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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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再会


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「私の子か?」
 
不意に、背後から低い声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声に、肩を震わせて振り向けば、
立っていたのは一年前より一層精悍さを増したあの男だった。
小刻みに震えたまま声の出ない己の手から、男は赤子を抱き取った。
このまま赤子だけを連れて行ってしまうのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えれば、無意識に手が赤子の衣を掴む。
私の子。誰にも渡したくない、奪われたくない。
望まぬ子であったにも関わらず、いつの間にか芽生えていた母の情というものに
驚いて掴んだ手を見れば、男は優しくその手を払いのけてこう告げた。
 
「大丈夫だ。母と子を引き離したりはせぬ」
 
その言葉に息をついて手を離した私に、男は続けて目を見張るような言葉を続けた。
 
「そなたを迎えに来た。……子が生まれていたとは知らなかったが、共に都へ迎えよう」


~~~ 

 
名主とその息子は、慌てて社に飛んできた。
一年の後様変わりした社の様子に気づいたのだろう、男は荒れた社の有様を見て、顔をしかめた。
それから私の頬に手を触れ、眉根を寄せて一言
 
「痩せたな……」
 
と呟いた。それにどう答えていいか分からずに私は黙り込む。
元々一年前から、男と言葉を交わしたことはほんのわずかばかり。
無理矢理に自分を奪った男と、どんな和やかな会話が紡げるというのだろう。
それなのに、不思議と暖かな思いにつつまれるこの心は何なのだろうか。
育った島に居場所を失った私が、ようやく己を受け入れてくれる場所を
見つけたような、そんな気分に包まれていた。
 
都への出立は、翌朝と決まった。
男の話を聞いた名主親子は舌打ちをして社を去っていった。
一年前と同じく、私に否やを言う暇は与えられなかった。
生まれ育った島で、居場所を失ったまま名主の息子に囲われるよりは、
遠い都の地で同じ立場になった方が良い……
父の愛した社を捨てて島を去る己に無理にそう言い聞かせて、私は舟に乗り込んだ。
何よりも腕の中の赤子の未来を思えば、そうするより他無いのだ。
赤子の父は、紛れもなく今我が身を腕に抱く、この男なのだから。
神より子を選んだ巫女……そう罵られても良い。
波が揺れる広い海に、私は一歩踏み出したのだ。
 

~~~
 
 
都に着いたのはそれから一月余り後のことだった。
ただでさえ困難な船と馬の旅である上、子連れである。
船旅を終え辿り着いた港では、男の側近が待っていた。
私の腕の中の赤子を見て一瞬驚いたような表情を浮かべた後、すぐに笑顔を
浮かべて丁寧な挨拶を交わしてくれた彼に、久々に人の温かさに触れた気がした。
男の腕に抱かれたまま、馬に揺られて都へ向かった。険しく長い道のり。
男が島に来るまでには、これほど困難な道程を経ていたのか、という新鮮な驚き。
男は何を求めて島を訪れたのだろうか。この、何不自由なく育ったであろう都の貴族は……。
顔を上げれば、目と目が合う。相変わらず鋭く冷えた眼差しだ。
 
