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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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大好きなテーマをしつこく焼き直し(笑)


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初めは、ただの気まぐれだった。
既に大勝を決めた戦の終わり。焼け落ちた邸の中で、女の上に馬乗りになり殴りかかる兵士を見た。将として、王族として見逃すことなどできない光景。

「クズが、我が国の名を汚すな」

ドウッと倒れた体の下で、女は虫の息だった。棒切れのように痩せ細った手足は黒く汚れ、顔は痣だらけ、起き上がることさえできない様子の女を、彼は乱暴に抱え上げた。万が一、他人の粗探しをするしか能の無い小うるさい輩に見つかって――彼や、国自身が非難を受けるのは避けたかったから。この国は粘りすぎたのだ。若い男たちが次々戦いに斃れていっても、女子供の食うものがなくなってもなお、剣を降ろすことを拒み続けた。そもそもが我が大国に、勝てるわけなどなかったのに。

「……臭いな、肉の焦げるニオイがする」

舌打ちと共に、男は唾を吐き捨てた。
 
~~~
 
彼の連れ帰った女は、それから三日経っても目を覚まさなかった。否、目を開けられなかったという方が正しいか。腫れ上がった瞼をピクリと震えさせてはすぐに力を失くし、夢と現の狭間を行き来するような有様であった。

「治療しろ、ただこのことは外に漏らすな。知らぬ存ぜぬを貫き通せ」

腕の立つ医師を囲い込み、宮の者にきつく言いつけて彼は彼女を閉じ込めた。戦の処理が終われば跡目争いは激しさを増す。駒が駒として活きる前に、足を引っ張る因果になることは避けたかったのだ。

「あなたが、私を助けて下さったのですか……」

酷く掠れた声が耳に届いた時、男は冷めた目でじっと女を見下ろしていた。さぁ、やっとだ。これをどう利用する――?

動けない女は従順に彼の話に耳を傾け、決して反論したりしない。かつての敵、国の仇であることは、嫌と言うほど思い知っているだろうに。

「いや、当たり前だろう? 俺が助けた、俺がここまで面倒を見てやったんだ……」
 

だからあれは、自分のものだ。
彼女がやっと寝台から起き上がることができるようになったその日、彼は初めてその身を犯した。何故と問う言葉も、抵抗の一つもなしに彼女はそれを受け入れた。ただ、哀しそうな瞳だけを、その傷だらけの身体に宿して。

女が動けるようになってからも、男は彼女を軟禁状態に置いた。二人の間に恋や愛などといった甘やかな情が芽生えたものとは、誰の目にも見えなかった。王族である男は名家の娘と婚約間近とされており、女は敵であった亡国の傷を負った民だ。せいぜい飼い殺されるだけの慰み者――表に出すことすらも憚られる、哀れな。時たま気まぐれに女の匿われる部屋を訪れては、嬲るように彼女を抱いて去っていく主の姿は仕える者たちにすら同情を抱かせた。それでも女は、嫌がる素振りも嘆く様子も見せなかった。何も感じないのか? 生きられればそれで良いのか? 誇りを持たぬ娼婦のような性根の持ち主なのだろうか? 女に対する嫌悪や軽蔑も、じわりと染みのように広がった。

~~~
 
「館をやろう、塀の外には出してやれぬが、小さな庭も用意する」

寝物語に男が告げた時、女はわずかに顔を上げ、その藍の目を輝かせた。艶を取り戻した女の髪をサラリと撫ぜて、男は笑った。

「以前は薬草を育てていた、と……おまえにはそろそろ、役に立ってもらわねばな」

女は、賜った館の片隅で小さな畑を作り始めた。男に頼んで手配した種や苗を育て、葉を集め、調合して、それまで彼の国には無かった様々な薬を作り出した。特に秘密にする様子もなく、彼女は惜しげなくその栽培や調合の知恵を教えた。それによって救われた者、或いは弑することのできた邪魔者がどれほどの数に上るか。男は足しげく女の元へ通うようになった。

