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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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大団円。

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それはまさに一触即発、という壮観な光景だった。
瑠璃族の兵たちと四季族の兵たちがずらりと並んで向き合い、
いつ戦の火蓋を切るか、互いにタイミングを窺っているような様子であった。
そんな両軍の中心に思い切り駆け降りた俺の姿に、
敵も味方も皆一様に驚き、隊列は乱れた。
 
「静まれ! 静まれ、皆の者! 私は四季族の新しい族長、四季春輝である!
この戦を望んだ先代族長、四季冬彦は既に隠遁した!
かくなる上は我が四季族に戦をするだけの余力は残されてはおらぬ!
私は新たな四季族の族長として、瑠璃族との講和を望みたい!」
 
突如戦場に現れ、新族長を名乗った俺の言に兵たちはどよめき、
敵も味方も俺の真意を探ろうと心中が揺れ動いているのが分かった。
……本来は戦など、誰も望みはしないはず。
 
「お兄様!」
 
そのとき、馬上のユーリヤがさっと馬から降りて駆け寄っていった男がいた。
金の髪に瑠璃の瞳、瑠璃族の兵の先頭に立ち、一際豪奢な鎧を纏ったその将は
間違いなく瑠璃族族長の血を受け継ぐ、ユーリヤの実兄であろうと思われた。
戦場に現れた妹を戸惑いがちに受け止めたその兄は、
顔を上げて真っ直ぐにこちらを見た。
 
「貴殿が四季族族長の嫡男……、いや、既に長の座を引き継いだと申されたか、
四季春輝殿か。貴殿に嫁いだ我が妹は処刑されたと聞いたが……
今こうして腕にあるのは、四季族の操る幻術というものではあるまいな?」
 
「もちろんです。ユーリヤは私の何よりも大切な妻で、世継ぎの母です。
そう簡単に死なせはしません」
 
真摯な瞳で頷き返せば、彼はにこりと微笑んで手を差し伸べた。
 
「私はユーリヤの兄、瑠璃族族長が嫡男、ロマン・ラズトキン。
妹を守ってくれたこと、礼を言う」
 
端正な顔立ちのロマンが発した一言に、俺は彼が一瞬で全てを悟ることのできる
聡明な頭脳の持ち主であることを知った。
 
「お兄様、わたしが生きていることを知れば、瑠璃族に戦の口実は無くなるはず。
どうか講和をご承知下さい。
わたしはもうこれ以上、瑠璃族と四季族に争ってほしくないのです……!」
 
必死に兄に取り縋るユーリヤを、周囲の兵たちが固唾を飲んで見守る。
 
「……ユーリヤ、今度(こたび)の戦は父上が……
おまえを嫁がせたときから、お決めになられていたことなのだ。
私はおまえを守るため、何とかして開戦を伸ばそうとした……。
もう、エーヴァやラリサのような悲劇は見たくなかったから」
 
俯いた男の口から紡がれたのは、おそらくはユーリヤの二人の姉の名前。
ユーリヤの父、瑠璃族族長のアントンという男は、
本当に娘たちを道具としてしか思っていないというのか!
思わず叫び出しそうになった俺の背後から聞こえてきたのは、
此処にいることがありえない存在の静かな声だった。
 
「それでは、お話は簡単なことですわ。
あなたがお父君を退かせて、新しい族長におなりあそばせば良いのです。
ちょうど此処にいる、春輝兄様と同じように」
 
どこまでも冷静で落ち着いたその声に驚いて振り向くと、長かった黒髪を
綺麗に切り落とした姿の水姫が、火野の腕に抱かれて馬の上に座していた。
 
「暗殺でも追放でも、どんな手段を用いられても構いません。
瑠璃族は続く戦に兵や民たちは疲れ切っているはず。
ここにいる兵たちだけでも、あなたの方を信奉する者は数多くおりましょう」
 
水姫の口から滔々と紡がれる言葉に、ロマンと兵たちは呆気に取られたように
馬上の女を見つめた。
 
「そうしてあなたが族長となられた後、このわたくし、
四季族族長の従妹である四季水姫が新族長殿の元に嫁ぎましょう。
言い方は悪うございますが、所謂“人質の交換”というものですわね。
四季族は既にあなた様の妹御であるユーリヤ様を
族長の妻にいただいておりますから……これで釣り合いが取れ、
両民族の間に平和が保たれるのではございませんか?」
 
そう言ってのけた水姫の笑顔に、ロマンは額に手を当て、
傍らの参謀らしき男を見た。
主の視線に深く頷いてみせた彼に、ロマンは何かを決意したように
瑠璃色の瞳をキラリと光らせ、自らの兵たちを振り向いた。
 
