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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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一万打記念掌編です。
※同性愛・アンハッピーエンドものですので苦手な方はご注意ください。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「え、今なんて言ったの?」
 
「だから、大学はイギリスに留学することになった、って言ったのよ」
 
幼馴染でもある親友の薄い桃色の唇から、晴れ渡った青空の下
言い放たれた言葉に、私と彼女二人だけの特別な空間だった
この屋上の空気が一気に澱んでいくのが分かった。
 
エスカレーター式の女子校であるこの学園は、
“名門のお嬢様学校”として周囲に広く知られている。
そんな学園の幼稚舎で私たちは出会い、親同士が商売上の関係というものを
結んでいた都合もあって自然と互いの家にも出入りする仲になり、
気がつけばお互いにたった一人の“親友”となっていた。
固っ苦しいこの学園の規範から少し外れ、茶色く染めた髪に
緩やかなパーマをかけ、スカート丈も短い私と、校則を忠実に守って
一度も染めたことのない艶やかでまっすぐな黒髪を肩までの長さで切り揃え、
セーラー服のリボンもきっちりと結ぶ彼女が仲が良いのは
一体どうしたわけだろうか、とセンセイたちは見ていることだろう。
 
だがその一方で、自分で言うのも何だが、華やかで愛くるしいルックスの私と、
どこか近寄り難い硬質な美しさを持つ彼女の並びが
一部の生徒たちの間で持て囃されていることは知っている。
ここは女子校。閉じられた世界。
女の子は“綺麗”なものと“可愛い”ものが何よりも好き。
だから彼女たちは、“綺麗”な彼女と“可愛い”私がセットで居ることを喜ぶ。
そして私は、他人より目立つことが、他人にちやほやされることが何よりも好きだ。
だから私が彼女の親友であり続けたのは、ある意味でその容姿や
性格の持つ己とは正反対の魅力を利用するためだったのかもしれない。
 
でも、それでも。彼女はずっと傍にいてくれると信じていた。
中学でも、高校でも、そしてこれから進む大学でも、
きっとずっと、私の傍にいるのだろうと。
 
ところがそんな私の期待を裏切り、高校の卒業式を終えた今になって突然、
彼女は淡々とした声音で残酷な事実を打ち明けた。
 
「婚約者のアレンが、社会勉強を兼ねてお義母(かあ)さまの母国のイギリスに
留学することになったのよ。正直言って彼、英語が全く出来ないでしょう?
だから私も一緒にあちらに行くことが決まったの。表向きは
“仲の良い許嫁同士を日本とイギリスに四年もの間引き裂くのは可哀想だし、
将来共に重責を担うことになるのだから勉強も二人でしてきた方が……”
ってことになってるけどね。実際私は彼の通訳兼お目付け役ってわけ。
もし結婚前にホームステイ先のお嬢さんに手を出して、
妊娠されてしまったりしたら大変でしょう?」
 
彼女は少し困ったように苦笑して見せる。
 
「じゃあ、アレンと一緒に暮らすの?」
 
「ええ、あちらのご両親の希望ですもの。アパートも学生が住むには
かなり分不相応なところを、既に手配して下さってるわ」
 
アレン。パーティーの席等で何度か顔を合わせたことがある、彼女の婚約者。
大企業の御曹司でイギリス人の母を持つ彼は、確かに外見は整っているものの、
中身は決して聡明な彼女に釣り合うとは言い難い。
そして彼は先ほどの彼女の言葉からも窺えるように、酷い浮気性だ。
私と初めて出会ったときも、彼を私に紹介してくれた彼女が席を外した途端、
“婚約者の親友”である私に対する口説き文句が次々と口から滑り出てきた。
尻の軽さに関しては私も人のことは言えないが、彼女の婚約者だけは別だ。
軽く交わしておいたものの、あの調子で幾人の女に声をかけてきたのだろう、
と呆れ返ってしまったのが正直なところだ。
こんなにも、美しい婚約者がありながら。
 
しかし、若干神経質で潔癖な感のある彼女が彼と『一緒に暮らす』という事実に
拒否を示さないところを見ると、彼女はアレンと既に“そういう関係”を
結んでいる、仮に結んでいなかったとしても彼と“そういった行為”を
行うことに抵抗がない、ということになるのだろう。
あの女好きのアレンの“相手”を、四年間ほぼ一人で務め続けることを了承している、と。
他の女を口説いたその口で、軽口を叩きながら当たり前のように
彼女の腰に手を回していたあの男の姿を思い出すと、
胃の腑の中にムカムカと言いようのない苛立ちが募ってきた。

「万季にはもっと早く言おうと思ってたんだけど、
中々言い出すタイミングが掴めなくて……ごめんね」
 
そう言って、いかにも申し訳なさそうに視線を下げてみせる彼女。
そうだ、今日はもう高校の卒業式なのだ。
私は当然、この学園の大学に彼女も進学するものと決め付けていた。
その私に、何ていきなり、こんな甚大な衝撃を与えてくれるのだ!?
 