「今少し時間がかかります、お待ちください」

訪れた男にそう告げて去っていく女は、温めたミルクと素朴な味の焼き菓子を男の前にコトリと置いた。順調に王位に近づきつつある彼はこの頃、王宮で毒見後の冷めた食事ばかりを摂っていた。この離宮の中の小さな館、清らかに整えられた部屋、壁には季節の花を挿した一輪挿しが、ソファの脇には縫いかけの刺繍。女の元を訪れる時間が、新たな謀略のための道具を得るための一時が皮肉なことに彼の心を安らがせていた。

「少し、こうしていてくれないか」

戻ってきた女の手を握り、男はその身を引き寄せる。痩せぎすだった身体は少しだけ柔らかな丸みを帯び、臭いニオイはどこにも無い。百合の花の香り、土の匂い、芳しいミルクの香り。愛しいと、遠ざかってしまった感情を、取り戻せたというのだろうか。

~~~
 
「王宮に来い、外の連中は説得する」
その言葉を告げた時、女は丸く目を見開いて呆然と男を見た。

「けれど……けれど私は」

「おまえは十分に成果を出した。今の今までただ一度とて、俺とこの国を裏切らなかった」

女はうつむき、唇を噛みしめたようだった。当たり前だ、一度でも彼女が抵抗すれば、期待を裏切ればその身はここにあっただろうか。他にどの道が選べたというのだろうか。それでも、それがわかっていても男は女を求めずにはいられない。既に必要不可欠なのだ、彼女を隣に並べることが――傍に、縛っておくことが。

「……わかりました。けれど殿下、いえ陛下、これだけは忘れないで下さい。私はかの国の民です。確かにあなたと、この国の方々に尽くしましょう。けれど私は私自身にしかなれません。ですから、どうか」

我が国を――女が初めて口にした願いに、彼は頷いた。それが新たな王となる男として正しいことであったのか……未だ判別はつかぬけれども。 

 



後編(女視点)

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初めは、ただの気まぐれだった。
既に大勝を決めた戦の終わり。焼け落ちた邸の中で、女の上に馬乗りになり殴りかかる兵士を見た。将として、王族として見逃すことなどできない光景。

「クズが、我が国の名を汚すな」

ドウッと倒れた体の下で、女は虫の息だった。棒切れのように痩せ細った手足は黒く汚れ、顔は痣だらけ、起き上がることさえできない様子の女を、彼は乱暴に抱え上げた。万が一、他人の粗探しをするしか能の無い小うるさい輩に見つかって――彼や、国自身が非難を受けるのは避けたかったから。この国は粘りすぎたのだ。若い男たちが次々戦いに斃れていっても、女子供の食うものがなくなってもなお、剣を降ろすことを拒み続けた。そもそもが我が大国に、勝てるわけなどなかったのに。

「……臭いな、肉の焦げるニオイがする」

舌打ちと共に、男は唾を吐き捨てた。
 
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彼の連れ帰った女は、それから三日経っても目を覚まさなかった。否、目を開けられなかったという方が正しいか。腫れ上がった瞼をピクリと震えさせてはすぐに力を失くし、夢と現の狭間を行き来するような有様であった。

「治療しろ、ただこのことは外に漏らすな。知らぬ存ぜぬを貫き通せ」

腕の立つ医師を囲い込み、宮の者にきつく言いつけて彼は彼女を閉じ込めた。戦の処理が終われば跡目争いは激しさを増す。駒が駒として活きる前に、足を引っ張る因果になることは避けたかったのだ。

「あなたが、私を助けて下さったのですか……」

酷く掠れた声が耳に届いた時、男は冷めた目でじっと女を見下ろしていた。さぁ、やっとだ。これをどう利用する――?

動けない女は従順に彼の話に耳を傾け、決して反論したりしない。かつての敵、国の仇であることは、嫌と言うほど思い知っているだろうに。

「いや、当たり前だろう? 俺が助けた、俺がここまで面倒を見てやったんだ……」
 

