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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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中世欧風後宮ドロドロ前後編。四角関係。

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『王太子の寵姫と第二王子は仲が悪い』
 
それは、城の誰もが知る噂。
 
「まぁ、ヴィクトル殿下。随分とご無沙汰しておりますこと、ごきげんよう」
 
「これはこれはパメラ殿、お元気そうで何より」
 
後宮と通常執務が行われる正宮を繋ぐ長い長い廊下の端で、
行き合った二つの人影が、はたと足を止める。
一人は白磁の肌に金の髪をなびかせた世にも美しい一人の女。
数人の侍女にかしずかれて優雅に絹のドレスを翻すその様は、優雅にして艶めかしい。
もう一人は癖のある茶色の髪を無造作に後ろに撫でつけて、
濃い眉を不快そうにゆがめた一人の精悍な青年だった。
険しい顔には疲労の色が浮かび、筋肉の隆起が窺えるたくましい腕には幾多の傷が見える。
後宮と正宮を行き来する許可を与えられた数少ない側室の一人と、
国王という要職に就こうとする兄を軍人として支える弟王子。
緊迫した空気が、辺りを包んだ。
 
「ビゴーの戦場よりのご無事のご帰還、心よりお喜び申し上げますわ。
もっと早くご挨拶に伺わねばと思っておりましたのに、つい忙しさにかまけてしまいまして……」
 
“あなたの兄君が中々お手を放しては下さらないもので”
と暗に意味するような挑発的な視線に、男は一層眉を顰めた。
 
「それはお気づかい傷み入る。ではこれから政務に戻るので、失礼」
 
不機嫌さを押し隠そうともせずに短く告げて擦れ違うその濃い茶色の髪の毛を、
女は佇んだままじっと見つめていた。
 
ヴィクトル殿下、ご存じかしら? 私が後宮(ここ)に来たのはあなたのため。
あなたを忘れられなくて、あなたに一目お会いしたくて此処まで来た。
 
不敵に微笑む女の本心を、知っている者は誰もいない。否、ただ一人を除いて……。
パメラは仕える主の弟王子を見送った後、彼の行き来た先にある重厚な扉を思い浮かべた。
後宮の中でも最も日当たりがよく、広い場所にある正妃の部屋。
現在の国王は既に正妃を亡くしている。
よって、そこに住まうは彼女の主でもある王太子の正妃。
エリアーヌ。王太子アンリと第二王子ヴィクトルの従姉妹にして幼なじみ。
パメラに王太子の寵愛を奪われた彼女は、普段一切その室から出ることなくひっそりと暮らしている。
だがヴィクトルは、凱旋の挨拶を女たちの中で誰よりも先に彼女に伝えに行った。
パメラは両の拳を握りしめた。爪が皮膚に食い込み、血が流れる。
 
「すぐに王太子妃殿下の元に使いを。
午後のお茶を是非ご一緒したい旨、お伝えしてちょうだい!」
 
後宮の実質的な権力者である主の言に慌てて侍女は走り去る。
パメラの瞳には炎が揺らぎ、いつもの余裕は消え失せていた。
 
エリアーヌ。未来の王妃。あの方の心を捉え続ける女。
私の欲しいものを、いとも簡単に手に入れる、許し難い女!
 
