにもキレイだったから、
オレちょっと惜しいことしたかも、と思ったのはマイには内緒だ。
 
 
~~~
 
 
それから半年が過ぎた三月の終わり、マイは無事高校に合格し、
オレがマサコさんの家を出て行く日がやってきた。
 
「荷物、これでぜんぶー? ちょっと少ないんじゃない?」
 
マイが笑いながら軽トラックの荷台から持ち上げた段ボール箱を、オレが受け取る。
知り合いから借りてきたという軽トラを運転していたのはオレが以前働いていた
ホストクラブのオーナーで、就職先を紹介してくれた恩人でもある磯部さんだ。
彼は『引っ越し、手伝ったげる♪』と言って助手席に乗り込んだマサコさんと
二人、オレの新しい勤め先の社長の元に挨拶に行っているらしい。
何だか二人揃うと、オレの両親みたいだな……。
高校を退学した時点で、とっくに縁の切れてしまった
実の両親の顔を思い浮かべようとして、止めた。
今、そこから転がり落ちたオレの傍には彼らがいて、久し振りに心が弾んだり、
へこんだり、いきり立ったりするようになった。それで十分じゃないか。
 
「ママってば、引っ越しとか模様替えとかのイベント大好きなんだよねー。
しっかしそれにしても狭い部屋ぁ」
 
ぶつくさ言いながら俺の新居を覗き込んだマイが、呆れたように呟いた。
 
「独身寮なんだから、こんなもんだろ」
 
相変わらずそっけないオレの返事に、マイは頬を膨らまして少し俯いた。
あ、この表情(かお)はきっと寂しいんだな……。
ここ最近ずっと、いつにも増して纏わりついてくるマイを、
うざったく感じながらも何だか可愛いな、と思えるようになったのは
オレからしてみれば本当に大きな進歩だと思う。
昔のオレならオンナのそういうところが大嫌いで、
面倒くささのあまりテキトーにスルーしてしまっていたと思うから。
マサコさんの家に転がり込んで、くるくると表情の変わるマイに出会って、
彼女を見ているうちにだんだん面白くなって、気がついたらまた“ヒト”に対して、
“セケン”に対して向き合ってみようという気持ちを取り戻していた。
 
「隣町なんだし、電車ですぐだって」
 
いつものようにポンポン、と頭を叩きながら苦笑すれば、
マイはクイッとオレのシャツを引っ張って顔を見上げてきた。
 
「ぜったい、絶対しょっちゅう会いに来るからね。
ママの妨害工作になんか負けないんだから!」
 
潤んだ瞳で睨みつけるようにオレを見つめながら宣言された言葉。
マイはオレの就職先が隣町で更には寮付きという事実を、マサコさんが
オレたち二人の仲を邪魔しようとして仕組んだものだと思っているらしい。
 
『あそこの社長さん、確かママのお客さんだもん。
あたしもちっちゃいころ、ぬいぐるみとか貰ったことあるもん』
 
それを聞いてオレはようやくマサコさんが全てを知った上で
陰ながら応援してくれていたことを知り、感謝の念を抱いたりしたんだけど……
マイにそう言ったら、また怒られてしまうだろうか。
ボーッと考えに耽っていたその時、マイが掴んでいたシャツの裾が、
グイッと思いっきり引っ張られる。

“ちゅっ”
 
思わず頭ごと下に傾いた俺の唇に、そっと触れた柔らかい感触。
 
「へへっ、初チューだね」
 
照れたように微笑んだマイに、耳まで赤く染まっていくのが分かる。
初めてでもないくせに、何熱くなってんだ、オレの顔!
