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『The Castle Of Roses』番外編SSS。
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何色の薔薇が欲しい?
その紋章が発表された時、宮廷に激震が走った。そう、聞かされている。
生誕から七日後の祝いの席。
仕来たり通り、生まれた子と、その紋章が披露されるその日。
青い薔薇の紋章。かつてその紋章を冠した王族は一人もいない。
存在しない花を戴くなど、馬鹿げている。瞬間、貴族たちは理解した。
私が、存在を認められぬ王子だと。
『アルフさまーっ!』
蘇るのは、金の巻き毛を揺らし、こちらへ駆け寄る少女の笑い声。
凍りついた祝いの席で、その“在って亡き王子”の監視役を命じられた
哀れな下級貴族の一人娘。下級貴族でありながら、国王に対しても堂々と
己の主張を貫く男爵を、父王は兼ねてから気に入らなかったのだろう。
厄介者を押し付け、更にはその厄介者と娘の婚約を確約させた。
どうせ本気で婚姻を履行させる気はないのだ。父王は、私の子孫を望まない。
一度婚約をしたことで、傷物となった娘はどこへも嫁げない。
そんな娘に、胸を痛める男爵の姿を見たいだけなのだ。
それなのに男爵は、その娘は。どこまでも暖かく、優しく私に接してくれた。
『呪いの青薔薇』と呼ばれる私に、懸命に尽くしてくれた。
「アルフ様、アルフ様」
娘は歌うように、私に囁く。妹のように思っていた彼女は、
いつしか大輪の紅薔薇のような美貌を纏う女性になっていた。
黒薔薇の王が、手を伸ばすほどに。
~~~
「アルフ」
柵の向こうから、低い声が響く。
「……兄上」
視線を向ければ、漆黒の双眸がこちらを射る。
「明日、午前十時だ」
処刑の日時を告げて去る兄に、今更肉親の情を求めるつもりは無い。
「紅薔薇は染まりませんよ」
背中に呼びかけた声に、ピクリと反応して止まる兄の足。
「例え貴方がどんなに黒々と血塗られた手で触れようとも、
紅薔薇は染まりませぬ。それだけは、お忘れなきよう」
にこりと微笑んで見せれば、兄は憎々しげにこちらを睨んだ。
ああ、ようやく“私”を見てくれた――
明日死ぬというのに、恍惚としたこの喜びは何だろう?
ああ、ローズ、今ほど君を愛しいと感じたことはない。
私は死によって、愛する者を二人までも縛ることができるのだから。
気づいていますか、兄上? 黒薔薇と紅薔薇は、禁断の青薔薇の庭に咲く。
→後書き
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何色の薔薇が欲しい?
その紋章が発表された時、宮廷に激震が走った。そう、聞かされている。
生誕から七日後の祝いの席。
仕来たり通り、生まれた子と、その紋章が披露されるその日。
青い薔薇の紋章。かつてその紋章を冠した王族は一人もいない。
存在しない花を戴くなど、馬鹿げている。瞬間、貴族たちは理解した。
私が、存在を認められぬ王子だと。
『アルフさまーっ!』
蘇るのは、金の巻き毛を揺らし、こちらへ駆け寄る少女の笑い声。
凍りついた祝いの席で、その“在って亡き王子”の監視役を命じられた
哀れな下級貴族の一人娘。下級貴族でありながら、国王に対しても堂々と
己の主張を貫く男爵を、父王は兼ねてから気に入らなかったのだろう。
厄介者を押し付け、更にはその厄介者と娘の婚約を確約させた。
どうせ本気で婚姻を履行させる気はないのだ。父王は、私の子孫を望まない。
一度婚約をしたことで、傷物となった娘はどこへも嫁げない。
そんな娘に、胸を痛める男爵の姿を見たいだけなのだ。
それなのに男爵は、その娘は。どこまでも暖かく、優しく私に接してくれた。
『呪いの青薔薇』と呼ばれる私に、懸命に尽くしてくれた。
「アルフ様、アルフ様」
娘は歌うように、私に囁く。妹のように思っていた彼女は、
いつしか大輪の紅薔薇のような美貌を纏う女性になっていた。
黒薔薇の王が、手を伸ばすほどに。
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「アルフ」
柵の向こうから、低い声が響く。
「……兄上」
視線を向ければ、漆黒の双眸がこちらを射る。
「明日、午前十時だ」
処刑の日時を告げて去る兄に、今更肉親の情を求めるつもりは無い。
「紅薔薇は染まりませんよ」
背中に呼びかけた声に、ピクリと反応して止まる兄の足。
「例え貴方がどんなに黒々と血塗られた手で触れようとも、
紅薔薇は染まりませぬ。それだけは、お忘れなきよう」
にこりと微笑んで見せれば、兄は憎々しげにこちらを睨んだ。
ああ、ようやく“私”を見てくれた――
明日死ぬというのに、恍惚としたこの喜びは何だろう?
ああ、ローズ、今ほど君を愛しいと感じたことはない。
私は死によって、愛する者を二人までも縛ることができるのだから。
気づいていますか、兄上? 黒薔薇と紅薔薇は、禁断の青薔薇の庭に咲く。
→後書き