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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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落日』の愛憎180%増、アジア風Ver.な感じの前中後編です。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



華の国の第七公主は『変わり者』だ。末の公主として、また姉妹たちの中で
誰よりも艶やかな容姿を誇る公主として父帝の寵愛を受けているのをいいことに、
己が住まう離宮をわざわざ己の国が滅ぼした国々の文化を取り入れて造り上げ、
そこに亡国の“賎民”たちを集め、奴隷として侍らせた。
 
『何とまぁ、悪趣味極まりない棘のある薔薇の花よ』

それが、この国における第七公主・紅華様の評価である。
……本当は“様”なんて付けるのも怖気が立つ。
何故ならば、己もまた彼女の住まう“異国風”の離宮・
侵華宮に仕える奴隷の一人であるからだ。
いや違う、正確には“俺を引き取ってから”公主は侵華宮を造った。
あの日、あの時、牢屋の中で高らかに嗤ってみせた公主。

『それほどに憎いのであれば、そなたをいつもわらわの隣に侍らせてやろう。
そうすればそなたは、仇の公主に復讐するまたとない機会を得る。
もっとも、“時機”は見計らう必要があるがな』

幼き日の公主の声が蘇る。そう、あれはもう五年も前のこと――


~~~


「なりません、公主様! そちらは公主様がおいでになるような
場所ではございません! どうかお戻りを……!」

華の国の役人に楯突き、牢に入れられ処刑を待つ身だった
翠の国の“賤民”である俺は、あの日突然激しく叫ぶ女の声と、
慌ただしく道を空ける牢番たちの足音を聞いた。

「おどき! そこをどくのじゃ! 良いではないか、麗。
わらわは“虜囚”なるものを見てみたい」

馬鹿にしたような高慢な響きに、思わず顔を上げた先には、
慌てふためく女官を一人従えた花のような少女が立っていた。
豪奢な衣装に身を包み、色とりどりの宝石を纏ったその少女に
囚人たちは鼻白みすぐに視線を逸らしたが、俺は何故だかその姿に惹きこまれ、
自分と同じくらいの年齢でありながら正反対の立場にあるであろう
彼女の姿を、食い入るように凝視してしまっていた。

「……のう、そこな者。この者はわらわとそう年の変わらぬ子供ではないか。
我が国は子供でも“賤民”であれば牢屋に入れるのか?」
 
己に注がれる眼差しに気づいたのか、
ふと自分を指差して揶揄するように紅い唇から紡がれた言葉に、牢番は慌てて

「違います、公主様。その者は我が国の役人を害そうとしたのです。
歴とした国家への反逆者です」

と告げた。

「ふむ……」

公主は暫し考え込むように俯いた後、
俺に向かってしゃがみ込み、問いかけてきた。

「のう、そなた、我が国が憎いか?」

無邪気な公主の問いに、俺はどうせ処刑されるのだから、
とやけっぱちになって答えた。

「ああ、憎いに決まってるさ。翠の国を、俺の国を滅ぼした。
土地を荒らし、民を殺し、俺たちを“賤民”なんかに貶めたこの国が、
憎くて憎くて堪らないに決まってる!」

俺の叫びに、牢番は震え上がって鞭を振るった。

「おまえ、公主様に何という口を聞くのだ!賤の分際で……」

「良い」

そんな牢番を止めたのは、彼よりずっと幼い公主の静かな声だった。

「面白いではないか。翠の国の賤……そなた、名は何と言う?」

 
微笑んでなおも問いかけてくる公主の声に、ぶっきらぼうに

「ケイ」

と答えると、公主は笑顔で己が女官を振り返った。

「この者、わらわが父上に頼んで奴隷としてもらい受けよう。
ちょうど退屈していたところなのじゃ」

「公主様! 何を……」

「やめろ!」

戸惑う女官の言葉を遮って、俺は怒鳴った。

「こんな国の公主の奴隷になるなんて、死んでもごめんだ!
