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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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動き出した春輝。

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屋敷に戻った俺は、己が周囲から監視されていることに気づいた。
気配を隠し、注意深く、しかし綿密に。
何故今まで気づくことが出来なかったのか。
それも全ては……
 
俺は監視に気づかれぬよう、少しずつ失われた五年間のことを調べ上げることにした。
瑠璃族から妻を迎えたという痕跡、その妻との間に生まれた嫡子の痕跡。
瑠璃族との開戦の経緯。父は瑠璃族の有する知恵と技術を、
瑠璃族は我が四季族の持つ肥沃な領土を欲していた。
昔から小競り合いの絶えなかった両民族の“架け橋”として送り込まれてきた娘が、
ユーリヤ・ラズトキン。その美しさを謳われる瑠璃族族長の一族の中でも、
殊に美しいとの評判を極めていた娘。
彼女を妻に娶った俺は、その美しさだけに惹かれたのだろうか。
いいや、記憶を失ってから幾度か重ねた彼女との逢瀬で、俺は彼女の賢さを知り、
優しさを知り、そして俺に向けられる真っ直ぐな瑠璃色の眼差しを見た。
俺の名を呼ぶ、胸を締め付けられるような透きとおる声を聞いた。
俺はユーリヤを、妻となった敵の女を、おそらくは心から愛していた。
否、今でも愛している。だから……
 
 
~~~
 

「……ユーリヤ」
 
突然訪れた俺に、ユーリヤは驚いてナツミを抱いたまま後ずさり、
庵の中へと逃げ込んだ。
 
「関係ないと……申し上げたではありませんか! 何故わからないのです!?
あなたがこちらにおいでになればなるほど、
あなたの身も、ナツミの身も危うくなるのだと!」
 
ピシャリと閉められた扉の内側から聞こえる悲痛な叫び。
おそらくユーリヤは知っている。
 
「それは俺とこの庵が、一族の者に見張られているからだろう?」
 
「……分かっていて、何故……」
 
今にも泣き出しそうな女の声に、すぐにでも扉を蹴破って
その細く震える身体を抱きしめたい衝動に駆られる。
 
「今、監視は俺の“術”によって眠っている。否、正確には“起きている”が
眠っている状態にある。だから、ここに俺がいることも、
おまえとこれから話すことも誰に聞かれる心配もない」
 
そう告げれば、固く閉じられた庵の扉が少しずつ開き、
泣きはらした瞳のユーリヤが姿を現した。
 
「それで今さら、わたしに何のお話があると言うのです?」
 
「ユーリヤ、俺が記憶を無くしたのは
正確にはいつ頃のことだったか覚えているか?」
 
赤く縁取られた瑠璃の瞳を真っ直ぐに見つめて投げかけた問いに、
彼女は一瞬戸惑ったような表情を浮かべた。
 
「一族の会議で、わたしとこの子を送り返すことはない、と宣言されて……
確か、三日後のことだったように思います」
 
「三日後……」
 
少し俯いて考えを巡らせる俺に、ユーリヤは怪訝な眼差しを向けてくる。
 
「お前の話を聞く以上、俺は瑠璃族との間に戦を起こすことを
強硬に望む者たちに、意図的に記憶を奪われた可能性がある」
 
すっと顔を上げて告げた言葉に、ユーリヤは目を見開き、
フラフラと力が抜けたように地面へと倒れ込んだ。
 
 
~~~
 
 
「火野(ヒノ)、少し頼みたいことがある」
 
ユーリヤの庵から帰ってすぐに、俺は側近中の側近である火野を呼び出した。
黒い髪に濃い茶色の瞳を持つ火野は、一見すると生粋の四季族と
何ら変わりはないが、身体の半分に異民族の血を受け継いでいる。
『黒髪に黒い瞳を持つ者以外は、“野蛮で恐ろしい”異民族である』
との教育を長年に渡り受けてきた四季族の中で彼の存在は異質であり、
長の一族に極めて近い血筋を持ちながら、
火野は幼い頃より周囲の迫害を受けて育ってきた。
だからこそ、失われた記憶の中でも彼だけはユーリヤと俺の結婚も、
二人の間に生まれた子供のことも、きっと祝福してくれたことだろう。
俺の“頼み”を聞いた火野は一瞬驚いたような表情(かお)をし、
次に破顔し、快くその“頼み”を引き受けてくれた。
これで問題の一つは片付いた。そして、残る一つは……






