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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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花と緑』番外編。元女官・憂から紅華へ送る手紙。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



前略 紅華様
 
早いものであれから五年の月日が経ちました。
華の国……いいえ、彼の国があった地は戦後の混乱がようやく終息し、
花に例えれば種をまくための土を耕し終わったような状況にあります。
わたしと夫はそのために、微力ではあるものの精一杯の力を尽くしているところです。
それが、わたしたち二人に出来るたった一つの償いであると思うのです。
 
紅華様もご存じのことと思いますが、わたしは華の国の上級役人であった父と、
その邸に奴隷として仕えていた母との間に生まれました。
いいえ、わたし自身も奴隷でした。
わたしは己が十五の年を迎えるまで、父親が誰であるかということすら知らぬ、
ただの賎、ただの奴隷であったのです。
幼き日より母と共に朝から晩まで働かされ、水仕事から畑仕事、
肥え溜めの処理に至るまで、毎日を汗と埃と泥に塗れて過ごしておりました。
そんなわたしに転機が訪れたのは、わたしより一つ年上であった正妻腹の姉が
下級役人と共に駆け落ちをしてしまった後のことにございます。

ある日、わたしは突然邸の主に呼ばれたのです。
 
『おまえは私の娘であるから、今日よりは奥に習い、
きちんとした格好(なり)をして礼儀作法を学ぶように』
 
主の言葉に、わたしは驚いて奴隷の部屋に駆け込み、母に真実を問いました。
母はわたしが主に伝えられた言葉を聞くと眼を見開いて首肯し、
次に涙を流して喜んだのでございます。
 
『良かったねぇ、ユウ。お前は旦那様の、お役人様のお嬢様になれるんだ!
もう賎なんかじゃない、奴隷の仕事もしなくて良い。
ああ、何て素晴らしいことだろう!』
 
余りにも母が喜ぶので、わたしはそれ以上何も言えなくなりました。
それが、わたしが見た最後の母の姿でございます。
おそらくは口封じのために、何処か人知れぬ場所で殺されたのでしょう。
そしてあの時わたしの幸運を喜んでいた母は、己が運命すら分かっていたはずです。
わたしは母の涙を忘れられず、次第に父を、役人を、皇族を、
華の国を憎むようになりました。

そうして、父の正妻に苛めとも言える酷い躾を受けながら何とか令嬢の仮面を
被れるようになった頃、わたしは侵華宮の噂を聞いたのでございます。
皇帝の第七公主、気まぐれで変わり者の紅華様が、
父帝に強請り新たに設けた悪趣味な離宮の話を。
許せない、と思いました。
賎の意匠を凝らし、賎を集めた宮に“侵華宮”という名を付けるなど!
何と傲慢で残酷な公主か、と思い、わたしは顔も知らぬあなたを憎みました。
父から女官の話がもたらされたとき、わたしが二つ返事で承諾致しましたのも、
ただひたすらに例の公主の顔が見られる、上手くいけば復讐すら
可能な距離に近づけるかもしれない、と考えてのことでございました。
皇帝が寵愛する美しい公主、と評判のあなたの顔に熱湯でもかけてやることが
出来れば、それはわたしにとって十分な復讐でございました。
その結果皇帝の不興を被った父が失脚すればまさに一石二鳥、
そんな浅薄なことを考えて、わたしはあの宮に参ったのでございます。
 
わたしが正式に女官として侵華宮に仕え出したのはもう八年も昔、
わたしが十八で、紅華様が十四のお年を迎えられる頃のことでございましたね。
目通りした公主の余りの艶やかさ、華やかさに、彼女の顔に酷い火傷を
負わせることばかり考えていたわたしは、ただただ圧倒されました。
奥方から叩きこまれた挨拶の仕方も忘れて、ぼんやりと
口を開けたままのわたしに、あなたは笑ってこう告げられました。
 
