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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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御曹司×巫女、古典風。

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男は、私を探していた――
 
腕の中の赤子はすうすうと寝息を立てて眠っている。冷ややかな風が頬を撫でる。
ふと、視線を上げれば、見慣れた広い海が目に入る。
いっそこのまま海に分け入ってしまおうか――
そんなことを考えながら歩み続ける私を、村の皆が遠巻きに眺めている。
かつて私を慕ってくれた人々。今はもう、声をかけてくれるのはほんの一握り。
月に一度、申し訳程度に納められる僅かな供物で、私は生きている。
それも後ろ暗いところのある名主が、己の罪悪感を払拭するためだけにしていること。
 
背を丸めた不恰好な小男が連れてきた、あの男の顔が脳裏に蘇る。
本来なら、あの男は私の「背の君」と呼ばれる立場にいるのだろう。
たった、十日。この小さな島に滞在しただけの男。
見るからに位高い貴族と分かる趣味の良い狩り衣を身に纏い、
整った顔立ちに冷えた眼差しを備えたあの男。
 
私はこの小さな島の、ただ一つの社を守る巫女だった。
元々少ない村人から寄せられる供物に支えられた生活は余り豊かとは
言いがたかったが、人々は宮司であった父と私を敬い、慕ってくれた。
それが壊れてしまったのは、いつからだったのだろう。
父が亡くなって三年。一人静かに社を守っていた私の元に、突然の来客が訪れた。
さる高貴なお方が、はるばる都からお忍びでやって来たのだと、名主は誇らしげに説明した。
宿の無い小さな村で一番立派な建物が私の住まう社であるから、
と頼み込まれては断ることができず、女の一人暮らしのあばら家に男を泊めた。
それがそもそもの過ちだった。名主はおそらく、男に小金を掴まされていたのだろう。
余りにも突然の嵐。部屋に入られた時点で、女に否やを言う暇は無い。
その日のうちに、私は男に蹂躙された。
三日三晩続いた狂ったような一時が過ぎ去った後、
私はそれまでの己の世界が音を立てて崩れ落ちたことを知った。
男は村人の前で、私との関係を隠さなかった。
御簾の向こうの男の前で、下卑た嗤いを向ける名主。
女たちは巫女としての純潔を失った私を、白い目で見るようになった。
十日後、男は島を去った。
 
私には、穢れた巫女としての汚名が残っただけ。
それから更に三月、こみ上げる嘔吐感に襲われた私に、待っていたのは絶望だった。
島を去ってから何の音沙汰も無い男に嬲られた、十日間。
私の腹の中には、望まぬ命が芽生えていた。
身籠った巫女を人々はいよいよ忌避の目で見るようになり、私の居場所はますます無くなった。
例え望まぬものであったとは言え、命は命、神に仕える身であるが故に、
奪うことなどできずたった一人で子を生んだ。
それから二月。間もなくあの悪夢のような日から一年が経つ。
あの男は現われない。文一つ、訪れる気配もない。
所詮はみやこびとの気まぐれ、捨て置かれて当然の身。
それでも何故、私でなければならなかったのか。
純潔を失っても、子を生んでも、私の巫女としての力は不思議とこの身から消えることはない。
だからこそ余計に、人々の声が、私を嫌悪する念が流れ込む。
 
名主の息子から、側女の話が来た。
巫女としての神聖性を失い、幼子を抱えた身で一人暮らしていくのは辛かろう、と
さも優しげに囁かれた言葉に、答えが出ぬまま数日が過ぎた。
巫女としての力は失っていない、といくら訴えたところで、
子連れの巫女など見たこともない人々が到底納得するわけも無い。
人々が巫女としての自分を認めぬ今、
島において何の役割も果たさぬ自分は村人にとりただの厄介者に過ぎない。
だからいっそのこと、名主の息子に囲われてしまえ、と。
島の住人としての役割を果たせ、と名主は暗に告げているのだ。
おそらくこうなることを全て分かっていて、己の寝所にあの男を誘ったに違いないのに。
 
恨んでいるのではない。哀しいのでもない。ただ、虚しいのだ。
私と、亡き父と、人々の間にあった絆はそんなにもちっぽけなものであったのか、と。
気がつけば、頬を涙が伝っていた。
 
風が一層強く吹く。赤子が目覚め、甲高い泣き声を上げた。
母の心の内をそのまま表すかのような、悲痛な叫びのような声だった。






 
目次(その他)
 