それならさっさと処刑された方が何倍もいい!」

「何を……この、無礼者が!」

再び鞭を振るおうとした牢番の手を引き止めて、公主はフゥ、と溜め息を吐いた。

「そなた……阿呆じゃな」

「何だと!?」

呆れたように告げられた言葉に、思わずカッとなって公主を睨めば、
彼女は嫣然と微笑んで俺の瞳を覗き込んだ。

「わらわの側にいるということは、いつでも仇の隙が狙えるということじゃぞ?」

告げられた言葉の意味が解らず、その黒い硝子玉のような瞳を見返せば、
彼女はハッキリとこう言った。

「そなた、この国が憎いのであろう?
この国に君臨するは我が父、我がきょうだい、我が血族。
わらわを殺すことが、復讐の一つに繋がるとは思わなんだか?」

「公主様! 何てことを……!」

女官の悲鳴が耳をすり抜ける。冷たい汗が額を伝い、俺はごくりと息を飲み込んだ。

「それだけではない。わらわの側に仕えていれば、
父や、他のきょうだいたちの動きも当然知れよう。
“協力者”さえ得られれば、我が血族を一網打尽に、
引いてはこの国を滅ぼすこととて夢ではない」

滔々と紡がれる公主の言葉に、頭の中がめまぐるしく回転する。
俺は一体、どうすれば良い?
生き恥を飲んで僅かな可能性にかけ、公主の言葉に従うのか。
突っぱねて十日も経たぬうちに首を跳ねられるか。

「さぁ、どうするのじゃ? ケイ」

そのとき、俺の名を呼んだ子供とは思えぬほど艶やかな声に導かれるようにして、
俺は気がつけば目の前に差し出された肉刺一つない白い手を取っていた。

「ふふっ……決まりじゃな、ケイ。
これ、そこな者。この者を牢屋から出すのじゃ!」

公主に告げられて牢番が呆然と牢の中から俺を引っ立てる。
立ち上がって並んだ公主は、俺と同じ目の高さをしていた。

「これ、虜囚ではなくなったとはいえ、そなたは奴隷であろう!
跪かぬとは公主(ひめ)様に対して何たる無礼か!」

憤る公主付きの女官を公主は手で押し留め、

「良い、麗」

と告げて俺の方をじっと見つめた。

「そなた、本当にこの国が憎いか?」

先程と同じ質問に、俺は若干辟易しながら答えた。

「ああ……憎い。憎くて、憎くて堪らない」

「では、わらわのことも憎いか?」

「……もちろん、憎いに決まってる」

続けて重ねられた問いに、僅かな躊躇を抱いてしまったのが何故なのか、
俺は今でも分からない。
だが俺の答えに、その時彼女は心底嬉しそうに高らかな嗤い声を上げたのだ。

「おほほほほ!
それほどに憎いのであれば、そなたをいつもわらわの隣に侍らせてやろう。
そうすればそなたは、仇の公主に復讐するまたとない機会を得る。
もっとも、“時機”は見計らう必要があるがな」

にこりと笑んで俺の頬を撫でたその細い指先に、俺は初めて焼けるような衝動を感じた。
それは怒りであったのか、羞恥であったのか、憎しみであったのか――
今となっては覚えていない。
それから俺は、当初の約束通りいつも影のように公主に付き従う“特別な”奴隷となり、
公主は父帝に強請って翠の国の意匠をふんだんに取り入れた離宮を造った。
翠の国を初めとする各地からの“賤”……
国を滅ぼされた奴隷たちが集められたその宮の名は“侵華宮”。
華に侵された宮、とは何と皮肉な名を付けることか! 
