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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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ゲオルクとリリアーヌの結婚。

拍手[1回]

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「皇后陛下……リリアーヌ様、今度(こたび)のこと、まこと本意では無かったと心中お察し申し上げますが、私はあなた様の選ばれた道は正しきものであったと思っています。ゲオルク陛下は冷酷非道の王として知られておりますが、反面有能な者は身分に関わらず取り立て、側近たちや民衆の支持は厚いと聞き及びます。ですからきっと皇后陛下におかれましても……」
 
わたくしにとってもゲオルクにとっても二度目となる婚儀が終わり、いよいよ“初夜”を迎えようかというその日の夕べ、わたくしの元を訪ねてきたのは乳姉弟にあたるリュカだった。記憶にあるよりずっと立派な服を着て、私の部屋の扉を叩いたリュカの発言に、わたくしは思わず激昂して怒鳴った。
 
「わたくしにとっても、何だと言うのです!? この二月、ゲオルクに懐柔された臣たちの幾人かから同じような説教を滔々と聞かされました。皆、あの男によってそれまでの地位より上の位を与えられた、下級貴族出身の者たちです。確かにセドリック様が、先帝陛下が彼らに地位を与えられなかったのは、生まれを重んじる我が国の古びた慣習のためです。それでも、例え彼らが“くだらない”と言うその慣習のために望む地位に、相応しい役目につけず歯痒い思いをしていたとしても、それが果たしてあの方をお恨みし、その命を奪ったあの男を、この国を乗っ取った敵国の王を讃える理由になるのでしょうか!? セドリック様が、あの方が、彼らにそんなにも惨い仕打ちをしたとでも言うのでしょうか!?」
 
「リリアーヌ様……出過ぎたことを申しました。どうか、落ち着かれてください」
 
そっと背中に触れようとする手の先をわたくしはパシリと振り払う。
 
「落ち着けだなんて……他ならぬリュカ、おまえにそんなことを言われて、わたくしが落ち着いていられると思いますか!? おまえはわたくしと、実の姉弟のように過ごしましたね……。当然、どんな時でもわたくしたちを暖かく見守り、様々なことを教え、助けて下さったセドリック様のお姿をよく覚えているはずです。そのおまえが、どうして……」
 
呆然と佇むリュカの前でこぼれ落ちる涙を拭おうとしたとき、おずおずといった様子で女官のカミーユが入ってきた。
 
「あの、皇后さま。ゲオルク……いいえ、皇帝陛下が既に参られておいでです。何やら込み入ったお話し中のご様子でしたので、御本人の希望通り控えの間でお待ちいただいているのですが」
 
ああ、そうだ、今日はあの男との初夜! 何てことだろう、乳姉弟の裏切りに、わたくしはすっかり己が果たすべき最悪の役目を忘れてしまっていた。よりにもよってこんな日に、どうしてリュカは……! 泣きたくなるような思いで振り返った乳姉弟は私の視線に少し俯き、別れの挨拶を告げた。
 
「では、私はこれにて失礼致します……リリアーヌ様、先帝陛下のご恩は確かに決して忘れられるものではございませんが、私は本当に心からあなたに幸せになってほしいと思っている、ただそれだけなのです」
 
「そう……それで、ゲオルクを愛せとでも言うおつもり? セドリック様の仇であるあの男を!」
 
憎々しげに叫んだわたくしを哀しそうに見つめて、リュカは去っていった。そしてリュカと入れ違いに部屋に入ってきたゲオルクの顔に、わたくしは苛立ち、次に凍りついた。
 
「さっきまでは勇猛に敵に立ち向かう手負いの獅子のようであったのに、今はまるで蛇に睨まれた蛙のような顔をしているのだね、リリアーヌ」
 
「わたくしが蛙? 今この場で本当にそうなれたら、どんなにかよろしいでしょうね」
 
ゲオルクの冗談に大きな溜息を吐き、寝台に腰掛けたわたくしの隣に、ゲオルクも腰を下ろす。
 
「先ほどここにいたのはリュカ・オービニエですね。あなたの乳母子の。きょうだい同然とはいえ、こんな夜中に皇后ともあろう者の部屋に一臣下が出入りするのは余り感心しないな」
 