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男は、私を探していた――
 
腕の中の赤子はすうすうと寝息を立てて眠っている。冷ややかな風が頬を撫でる。
ふと、視線を上げれば、見慣れた広い海が目に入る。
いっそこのまま海に分け入ってしまおうか――
そんなことを考えながら歩み続ける私を、村の皆が遠巻きに眺めている。
かつて私を慕ってくれた人々。今はもう、声をかけてくれるのはほんの一握り。
月に一度、申し訳程度に納められる僅かな供物で、私は生きている。
それも後ろ暗いところのある名主が、己の罪悪感を払拭するためだけにしていること。
 
背を丸めた不恰好な小男が連れてきた、あの男の顔が脳裏に蘇る。
本来なら、あの男は私の「背の君」と呼ばれる立場にいるのだろう。
たった、十日。この小さな島に滞在しただけの男。
見るからに位高い貴族と分かる趣味の良い狩り衣を身に纏い、
整った顔立ちに冷えた眼差しを備えたあの男。
 
私はこの小さな島の、ただ一つの社を守る巫女だった。
元々少ない村人から寄せられる供物に支えられた生活は余り豊かとは
言いがたかったが、人々は宮司であった父と私を敬い、慕ってくれた。
それが壊れてしまったのは、いつからだったのだろう。
父が亡くなって三年。一人静かに社を守っていた私の元に、突然の来客が訪れた。
さる高貴なお方が、はるばる都からお忍びでやって来たのだと、名主は誇らしげに説明した。
宿の無い小さな村で一番立派な建物が私の住まう社であるから、
と頼み込まれては断ることができず、女の一人暮らしのあばら家に男を泊めた。
それがそもそもの過ちだった。名主はおそらく、男に小金を掴まされていたのだろう。
余りにも突然の嵐。部屋に入られた時点で、女に否やを言う暇は無い。
その日のうちに、私は男に蹂躙された。
三日三晩続いた狂ったような一時が過ぎ去った後、
私はそれまでの己の世界が音を立てて崩れ落ちたことを知った。
男は村人の前で、私との関係を隠さなかった。
御簾の向こうの男の前で、下卑た嗤いを向ける名主。
女たちは巫女としての純潔を失った私を、白い目で見るようになった。
十日後、男は島を去った。
 
私には、穢れた巫女としての汚名が残っただけ。
それから更に三月、こみ上げる嘔吐感に襲われた私に、待っていたのは絶望だった。
島を去ってから何の音沙汰も無い男に嬲られた、十日間。
私の腹の中には、望まぬ命が芽生えていた。
身籠った巫女を人々はいよいよ忌避の目で見るようになり、私の居場所はますます無くなった。
例え望まぬものであったとは言え、命は命、神に仕える身であるが故に、
奪うことなどできずたった一人で子を生んだ。
それから二月。間もなくあの悪夢のような日から一年が経つ。
あの男は現われない。文一つ、訪れる気配もない。
所詮はみやこびとの気まぐれ、捨て置かれて当然の身。
それでも何故、私でなければならなかったのか。
純潔を失っても、子を生んでも、私の巫女としての力は不思議とこの身から消えることはない。
だからこそ余計に、人々の声が、私を嫌悪する念が流れ込む。
 
名主の息子から、側女の話が来た。
巫女としての神聖性を失い、幼子を抱えた身で一人暮らしていくのは辛かろう、と
さも優しげに囁かれた言葉に、答えが出ぬまま数日が過ぎた。
巫女としての力は失っていない、といくら訴えたところで、
子連れの巫女など見たこともない人々が到底納得するわけも無い。
人々が巫女としての自分を認めぬ今、
島において何の役割も果たさぬ自分は村人にとりただの厄介者に過ぎない。
だからいっそのこと、名主の息子に囲われてしまえ、と。
島の住人としての役割を果たせ、と名主は暗に告げているのだ。
おそらくこうなることを全て分かっていて、己の寝所にあの男を誘ったに違いないのに。
 
恨んでいるのではない。哀しいのでもない。ただ、虚しいのだ。
私と、亡き父と、人々の間にあった絆はそんなにもちっぽけなものであったのか、と。
気がつけば、頬を涙が伝っていた。
 
風が一層強く吹く。赤子が目覚め、甲高い泣き声を上げた。
母の心の内をそのまま表すかのような、悲痛な叫びのような声だった。






 
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