×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
デンパンブックス『あのひと』より再録。拍手ログSSS。
遠距離恋愛中の女の子の想い。
遠距離恋愛中の女の子の想い。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「遠い、なぁ……」
誰に呟くでもなく漏れた言葉は宙に舞う。
届かない、届かない。どんなに想っていても。
「早く帰ってこないかなー」
自分から行くことは出来ないから。
「怖い、もん……」
彼のことを信じていないわけじゃない。信じられないのは自分の方だ。
彼の、向こうでの生活、知らない町、知らない建物、知らない人……
それらを見てしまえば、ただでさえ不安に飲み込まれてしまいそうな
己の脆弱な心が、完全に挫けてしまうのではないか、と。
傷つきたくない。傷つけたくない。だからここを、動けない。
『来週は一旦帰るよ(^▽^)b』
何度も何度も確認したメールを、もう一度開く。
「あと、三日かぁ……」
彼が帰ってくると約束したはずの、週末。
具体的に何時の新幹線に乗るとか、土曜と日曜のどちらなら会えるのか、
という連絡は未だ無い。けれど彼はいつもこうなのだ。
突然ひょっこり帰ってきて、当たり前のように我が家の玄関のチャイムを鳴らす。
――ピンポーン――
そんなことを考えていると、一瞬本当にチャイムの音が聞こえた気がした。
こんな深夜に有り得ない、と思いながらも思わず玄関に向かって駆け出す。
ドタドタと階段を降りて扉を開けると、ピュウッと冷たい風が吹き込んできた。
「やっぱり、いるわけないよね……」
ため息を吐いて扉を閉め、鍵をかける。
いくら突然でも、彼の訪れはいつも家人が起きている時間帯だ。
~~~
『おばさん、こんばんは。ご無沙汰してますー。未優借りてってもいいですか?』
『あらあら爽くん、久しぶりねぇ、元気? ほら、未優、早く行ってらっしゃい!』
にこにこと愛想のいい笑顔を浮かべる彼と、彼から受け取った土産に上機嫌な
母に、何が何だか分からないまま外に連れ出されるのがいつものパターンだ。
~~~
「未優? どうかしたの?」
物音に眠そうな目を擦りながら起き出して来たネグリジェ姿の母に、慌てて
「何でもない!」
と答える。
「そう?ならいいけど……」
母が寝室に戻る姿を確認して、ぎゅっと己の身体を抱きしめる。
寒いよ、寂しいよ。
「会いたい、なぁ……」
外を見れば真っ暗な闇の中に浮かぶ丸い月。
いつかの帰り道が、脳裏に過ぎる。
~~~
『爽は一人でも平気なんでしょ? 別にあたしがいなくても。
職場の同僚とか、友達とか、向こうの人たちがいれば、
別にわざわざこっち帰ってこなくても、平気なんでしょ?
寂しいとか、一緒にいたいとか思ってるの、あたしだけみたい』
デートの最中にかかってきた電話が長引いたことに
溜め込んできた不安が爆発して、思わず爽に吐き出したセリフ。
それは確かにその時の私の本音であったけれど、
我ながら酷い言葉を言ったと思う。
『ほんとに、自分だけだって思ってる?』
爽は静かだった。
じっと私の言葉に耳を傾けて、私の目を覗き込む。
『え……?』
見つめ返せば、ポンポン、と頭を撫でる優しい手。
『オレもいつも寂しいよ。いつも、いつも、会いたいって思ってるよ、未優に』
そう告げる彼の瞳が、声音が余りにも寂しげだったから。
鏡に映った私のようだったから。
その身体を、思わずぎゅっと抱きしめて謝った。
『ごめんね、ごめんね。爽……!』
月明かりが優しく私と爽を照らしたあの日。
別れ際はやっぱりちょっと寂しかったけど、いつものように淋しくはなかった。
~~
爽は私で、私は爽で。
私が寂しいとき、私が嬉しいとき、きっと彼も同じ気持ちを感じているのだろう、と。
そう思うと、知らず溢れる涙だって愛しい。
「寂しいけど……」
もう一度呟いて空を見上げる。滲んだ瞳に映る朧月。