パメラは急いで踵を返した。
己が唯一“勝てる”であろう、その容姿を美しく整え直すために。
 
 
~~~
 
 
「突然のお申し出でこちらも十分なおもてなしが出来るか分かりませんが……」
 
結局、エリアーヌはパメラの“お茶の誘い”を受け入れた。
 
『午後三時、わたくしの部屋をお訪ねください』
 
本来ならば側室から正室に突然の申し出をするなど無礼にあたる。
けれど現在(いま)の後宮で王太子の寵愛を欲しいままにしているのは、
正妃であるエリアーヌではなく側室であるパメラ。

パメラの誘いを断ることは王太子アンリの不興を被るということ。
何とかして王太子の世継ぎを生んでほしい、と願っている父の手前、
エリアーヌはパメラの意向を無視することは出来なかった。
己の部屋にパメラを来させたのは、正妃としての最後の意地だろうか。
三時きっかりに部屋の扉を開けて現れた美しい女を見て、エリアーヌは自嘲した。
 
可哀想ね。わたくしも、この方も。
 
そうして吐き出された少しの嫌味に、パメラは気にする風もなく優雅に礼をしてみせた。
 
「無礼は承知しておりますが、近ごろ少しも妃殿下のお姿をお見かけせずに
寂しく感じておりましたので……お会いできて嬉しゅうございますわ」
 
嫌味と嫌味の応酬。
ただひたすら王の、王太子の寵愛を求め続ける女たちが集う後宮では、こんなことはキリがない。
 
「そうでしたかしら?
ついこの間も、宮中の宴の席でお見かけしたように思いましたけれど……」
 
「ビゴーの戦での勝利を祝う宴でございましたわね。
あの時は、私はずっと王太子殿下のお傍に侍っておりまして、
中々妃殿下とお話しする時間が取れませんでしたので……」
 
エリアーヌとパメラの間を行き交う視線が、次第に険を帯びた冷たいものへと変化する。
 
「ああ、そうでしたわね。
では今日は何かわたくしに特別なお話があって、わざわざこんな誘いをくださったのかしら?」
 
「ふふっ、そういう訳でもございませんわ。
……妃殿下、先ほど此処に、ヴィクトル殿下が見えられましたでしょう?」
 
パメラの大きな翠の瞳が、エリアーヌの灰色の瞳をじっと見つめる。
 
「ええ、見えられましたわ。戦場よりの帰還のご挨拶とのことでしたが、それが何か?」
 
エリアーヌは淡々と答えた。パメラはそっと唇を噛みしめる。
 
「本来ならば此処は国王陛下と王太子殿下のみの殿方に出入りを許された後宮のはず。
ましてやあなたは王太子殿下の正妃です。
いくら殿下がお許し下さるからと言って、そう簡単に他の殿方を部屋に
お招きになるなどというお振舞いをなさることは無いのではございませんか?」
 
「……わたくしが招いたわけではありませんよ、パメラ様。
ヴィクトル殿下はわたくしにとって弟のようなもの。それは王太子殿下とてご存じです。
それに、あの方は……王太子殿下がわたくしをお気にかけてはおられないことなど、
あなたが一番よく知っておいでのはずでしょう」
 
エリアーヌの答えに、パメラはそっと溜息を吐いた。
 
「本当に、あなたはずるくていらっしゃる。全てを持っていながら、全てを失ったふりをする。
私、あなたが嫌いですわ、エリアーヌ様。あなたはどなたも愛していらっしゃらない。
愛することを知らないくせに、愛されることだけは知っている。本当にずるい、酷い方。
……だから私、絶対に生んでみせますわ。あなたより先に、王太子殿下のお子を」 
 
パメラはそう吐き捨てると、すっくと立ち上がった。その足元がゆらりとぐらつく。
 
「パメラ様! 興奮なさらないで! 誰か、誰か早く……!」
 
エリアーヌが叫び、侍女たちを呼ぶ。倒れ伏したパメラの足元には、真っ赤な鮮血が滴っていた。





後編
 

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『王太子の寵姫と第二王子は仲が悪い』
 
それは、城の誰もが知る噂。
 
「まぁ、ヴィクトル殿下。随分とご無沙汰しておりますこと、ごきげんよう」
 
「これはこれはパメラ殿、お元気そうで何より」
 
後宮と通常執務が行われる正宮を繋ぐ長い長い廊下の端で、
行き合った二つの人影が、はたと足を止める。
一人は白磁の肌に金の髪をなびかせた世にも美しい一人の女。
数人の侍女にかしずかれて優雅に絹のドレスを翻すその様は、優雅にして艶めかしい。
もう一人は癖のある茶色の髪を無造作に後ろに撫でつけて、
濃い眉を不快そうにゆがめた一人の精悍な青年だった。
険しい顔には疲労の色が浮かび、筋肉の隆起が窺えるたくましい腕には幾多の傷が見える。
後宮と正宮を行き来する許可を与えられた数少ない側室の一人と、
国王という要職に就こうとする兄を軍人として支える弟王子。
緊迫した空気が、辺りを包んだ。
 
「ビゴーの戦場よりのご無事のご帰還、心よりお喜び申し上げますわ。
もっと早くご挨拶に伺わねばと思っておりましたのに、つい忙しさにかまけてしまいまして……」
 
“あなたの兄君が中々お手を放しては下さらないもので”
と暗に意味するような挑発的な視線に、男は一層眉を顰めた。
 
「それはお気づかい傷み入る。ではこれから政務に戻るので、失礼」
 
不機嫌さを押し隠そうともせずに短く告げて擦れ違うその濃い茶色の髪の毛を、