『そなた、面白いのう。気に入った。良いか、麗。
この者は今日よりわらわの“友”じゃ。下女たちと同じに考えるでないぞ』
 
傍らの乳姉妹を振り返られておっしゃられた言葉の揶揄するような響きに、
わたしは己の憎しみを取り戻しました。
後から考えれば、あのとき既にあなたはわたしが賎の娘だとご存じの上で
ご自分の宮にお迎えになっていたのですね。
麗様が全てお調べになられて、あなたの元にご報告に上がったことを伺いました。
 
『初めは賎の血を引く娘なんて、と心配したけれど、あなたは見目も良いし
行儀もきちんとしているし、何より気が利いて助かるわ。
本当に、公主(ひめ)様のおっしゃった通りね』
 
“貴族の娘”と初めは嫌悪の眼差しで見ていたあの方は、
本当にお優しい、そして賢くさっぱりしたご気性の、素敵なお方でございました。
わたしは知りませんでした。あの方が目の前で仲間たちに斬られるまで、
反乱を起こすとはどういうことか、皇族を、この国を滅ぼすとはどういうことか。
 
『憂……お願い……公主様を守って。あなたなら、守れる、でしょう……?』
 
麗様の最期の言葉が、今もわたしの胸を悲痛な後悔と共に締めつけます。
あの方は知っておられたのでしょう。
あなたのことを誰よりも知り、誰よりも慈しんでおられたあの方は、
あなたのお考えも、わたしや奴隷たちがやろうとしていたことも。
その上でわたしを咎めることなく周囲の女官たちと同じように
親しく接して下さった。あなたを、守ろうとしておいでだった。
わたしはそんな麗様の、ただ一つの願いにすら応えることができませんでした。
紅華様、わたしはあなたを守れなかった。

いつぞや、あなたはおっしゃいました。
わたし一人を従えられて庭を散策されていた時のことであったかと思います。
 
『憂、そなた、わらわが何故この宮を“侵華宮”と名付けたか知っているか?』
 
庭に咲く牡丹の花を一輪手にされたあなたは、わたしに向かってこう問われました。
 
『……わたくしには答えかねます』
 
わたしは苛立ちを隠しきれずに申しました。
賤の血を引くわたしに、何と残酷な問いをなさるのか、と腹が立ったのです。
そんなわたしに、あなたは一瞬苦笑を浮かべ、すぐに表情を消して呟かれました。
 
『この侵華宮は華に侵された宮ではない。華を侵すための宮なのだ』
 
と。白く細い指先に握りつぶされた牡丹の花に、わたしは戸惑いました。
何故ならわたしはそのとき、既に反乱軍の一員であったのです。
その一方で、存じ上げてもおりました。
侵華宮の奴隷たちの、奴隷とは思えぬ待遇の良さ。
公主が“趣味”と称して集められた、数多の武器や弾薬の在り処。
そしてあなたと――常にお傍に侍る、茎が共にある時の表情(かお)を。
 
紅華様、ご存じでしたか? 反乱軍の中心であった茎は、
仲間たちの前でもほとんど表情を変えぬ少年でありました。
常に冷たく無表情な茎に、『まるで能面でも身に付けているかのようだ』
と陰口をたたく者もおりました。
そんな茎が、あなたのお傍にある時だけ、些細な変化を見せるのです。
それは例えば、翠の国から来た奴隷が奏でる楽をあなたが耳にされている時。
あなたの傍らに侍る茎の顔は、初め怒りで僅かに歪んでいます。
おそらくは、自分を、故国を馬鹿にされたように感じていたのでしょう。
ところが、しばらく経つとその強張った顔が少しずつ和らぎ、
楽の音に安らぎを感じているような様子さえ見せ始めるのです。
そしてそんな彼を、嬉しそうに窺うあなたの控え目な眼差し。
わたしは衝撃を受けました。

