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拍手ログSSS。花言葉からネタをもらおうシリーズ第一弾(笑)
(※第二弾はSSS『Willow』(本作と関連なし)です)
近代日本風パラレルワールド。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
父を憎んでいた。
軍の最高司令官、『稀代の名将』と呼ばれ、人々の敬慕を集める父を。
家庭をほとんど省みず、年に一度しか会うことのない父を。
醒めた無関心が憎悪に変わったのはほんの十日前。
訃報を聞いて生家に駆け戻った時、母は既に骨の欠片と変わり果てていた。
死に顔も見れぬ、余りに急な別れ。それが父の仕業だと知った時の憤り。
そこまで迅速に指示を出しておきながら、あの男は葬儀に顔も見せなかった。
夫から手向けの花の一つもなく、母の弔いはひっそりと幕を閉じた。
それから、十日。
今や憎むべき対象となった父との邂逅は、皮肉にも再び訪れた葬儀の場であった。
~~~
「ご自分の妻の葬儀は無視しても、己を慕う者の葬儀にはお出になるのですね」
皮肉を込めた言葉を投げかければ、男は常の如く私に冷たい一瞥をくれた。
「あなたは、いつだってそうだ……!
あなたのせいで母君はいつも……お寂しさを紛らわせるために、
あちこちに出歩かれて……私だって……!」
激昂する私に、父は溜め息を吐く。
「聡介はそんなあなたの何をあんなにも敬っていたのでしょうね?
本当のあなたの姿を、私が教えてあげたかった……!
いや知ってしまったからこそ、こんなくだらない死に方を……!」
パンッ!
父が、私の頬を打った。父に打たれるのは、初めてのことだった。
「目をかけていた者を侮辱されるのは、さすがに父君でも堪えると見える」
火照った頬を押さえながら嗤う。
父の目には燃え滾る怒りも、激流のような悔恨も無い。
ただ静かに澄んで、全てを見透かすような眼差しを私に注いでいる。
それが耐え難かった。いつも、いつでも。
「枝理華の……おまえの母親の、本当の死因を知っているか?」
――『聡介の奴が何で死んだか知ってるか?』
先ほど行き会った同級生たちが囁いていた噂。
「本当の死因は……
――『あいつの病気は……
亡き親友を嘲笑うかのような、下卑た笑い声が耳に響く。
梅毒だ」
――梅毒だったらしいぜ』
白い閃光が脳裏を駆ける。
「おまえは寄宿舎に入っていて、
ここ一年あいつにはろくに会っていなかっただろう?
それをいいことにあいつはやりたい放題、挙句おまえの友人まで道連れにした」
「嘘だ……そんな……母君はお寂しくて」
「おまえはいつまでそんな偽りを信じ続ける?
枝理華は初めからそういう女だった。私と結婚したのも、金と名誉のためだ。
そして私は、皇族から持ち込まれた縁談を断れなかった。
あの女に一度も愛情を抱いたことはないし、向こうだってそうだろう。
何度か寝台に誘われたことはあったが、触れるのも汚らわしい女だった」
目の前の壮健な男の吐き出す言葉の意味を、咄嗟に理解することが出来ない。
じわじわと全身が震えだす。
「それでは……私は……父君の子ではないのですか?」
父は答えぬまま、蔑みの目で私を見た。
今まで信じてきたものの全てが、足元からガラガラと音を立てて
くず折れていくようだった。
~~~
――『章生、君は何にも分かってないんだよ』
乾いたように嗤う、今は亡き親友の横顔。
――『あの方がいかに寛大な方か、己がいかに欺瞞に満ちた世界にいるか……
ちっとも知らないんだよ』
良きライバルだった。
文武両面に優れ、将来は必ずやこの国を率いる立場になるだろう、
と予想されながら、穏やかに微笑む優しい物腰の男だった。
その笑顔が、変わってしまったのはいつからだったのか。
学友たちを初めて母君に引き合わせた、新年会の夜からではなかったか。
――『僕は君が羨ましいよ。ともすれば憎んでしまいそうなくらいに。
何たって、“あの方の息子”なんだもの……お母君に、感謝しなくてはね』
悪戯な微笑が何を意味していたのか。
――『ねえ章生、“エリカ”の花言葉を知っている?』
あれは、新年会から一月が経った頃のことだった。
――『“孤独”だろう?母君がご自分の名を……淋しい名だと仰っていた』
私の返事に、聡介は声を上げて嗤った。
――『そうだね、でもそれだけじゃない。
あの花にはもう一つ意味があるのさ……それはね、“裏切り”というんだよ』
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父を憎んでいた。
軍の最高司令官、『稀代の名将』と呼ばれ、人々の敬慕を集める父を。
家庭をほとんど省みず、年に一度しか会うことのない父を。
醒めた無関心が憎悪に変わったのはほんの十日前。
訃報を聞いて生家に駆け戻った時、母は既に骨の欠片と変わり果てていた。
死に顔も見れぬ、余りに急な別れ。それが父の仕業だと知った時の憤り。
そこまで迅速に指示を出しておきながら、あの男は葬儀に顔も見せなかった。
夫から手向けの花の一つもなく、母の弔いはひっそりと幕を閉じた。
それから、十日。
今や憎むべき対象となった父との邂逅は、皮肉にも再び訪れた葬儀の場であった。
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「ご自分の妻の葬儀は無視しても、己を慕う者の葬儀にはお出になるのですね」
皮肉を込めた言葉を投げかければ、男は常の如く私に冷たい一瞥をくれた。
「あなたは、いつだってそうだ……!
あなたのせいで母君はいつも……お寂しさを紛らわせるために、
あちこちに出歩かれて……私だって……!」
激昂する私に、父は溜め息を吐く。
「聡介はそんなあなたの何をあんなにも敬っていたのでしょうね?
本当のあなたの姿を、私が教えてあげたかった……!
いや知ってしまったからこそ、こんなくだらない死に方を……!」
パンッ!
父が、私の頬を打った。父に打たれるのは、初めてのことだった。
「目をかけていた者を侮辱されるのは、さすがに父君でも堪えると見える」
火照った頬を押さえながら嗤う。
父の目には燃え滾る怒りも、激流のような悔恨も無い。
ただ静かに澄んで、全てを見透かすような眼差しを私に注いでいる。
それが耐え難かった。いつも、いつでも。
「枝理華の……おまえの母親の、本当の死因を知っているか?」
――『聡介の奴が何で死んだか知ってるか?』
先ほど行き会った同級生たちが囁いていた噂。
「本当の死因は……
――『あいつの病気は……
亡き親友を嘲笑うかのような、下卑た笑い声が耳に響く。
梅毒だ」
――梅毒だったらしいぜ』
白い閃光が脳裏を駆ける。
「おまえは寄宿舎に入っていて、
ここ一年あいつにはろくに会っていなかっただろう?
それをいいことにあいつはやりたい放題、挙句おまえの友人まで道連れにした」
「嘘だ……そんな……母君はお寂しくて」
「おまえはいつまでそんな偽りを信じ続ける?
枝理華は初めからそういう女だった。私と結婚したのも、金と名誉のためだ。
そして私は、皇族から持ち込まれた縁談を断れなかった。
あの女に一度も愛情を抱いたことはないし、向こうだってそうだろう。
何度か寝台に誘われたことはあったが、触れるのも汚らわしい女だった」
目の前の壮健な男の吐き出す言葉の意味を、咄嗟に理解することが出来ない。
じわじわと全身が震えだす。
「それでは……私は……父君の子ではないのですか?」
父は答えぬまま、蔑みの目で私を見た。
今まで信じてきたものの全てが、足元からガラガラと音を立てて
くず折れていくようだった。
~~~
――『章生、君は何にも分かってないんだよ』
乾いたように嗤う、今は亡き親友の横顔。
――『あの方がいかに寛大な方か、己がいかに欺瞞に満ちた世界にいるか……
ちっとも知らないんだよ』
良きライバルだった。
文武両面に優れ、将来は必ずやこの国を率いる立場になるだろう、
と予想されながら、穏やかに微笑む優しい物腰の男だった。
その笑顔が、変わってしまったのはいつからだったのか。
学友たちを初めて母君に引き合わせた、新年会の夜からではなかったか。
――『僕は君が羨ましいよ。ともすれば憎んでしまいそうなくらいに。
何たって、“あの方の息子”なんだもの……お母君に、感謝しなくてはね』
悪戯な微笑が何を意味していたのか。
――『ねえ章生、“エリカ”の花言葉を知っている?』
あれは、新年会から一月が経った頃のことだった。
――『“孤独”だろう?母君がご自分の名を……淋しい名だと仰っていた』
私の返事に、聡介は声を上げて嗤った。
――『そうだね、でもそれだけじゃない。
あの花にはもう一つ意味があるのさ……それはね、“裏切り”というんだよ』
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