「………………」
 
黙り込んで、どんな罵声を浴びせてやろうかと考える私に、
彼女は少し寂しそうに微笑んだ。
その微笑を見て、ここ半年程の自分の行動を少しずつ思い返してみる。
 
金髪に着崩した学ラン、所謂“チョイ悪”の彼とのデートに夢中になっていた休日。
私の周りに群がってくる、“お嬢様学園のはみ出し者”仲間の後輩たちと
ゲームセンターや合コン荒らしに明け暮れていた放課後。
彼女はいつも同じような微笑を浮かべて、
何か言いたげに私の傍に近づいてきてはいなかったか。
 
 
~~~
 
 
『あのね、万季。少し話があるんだけど……』
 
『ごめーん、今ちょっと電話来たから待っててー!』
 
とそっけなく返した自分。
 
『少しだけでいいの、聞いてもらいたいことがあって……』
 
『悪いんだけどこれから出かける予定あるから、後にしてくれる?』
 
とさも迷惑そうに追い払ってきた自分。
 
いつも、いつも彼女は私に伝えようとしてくれていた。
言葉にできないときは、仕草や視線や声音で。
皆の前では常にポーカーフェイスを装い、“生徒会役員を務める優等生”
であった彼女の本音を見抜くことが出来たのは、昔から自分だけだった。
熱があるときも、泣きたいときも、笑いたいときも、怒りたいときも……。
 
それを、いつから気づけなくなった? ううん、違う。
いつから、無視してしまうようになったのだろう? 一体いつからだったのだろう。
私だけに見える、否、私にしか本心を伝えようとしない
彼女の態度を鬱陶しく感じるようになってしまったのは。
彼女の想いに気づいたから? そしてそれを、“キモチワルイ”と思ったから?
決して応えられないその想いを、とてつもなく重いものに感じてしまったから――?
私は彼女に、どれだけの酷い言葉を投げつけてきたのだろう。
どれだけの惨い態度を取り続けてきたのだろう?
百回? 千回? それとも一万、いやもっと……
 
 
~~~
 
 
何も言わず、何も言えずに立ち尽くす私に、彼女は一旦深く息を吸い込み、
ふう、と吐き出してじっとこちらを見据えた。
どこまでも深い漆黒の、私が何よりも気に入っている強く真摯な眼差し。
 
「万季、ごめんね。今まで、本当にありがとう……。好き、だった」
 
予想外の告白に胸を射られ、
私は瞬き一つ出来ず目を見開いたまま身動きが取れない。
それをどう捉えたのか、彼女はまた寂しそうに微笑って屋上をってい
その、どこまでも細く小さな背中を見た瞬間、一気に心の中に押し寄せた感情。

違う、“キモチワルイ”なんて思ってない。怖かっただけだ。
“フツウ”から外れてしまうのが。彼女に、溺れてしまうのが。
認めたくなかった。だから、見て見ぬフリをした。彼氏と、後輩たちと遊び回って。

「一香、待って!」
 
叫んだ言葉は、既に分厚い鉄の扉の向こうにいる彼女には届かない。
彼女が私に告げた言葉は、
 
『好き、だった』
 
彼女にとって全てはもう過去、終わってしまった過ち。
 
「好き。好き……私も、好き。傍にいて。行かないで。ずっと、ずっと……!」
 
『好き』という言葉を、簡単に向けてきた相手ならいくらでもいた。
けれどこんなにも切ない想いで同じ言葉を泣き叫ぶ日が来るなんて、
想像もしていなかった。
 
どうして、こんな単純なことに今まで気づけなかったんだろう。
どうして、一番大事なものを失ってから気がついてしまったんだろう?
 