だからあれは、自分のものだ。
彼女がやっと寝台から起き上がることができるようになったその日、彼は初めてその身を犯した。何故と問う言葉も、抵抗の一つもなしに彼女はそれを受け入れた。ただ、哀しそうな瞳だけを、その傷だらけの身体に宿して。

女が動けるようになってからも、男は彼女を軟禁状態に置いた。二人の間に恋や愛などといった甘やかな情が芽生えたものとは、誰の目にも見えなかった。王族である男は名家の娘と婚約間近とされており、女は敵であった亡国の傷を負った民だ。せいぜい飼い殺されるだけの慰み者――表に出すことすらも憚られる、哀れな。時たま気まぐれに女の匿われる部屋を訪れては、嬲るように彼女を抱いて去っていく主の姿は仕える者たちにすら同情を抱かせた。それでも女は、嫌がる素振りも嘆く様子も見せなかった。何も感じないのか? 生きられればそれで良いのか? 誇りを持たぬ娼婦のような性根の持ち主なのだろうか? 女に対する嫌悪や軽蔑も、じわりと染みのように広がった。

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「館をやろう、塀の外には出してやれぬが、小さな庭も用意する」

寝物語に男が告げた時、女はわずかに顔を上げ、その藍の目を輝かせた。艶を取り戻した女の髪をサラリと撫ぜて、男は笑った。

「以前は薬草を育てていた、と……おまえにはそろそろ、役に立ってもらわねばな」

女は、賜った館の片隅で小さな畑を作り始めた。男に頼んで手配した種や苗を育て、葉を集め、調合して、それまで彼の国には無かった様々な薬を作り出した。特に秘密にする様子もなく、彼女は惜しげなくその栽培や調合の知恵を教えた。それによって救われた者、或いは弑することのできた邪魔者がどれほどの数に上るか。男は足しげく女の元へ通うようになった。

「今少し時間がかかります、お待ちください」

訪れた男にそう告げて去っていく女は、温めたミルクと素朴な味の焼き菓子を男の前にコトリと置いた。順調に王位に近づきつつある彼はこの頃、王宮で毒見後の冷めた食事ばかりを摂っていた。この離宮の中の小さな館、清らかに整えられた部屋、壁には季節の花を挿した一輪挿しが、ソファの脇には縫いかけの刺繍。女の元を訪れる時間が、新たな謀略のための道具を得るための一時が皮肉なことに彼の心を安らがせていた。

「少し、こうしていてくれないか」

戻ってきた女の手を握り、男はその身を引き寄せる。痩せぎすだった身体は少しだけ柔らかな丸みを帯び、臭いニオイはどこにも無い。百合の花の香り、土の匂い、芳しいミルクの香り。愛しいと、遠ざかってしまった感情を、取り戻せたというのだろうか。

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「王宮に来い、外の連中は説得する」
その言葉を告げた時、女は丸く目を見開いて呆然と男を見た。

「けれど……けれど私は」

「おまえは十分に成果を出した。今の今までただ一度とて、俺とこの国を裏切らなかった」

女はうつむき、唇を噛みしめたようだった。当たり前だ、一度でも彼女が抵抗すれば、期待を裏切ればその身はここにあっただろうか。他にどの道が選べたというのだろうか。それでも、それがわかっていても男は女を求めずにはいられない。既に必要不可欠なのだ、彼女を隣に並べることが――傍に、縛っておくことが。

「……わかりました。けれど殿下、いえ陛下、これだけは忘れないで下さい。私はかの国の民です。確かにあなたと、この国の方々に尽くしましょう。けれど私は私自身にしかなれません。ですから、どうか」

我が国を――女が初めて口にした願いに、彼は頷いた。それが新たな王となる男として正しいことであったのか……未だ判別はつかぬけれども。 

 



後編(女視点)

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