「そなたたちの中に、今の四季族族長の従妹殿の意に賛同する者は幾らいる!?」
 
「……私は支持します」
 
「俺もです!」
 
「私も!」
 
「俺も賛成するぞ!」
 
ロマンの問いにポツリポツリと漏れ出した呟きはやがて大きな声となり、
うねりとなり、悲鳴のような歓声となって一帯を取り巻いた。
そうしてロマン率いる瑠璃族の兵たちが族長アントンの“討伐”へと踵を返した後、
俺は改めて従妹と向き合い、その真意を問うた。
あれだけ異民族を厭っていた、生粋の四季族であるはずの水姫の、
本当の心の内を。
 
「水姫、いいのか?
おまえがけしかけた瑠璃族の新族長は……髪も瞳も黒くはない」
 
「あら、例え夫となる方の髪と目が黒かったとしても、
結局望む方の元に嫁(ゆ)けぬのでしたら同じことですわ」
 
俺の傍らに寄り添うユーリヤに対する嫌みの混じったその発言に眉根を寄せると、
水姫は苦笑して答えた。
 
「冗談ですわ。
ユーリヤ様、どうか春輝兄様を……四季族を、よろしくお願い致します」
 
あれほど嫌っていたユーリヤに向かい、真摯に頭を下げた水姫の姿に、
驚いてユーリヤと顔を見合わせる。
 
「こちらこそ、お兄様と……瑠璃族を、よろしくお頼み申し上げます」
 
微笑んでお辞儀を返したユーリヤの姿は、既に四季族そのものであった。
その様子に水姫も満足したらしく、誇らしげに笑むと自ら馬に跨った。
 
「水姫様! 危のうございます!
あなた様はまだお一人で馬にはお乗りになれないでしょう!」
 
慌てて駆け寄った火野に、水姫は何かが吹っ切れたような表情(かお)で叫んだ。
 
「あら、でも瑠璃族は女子(おなご)でも皆一人で馬を乗りこなすと聞きます!
そうではありませんこと? ユーリヤ様」
 
「そうなのか? ユーリヤ」
 
初めて聞いた話に、思わずユーリヤの方を見返す。
嫁いできてから今まで、我が一族の女子と同じように当たり前に己が腕に抱いて
騎乗させてきた妻は、少しだけ頬を赤らめて頷いた。
 
「おまえ、そういうことは早く言わないか!」
 
慌ててユーリヤの分の馬を用意させ、共に連れ立って里へ帰った俺が
己を遥かに上回る妻の乗馬の腕前に赤面することになるのは、
それから間もなくのことである。




 
後書き
  番外編『夜の星』(水姫視点)
 

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それはまさに一触即発、という壮観な光景だった。
瑠璃族の兵たちと四季族の兵たちがずらりと並んで向き合い、
いつ戦の火蓋を切るか、互いにタイミングを窺っているような様子であった。
そんな両軍の中心に思い切り駆け降りた俺の姿に、
敵も味方も皆一様に驚き、隊列は乱れた。
 
「静まれ! 静まれ、皆の者! 私は四季族の新しい族長、四季春輝である!
この戦を望んだ先代族長、四季冬彦は既に隠遁した!
かくなる上は我が四季族に戦をするだけの余力は残されてはおらぬ!
私は新たな四季族の族長として、瑠璃族との講和を望みたい!」
 
突如戦場に現れ、新族長を名乗った俺の言に兵たちはどよめき、
敵も味方も俺の真意を探ろうと心中が揺れ動いているのが分かった。
……本来は戦など、誰も望みはしないはず。
 
「お兄様!」
 
そのとき、馬上のユーリヤがさっと馬から降りて駆け寄っていった男がいた。
金の髪に瑠璃の瞳、瑠璃族の兵の先頭に立ち、一際豪奢な鎧を纏ったその将は
間違いなく瑠璃族族長の血を受け継ぐ、ユーリヤの実兄であろうと思われた。
戦場に現れた妹を戸惑いがちに受け止めたその兄は、
顔を上げて真っ直ぐにこちらを見た。
 
「貴殿が四季族族長の嫡男……、いや、既に長の座を引き継いだと申されたか、
四季春輝殿か。貴殿に嫁いだ我が妹は処刑されたと聞いたが……
今こうして腕にあるのは、四季族の操る幻術というものではあるまいな?」
 
「もちろんです。ユーリヤは私の何よりも大切な妻で、世継ぎの母です。
そう簡単に死なせはしません」
 
真摯な瞳で頷き返せば、彼はにこりと微笑んで手を差し伸べた。
 
「私はユーリヤの兄、瑠璃族族長が嫡男、ロマン・ラズトキン。
妹を守ってくれたこと、礼を言う」
 
端正な顔立ちのロマンが発した一言に、俺は彼が一瞬で全てを悟ることのできる
聡明な頭脳の持ち主であることを知った。
 
「お兄様、わたしが生きていることを知れば、瑠璃族に戦の口実は無くなるはず。
どうか講和をご承知下さい。
わたしはもうこれ以上、瑠璃族と四季族に争ってほしくないのです……!」
 