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屋敷に戻った俺は、己が周囲から監視されていることに気づいた。
気配を隠し、注意深く、しかし綿密に。
何故今まで気づくことが出来なかったのか。
それも全ては……
 
俺は監視に気づかれぬよう、少しずつ失われた五年間のことを調べ上げることにした。
瑠璃族から妻を迎えたという痕跡、その妻との間に生まれた嫡子の痕跡。
瑠璃族との開戦の経緯。父は瑠璃族の有する知恵と技術を、
瑠璃族は我が四季族の持つ肥沃な領土を欲していた。
昔から小競り合いの絶えなかった両民族の“架け橋”として送り込まれてきた娘が、
ユーリヤ・ラズトキン。その美しさを謳われる瑠璃族族長の一族の中でも、
殊に美しいとの評判を極めていた娘。
彼女を妻に娶った俺は、その美しさだけに惹かれたのだろうか。
いいや、記憶を失ってから幾度か重ねた彼女との逢瀬で、俺は彼女の賢さを知り、
優しさを知り、そして俺に向けられる真っ直ぐな瑠璃色の眼差しを見た。
俺の名を呼ぶ、胸を締め付けられるような透きとおる声を聞いた。
俺はユーリヤを、妻となった敵の女を、おそらくは心から愛していた。
否、今でも愛している。だから……
 
 
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「……ユーリヤ」
 
突然訪れた俺に、ユーリヤは驚いてナツミを抱いたまま後ずさり、
庵の中へと逃げ込んだ。
 
「関係ないと……申し上げたではありませんか! 何故わからないのです!?
あなたがこちらにおいでになればなるほど、
あなたの身も、ナツミの身も危うくなるのだと!」
 
ピシャリと閉められた扉の内側から聞こえる悲痛な叫び。
おそらくユーリヤは知っている。
 
「それは俺とこの庵が、一族の者に見張られているからだろう?」
 
「……分かっていて、何故……」
 
今にも泣き出しそうな女の声に、すぐにでも扉を蹴破って
その細く震える身体を抱きしめたい衝動に駆られる。
 
「今、監視は俺の“術”によって眠っている。否、正確には“起きている”が
眠っている状態にある。だから、ここに俺がいることも、
おまえとこれから話すことも誰に聞かれる心配もない」
 
そう告げれば、固く閉じられた庵の扉が少しずつ開き、
泣きはらした瞳のユーリヤが姿を現した。
 
「それで今さら、わたしに何のお話があると言うのです?」
 
「ユーリヤ、俺が記憶を無くしたのは
正確にはいつ頃のことだったか覚えているか?」
 
赤く縁取られた瑠璃の瞳を真っ直ぐに見つめて投げかけた問いに、
彼女は一瞬戸惑ったような表情を浮かべた。
 
「一族の会議で、わたしとこの子を送り返すことはない、と宣言されて……
確か、三日後のことだったように思います」
 
「三日後……」
 
少し俯いて考えを巡らせる俺に、ユーリヤは怪訝な眼差しを向けてくる。
 
「お前の話を聞く以上、俺は瑠璃族との間に戦を起こすことを
強硬に望む者たちに、意図的に記憶を奪われた可能性がある」
 
すっと顔を上げて告げた言葉に、ユーリヤは目を見開き、
フラフラと力が抜けたように地面へと倒れ込んだ。
 
 
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「火野(ヒノ)、少し頼みたいことがある」
 
ユーリヤの庵から帰ってすぐに、俺は側近中の側近である火野を呼び出した。
黒い髪に濃い茶色の瞳を持つ火野は、一見すると生粋の四季族と
何ら変わりはないが、身体の半分に異民族の血を受け継いでいる。
『黒髪に黒い瞳を持つ者以外は、“野蛮で恐ろしい”異民族である』
との教育を長年に渡り受けてきた四季族の中で彼の存在は異質であり、
長の一族に極めて近い血筋を持ちながら、
火野は幼い頃より周囲の迫害を受けて育ってきた。
だからこそ、失われた記憶の中でも彼だけはユーリヤと俺の結婚も、
二人の間に生まれた子供のことも、きっと祝福してくれたことだろう。
俺の“頼み”を聞いた火野は一瞬驚いたような表情(かお)をし、
次に破顔し、快くその“頼み”を引き受けてくれた。
これで問題の一つは片付いた。そして、残る一つは……






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