公主はそうして楽しむのだ。
俺の表情(かお)が歪み、憎しみに滾る様を見て、あり余らんばかりの暇を潰す。
しかしそれもあと、一月の辛抱。紅華公主は異国へ嫁ぐことが決まった。
そうして俺は――待ちに待った、復讐の機会を得た。





中編

目次(その他)

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華の国の第七公主は『変わり者』だ。末の公主として、また姉妹たちの中で
誰よりも艶やかな容姿を誇る公主として父帝の寵愛を受けているのをいいことに、
己が住まう離宮をわざわざ己の国が滅ぼした国々の文化を取り入れて造り上げ、
そこに亡国の“賎民”たちを集め、奴隷として侍らせた。
 
『何とまぁ、悪趣味極まりない棘のある薔薇の花よ』

それが、この国における第七公主・紅華様の評価である。
……本当は“様”なんて付けるのも怖気が立つ。
何故ならば、己もまた彼女の住まう“異国風”の離宮・
侵華宮に仕える奴隷の一人であるからだ。
いや違う、正確には“俺を引き取ってから”公主は侵華宮を造った。
あの日、あの時、牢屋の中で高らかに嗤ってみせた公主。

『それほどに憎いのであれば、そなたをいつもわらわの隣に侍らせてやろう。
そうすればそなたは、仇の公主に復讐するまたとない機会を得る。
もっとも、“時機”は見計らう必要があるがな』

幼き日の公主の声が蘇る。そう、あれはもう五年も前のこと――


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「なりません、公主様! そちらは公主様がおいでになるような
場所ではございません! どうかお戻りを……!」

華の国の役人に楯突き、牢に入れられ処刑を待つ身だった
翠の国の“賤民”である俺は、あの日突然激しく叫ぶ女の声と、
慌ただしく道を空ける牢番たちの足音を聞いた。

「おどき! そこをどくのじゃ! 良いではないか、麗。
わらわは“虜囚”なるものを見てみたい」

馬鹿にしたような高慢な響きに、思わず顔を上げた先には、
慌てふためく女官を一人従えた花のような少女が立っていた。
豪奢な衣装に身を包み、色とりどりの宝石を纏ったその少女に
囚人たちは鼻白みすぐに視線を逸らしたが、俺は何故だかその姿に惹きこまれ、
自分と同じくらいの年齢でありながら正反対の立場にあるであろう
彼女の姿を、食い入るように凝視してしまっていた。

「……のう、そこな者。この者はわらわとそう年の変わらぬ子供ではないか。
我が国は子供でも“賤民”であれば牢屋に入れるのか?」
 
己に注がれる眼差しに気づいたのか、
ふと自分を指差して揶揄するように紅い唇から紡がれた言葉に、牢番は慌てて

「違います、公主様。その者は我が国の役人を害そうとしたのです。
歴とした国家への反逆者です」

と告げた。

「ふむ……」

公主は暫し考え込むように俯いた後、
俺に向かってしゃがみ込み、問いかけてきた。

「のう、そなた、我が国が憎いか?」

無邪気な公主の問いに、俺はどうせ処刑されるのだから、
とやけっぱちになって答えた。

「ああ、憎いに決まってるさ。翠の国を、俺の国を滅ぼした。
土地を荒らし、民を殺し、俺たちを“賤民”なんかに貶めたこの国が、
憎くて憎くて堪らないに決まってる!」

俺の叫びに、牢番は震え上がって鞭を振るった。

「おまえ、公主様に何という口を聞くのだ!賤の分際で……」

「良い」

そんな牢番を止めたのは、彼よりずっと幼い公主の静かな声だった。

「面白いではないか。翠の国の賤……そなた、名は何と言う?」

 
微笑んでなおも問いかけてくる公主の声に、ぶっきらぼうに

「ケイ」

と答えると、公主は笑顔で己が女官を振り返った。

「この者、わらわが父上に頼んで奴隷としてもらい受けよう。
ちょうど退屈していたところなのじゃ」

「公主様! 何を……」

「やめろ!」

戸惑う女官の言葉を遮って、俺は怒鳴った。

「こんな国の公主の奴隷になるなんて、死んでもごめんだ!