少しもそうは思っていない調子で小言を告げるゲオルクに、若干呆れながら問いかける。
 
「リュカに一体どんな地位を与えたのです? そうやって下の者から順に、この国の者を従えていくおつもりですか!?」
 
思わず険のある声音を出してしまった私に、ゲオルクはやれやれといった様子で肩をすくめ、わたくしの目をじっと見つめた。
 
「……セドリック皇帝を殺した私が、それほどまでに許せませんか? 憎いですか?」
 
おそらくは、リュカとわたくしの会話を全て盗み聞いていたのだろう。相変わらず、何て品の無い男であることか! わたくしは腹をくくり、ふつふつと煮えたぎる感情を彼に向けて顕わにぶつけた。
 
「当たり前です! 本当ならば、今夜にでも寝首を掻かせていただきたいくらいですわ!」
 
そう叫んだわたくしに、ゲオルクはクスリと嘲りの笑みを浮かべた。
 
「……残念ながらそれが出来ないことくらい、聡明なあなたなら分かっておいでのはずだ」
 
「ええ、ですから従いますわ。わたくしが決めたことです。この婚姻も、何もかも全て」
 
投げやりに答え、彼に背を向けたわたくしの顔を、無理やりに力強い手が引き寄せる。
 
「ああ、あなたはそれで良い。私の傍には自分から尻尾を絡ませてくる女たちしか集まってこないのでね……。新鮮なのですよ、あなたのように全身の毛を逆立て、こちらを威嚇してくる猫が」
 
「無礼者っ!」
 
余りの発言に身体が震え、再び頬を張ろうとした手を、今度は素早く掴み取られる。
 
「そう何度も女に殴られて頬を腫らしていては、皇帝としての沽券に関わりましょう? さぁ、おまえは今日から俺の女(もの)だ。逆らうことは許さない、許されない」
 
急に変わった口調に、性急な口付け。
 
「……っ……っ、それがおまえの本性ですか!? ゲオルク!」
 
寝台の上で乱れた呼吸を整えながら、そのどこまでも冷え切った氷のような瞳を見上げたわたくしに、彼は妖しく笑って頷いた。
 
「いかようにも、好きにお考えなされればよい、『皇后陛下』。おまえとはこれから長い長い夜を、幾度も重ねることになるのだろうからな……」
 
それから先のことは覚えていない。否、正確には決して思い出したくもない、忌むべき記憶となり果てたのが真実である。









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目次(欧風)

拍手[2回]


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国が敗(ま)けた。先帝の娘であり、現皇帝の后であるわたくしはこの国に唯一残された皇族としてどんな処遇を受けることも覚悟して簒奪者……いえ、勝者たちを皇宮の中に受け入れた。
 
 
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「お初にお目にかかります、ヴィラール帝国皇后リリアーヌ様。これはこれは、噂以上にお美しくていらっしゃる」
 
「エステン王国国王陛下、ゲオルク様でございますね。皇帝陛下はあなたとの戦で討ち死にを遂げられたとのこと、もはやこの宮に残る皇族はわたくし一人。既にこの国には戦えるだけの力は残っておりません。この上はどうかわたくし一人の命を持って、兵や臣下、民たちに対しては寛大なご処置をいただけないでしょうか?」
 
目の前の玉座にドシリと座した野性味溢れる頑健な男が、わたくしの仇。わたくしの国を滅ぼし、わたくしの夫を殺し、今またわたくしの城まで奪い去ろうとしている、憎むべきエステンの国王・ゲオルク! その男の眼前に、今わたくしは跪いている。既に失われてしまったこの国の、最後の皇族としての務めを果たすために。
 