女は佇んだままじっと見つめていた。
 
ヴィクトル殿下、ご存じかしら? 私が後宮(ここ)に来たのはあなたのため。
あなたを忘れられなくて、あなたに一目お会いしたくて此処まで来た。
 
不敵に微笑む女の本心を、知っている者は誰もいない。否、ただ一人を除いて……。
パメラは仕える主の弟王子を見送った後、彼の行き来た先にある重厚な扉を思い浮かべた。
後宮の中でも最も日当たりがよく、広い場所にある正妃の部屋。
現在の国王は既に正妃を亡くしている。
よって、そこに住まうは彼女の主でもある王太子の正妃。
エリアーヌ。王太子アンリと第二王子ヴィクトルの従姉妹にして幼なじみ。
パメラに王太子の寵愛を奪われた彼女は、普段一切その室から出ることなくひっそりと暮らしている。
だがヴィクトルは、凱旋の挨拶を女たちの中で誰よりも先に彼女に伝えに行った。
パメラは両の拳を握りしめた。爪が皮膚に食い込み、血が流れる。
 
「すぐに王太子妃殿下の元に使いを。
午後のお茶を是非ご一緒したい旨、お伝えしてちょうだい!」
 
後宮の実質的な権力者である主の言に慌てて侍女は走り去る。
パメラの瞳には炎が揺らぎ、いつもの余裕は消え失せていた。
 
エリアーヌ。未来の王妃。あの方の心を捉え続ける女。
私の欲しいものを、いとも簡単に手に入れる、許し難い女!
 
パメラは急いで踵を返した。
己が唯一“勝てる”であろう、その容姿を美しく整え直すために。
 
 
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「突然のお申し出でこちらも十分なおもてなしが出来るか分かりませんが……」
 
結局、エリアーヌはパメラの“お茶の誘い”を受け入れた。
 
『午後三時、わたくしの部屋をお訪ねください』
 
本来ならば側室から正室に突然の申し出をするなど無礼にあたる。
けれど現在(いま)の後宮で王太子の寵愛を欲しいままにしているのは、
正妃であるエリアーヌではなく側室であるパメラ。

パメラの誘いを断ることは王太子アンリの不興を被るということ。
何とかして王太子の世継ぎを生んでほしい、と願っている父の手前、
エリアーヌはパメラの意向を無視することは出来なかった。
己の部屋にパメラを来させたのは、正妃としての最後の意地だろうか。
三時きっかりに部屋の扉を開けて現れた美しい女を見て、エリアーヌは自嘲した。
 
可哀想ね。わたくしも、この方も。
 
そうして吐き出された少しの嫌味に、パメラは気にする風もなく優雅に礼をしてみせた。
 
「無礼は承知しておりますが、近ごろ少しも妃殿下のお姿をお見かけせずに
寂しく感じておりましたので……お会いできて嬉しゅうございますわ」
 
嫌味と嫌味の応酬。
ただひたすら王の、王太子の寵愛を求め続ける女たちが集う後宮では、こんなことはキリがない。
 
「そうでしたかしら?
ついこの間も、宮中の宴の席でお見かけしたように思いましたけれど……」
 
「ビゴーの戦での勝利を祝う宴でございましたわね。
あの時は、私はずっと王太子殿下のお傍に侍っておりまして、
中々妃殿下とお話しする時間が取れませんでしたので……」
 
エリアーヌとパメラの間を行き交う視線が、次第に険を帯びた冷たいものへと変化する。
 
「ああ、そうでしたわね。
では今日は何かわたくしに特別なお話があって、わざわざこんな誘いをくださったのかしら?」
 
「ふふっ、そういう訳でもございませんわ。
……妃殿下、先ほど此処に、ヴィクトル殿下が見えられましたでしょう?」
 
パメラの大きな翠の瞳が、エリアーヌの灰色の瞳をじっと見つめる。
 
「ええ、見えられましたわ。戦場よりの帰還のご挨拶とのことでしたが、それが何か?」
 
エリアーヌは淡々と答えた。パメラはそっと唇を噛みしめる。
 
「本来ならば此処は国王陛下と王太子殿下のみの殿方に出入りを許された後宮のはず。
ましてやあなたは王太子殿下の正妃です。
いくら殿下がお許し下さるからと言って、そう簡単に他の殿方を部屋に
お招きになるなどというお振舞いをなさることは無いのではございませんか?」
 
「……わたくしが招いたわけではありませんよ、パメラ様。
ヴィクトル殿下はわたくしにとって弟のようなもの。それは王太子殿下とてご存じです。
それに、あの方は……王太子殿下がわたくしをお気にかけてはおられないことなど、
あなたが一番よく知っておいでのはずでしょう」
 
エリアーヌの答えに、パメラはそっと溜息を吐いた。
 
「本当に、あなたはずるくていらっしゃる。全てを持っていながら、全てを失ったふりをする。
私、あなたが嫌いですわ、エリアーヌ様。あなたはどなたも愛していらっしゃらない。
愛することを知らないくせに、愛されることだけは知っている。本当にずるい、酷い方。
……だから私、絶対に生んでみせますわ。あなたより先に、王太子殿下のお子を」 
 
パメラはそう吐き捨てると、すっくと立ち上がった。その足元がゆらりとぐらつく。
 
「パメラ様! 興奮なさらないで! 誰か、誰か早く……!」
 
エリアーヌが叫び、侍女たちを呼ぶ。倒れ伏したパメラの足元には、真っ赤な鮮血が滴っていた。





後編
 

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