茎があなたの愛人である、との噂は聞き知っておりましたし、
実際に二人が恋人同士のように身を寄せ合っているところも目にしておりました。
あなたも茎も、決してそれを否定することがなかったことも。
それでも当時のわたしは、反乱の首謀者である彼が
あなたを利用しているだけだと信じていたのです。
故に移りゆく茎の表情を見た瞬間、わたしはどこか裏切られたような気持ちに
なり、次にあなたの表情を見て驚きと戸惑いを感じたのです。
何だ、これは? この二人は心から想い合っているではないか――と。
茎を見つめるあなたは気まぐれで悪趣味な公主などではない、
ただ純粋に愛する男のために彼の故郷に近づけた宮を造らせ、
彼の故郷の賤たちを集めた、愚かな少女のように見えたのです。
そして茎もまた、仇である公主を相手にその憎しみを忘れ、怒りを忘れ、
愛する女の傍で心からくつろいだ顔を見せる、ただの愚かな少年に見えました。
 
わたしはどうして、あなた方の結末を止められなかったのでしょう。
知っていながら、気づいていながら見て見ぬふりをした。
それはわたしの永遠の罪です。
茎が反乱を起こすこと、彼によって殺されること。
それが、あなたの望みであったことは知っています。
あなたが決してわたしたちを恨んではおられないであろうことも。
それでもわたしは、自分を責めずにはいられません。
 
わたしはあなたが好きでした。茎が好きでした。
当初あれほど苛立ちと戸惑いを覚えた、お二人が共にある様を
大切に思っていたことに、わたしは今更ながら気づいたのです。
全てはもう後の祭り、今はただ、あなた方の来世での幸せをお祈りするのみ。
そうしてわたしたちの手で滅ぼしたこの地に、新たな花を咲かせることをもって
己が心を偽ったわたし自身とお二人への贖いとするのみでございます。
 
紅華様、あなたはわたしを『友』とおっしゃって下さいました。
次の世では、わたしたちは本当に“友”となることが叶いますでしょうか?
あなたはわたしを、お許しになって下さいますでしょうか?
遠き来世に思いを馳せ、身勝手な願いを天に送らせていただきとうございます。
 
憂 草々




 

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前略 紅華様
 
早いものであれから五年の月日が経ちました。
華の国……いいえ、彼の国があった地は戦後の混乱がようやく終息し、
花に例えれば種をまくための土を耕し終わったような状況にあります。
わたしと夫はそのために、微力ではあるものの精一杯の力を尽くしているところです。
それが、わたしたち二人に出来るたった一つの償いであると思うのです。
 
紅華様もご存じのことと思いますが、わたしは華の国の上級役人であった父と、
その邸に奴隷として仕えていた母との間に生まれました。
いいえ、わたし自身も奴隷でした。
わたしは己が十五の年を迎えるまで、父親が誰であるかということすら知らぬ、
ただの賎、ただの奴隷であったのです。
幼き日より母と共に朝から晩まで働かされ、水仕事から畑仕事、
肥え溜めの処理に至るまで、毎日を汗と埃と泥に塗れて過ごしておりました。
そんなわたしに転機が訪れたのは、わたしより一つ年上であった正妻腹の姉が
下級役人と共に駆け落ちをしてしまった後のことにございます。

ある日、わたしは突然邸の主に呼ばれたのです。
 
『おまえは私の娘であるから、今日よりは奥に習い、
きちんとした格好(なり)をして礼儀作法を学ぶように』
 
主の言葉に、わたしは驚いて奴隷の部屋に駆け込み、母に真実を問いました。
母はわたしが主に伝えられた言葉を聞くと眼を見開いて首肯し、
次に涙を流して喜んだのでございます。
 
『良かったねぇ、ユウ。お前は旦那様の、お役人様のお嬢様になれるんだ!
もう賎なんかじゃない、奴隷の仕事もしなくて良い。
ああ、何て素晴らしいことだろう!』
 
余りにも母が喜ぶので、わたしはそれ以上何も言えなくなりました。
それが、わたしが見た最後の母の姿でございます。
おそらくは口封じのために、何処か人知れぬ場所で殺されたのでしょう。
そしてあの時わたしの幸運を喜んでいた母は、己が運命すら分かっていたはずです。
わたしは母の涙を忘れられず、次第に父を、役人を、皇族を、
華の国を憎むようになりました。