「無論です、皇后陛下。私はこの国を、平和的な手段で統治したいのです。そしてそのためには、あなたの存在が不可欠だ」
 
ニヤリ、と嗤いながら玉座を降りた男がわたくしの傍に近づいてくる。恨んでも、恨んでも恨み切れない仇、本当ならば刺し違えてでも、その命を奪ってしまいたい相手。
 
「あなたは先帝……いえ、もはや“先々帝”となられましたか、ユルバン陛下のたった一人の姫君とお聞きしました。そして皇帝……いえ、“先帝”セドリック陛下は元々はあなたの従兄、先々帝の甥であられたとか。つまりはこの国の“正当な”皇帝の血筋を引いているのはあなただけ。臣民の人望も厚いと言われるあなたが私の后となってくだされば、この国の臣も民も、私が皇帝となることに何も文句は言わなくなるでしょうね」
 
不意をつかれて顎を取られ、紡がれた言葉の意味を咀嚼する。同時に込み上げてくる激しい怒りに、身体が震え出し、思わず己の顎を掴む汚らわしい手を叩き落してしまった。
 
「いくら敗国の人間とはいえ、わたくしにも皇族としての誇りというものがございます! 陛下を……夫を奪った仇の后となるなど、誰が承知できましょうか!? それならばいっそあなたの国まで引き出され、卑しい民たちの前でこの首を切り落とされた方がマシです!」
 
激昂し叫んだわたくしにゲオルクはさっと身を翻し、さも心外である、といったようにわざとらしく溜息を吐いてみせた。
 
「おやおや、あなたは私の国の民を『卑しい』とおっしゃる。全くもって同感ですな。あなたの『皇族としての誇り』を踏みにじるような発言を平気でするこの私を国王に掲げているのですから。……まぁ、それもほんの五年前からのことでございますが」
 
妖しく嗤う男の表情(かお)に、この男がエステンの王に即位した際、この国まで流れきた噂が脳裏を過ぎる。
 
『エステン王国の新国王ゲオルクは、自分を一兵卒から将軍にまで取り立て、己が娘を妻として与えくれた先王ゴットホルトを暗殺し、王位についたのだ』
 
と。前国王の一人娘の婿として王位についた不気味な男。わたくしと極めて近い立場にある、その妃クリスティーネ王女に感じたいささかの同情。
 
わたくしの場合はまだ良かった。夫のセドリックとは十才年が離れていたものの、幼き日より婚約者として慣れ親しみ、王位の継承もわたくしの父が生きている間に穏やかなかたちで行われた。
三年前に他界した父。ゲオルクの即位と同時に、急速にその勢力を増してきた以前は小国であったはずの隣国・エステン王国。戦争が起こったのは、先帝であった父の崩御と同時だった。
当時ようやくわたくしと真実(まこと)の夫婦となったばかりのセドリックは、わたくしと少しもゆっくりと時間(とき)を過ごす暇(いとま)もなく、自ら戦場に出た。初めは圧倒的な数の優位を誇る我が国に勢いがあったはずの戦局は日に日に厳しさを増し、兵糧は尽き、民草は疲れ果て……そうして遂に、終わりの日がやってきた。
皇帝・セドリックの戦死。セドリックとわたくしとの間に子は無かった。わたくしは亡き父の一粒種。父のきょうだいたちも皆既に老い果て、戦う気力も無く隠れ震えているか他国に亡命し逃げ果てたかのどちらかであった。
 
セドリック……黄金の髪に青い瞳を宿した、兄のように優しいわたくしの従兄、何よりも大切な、愛すべき夫! どうして、その夫を殺した相手の元などに嫁げようか、それでなくとも、わたくしは幼き日よりセドリックしか知らずに育ったのだ。彼だけを見つめ、彼だけを愛し、彼の手のぬくもりだけを感じて育ったのだ。どうして今さら他の男の妻となることができようか。そんな辱めを受けるくらいなら、いっそ自らの手で……!
 