こんな言葉、一万回言ったって、十万回、百万回、例え一億告げたとしても、
もうあなたには届かない。
行ってしまったあなたに、全てのことに覚悟を決めて
“サヨナラ”を告げたあなたに、届きなんてしないのに。





後書き
 

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「え、今なんて言ったの?」
 
「だから、大学はイギリスに留学することになった、って言ったのよ」
 
幼馴染でもある親友の薄い桃色の唇から、晴れ渡った青空の下
言い放たれた言葉に、私と彼女二人だけの特別な空間だった
この屋上の空気が一気に澱んでいくのが分かった。
 
エスカレーター式の女子校であるこの学園は、
“名門のお嬢様学校”として周囲に広く知られている。
そんな学園の幼稚舎で私たちは出会い、親同士が商売上の関係というものを
結んでいた都合もあって自然と互いの家にも出入りする仲になり、
気がつけばお互いにたった一人の“親友”となっていた。
固っ苦しいこの学園の規範から少し外れ、茶色く染めた髪に
緩やかなパーマをかけ、スカート丈も短い私と、校則を忠実に守って
一度も染めたことのない艶やかでまっすぐな黒髪を肩までの長さで切り揃え、
セーラー服のリボンもきっちりと結ぶ彼女が仲が良いのは
一体どうしたわけだろうか、とセンセイたちは見ていることだろう。
 
だがその一方で、自分で言うのも何だが、華やかで愛くるしいルックスの私と、
どこか近寄り難い硬質な美しさを持つ彼女の並びが
一部の生徒たちの間で持て囃されていることは知っている。
ここは女子校。閉じられた世界。
女の子は“綺麗”なものと“可愛い”ものが何よりも好き。
だから彼女たちは、“綺麗”な彼女と“可愛い”私がセットで居ることを喜ぶ。
そして私は、他人より目立つことが、他人にちやほやされることが何よりも好きだ。
だから私が彼女の親友であり続けたのは、ある意味でその容姿や
性格の持つ己とは正反対の魅力を利用するためだったのかもしれない。
 
でも、それでも。彼女はずっと傍にいてくれると信じていた。
中学でも、高校でも、そしてこれから進む大学でも、
きっとずっと、私の傍にいるのだろうと。
 
ところがそんな私の期待を裏切り、高校の卒業式を終えた今になって突然、
彼女は淡々とした声音で残酷な事実を打ち明けた。
 
「婚約者のアレンが、社会勉強を兼ねてお義母(かあ)さまの母国のイギリスに
留学することになったのよ。正直言って彼、英語が全く出来ないでしょう?
だから私も一緒にあちらに行くことが決まったの。表向きは
“仲の良い許嫁同士を日本とイギリスに四年もの間引き裂くのは可哀想だし、
将来共に重責を担うことになるのだから勉強も二人でしてきた方が……”
ってことになってるけどね。実際私は彼の通訳兼お目付け役ってわけ。
もし結婚前にホームステイ先のお嬢さんに手を出して、
妊娠されてしまったりしたら大変でしょう?」
 
彼女は少し困ったように苦笑して見せる。
 
「じゃあ、アレンと一緒に暮らすの?」
 
「ええ、あちらのご両親の希望ですもの。アパートも学生が住むには
かなり分不相応なところを、既に手配して下さってるわ」
 
アレン。パーティーの席等で何度か顔を合わせたことがある、彼女の婚約者。
大企業の御曹司でイギリス人の母を持つ彼は、確かに外見は整っているものの、
中身は決して聡明な彼女に釣り合うとは言い難い。
そして彼は先ほどの彼女の言葉からも窺えるように、酷い浮気性だ。
私と初めて出会ったときも、彼を私に紹介してくれた彼女が席を外した途端、
“婚約者の親友”である私に対する口説き文句が次々と口から滑り出てきた。
尻の軽さに関しては私も人のことは言えないが、彼女の婚約者だけは別だ。
軽く交わしておいたものの、あの調子で幾人の女に声をかけてきたのだろう、
と呆れ返ってしまったのが正直なところだ。
こんなにも、美しい婚約者がありながら。
 
しかし、若干神経質で潔癖な感のある彼女が彼と『一緒に暮らす』という事実に
拒否を示さないところを見ると、彼女はアレンと既に“そういう関係”を
結んでいる、仮に結んでいなかったとしても彼と“そういった行為”を
行うことに抵抗がない、ということになるのだろう。
あの女好きのアレンの“相手”を、四年間ほぼ一人で務め続けることを了承している、と。
他の女を口説いたその口で、軽口を叩きながら当たり前のように
彼女の腰に手を回していたあの男の姿を思い出すと、
胃の腑の中にムカムカと言いようのない苛立ちが募ってきた。

「万季にはもっと早く言おうと思ってたんだけど、
中々言い出すタイミングが掴めなくて……ごめんね」
 
そう言って、いかにも申し訳なさそうに視線を下げてみせる彼女。
そうだ、今日はもう高校の卒業式なのだ。
私は当然、この学園の大学に彼女も進学するものと決め付けていた。
その私に、何ていきなり、こんな甚大な衝撃を与えてくれるのだ!?
 