そうして、父の正妻に苛めとも言える酷い躾を受けながら何とか令嬢の仮面を
被れるようになった頃、わたしは侵華宮の噂を聞いたのでございます。
皇帝の第七公主、気まぐれで変わり者の紅華様が、
父帝に強請り新たに設けた悪趣味な離宮の話を。
許せない、と思いました。
賎の意匠を凝らし、賎を集めた宮に“侵華宮”という名を付けるなど!
何と傲慢で残酷な公主か、と思い、わたしは顔も知らぬあなたを憎みました。
父から女官の話がもたらされたとき、わたしが二つ返事で承諾致しましたのも、
ただひたすらに例の公主の顔が見られる、上手くいけば復讐すら
可能な距離に近づけるかもしれない、と考えてのことでございました。
皇帝が寵愛する美しい公主、と評判のあなたの顔に熱湯でもかけてやることが
出来れば、それはわたしにとって十分な復讐でございました。
その結果皇帝の不興を被った父が失脚すればまさに一石二鳥、
そんな浅薄なことを考えて、わたしはあの宮に参ったのでございます。
 
わたしが正式に女官として侵華宮に仕え出したのはもう八年も昔、
わたしが十八で、紅華様が十四のお年を迎えられる頃のことでございましたね。
目通りした公主の余りの艶やかさ、華やかさに、彼女の顔に酷い火傷を
負わせることばかり考えていたわたしは、ただただ圧倒されました。
奥方から叩きこまれた挨拶の仕方も忘れて、ぼんやりと
口を開けたままのわたしに、あなたは笑ってこう告げられました。
 
『そなた、面白いのう。気に入った。良いか、麗。
この者は今日よりわらわの“友”じゃ。下女たちと同じに考えるでないぞ』
 
傍らの乳姉妹を振り返られておっしゃられた言葉の揶揄するような響きに、
わたしは己の憎しみを取り戻しました。
後から考えれば、あのとき既にあなたはわたしが賎の娘だとご存じの上で
ご自分の宮にお迎えになっていたのですね。
麗様が全てお調べになられて、あなたの元にご報告に上がったことを伺いました。
 
『初めは賎の血を引く娘なんて、と心配したけれど、あなたは見目も良いし
行儀もきちんとしているし、何より気が利いて助かるわ。
本当に、公主(ひめ)様のおっしゃった通りね』
 
“貴族の娘”と初めは嫌悪の眼差しで見ていたあの方は、
本当にお優しい、そして賢くさっぱりしたご気性の、素敵なお方でございました。
わたしは知りませんでした。あの方が目の前で仲間たちに斬られるまで、
反乱を起こすとはどういうことか、皇族を、この国を滅ぼすとはどういうことか。
 
『憂……お願い……公主様を守って。あなたなら、守れる、でしょう……?』
 
麗様の最期の言葉が、今もわたしの胸を悲痛な後悔と共に締めつけます。
あの方は知っておられたのでしょう。
あなたのことを誰よりも知り、誰よりも慈しんでおられたあの方は、
あなたのお考えも、わたしや奴隷たちがやろうとしていたことも。
その上でわたしを咎めることなく周囲の女官たちと同じように
親しく接して下さった。あなたを、守ろうとしておいでだった。
わたしはそんな麗様の、ただ一つの願いにすら応えることができませんでした。
紅華様、わたしはあなたを守れなかった。

いつぞや、あなたはおっしゃいました。
わたし一人を従えられて庭を散策されていた時のことであったかと思います。
 
『憂、そなた、わらわが何故この宮を“侵華宮”と名付けたか知っているか?』
 
庭に咲く牡丹の花を一輪手にされたあなたは、わたしに向かってこう問われました。
 
『……わたくしには答えかねます』
 
わたしは苛立ちを隠しきれずに申しました。
賤の血を引くわたしに、何と残酷な問いをなさるのか、と腹が立ったのです。
そんなわたしに、あなたは一瞬苦笑を浮かべ、すぐに表情を消して呟かれました。
 
