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連作(現代・高~中学生・幼なじみ・五角関係)第一話。
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お隣に住む紅登(くれと)くん、青斗(あおと)くん兄弟とわたしたち姉妹は幼なじみだ。
高校三年生の紅登くん、高校二年生の青斗くんと姉、そして中学三年生のわたし。
いささか単純で直情的ではあるがスポーツ万能で兄貴肌の紅登くん。
紅登くんに比べると穏やかで優しい物腰の、優等生として名が通っている青斗くん。
頭脳明晰、容姿端麗、“才色兼備の高嶺の花”と周囲から持て囃されている姉の月子。
そして、容姿も勉強も運動も特に秀でたところの無い、ただ絵を描くことだけが好きなわたし。
皆はわたしを“一番年下の女の子”として可愛がってくれるし、
わたしも三人のことが大好きだが、時折苦しくなることがある。
そう、それは例えば、彼の切なく愛しげな眼差しを見たときに――
「それでね、ここをXに代入すると答えが出る」
「うん、分かった。ありがとう、お姉ちゃん」
「お、ハナってば勉強してやんの。月子の解説って理解できるわけ?」
「紅登、それは失礼だよ。オレ、この間も月子に勝てなかったんだから」
いつもの我が家のリビング。
優秀な姉と幼なじみに宿題を見てもらう、受験生のわたし。
まるで自分の家のように我が家に入り浸っている幼なじみの二人。
そしてそのうちの一人の言葉に眉根を寄せる、美しい姉。
変り映えのしない風景。相変わらずの会話。
「紅登、あんたのその言葉、私への挑戦と受け取ったわよ!?
数学だって英語だって、高校の範囲じゃ絶対あんたに引けを取らないと思うわ」
「ハッ! 年下が生意気言ってんじゃねぇよ。いくらF高だからって……」
ああ、また始まった。わたしと青斗くんは顔を見合せて苦笑する。
それだけの行為が、難しくなってしまったのはいつからだったのだろう?
小さなパレットの上に行儀良く並んでいたはずの絵具が、
グチャグチャと汚らしく混ざり始めたのは。
グチャグチャと汚らしく混ざり始めたのは。
強張った顔の筋肉を必死に持ち上げ、わたしは密かに溜息を吐く。
今日はきちんと笑えていただろうか? まだわたしは、隠し通せているだろうか?
「じゃあハナ、次は社会やろっか?
オレは文系の方が得意だから、見てあげられるよ」
オレは文系の方が得意だから、見てあげられるよ」
「うん、じゃあお願いします」
わたしが差し出したテキストに視線を移す前の刹那、姉へと向けられた切れ長の瞳。
わたしは、それを見るのが何よりつらい。
わたしは、それを見るのが何よりつらい。
わたしが好きな青斗くんは、姉に無自覚の恋をしている。
姉は、幼い頃から青斗くんと仲が良かった。同い年ということもあって
二人は常に一緒にいたし、共に頭脳派の二人は会話のテンポもよく合った。
二人は常に一緒にいたし、共に頭脳派の二人は会話のテンポもよく合った。
学校でも皆が、二人は付き合っているのだ、と思い込んでいた。
ところが実際は違った。姉は、おそらくはずっと昔から、
喧嘩ばかりしていた紅登くんが好きだった。そして紅登くんもまた……。
喧嘩ばかりしていた紅登くんが好きだった。そして紅登くんもまた……。
正反対な気性の上、負けず嫌いが災いしてか互いに中々素直になれず、
遠回りをした二人がようやく付き合い出したのは一年前。
硬派で頑固な紅登くんと、意外とシャイなところのある姉は
身内にそういった部分を見せるのは恥ずかしいのか、四人でいるときは
付き合う前と何ら変わらない、くだらない喧嘩友達のような関係を崩さずにいる。
身内にそういった部分を見せるのは恥ずかしいのか、四人でいるときは
付き合う前と何ら変わらない、くだらない喧嘩友達のような関係を崩さずにいる。
けれどわたしは気づいている。そしてきっと青斗くんも。
最初から、二人がお互いしか見ていなかったことを。
相手の気を引きたくて、いつもレベルの低い悪口をぶつけていたことも。
青斗くんはそれを知っていたからこそ、
姉への気持ちを自覚することができなかったのだろう。
姉への気持ちを自覚することができなかったのだろう。
そしてそれ故に、“彼女”を作ることもできたのだ。
――ピンポーン――
鳴り響いたチャイムの音に、青斗くんはテキストから顔を上げた。
「あ、多分雪美だ。ごめんハナ、ちょっと待ってて」
慌てて玄関に赴いた青斗くんが次に戻ってきたとき、
その後ろにはわたしたちの従姉妹に当たる雪美ちゃんが紙袋を手にして立っていた。
「こんにちは、皆さん!
今日は伯父さんも伯母さんもいないって言うから、遊びに来ちゃいましたぁ!」
にっこり微笑む彼女は、姉と青斗くんが通うF高の一年生。
入学式で姉に紹介された青斗くんに一目惚れをし、
そのまま勢いに乗じて告白したのだと言う。
そして青斗くんは、押しの強い彼女に流されるままその告白を受け入れた。
それを聞いたとき、わたしは素直な驚きを感じた。
どうして? 青斗くんは、お姉ちゃんのことが好きだと思っていたのに――
そうして気づいた。彼が、己の想いを自覚していないということに。
まるで大切な宝物を鍵の付いた宝箱にきつく封じ込めるかのように、
心の奥深くに閉じ込めてしまっていることに。
ああ、もうお姉ちゃんでも青斗くんでもどっちでもいい。
早く、気づいてくれないかな?