必死に兄に取り縋るユーリヤを、周囲の兵たちが固唾を飲んで見守る。
 
「……ユーリヤ、今度(こたび)の戦は父上が……
おまえを嫁がせたときから、お決めになられていたことなのだ。
私はおまえを守るため、何とかして開戦を伸ばそうとした……。
もう、エーヴァやラリサのような悲劇は見たくなかったから」
 
俯いた男の口から紡がれたのは、おそらくはユーリヤの二人の姉の名前。
ユーリヤの父、瑠璃族族長のアントンという男は、
本当に娘たちを道具としてしか思っていないというのか!
思わず叫び出しそうになった俺の背後から聞こえてきたのは、
此処にいることがありえない存在の静かな声だった。
 
「それでは、お話は簡単なことですわ。
あなたがお父君を退かせて、新しい族長におなりあそばせば良いのです。
ちょうど此処にいる、春輝兄様と同じように」
 
どこまでも冷静で落ち着いたその声に驚いて振り向くと、長かった黒髪を
綺麗に切り落とした姿の水姫が、火野の腕に抱かれて馬の上に座していた。
 
「暗殺でも追放でも、どんな手段を用いられても構いません。
瑠璃族は続く戦に兵や民たちは疲れ切っているはず。
ここにいる兵たちだけでも、あなたの方を信奉する者は数多くおりましょう」
 
水姫の口から滔々と紡がれる言葉に、ロマンと兵たちは呆気に取られたように
馬上の女を見つめた。
 
「そうしてあなたが族長となられた後、このわたくし、
四季族族長の従妹である四季水姫が新族長殿の元に嫁ぎましょう。
言い方は悪うございますが、所謂“人質の交換”というものですわね。
四季族は既にあなた様の妹御であるユーリヤ様を
族長の妻にいただいておりますから……これで釣り合いが取れ、
両民族の間に平和が保たれるのではございませんか?」
 
そう言ってのけた水姫の笑顔に、ロマンは額に手を当て、
傍らの参謀らしき男を見た。
主の視線に深く頷いてみせた彼に、ロマンは何かを決意したように
瑠璃色の瞳をキラリと光らせ、自らの兵たちを振り向いた。
 
「そなたたちの中に、今の四季族族長の従妹殿の意に賛同する者は幾らいる!?」
 
「……私は支持します」
 
「俺もです!」
 
「私も!」
 
「俺も賛成するぞ!」
 
ロマンの問いにポツリポツリと漏れ出した呟きはやがて大きな声となり、
うねりとなり、悲鳴のような歓声となって一帯を取り巻いた。
そうしてロマン率いる瑠璃族の兵たちが族長アントンの“討伐”へと踵を返した後、
俺は改めて従妹と向き合い、その真意を問うた。
あれだけ異民族を厭っていた、生粋の四季族であるはずの水姫の、
本当の心の内を。
 
「水姫、いいのか?
おまえがけしかけた瑠璃族の新族長は……髪も瞳も黒くはない」
 
「あら、例え夫となる方の髪と目が黒かったとしても、
結局望む方の元に嫁(ゆ)けぬのでしたら同じことですわ」
 
俺の傍らに寄り添うユーリヤに対する嫌みの混じったその発言に眉根を寄せると、
水姫は苦笑して答えた。
 
「冗談ですわ。
ユーリヤ様、どうか春輝兄様を……四季族を、よろしくお願い致します」
 
あれほど嫌っていたユーリヤに向かい、真摯に頭を下げた水姫の姿に、
驚いてユーリヤと顔を見合わせる。
 
「こちらこそ、お兄様と……瑠璃族を、よろしくお頼み申し上げます」
 
微笑んでお辞儀を返したユーリヤの姿は、既に四季族そのものであった。
その様子に水姫も満足したらしく、誇らしげに笑むと自ら馬に跨った。
 
「水姫様! 危のうございます!
あなた様はまだお一人で馬にはお乗りになれないでしょう!」
 
慌てて駆け寄った火野に、水姫は何かが吹っ切れたような表情(かお)で叫んだ。
 
「あら、でも瑠璃族は女子(おなご)でも皆一人で馬を乗りこなすと聞きます!
そうではありませんこと? ユーリヤ様」
 
「そうなのか? ユーリヤ」
 
初めて聞いた話に、思わずユーリヤの方を見返す。
嫁いできてから今まで、我が一族の女子と同じように当たり前に己が腕に抱いて
騎乗させてきた妻は、少しだけ頬を赤らめて頷いた。
 
「おまえ、そういうことは早く言わないか!」
 
慌ててユーリヤの分の馬を用意させ、共に連れ立って里へ帰った俺が
己を遥かに上回る妻の乗馬の腕前に赤面することになるのは、
それから間もなくのことである。




 
後書き
  番外編『夜の星』(水姫視点)
 

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