『この侵華宮は華に侵された宮ではない。華を侵すための宮なのだ』
 
と。白く細い指先に握りつぶされた牡丹の花に、わたしは戸惑いました。
何故ならわたしはそのとき、既に反乱軍の一員であったのです。
その一方で、存じ上げてもおりました。
侵華宮の奴隷たちの、奴隷とは思えぬ待遇の良さ。
公主が“趣味”と称して集められた、数多の武器や弾薬の在り処。
そしてあなたと――常にお傍に侍る、茎が共にある時の表情(かお)を。
 
紅華様、ご存じでしたか? 反乱軍の中心であった茎は、
仲間たちの前でもほとんど表情を変えぬ少年でありました。
常に冷たく無表情な茎に、『まるで能面でも身に付けているかのようだ』
と陰口をたたく者もおりました。
そんな茎が、あなたのお傍にある時だけ、些細な変化を見せるのです。
それは例えば、翠の国から来た奴隷が奏でる楽をあなたが耳にされている時。
あなたの傍らに侍る茎の顔は、初め怒りで僅かに歪んでいます。
おそらくは、自分を、故国を馬鹿にされたように感じていたのでしょう。
ところが、しばらく経つとその強張った顔が少しずつ和らぎ、
楽の音に安らぎを感じているような様子さえ見せ始めるのです。
そしてそんな彼を、嬉しそうに窺うあなたの控え目な眼差し。
わたしは衝撃を受けました。

茎があなたの愛人である、との噂は聞き知っておりましたし、
実際に二人が恋人同士のように身を寄せ合っているところも目にしておりました。
あなたも茎も、決してそれを否定することがなかったことも。
それでも当時のわたしは、反乱の首謀者である彼が
あなたを利用しているだけだと信じていたのです。
故に移りゆく茎の表情を見た瞬間、わたしはどこか裏切られたような気持ちに
なり、次にあなたの表情を見て驚きと戸惑いを感じたのです。
何だ、これは? この二人は心から想い合っているではないか――と。
茎を見つめるあなたは気まぐれで悪趣味な公主などではない、
ただ純粋に愛する男のために彼の故郷に近づけた宮を造らせ、
彼の故郷の賤たちを集めた、愚かな少女のように見えたのです。
そして茎もまた、仇である公主を相手にその憎しみを忘れ、怒りを忘れ、
愛する女の傍で心からくつろいだ顔を見せる、ただの愚かな少年に見えました。
 
わたしはどうして、あなた方の結末を止められなかったのでしょう。
知っていながら、気づいていながら見て見ぬふりをした。
それはわたしの永遠の罪です。
茎が反乱を起こすこと、彼によって殺されること。
それが、あなたの望みであったことは知っています。
あなたが決してわたしたちを恨んではおられないであろうことも。
それでもわたしは、自分を責めずにはいられません。
 
わたしはあなたが好きでした。茎が好きでした。
当初あれほど苛立ちと戸惑いを覚えた、お二人が共にある様を
大切に思っていたことに、わたしは今更ながら気づいたのです。
全てはもう後の祭り、今はただ、あなた方の来世での幸せをお祈りするのみ。
そうしてわたしたちの手で滅ぼしたこの地に、新たな花を咲かせることをもって
己が心を偽ったわたし自身とお二人への贖いとするのみでございます。
 
紅華様、あなたはわたしを『友』とおっしゃって下さいました。
次の世では、わたしたちは本当に“友”となることが叶いますでしょうか?
あなたはわたしを、お許しになって下さいますでしょうか?
遠き来世に思いを馳せ、身勝手な願いを天に送らせていただきとうございます。
 
憂 草々




 

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