「間もなく、都に着く。邸に着いたら、ゆっくり休め」
 
硬い声音で吐き出される、労りの言葉。
 
「はい……」
 
と答えながら、最初の日に男が告げた言葉が耳を揺らす。
 
『ずっと、探していた……』
 
 
~~~
 
 
「まあまあまあまあ、お疲れになられたでしょう!
まあ何と可憐な奥方様でいらっしゃること! 珠のような若君までお連れになって……!」
 
一目で大貴族の邸宅と分かる都でも有数の広さを持つ邸の中に、
男は私を抱えたまま入っていった。
出迎えた年かさの女房は男の側近と同じく満面の笑みで私と赤子を見つめた。
向けられた好意と、耳を掠めた言葉に戸惑いがこぼれる。
 
「おくがた、さま……?」
 
呆然と呟けば、男が常と変わらぬ調子で告げた。
 
「そなたは既に私の正室として皆に認識されている」
 
どう見ても高位の貴族としか見えぬ男が、
無位無冠の娘を正妻に迎えるなどとは聞いたことがない。
怪訝な眼差しで男を見返せば、そのまま更に抱え上げられ、寝殿へと連れて行かれた。
 
「あの子は……!」
 
慌てて子の居所を問えば、男はそっと私の髪に触れて
 
「安心しろ、東の対にて、乳母(めのと)に預けた」
 
と告げた。
 
「乳母……?」
 
私が不安気に男を見返せば、彼は私の身体を強く抱きしめ、耳元で囁いた。
 
「明日には会わせてやる。今は……」
 
最後まで言い終わらぬ内に重ねられた口づけと、
一年ぶりに身体を襲った激しい嵐に翻弄されて、私の意識は闇へと落ちた。






 

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「私の子か?」
 
不意に、背後から低い声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声に、肩を震わせて振り向けば、
立っていたのは一年前より一層精悍さを増したあの男だった。
小刻みに震えたまま声の出ない己の手から、男は赤子を抱き取った。
このまま赤子だけを連れて行ってしまうのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えれば、無意識に手が赤子の衣を掴む。
私の子。誰にも渡したくない、奪われたくない。
望まぬ子であったにも関わらず、いつの間にか芽生えていた母の情というものに
驚いて掴んだ手を見れば、男は優しくその手を払いのけてこう告げた。
 
「大丈夫だ。母と子を引き離したりはせぬ」
 
その言葉に息をついて手を離した私に、男は続けて目を見張るような言葉を続けた。
 
「そなたを迎えに来た。……子が生まれていたとは知らなかったが、共に都へ迎えよう」


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名主とその息子は、慌てて社に飛んできた。
一年の後様変わりした社の様子に気づいたのだろう、男は荒れた社の有様を見て、顔をしかめた。
それから私の頬に手を触れ、眉根を寄せて一言
 
「痩せたな……」
 
と呟いた。それにどう答えていいか分からずに私は黙り込む。
元々一年前から、男と言葉を交わしたことはほんのわずかばかり。
無理矢理に自分を奪った男と、どんな和やかな会話が紡げるというのだろう。
それなのに、不思議と暖かな思いにつつまれるこの心は何なのだろうか。
育った島に居場所を失った私が、ようやく己を受け入れてくれる場所を
見つけたような、そんな気分に包まれていた。
 
都への出立は、翌朝と決まった。
男の話を聞いた名主親子は舌打ちをして社を去っていった。
一年前と同じく、私に否やを言う暇は与えられなかった。
生まれ育った島で、居場所を失ったまま名主の息子に囲われるよりは、
遠い都の地で同じ立場になった方が良い……
父の愛した社を捨てて島を去る己に無理にそう言い聞かせて、私は舟に乗り込んだ。
何よりも腕の中の赤子の未来を思えば、そうするより他無いのだ。
赤子の父は、紛れもなく今我が身を腕に抱く、この男なのだから。
神より子を選んだ巫女……そう罵られても良い。
波が揺れる広い海に、私は一歩踏み出したのだ。
 

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都に着いたのはそれから一月余り後のことだった。
ただでさえ困難な船と馬の旅である上、子連れである。
船旅を終え辿り着いた港では、男の側近が待っていた。
私の腕の中の赤子を見て一瞬驚いたような表情を浮かべた後、すぐに笑顔を
浮かべて丁寧な挨拶を交わしてくれた彼に、久々に人の温かさに触れた気がした。
男の腕に抱かれたまま、馬に揺られて都へ向かった。険しく長い道のり。
男が島に来るまでには、これほど困難な道程を経ていたのか、という新鮮な驚き。
男は何を求めて島を訪れたのだろうか。この、何不自由なく育ったであろう都の貴族は……。
顔を上げれば、目と目が合う。相変わらず鋭く冷えた眼差しだ。
 
「間もなく、都に着く。邸に着いたら、ゆっくり休め」
 
硬い声音で吐き出される、労りの言葉。
 
「はい……」
 
と答えながら、最初の日に男が告げた言葉が耳を揺らす。
 
『ずっと、探していた……』
 
 
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「まあまあまあまあ、お疲れになられたでしょう!
まあ何と可憐な奥方様でいらっしゃること! 珠のような若君までお連れになって……!」
 
一目で大貴族の邸宅と分かる都でも有数の広さを持つ邸の中に、
男は私を抱えたまま入っていった。
出迎えた年かさの女房は男の側近と同じく満面の笑みで私と赤子を見つめた。
向けられた好意と、耳を掠めた言葉に戸惑いがこぼれる。
 
「おくがた、さま……?」
 
呆然と呟けば、男が常と変わらぬ調子で告げた。
 
「そなたは既に私の正室として皆に認識されている」
 
どう見ても高位の貴族としか見えぬ男が、
無位無冠の娘を正妻に迎えるなどとは聞いたことがない。
怪訝な眼差しで男を見返せば、そのまま更に抱え上げられ、寝殿へと連れて行かれた。
 
「あの子は……!」
 
慌てて子の居所を問えば、男はそっと私の髪に触れて
 
「安心しろ、東の対にて、乳母(めのと)に預けた」
 
と告げた。
 
「乳母……?」
 
私が不安気に男を見返せば、彼は私の身体を強く抱きしめ、耳元で囁いた。
 
「明日には会わせてやる。今は……」
 
最後まで言い終わらぬ内に重ねられた口づけと、
一年ぶりに身体を襲った激しい嵐に翻弄されて、私の意識は闇へと落ちた。






 

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