……でも、こんな風にオレは一生彼女に振り回されて、
その遠心力でだんだん浮上していくのかもしれない。
 
「そっか、やっぱり、『運命の出会い』だったのかもしれないな……」
 
「だから最初っからそう言ってんじゃん!」
 
あ、ヤバイ、結局怒らせちゃった……。






後書き
  続編『底から生まれた

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「いいわよ、別れてあげても。ただし条件があるわ。
マイはちゃんと高校に合格して、きちんと卒業すること。
ユウジは同じ会社に少なくともきっちり三年は勤めること」
 
それは若干肌寒い風を感じるようになった初秋のことだった。
ようやく春からの就職先が決まり、転居を申し出たオレにこの家の主で養い手、
マイの母であるマサコさんが告げた条件。
マイに関しては何も言っていないのに、出された条件の中に
しっかりマイのことが触れられているのはさすが、といったところか。
傍らで好物のシュークリームを頬張っていたマイは、
今にもかぶりつこうとしたその口のままあんぐりと固まっている。
 
「人生何年先輩だと思ってるの? 私を出し抜こうったって、そうはいかないんだから」
 
にっこりと微笑んだマサコさんの顔があんまりにもキレイだったから、
オレちょっと惜しいことしたかも、と思ったのはマイには内緒だ。
 
 
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それから半年が過ぎた三月の終わり、マイは無事高校に合格し、
オレがマサコさんの家を出て行く日がやってきた。
 
「荷物、これでぜんぶー? ちょっと少ないんじゃない?」
 
マイが笑いながら軽トラックの荷台から持ち上げた段ボール箱を、オレが受け取る。
知り合いから借りてきたという軽トラを運転していたのはオレが以前働いていた
ホストクラブのオーナーで、就職先を紹介してくれた恩人でもある磯部さんだ。
彼は『引っ越し、手伝ったげる♪』と言って助手席に乗り込んだマサコさんと
二人、オレの新しい勤め先の社長の元に挨拶に行っているらしい。
何だか二人揃うと、オレの両親みたいだな……。
高校を退学した時点で、とっくに縁の切れてしまった
実の両親の顔を思い浮かべようとして、止めた。
今、そこから転がり落ちたオレの傍には彼らがいて、久し振りに心が弾んだり、
へこんだり、いきり立ったりするようになった。それで十分じゃないか。
 
「ママってば、引っ越しとか模様替えとかのイベント大好きなんだよねー。
しっかしそれにしても狭い部屋ぁ」
 
ぶつくさ言いながら俺の新居を覗き込んだマイが、呆れたように呟いた。
 
「独身寮なんだから、こんなもんだろ」
 
相変わらずそっけないオレの返事に、マイは頬を膨らまして少し俯いた。
あ、この表情(かお)はきっと寂しいんだな……。
ここ最近ずっと、いつにも増して纏わりついてくるマイを、
うざったく感じながらも何だか可愛いな、と思えるようになったのは
オレからしてみれば本当に大きな進歩だと思う。
昔のオレならオンナのそういうところが大嫌いで、
面倒くささのあまりテキトーにスルーしてしまっていたと思うから。
マサコさんの家に転がり込んで、くるくると表情の変わるマイに出会って、
彼女を見ているうちにだんだん面白くなって、気がついたらまた“ヒト”に対して、
“セケン”に対して向き合ってみようという気持ちを取り戻していた。
 
「隣町なんだし、電車ですぐだって」
 
いつものようにポンポン、と頭を叩きながら苦笑すれば、
マイはクイッとオレのシャツを引っ張って顔を見上げてきた。
 
「ぜったい、絶対しょっちゅう会いに来るからね。
ママの妨害工作になんか負けないんだから!」
 
潤んだ瞳で睨みつけるようにオレを見つめながら宣言された言葉。
マイはオレの就職先が隣町で更には寮付きという事実を、マサコさんが
オレたち二人の仲を邪魔しようとして仕組んだものだと思っているらしい。
 
『あそこの社長さん、確かママのお客さんだもん。
あたしもちっちゃいころ、ぬいぐるみとか貰ったことあるもん』
 
それを聞いてオレはようやくマサコさんが全てを知った上で
陰ながら応援してくれていたことを知り、感謝の念を抱いたりしたんだけど……
マイにそう言ったら、また怒られてしまうだろうか。
ボーッと考えに耽っていたその時、マイが掴んでいたシャツの裾が、
グイッと思いっきり引っ張られる。

“ちゅっ”
 
思わず頭ごと下に傾いた俺の唇に、そっと触れた柔らかい感触。
 
「へへっ、初チューだね」
 
照れたように微笑んだマイに、耳まで赤く染まっていくのが分かる。
初めてでもないくせに、何熱くなってんだ、オレの顔!
……でも、こんな風にオレは一生彼女に振り回されて、
その遠心力でだんだん浮上していくのかもしれない。
 
「そっか、やっぱり、『運命の出会い』だったのかもしれないな……」
 
「だから最初っからそう言ってんじゃん!」
 
あ、ヤバイ、結局怒らせちゃった……。






後書き
  続編『底から生まれた

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