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第六話。それぞれの結末。
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青斗くんの姉への告白によって、わたしたちの歪な関係は終わりを迎えた。
様々な色が複雑に混じり合い、いつしか汚らしく汚れてしまった
パレットの上の絵具は美しいままの色も含めて全て洗い流され、
パレット自体も既にどこにあるか分からないような状態になってしまった。
青斗くんの告白に姉は大いに戸惑い、けれどハッキリと彼を拒絶した。
ところがその後、姉は遠方の大学への進学が決まった紅登くんとも気まずくなり
(どうやら別れを切り出されたらしい)しばらくの間塞ぎ込んだ状態が続いた。
彼ら兄弟が我が家に顔を覗かせることは無く、朝、玄関先で出くわそうものなら
それはそれは張り詰めた重い空気が、辺りを濁らせたものだった。
それが変わったのは、いつからだったのだろう?
姉への想いに気づいた青斗くんは雪美ちゃんと別れ、
彼女が青斗くんと連れだって遊びに来ることもなくなった。
(存外サッパリした別れだった、とは聞いているけれど)
姉が元の彼氏である紅登くんにきちんと気持ちを伝えるべく行動を起こしたのは、
そんな青斗くんへの姉なりのけじめというものだったのかもしれない。
姉の告白に紅登くんはたじろぎ、心底驚いた様子だったそうなのだが、
結局やっとのことで互いの本心を伝え合った二人は元の鞘に収まり、
姉は紅登くんの進学先と同じ土地の大学に進路を定めた。
新しいパレットの上にはまた綺麗な絵具が均一に並び始めた。
パレットが新しく生まれ変わったのだ。
絵筆もまた、きちんと濯がなければならないだろう。
~~~
~~~
「合格発表、付き合ってもらっちゃってごめんね」
まだ吐く息の白い早春の日、F高の合格発表を見に行くわたしの傍に
付き添ってくれたのは、両親でも姉でもなく青斗くんだった。
付き添ってくれたのは、両親でも姉でもなく青斗くんだった。
「ははっ、いいよ。月子アレだろ? 『自分の発表より緊張して見に行けない!』
私立の入試のときもそうだったもんなぁ」
彼の口から久方ぶりに姉の名がこぼれたのを聞いて目を見開いたわたしに、
彼は少し気まずそうに苦笑してみせた。
「……何だ、やっぱり気づかれてたか。そりゃ気づくよな、あんだけ気まずくなれば」
「う、ううん……」
わたしが慌てて首を振ると、彼はまた少し切なそうな、
けれど以前とは違い何か憑きものが落ちたかのような微笑を浮かべた。
「大丈夫、もう結構吹っ切れてるつもりなんだ。
二人も仲直りしたことだし、あれから大分時間も経ってるし」
「無理……してない?」
問いかけたわたしの前に、そっと差し出された冷たい手。
いつも頭を撫でてくれる、節くれだった暖かい手とは少し違う、
泣きたくなるくらい愛しい彼の手。わたしはこの手が欲しい。
泣きたくなるくらい愛しい彼の手。わたしはこの手が欲しい。
姉が振り払ったこの手を、長い間求め続けている人間がいるのだということに気づいてほしい。
控えめに繋がれた彼の手の感触に、わたしは己が心の奥に抱き続けた本当の願いを知った。
「ねぇ、青斗くん。高校に合格したら、聞いてほしいことがあるんだ。言ってもいい?」
「何だ? 無茶なお願いじゃなかったら聞いてやるよ」
若干勘違いした彼の返事を訂正することなく、わたしは笑顔で歩みを進める。
真っさらなパレットの上で、わたしたちは新しい色を作る。
二度と同じ色が作れないからこそ、小さなパレットが、絵具たちが愛おしい。
そんな単純なことに、わたしはようやく気づいたのだから。
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青斗くんの姉への告白によって、わたしたちの歪な関係は終わりを迎えた。
様々な色が複雑に混じり合い、いつしか汚らしく汚れてしまった
パレットの上の絵具は美しいままの色も含めて全て洗い流され、
パレット自体も既にどこにあるか分からないような状態になってしまった。
青斗くんの告白に姉は大いに戸惑い、けれどハッキリと彼を拒絶した。
ところがその後、姉は遠方の大学への進学が決まった紅登くんとも気まずくなり
(どうやら別れを切り出されたらしい)しばらくの間塞ぎ込んだ状態が続いた。
彼ら兄弟が我が家に顔を覗かせることは無く、朝、玄関先で出くわそうものなら
それはそれは張り詰めた重い空気が、辺りを濁らせたものだった。
それが変わったのは、いつからだったのだろう?
姉への想いに気づいた青斗くんは雪美ちゃんと別れ、
彼女が青斗くんと連れだって遊びに来ることもなくなった。
(存外サッパリした別れだった、とは聞いているけれど)
姉が元の彼氏である紅登くんにきちんと気持ちを伝えるべく行動を起こしたのは、
そんな青斗くんへの姉なりのけじめというものだったのかもしれない。
姉の告白に紅登くんはたじろぎ、心底驚いた様子だったそうなのだが、
結局やっとのことで互いの本心を伝え合った二人は元の鞘に収まり、
姉は紅登くんの進学先と同じ土地の大学に進路を定めた。
新しいパレットの上にはまた綺麗な絵具が均一に並び始めた。
パレットが新しく生まれ変わったのだ。
絵筆もまた、きちんと濯がなければならないだろう。
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「合格発表、付き合ってもらっちゃってごめんね」
まだ吐く息の白い早春の日、F高の合格発表を見に行くわたしの傍に
付き添ってくれたのは、両親でも姉でもなく青斗くんだった。
付き添ってくれたのは、両親でも姉でもなく青斗くんだった。
「ははっ、いいよ。月子アレだろ? 『自分の発表より緊張して見に行けない!』
私立の入試のときもそうだったもんなぁ」
彼の口から久方ぶりに姉の名がこぼれたのを聞いて目を見開いたわたしに、
彼は少し気まずそうに苦笑してみせた。
「……何だ、やっぱり気づかれてたか。そりゃ気づくよな、あんだけ気まずくなれば」
「う、ううん……」
わたしが慌てて首を振ると、彼はまた少し切なそうな、
けれど以前とは違い何か憑きものが落ちたかのような微笑を浮かべた。
「大丈夫、もう結構吹っ切れてるつもりなんだ。
二人も仲直りしたことだし、あれから大分時間も経ってるし」
「無理……してない?」
問いかけたわたしの前に、そっと差し出された冷たい手。
いつも頭を撫でてくれる、節くれだった暖かい手とは少し違う、
泣きたくなるくらい愛しい彼の手。わたしはこの手が欲しい。
泣きたくなるくらい愛しい彼の手。わたしはこの手が欲しい。
姉が振り払ったこの手を、長い間求め続けている人間がいるのだということに気づいてほしい。
控えめに繋がれた彼の手の感触に、わたしは己が心の奥に抱き続けた本当の願いを知った。
「ねぇ、青斗くん。高校に合格したら、聞いてほしいことがあるんだ。言ってもいい?」
「何だ? 無茶なお願いじゃなかったら聞いてやるよ」
若干勘違いした彼の返事を訂正することなく、わたしは笑顔で歩みを進める。
真っさらなパレットの上で、わたしたちは新しい色を作る。
二度と同じ色が作れないからこそ、小さなパレットが、絵具たちが愛おしい。
そんな単純なことに、わたしはようやく気づいたのだから。
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