ぎゅっと拳を握りしめ、口をつぐんだわたくしの意図を察したのか、ゲオルクは素早い動きでわたくしの身体を己の元に引き寄せると、無理やり唇を寄せ、あろうことか口内に舌をねじ込んできた。
 
「……っ……無礼者! 何をする!?」
 
我が国の重臣や憎きエステン王国の家臣たちも居並ぶ前で交わされた濃厚な口付けに、わたくしは込み上げる衝動のままにゲオルクの頬を打った。
 
「いえ、皇后陛下が余りにも早まったご決断をなさろうとしたので、それをお止めしたまでのこと」
 
飄々と答える男に、わたくしはあの場で己がやろうとしていたことを全て知られていたことに気づき、羞恥と怒りで目の前が真っ白になった。
 
「いいですか、皇后陛下。私は逆らう臣は斬り殺し、従わぬ民は滅ぼしてしまえば良い、という考え方の持ち主です。もしあなたがお一人で早まったご決断をなされた場合、この国の臣民がどうなるか……ご自身の『皇族としての誇り』と照らし合わせてよくお考えいただきたい」
 
「無礼な! それではまるで皇后陛下に対する脅しではないか!」
 
立ち上がり、叫んだ我が国の臣の一人に向かい、ゲオルクの合図を受けたエステンの兵が真っ先に近づき、彼を背後から取り押さえて喉元に刃を向けた。
 
「ぐ、う……っ!」
 
苦しそうな彼の呻き声、首筋から流れ落ちた一筋の血を目にした瞬間、わたくしの唇は自ずからその言葉を紡いでいた。
 
「分かりました、あなたの……この国の、新たな主の后となることを受け入れましょう。それが、最後の皇族として残されたわたくしの務めであるのならば」
 
呆然と語られた言葉に、ゲオルクは高らかに笑い、エステンの兵士たちは沸き立ち、我が国の臣たちは悲鳴と怒号に崩れ落ちた。
 
「さすがは聡明な皇后陛下……いえ、これからはもう許嫁同士なのですから、リリアーヌと名をお呼びしても良いな。式の日取りはなるべく早い方がいいでしょう。ご希望のお日にちなどはございますか?」
 
「……叶うならば、セドリック様の……先帝陛下の喪が明けてから。それから約束して下さい、わたくしがあなたの后となる代わりに、この国の臣民には決して手荒なまねはせぬ、と。あなたも、あなたの臣や兵たちにも」
 
「もちろん、お約束致します、リリアーヌ。言ったでしょう? 私はこの国を『平和的な手段で統治する』ために、あなたを后に迎えるのだと」
 
胡散臭い微笑に恭しく口づけられた手を引き、ふと思い出したことを問うてみる。
 
「そういえばあなたは……お国元に王妃殿下を残しておいでなのではないですか? わたくしは側室の一人となるのですか? クリスティーネ様はご納得されて……」
 
わたくしの発言が終わらぬうちに、エステンの兵士たちが下品な笑い声を上げ始める。そんな兵士たちを宥めるように、ゲオルクは若干苦笑を浮かべながら私を見つめた。
 
「リリアーヌ、私の正妃クリスティーネは先日亡くなってしまったんだ……突然の、不幸な事故でね」
 
その、底冷えた眼差しが物語る真実。この男は、己が妃を殺したのだ! 己がエステン国王の座に着くためには必要不可欠であったであろう、王族の血を引く姫君を!
おそらくそれはエステン王国よりもずっと強大で、豊かな土地を持つ我が国を手に入れる算段がつき、もう彼女が必要ではなくなったから。この男は最初からこの国を乗っ取るつもりで、ゴットホルト王を、クリスティーネ王女を、セドリック様を!
それではわたくしも“必要ではなくなったら”殺されてしまうのだろうか?
 
……それも良い、どうせもう会いたい人はどこにもいない。この身は少しでもこの国の臣を、民を生き永らえさせるためだけにある。わたくしはただの人形も同然となって、この男の隣に在り続ければ良いのだから。









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