「………………」
 
黙り込んで、どんな罵声を浴びせてやろうかと考える私に、
彼女は少し寂しそうに微笑んだ。
その微笑を見て、ここ半年程の自分の行動を少しずつ思い返してみる。
 
金髪に着崩した学ラン、所謂“チョイ悪”の彼とのデートに夢中になっていた休日。
私の周りに群がってくる、“お嬢様学園のはみ出し者”仲間の後輩たちと
ゲームセンターや合コン荒らしに明け暮れていた放課後。
彼女はいつも同じような微笑を浮かべて、
何か言いたげに私の傍に近づいてきてはいなかったか。
 
 
~~~
 
 
『あのね、万季。少し話があるんだけど……』
 
『ごめーん、今ちょっと電話来たから待っててー!』
 
とそっけなく返した自分。
 
『少しだけでいいの、聞いてもらいたいことがあって……』
 
『悪いんだけどこれから出かける予定あるから、後にしてくれる?』
 
とさも迷惑そうに追い払ってきた自分。
 
いつも、いつも彼女は私に伝えようとしてくれていた。
言葉にできないときは、仕草や視線や声音で。
皆の前では常にポーカーフェイスを装い、“生徒会役員を務める優等生”
であった彼女の本音を見抜くことが出来たのは、昔から自分だけだった。
熱があるときも、泣きたいときも、笑いたいときも、怒りたいときも……。
 
それを、いつから気づけなくなった? ううん、違う。
いつから、無視してしまうようになったのだろう? 一体いつからだったのだろう。
私だけに見える、否、私にしか本心を伝えようとしない
彼女の態度を鬱陶しく感じるようになってしまったのは。
彼女の想いに気づいたから? そしてそれを、“キモチワルイ”と思ったから?
決して応えられないその想いを、とてつもなく重いものに感じてしまったから――?
私は彼女に、どれだけの酷い言葉を投げつけてきたのだろう。
どれだけの惨い態度を取り続けてきたのだろう?
百回? 千回? それとも一万、いやもっと……
 
 
~~~
 
 
何も言わず、何も言えずに立ち尽くす私に、彼女は一旦深く息を吸い込み、
ふう、と吐き出してじっとこちらを見据えた。
どこまでも深い漆黒の、私が何よりも気に入っている強く真摯な眼差し。
 
「万季、ごめんね。今まで、本当にありがとう……。好き、だった」
 
予想外の告白に胸を射られ、
私は瞬き一つ出来ず目を見開いたまま身動きが取れない。
それをどう捉えたのか、彼女はまた寂しそうに微笑って屋上をってい
その、どこまでも細く小さな背中を見た瞬間、一気に心の中に押し寄せた感情。

違う、“キモチワルイ”なんて思ってない。怖かっただけだ。
“フツウ”から外れてしまうのが。彼女に、溺れてしまうのが。
認めたくなかった。だから、見て見ぬフリをした。彼氏と、後輩たちと遊び回って。

「一香、待って!」
 
叫んだ言葉は、既に分厚い鉄の扉の向こうにいる彼女には届かない。
彼女が私に告げた言葉は、
 
『好き、だった』
 
彼女にとって全てはもう過去、終わってしまった過ち。
 
「好き。好き……私も、好き。傍にいて。行かないで。ずっと、ずっと……!」
 
『好き』という言葉を、簡単に向けてきた相手ならいくらでもいた。
けれどこんなにも切ない想いで同じ言葉を泣き叫ぶ日が来るなんて、
想像もしていなかった。
 
どうして、こんな単純なことに今まで気づけなかったんだろう。
どうして、一番大事なものを失ってから気がついてしまったんだろう?
 
こんな言葉、一万回言ったって、十万回、百万回、例え一億告げたとしても、
もうあなたには届かない。
行ってしまったあなたに、全てのことに覚悟を決めて
“サヨナラ”を告げたあなたに、届きなんてしないのに。





後書き
 

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