今頃彼も、月を眺めているのだろうか。
PR
追記を閉じる▲
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「遠い、なぁ……」
誰に呟くでもなく漏れた言葉は宙に舞う。
届かない、届かない。どんなに想っていても。
「早く帰ってこないかなー」
自分から行くことは出来ないから。
「怖い、もん……」
彼のことを信じていないわけじゃない。信じられないのは自分の方だ。
彼の、向こうでの生活、知らない町、知らない建物、知らない人……
それらを見てしまえば、ただでさえ不安に飲み込まれてしまいそうな
己の脆弱な心が、完全に挫けてしまうのではないか、と。
傷つきたくない。傷つけたくない。だからここを、動けない。
『来週は一旦帰るよ(^▽^)b』
何度も何度も確認したメールを、もう一度開く。
「あと、三日かぁ……」
彼が帰ってくると約束したはずの、週末。
具体的に何時の新幹線に乗るとか、土曜と日曜のどちらなら会えるのか、
という連絡は未だ無い。けれど彼はいつもこうなのだ。
突然ひょっこり帰ってきて、当たり前のように我が家の玄関のチャイムを鳴らす。
――ピンポーン――
そんなことを考えていると、一瞬本当にチャイムの音が聞こえた気がした。
こんな深夜に有り得ない、と思いながらも思わず玄関に向かって駆け出す。
ドタドタと階段を降りて扉を開けると、ピュウッと冷たい風が吹き込んできた。
「やっぱり、いるわけないよね……」
ため息を吐いて扉を閉め、鍵をかける。
いくら突然でも、彼の訪れはいつも家人が起きている時間帯だ。
~~~
『おばさん、こんばんは。ご無沙汰してますー。未優借りてってもいいですか?』
『あらあら爽くん、久しぶりねぇ、元気? ほら、未優、早く行ってらっしゃい!』
にこにこと愛想のいい笑顔を浮かべる彼と、彼から受け取った土産に上機嫌な
母に、何が何だか分からないまま外に連れ出されるのがいつものパターンだ。
~~~
「未優? どうかしたの?」
物音に眠そうな目を擦りながら起き出して来たネグリジェ姿の母に、慌てて
「何でもない!」
と答える。
「そう?ならいいけど……」
母が寝室に戻る姿を確認して、ぎゅっと己の身体を抱きしめる。
寒いよ、寂しいよ。
「会いたい、なぁ……」
外を見れば真っ暗な闇の中に浮かぶ丸い月。
いつかの帰り道が、脳裏に過ぎる。
~~~
『爽は一人でも平気なんでしょ? 別にあたしがいなくても。
職場の同僚とか、友達とか、向こうの人たちがいれば、
別にわざわざこっち帰ってこなくても、平気なんでしょ?
寂しいとか、一緒にいたいとか思ってるの、あたしだけみたい』
デートの最中にかかってきた電話が長引いたことに
溜め込んできた不安が爆発して、思わず爽に吐き出したセリフ。
それは確かにその時の私の本音であったけれど、
我ながら酷い言葉を言ったと思う。
『ほんとに、自分だけだって思ってる?』
爽は静かだった。
じっと私の言葉に耳を傾けて、私の目を覗き込む。
『え……?』
見つめ返せば、ポンポン、と頭を撫でる優しい手。
『オレもいつも寂しいよ。いつも、いつも、会いたいって思ってるよ、未優に』
そう告げる彼の瞳が、声音が余りにも寂しげだったから。
鏡に映った私のようだったから。
その身体を、思わずぎゅっと抱きしめて謝った。
『ごめんね、ごめんね。爽……!』
月明かりが優しく私と爽を照らしたあの日。
別れ際はやっぱりちょっと寂しかったけど、いつものように淋しくはなかった。
~~
爽は私で、私は爽で。
私が寂しいとき、私が嬉しいとき、きっと彼も同じ気持ちを感じているのだろう、と。
そう思うと、知らず溢れる涙だって愛しい。
「寂しいけど……」
もう一度呟いて空を見上げる。滲んだ瞳に映る朧月。
今頃彼も、月を眺めているのだろうか。
PR
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック