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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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貴族の兄妹と女房と皇子、平安風SSS。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「いやっ!!やめて!!」
 
女房に身体を押さえつけられて金切り声を挙げる一人の女。
当代随一の美姫、と称される内大臣家の茜姫。
美しい顔は勘気に歪められ、暴れたせいで身の丈より長い黒髪は乱れ、
体中にまとわりついている。
 
「よさないか、茜。みっともない……」
 
現れたのは彼女の兄。
内大臣家の嫡男、貴明。
将来を嘱望される見目麗しい青年は、
どこか冷たささえも感じられるような声でこう告げた。
 
「お兄様!またお兄様の仕業ね……!
どうしていつも私の愛する人を遠ざけるの!?」
 
兄は妹を軽蔑の眼差しで見つめ、
 
「お前の男の趣味が悪すぎるのだ。あんな身分も持たぬ雑色風情と……」
 
苦々しげに吐いた。
 
「あの方をどこへやったのです!?答えてくださいお兄様!おにいさまっ……!」
 
追いすがる妹に、貴明はうっとおしそうに背を向ける。 
部屋の出口に来た彼が、傍らに控える少女に、
 
「今宵、私の元へ来い……」
 
と口の端を上げて囁いたことに注意を払う者は、誰もいなかった。
 
 
~~~

 
「……どうしてこんな辛い想いをしなくてはいけないのかしら。
ただ人を好きになっただけなのに」
 
騒ぎの後の静けさの中、姫の呟きに答えるのは、
先ほどその兄に声を掛けられた女房だった。
 
「思うままにならぬ……恋とはそうしたものでございます」
 
「ああ、霞、確かそなたも……辛い恋を、したのでしたね」
 
「……」
 
少女は目を伏せただけで何も答えなかった。
 
姫といくらも年の変わらぬ女房……霞は、実の兄と恋に落ちた。
その結果故郷にはいられなくなり、兄と引き裂かれて都に……
内大臣家にやって来た。
そして今では、強引に若殿たる貴明の半分情人のような扱いを受けている。
それが“霞”だ。
 
「お前も、わたくしと同じなのですね……」
 
姫は優しく微笑んで、そっと霞の手を取った。
 
 
~~~
 
 
「遅くなりまして申し訳ありません」
 
月が東に傾く頃、霞はようやく主人である茜の元を離れ、貴明の元を訪れた。
 
「まったくだ……来い」
 
貴明は乱暴に細い手首を引き寄せ、自分の元に引き寄せた。
 
「茜の様子はどうだ……?落ち着いたか?」
 
己を組み敷きながら問うてくる若殿に、
 
「はい……少しは落ち着かれたようで、今は眠っておられます」
 
「全く……何で次から次へと厄介な男ばかり追いかけるのだろうな」
 
苛立たしげに吐かれた言葉に、霞はおずおずと返事を返す。
 
「兄君さまに……気になさっていただきたいのではないですか?
わたくしをお傍に置かれるのも……。
あの方が、本当はどなたを想っておいでか、本当はご存知なのでは……っ……!」
 
「うるさいっ!!」
 
みなまで言い終わらぬ内に、霞の身体は乱暴に突き上げられ、声を奪われる。
「はっ、女房風情が出過ぎたことを……。
そうだな、そなたには人の世の(のり)も何もないものな。
まさに実の兄と繋がった……汚らわしいメス犬が!」
 
「あっ……ふっ……」
 
怒りのままに動く灼熱に、霞の思考は溶かされていく。
 
「お前も俺を恨んでいるだろう?
愛しい男と引き裂き、無理やり身体を我が物にした俺を。
ククッ、どうだ、憎い男に抱かれる気分は……?もっと俺を憎め……!」
 
狂宴は、一晩中続いた。
 
 
~~~

 
「本当にあなたという方は……恐ろしい姫君だ」
 
明くる日、茜姫の元を訪れたのは、一人の瀟洒な青年だった。
今上帝の異母弟に当たる、椿の宮。
当代きっての色好みであり、茜の兄たる貴明とは親友の間柄である。
貴明とは違い、どこか穏和で軽薄な感のある風貌に、悪戯な瞳が輝く。
 
「だって退屈なんですもの。当分遊戯(ゲーム)は続けるわ」

艶やかに微笑んだのは、果たして昨日恋人との別離を嘆いていた姫なのか。
と、そこに入ってきたのは一人の線の細い少女で。
 
「ああ、霞。兄上の様子はどうだった?」
 
「ええ……もう大分。茜様の手の内に落ちるのは、時間の問題かと」
 
少女は顔色も変えず淡々と答える。
 
「ふふっ……楽しみね。
でも余り早く遊戯(ゲーム)が終わってしまっては……つまらないわ」

「そうしたらまた、新しい遊びを見つけられれば良い」
 
思案顔の姫君を、腕の中に引き寄せたのは椿の宮。
 
「あら、宮様……今日は、“我が愛しの兄上”の元にいらしたのではなくて?」
 
「貴明から君を誘惑しろ、と言われてるんだ……。
努力の後を見せておかないと、後がうるさいだろう?」
 
「……今更ね。わたくしたちはとっくの昔に“遊び相手”になっているのに……
どうして気づかないのかしら?」
 
クスクスと微笑みあい、褥に倒れこんだ二人の姿に、霞は静かに部屋を後にした。


 
――少女が提案したのは、「実の兄を落とす」という遊戯(ゲーム)

「本当に、お前を傍に置いてよかったわ。
こんな楽しい遊びに出会えるなんて……。
しかもお前はそれを成功させたんですものね?」
 
嬉々として言葉を紡ぐ主に、少女は感情の篭もらぬ目で微笑む。
 
「ええ……あっけないものでしたよ」
 
その遊戯(ゲーム)のおかげで少女と兄は全てを失ったというのに。

「ふふっ……わたくしも絶対成功させて見せるわ。
あの堅物の兄君が堕ちるところを見たいもの」
 
狂気を帯びた眼差しで、満足げな微笑を浮かべる女主人を、
霞は冷めた瞳で見つめていた。

 
~~~
 
 
「……来ていたのか」
 
辺りが闇に包まれる頃、貴明は階に親友の姿を見つけた。
 
「ああ……先ほどね。ちゃんと妹君のところにも顔を出したよ」
 
と言って彼は淫靡な微笑を浮かべ、衣をくつろげて胸元の紅い痕を指し示す。
 
「そうか……ご苦労なことだな」
 
青年は口の端を上げて嗤った。
 
「お前ほどじゃないさ……アレ(・・)に付き合うのは大変だろう?」

「そうでもないな……多少面倒ではあるが」
 
隣に腰を降ろそうとした貴明が、何かに気づいたように、柱の影に声を掛ける。
 
「霞」
 
その言葉に驚いて宮がそちらを見ると、少女が酒と肴の載った台を持って控えていた。
 
「相変わらずお前は察しが良いな」
 
当たり前のように給仕を始めた霞の顔には、
常と変わらず何の感情の起伏も見られない。
 
「君は一体、何者なんだ……?」
 
一体誰の、味方なんだ……?
宮の問いに、霞は答えず微笑むばかり。
もしかしたら騙されているのは、俺のほうじゃないか……?
貴明兄妹に
霞に
いや皆が皆、嘘を吐いているのかもしれない……
宮の心に暗い疑惑の斑点が広がる。
冷や汗が背を滑り落ちる。
 
「どうなさいました?宮様」
 
霞の微笑み。
冷たい微笑。
宮はこの時初めて、霞の消え入りそうな儚い美しさに気づいた。
そしてその美貌に、恐怖した。





 
The truth is in the dark ……
 
―少女は生きることに飽いていた。
自分もヒトとして生まれたにも関わらず、世の中に、ニンゲンに興味を持てなかった。
かといって死後の世界も、彼女の虚無を癒してくれるとは到底考えられなかった。
だから少女は、壊してみることにした。
ヒトの世の掟というものを。
ニンゲンの、最も穢れた部分を使って。
やってみると、余り楽しいとは言えなかったが、
鎖の崩れるその瞬間だけ、彼女は退屈を忘れることができた。
彼女は“壊すこと”を続けることにした。
今度は自分以外のニンゲンも巻き込んで。
さあ、舞台(ショー)の幕開けだ。
 
 
Who is The Pierrot?




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「いやっ!!やめて!!」
 
女房に身体を押さえつけられて金切り声を挙げる一人の女。
当代随一の美姫、と称される内大臣家の茜姫。
美しい顔は勘気に歪められ、暴れたせいで身の丈より長い黒髪は乱れ、
体中にまとわりついている。
 
「よさないか、茜。みっともない……」
 
現れたのは彼女の兄。
内大臣家の嫡男、貴明。
将来を嘱望される見目麗しい青年は、
どこか冷たささえも感じられるような声でこう告げた。
 
「お兄様!またお兄様の仕業ね……!
どうしていつも私の愛する人を遠ざけるの!?」
 
兄は妹を軽蔑の眼差しで見つめ、
 
「お前の男の趣味が悪すぎるのだ。あんな身分も持たぬ雑色風情と……」
 
苦々しげに吐いた。
 
「あの方をどこへやったのです!?答えてくださいお兄様!おにいさまっ……!」
 
追いすがる妹に、貴明はうっとおしそうに背を向ける。 
部屋の出口に来た彼が、傍らに控える少女に、
 
「今宵、私の元へ来い……」
 
と口の端を上げて囁いたことに注意を払う者は、誰もいなかった。
 
 
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「……どうしてこんな辛い想いをしなくてはいけないのかしら。
ただ人を好きになっただけなのに」
 
騒ぎの後の静けさの中、姫の呟きに答えるのは、
先ほどその兄に声を掛けられた女房だった。
 
「思うままにならぬ……恋とはそうしたものでございます」
 
「ああ、霞、確かそなたも……辛い恋を、したのでしたね」
 
「……」
 
少女は目を伏せただけで何も答えなかった。
 
姫といくらも年の変わらぬ女房……霞は、実の兄と恋に落ちた。
その結果故郷にはいられなくなり、兄と引き裂かれて都に……
内大臣家にやって来た。
そして今では、強引に若殿たる貴明の半分情人のような扱いを受けている。
それが“霞”だ。
 
「お前も、わたくしと同じなのですね……」
 
姫は優しく微笑んで、そっと霞の手を取った。
 
 
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「遅くなりまして申し訳ありません」
 
月が東に傾く頃、霞はようやく主人である茜の元を離れ、貴明の元を訪れた。
 
「まったくだ……来い」
 
貴明は乱暴に細い手首を引き寄せ、自分の元に引き寄せた。
 
「茜の様子はどうだ……?落ち着いたか?」
 
己を組み敷きながら問うてくる若殿に、
 
「はい……少しは落ち着かれたようで、今は眠っておられます」
 
「全く……何で次から次へと厄介な男ばかり追いかけるのだろうな」
 
苛立たしげに吐かれた言葉に、霞はおずおずと返事を返す。
 
「兄君さまに……気になさっていただきたいのではないですか?
わたくしをお傍に置かれるのも……。
あの方が、本当はどなたを想っておいでか、本当はご存知なのでは……っ……!」
 
「うるさいっ!!」
 
みなまで言い終わらぬ内に、霞の身体は乱暴に突き上げられ、声を奪われる。
「はっ、女房風情が出過ぎたことを……。
そうだな、そなたには人の世の(のり)も何もないものな。
まさに実の兄と繋がった……汚らわしいメス犬が!」
 
「あっ……ふっ……」
 
怒りのままに動く灼熱に、霞の思考は溶かされていく。
 
「お前も俺を恨んでいるだろう?
愛しい男と引き裂き、無理やり身体を我が物にした俺を。
ククッ、どうだ、憎い男に抱かれる気分は……?もっと俺を憎め……!」
 
狂宴は、一晩中続いた。
 
 
~~~

 
「本当にあなたという方は……恐ろしい姫君だ」
 
明くる日、茜姫の元を訪れたのは、一人の瀟洒な青年だった。
今上帝の異母弟に当たる、椿の宮。
当代きっての色好みであり、茜の兄たる貴明とは親友の間柄である。
貴明とは違い、どこか穏和で軽薄な感のある風貌に、悪戯な瞳が輝く。
 
「だって退屈なんですもの。当分遊戯(ゲーム)は続けるわ」

艶やかに微笑んだのは、果たして昨日恋人との別離を嘆いていた姫なのか。
と、そこに入ってきたのは一人の線の細い少女で。
 
「ああ、霞。兄上の様子はどうだった?」
 
「ええ……もう大分。茜様の手の内に落ちるのは、時間の問題かと」
 
少女は顔色も変えず淡々と答える。
 
「ふふっ……楽しみね。
でも余り早く遊戯(ゲーム)が終わってしまっては……つまらないわ」

「そうしたらまた、新しい遊びを見つけられれば良い」
 
思案顔の姫君を、腕の中に引き寄せたのは椿の宮。
 
「あら、宮様……今日は、“我が愛しの兄上”の元にいらしたのではなくて?」
 
「貴明から君を誘惑しろ、と言われてるんだ……。
努力の後を見せておかないと、後がうるさいだろう?」
 
「……今更ね。わたくしたちはとっくの昔に“遊び相手”になっているのに……
どうして気づかないのかしら?」
 
クスクスと微笑みあい、褥に倒れこんだ二人の姿に、霞は静かに部屋を後にした。


 
――少女が提案したのは、「実の兄を落とす」という遊戯(ゲーム)

「本当に、お前を傍に置いてよかったわ。
こんな楽しい遊びに出会えるなんて……。
しかもお前はそれを成功させたんですものね?」
 
嬉々として言葉を紡ぐ主に、少女は感情の篭もらぬ目で微笑む。
 
「ええ……あっけないものでしたよ」
 
その遊戯(ゲーム)のおかげで少女と兄は全てを失ったというのに。

「ふふっ……わたくしも絶対成功させて見せるわ。
あの堅物の兄君が堕ちるところを見たいもの」
 
狂気を帯びた眼差しで、満足げな微笑を浮かべる女主人を、
霞は冷めた瞳で見つめていた。

 
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「……来ていたのか」
 
辺りが闇に包まれる頃、貴明は階に親友の姿を見つけた。
 
「ああ……先ほどね。ちゃんと妹君のところにも顔を出したよ」
 
と言って彼は淫靡な微笑を浮かべ、衣をくつろげて胸元の紅い痕を指し示す。
 
「そうか……ご苦労なことだな」
 
青年は口の端を上げて嗤った。
 
「お前ほどじゃないさ……アレ(・・)に付き合うのは大変だろう?」

「そうでもないな……多少面倒ではあるが」
 
隣に腰を降ろそうとした貴明が、何かに気づいたように、柱の影に声を掛ける。
 
「霞」
 
その言葉に驚いて宮がそちらを見ると、少女が酒と肴の載った台を持って控えていた。
 
「相変わらずお前は察しが良いな」
 
当たり前のように給仕を始めた霞の顔には、
常と変わらず何の感情の起伏も見られない。
 
「君は一体、何者なんだ……?」
 
一体誰の、味方なんだ……?
宮の問いに、霞は答えず微笑むばかり。
もしかしたら騙されているのは、俺のほうじゃないか……?
貴明兄妹に
霞に
いや皆が皆、嘘を吐いているのかもしれない……
宮の心に暗い疑惑の斑点が広がる。
冷や汗が背を滑り落ちる。
 
「どうなさいました?宮様」
 
霞の微笑み。
冷たい微笑。
宮はこの時初めて、霞の消え入りそうな儚い美しさに気づいた。
そしてその美貌に、恐怖した。





 
The truth is in the dark ……
 
―少女は生きることに飽いていた。
自分もヒトとして生まれたにも関わらず、世の中に、ニンゲンに興味を持てなかった。
かといって死後の世界も、彼女の虚無を癒してくれるとは到底考えられなかった。
だから少女は、壊してみることにした。
ヒトの世の掟というものを。
ニンゲンの、最も穢れた部分を使って。
やってみると、余り楽しいとは言えなかったが、
鎖の崩れるその瞬間だけ、彼女は退屈を忘れることができた。
彼女は“壊すこと”を続けることにした。
今度は自分以外のニンゲンも巻き込んで。
さあ、舞台(ショー)の幕開けだ。
 
 
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