それならさっさと処刑された方が何倍もいい!」

「何を……この、無礼者が!」

再び鞭を振るおうとした牢番の手を引き止めて、公主はフゥ、と溜め息を吐いた。

「そなた……阿呆じゃな」

「何だと!?」

呆れたように告げられた言葉に、思わずカッとなって公主を睨めば、
彼女は嫣然と微笑んで俺の瞳を覗き込んだ。

「わらわの側にいるということは、いつでも仇の隙が狙えるということじゃぞ?」

告げられた言葉の意味が解らず、その黒い硝子玉のような瞳を見返せば、
彼女はハッキリとこう言った。

「そなた、この国が憎いのであろう?
この国に君臨するは我が父、我がきょうだい、我が血族。
わらわを殺すことが、復讐の一つに繋がるとは思わなんだか?」

「公主様! 何てことを……!」

女官の悲鳴が耳をすり抜ける。冷たい汗が額を伝い、俺はごくりと息を飲み込んだ。

「それだけではない。わらわの側に仕えていれば、
父や、他のきょうだいたちの動きも当然知れよう。
“協力者”さえ得られれば、我が血族を一網打尽に、
引いてはこの国を滅ぼすこととて夢ではない」

滔々と紡がれる公主の言葉に、頭の中がめまぐるしく回転する。
俺は一体、どうすれば良い?
生き恥を飲んで僅かな可能性にかけ、公主の言葉に従うのか。
突っぱねて十日も経たぬうちに首を跳ねられるか。

「さぁ、どうするのじゃ? ケイ」

そのとき、俺の名を呼んだ子供とは思えぬほど艶やかな声に導かれるようにして、
俺は気がつけば目の前に差し出された肉刺一つない白い手を取っていた。

「ふふっ……決まりじゃな、ケイ。
これ、そこな者。この者を牢屋から出すのじゃ!」

公主に告げられて牢番が呆然と牢の中から俺を引っ立てる。
立ち上がって並んだ公主は、俺と同じ目の高さをしていた。

「これ、虜囚ではなくなったとはいえ、そなたは奴隷であろう!
跪かぬとは公主(ひめ)様に対して何たる無礼か!」

憤る公主付きの女官を公主は手で押し留め、

「良い、麗」

と告げて俺の方をじっと見つめた。

「そなた、本当にこの国が憎いか?」

先程と同じ質問に、俺は若干辟易しながら答えた。

「ああ……憎い。憎くて、憎くて堪らない」

「では、わらわのことも憎いか?」

「……もちろん、憎いに決まってる」

続けて重ねられた問いに、僅かな躊躇を抱いてしまったのが何故なのか、
俺は今でも分からない。
だが俺の答えに、その時彼女は心底嬉しそうに高らかな嗤い声を上げたのだ。

「おほほほほ!
それほどに憎いのであれば、そなたをいつもわらわの隣に侍らせてやろう。
そうすればそなたは、仇の公主に復讐するまたとない機会を得る。
もっとも、“時機”は見計らう必要があるがな」

にこりと笑んで俺の頬を撫でたその細い指先に、俺は初めて焼けるような衝動を感じた。
それは怒りであったのか、羞恥であったのか、憎しみであったのか――
今となっては覚えていない。
それから俺は、当初の約束通りいつも影のように公主に付き従う“特別な”奴隷となり、
公主は父帝に強請って翠の国の意匠をふんだんに取り入れた離宮を造った。
翠の国を初めとする各地からの“賤”……
国を滅ぼされた奴隷たちが集められたその宮の名は“侵華宮”。
華に侵された宮、とは何と皮肉な名を付けることか! 
公主はそうして楽しむのだ。
俺の表情(かお)が歪み、憎しみに滾る様を見て、あり余らんばかりの暇を潰す。
しかしそれもあと、一月の辛抱。紅華公主は異国へ嫁ぐことが決まった。
そうして俺は――待ちに待った、復讐の機会を得た。





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