自分の気持ちか、彼の気持ちか、わたしの気持ちに。
そうじゃないといつまでも、わたしの想いは行き場がない。
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お隣に住む紅登(くれと)くん、青斗(あおと)くん兄弟とわたしたち姉妹は幼なじみだ。
高校三年生の紅登くん、高校二年生の青斗くんと姉、そして中学三年生のわたし。
いささか単純で直情的ではあるがスポーツ万能で兄貴肌の紅登くん。
紅登くんに比べると穏やかで優しい物腰の、優等生として名が通っている青斗くん。
頭脳明晰、容姿端麗、“才色兼備の高嶺の花”と周囲から持て囃されている姉の月子。
そして、容姿も勉強も運動も特に秀でたところの無い、ただ絵を描くことだけが好きなわたし。
皆はわたしを“一番年下の女の子”として可愛がってくれるし、
わたしも三人のことが大好きだが、時折苦しくなることがある。
そう、それは例えば、彼の切なく愛しげな眼差しを見たときに――
「それでね、ここをXに代入すると答えが出る」
「うん、分かった。ありがとう、お姉ちゃん」
「お、ハナってば勉強してやんの。月子の解説って理解できるわけ?」
「紅登、それは失礼だよ。オレ、この間も月子に勝てなかったんだから」
いつもの我が家のリビング。
優秀な姉と幼なじみに宿題を見てもらう、受験生のわたし。
まるで自分の家のように我が家に入り浸っている幼なじみの二人。
そしてそのうちの一人の言葉に眉根を寄せる、美しい姉。
変り映えのしない風景。相変わらずの会話。
「紅登、あんたのその言葉、私への挑戦と受け取ったわよ!?
数学だって英語だって、高校の範囲じゃ絶対あんたに引けを取らないと思うわ」
「ハッ! 年下が生意気言ってんじゃねぇよ。いくらF高だからって……」
ああ、また始まった。わたしと青斗くんは顔を見合せて苦笑する。
それだけの行為が、難しくなってしまったのはいつからだったのだろう?
小さなパレットの上に行儀良く並んでいたはずの絵具が、
グチャグチャと汚らしく混ざり始めたのは。
グチャグチャと汚らしく混ざり始めたのは。
強張った顔の筋肉を必死に持ち上げ、わたしは密かに溜息を吐く。
今日はきちんと笑えていただろうか? まだわたしは、隠し通せているだろうか?
「じゃあハナ、次は社会やろっか?
オレは文系の方が得意だから、見てあげられるよ」
オレは文系の方が得意だから、見てあげられるよ」
「うん、じゃあお願いします」
わたしが差し出したテキストに視線を移す前の刹那、姉へと向けられた切れ長の瞳。
わたしは、それを見るのが何よりつらい。
わたしは、それを見るのが何よりつらい。
わたしが好きな青斗くんは、姉に無自覚の恋をしている。
姉は、幼い頃から青斗くんと仲が良かった。同い年ということもあって
二人は常に一緒にいたし、共に頭脳派の二人は会話のテンポもよく合った。
二人は常に一緒にいたし、共に頭脳派の二人は会話のテンポもよく合った。
学校でも皆が、二人は付き合っているのだ、と思い込んでいた。
ところが実際は違った。姉は、おそらくはずっと昔から、
喧嘩ばかりしていた紅登くんが好きだった。そして紅登くんもまた……。
喧嘩ばかりしていた紅登くんが好きだった。そして紅登くんもまた……。
正反対な気性の上、負けず嫌いが災いしてか互いに中々素直になれず、
遠回りをした二人がようやく付き合い出したのは一年前。
硬派で頑固な紅登くんと、意外とシャイなところのある姉は
身内にそういった部分を見せるのは恥ずかしいのか、四人でいるときは
付き合う前と何ら変わらない、くだらない喧嘩友達のような関係を崩さずにいる。
身内にそういった部分を見せるのは恥ずかしいのか、四人でいるときは
付き合う前と何ら変わらない、くだらない喧嘩友達のような関係を崩さずにいる。
けれどわたしは気づいている。そしてきっと青斗くんも。
最初から、二人がお互いしか見ていなかったことを。
相手の気を引きたくて、いつもレベルの低い悪口をぶつけていたことも。
青斗くんはそれを知っていたからこそ、
姉への気持ちを自覚することができなかったのだろう。
姉への気持ちを自覚することができなかったのだろう。
そしてそれ故に、“彼女”を作ることもできたのだ。
――ピンポーン――
鳴り響いたチャイムの音に、青斗くんはテキストから顔を上げた。
「あ、多分雪美だ。ごめんハナ、ちょっと待ってて」
慌てて玄関に赴いた青斗くんが次に戻ってきたとき、
その後ろにはわたしたちの従姉妹に当たる雪美ちゃんが紙袋を手にして立っていた。
「こんにちは、皆さん!
今日は伯父さんも伯母さんもいないって言うから、遊びに来ちゃいましたぁ!」
にっこり微笑む彼女は、姉と青斗くんが通うF高の一年生。
入学式で姉に紹介された青斗くんに一目惚れをし、
そのまま勢いに乗じて告白したのだと言う。
そして青斗くんは、押しの強い彼女に流されるままその告白を受け入れた。
それを聞いたとき、わたしは素直な驚きを感じた。
どうして? 青斗くんは、お姉ちゃんのことが好きだと思っていたのに――
そうして気づいた。彼が、己の想いを自覚していないということに。
まるで大切な宝物を鍵の付いた宝箱にきつく封じ込めるかのように、
心の奥深くに閉じ込めてしまっていることに。
ああ、もうお姉ちゃんでも青斗くんでもどっちでもいい。
早く、気づいてくれないかな?
自分の気持ちか、彼の気持ちか、わたしの気持ちに。
そうじゃないといつまでも、わたしの想いは行き場がない。
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