忍者ブログ
ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


The Castle Of Roses』番外編SSS。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



何色の薔薇が欲しい?


その紋章が発表された時、宮廷に激震が走った。そう、聞かされている。

生誕から七日後の祝いの席。
仕来たり通り、生まれた子と、その紋章が披露されるその日。

青い薔薇の紋章。かつてその紋章を冠した王族は一人もいない。
存在しない花を戴くなど、馬鹿げている。瞬間、貴族たちは理解した。
私が、存在を認められぬ王子だと。

『アルフさまーっ!』

蘇るのは、金の巻き毛を揺らし、こちらへ駆け寄る少女の笑い声。
凍りついた祝いの席で、その“在って亡き王子”の監視役を命じられた
哀れな下級貴族の一人娘。下級貴族でありながら、国王に対しても堂々と
己の主張を貫く男爵を、父王は兼ねてから気に入らなかったのだろう。
厄介者を押し付け、更にはその厄介者と娘の婚約を確約させた。
どうせ本気で婚姻を履行させる気はないのだ。父王は、私の子孫を望まない。
一度婚約をしたことで、傷物となった娘はどこへも嫁げない。
そんな娘に、胸を痛める男爵の姿を見たいだけなのだ。

それなのに男爵は、その娘は。どこまでも暖かく、優しく私に接してくれた。
『呪いの青薔薇』と呼ばれる私に、懸命に尽くしてくれた。

「アルフ様、アルフ様」

娘は歌うように、私に囁く。妹のように思っていた彼女は、
いつしか大輪の紅薔薇のような美貌を纏う女性になっていた。
黒薔薇の王が、手を伸ばすほどに。


~~~


「アルフ」

柵の向こうから、低い声が響く。

「……兄上」

視線を向ければ、漆黒の双眸がこちらを射る。

「明日、午前十時だ」

処刑の日時を告げて去る兄に、今更肉親の情を求めるつもりは無い。

「紅薔薇は染まりませんよ」

背中に呼びかけた声に、ピクリと反応して止まる兄の足。

「例え貴方がどんなに黒々と血塗られた手で触れようとも、
紅薔薇は染まりませぬ。それだけは、お忘れなきよう」

にこりと微笑んで見せれば、兄は憎々しげにこちらを睨んだ。

ああ、ようやく“私”を見てくれた――

明日死ぬというのに、恍惚としたこの喜びは何だろう?

ああ、ローズ、今ほど君を愛しいと感じたことはない。
私は死によって、愛する者を二人までも縛ることができるのだから。

気づいていますか、兄上? 黒薔薇と紅薔薇は、禁断の青薔薇の庭に咲く。





後書き
 

拍手[0回]

PR


追記を閉じる▲


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



何色の薔薇が欲しい?


その紋章が発表された時、宮廷に激震が走った。そう、聞かされている。

生誕から七日後の祝いの席。
仕来たり通り、生まれた子と、その紋章が披露されるその日。

青い薔薇の紋章。かつてその紋章を冠した王族は一人もいない。
存在しない花を戴くなど、馬鹿げている。瞬間、貴族たちは理解した。
私が、存在を認められぬ王子だと。

『アルフさまーっ!』

蘇るのは、金の巻き毛を揺らし、こちらへ駆け寄る少女の笑い声。
凍りついた祝いの席で、その“在って亡き王子”の監視役を命じられた
哀れな下級貴族の一人娘。下級貴族でありながら、国王に対しても堂々と
己の主張を貫く男爵を、父王は兼ねてから気に入らなかったのだろう。
厄介者を押し付け、更にはその厄介者と娘の婚約を確約させた。
どうせ本気で婚姻を履行させる気はないのだ。父王は、私の子孫を望まない。
一度婚約をしたことで、傷物となった娘はどこへも嫁げない。
そんな娘に、胸を痛める男爵の姿を見たいだけなのだ。

それなのに男爵は、その娘は。どこまでも暖かく、優しく私に接してくれた。
『呪いの青薔薇』と呼ばれる私に、懸命に尽くしてくれた。

「アルフ様、アルフ様」

娘は歌うように、私に囁く。妹のように思っていた彼女は、
いつしか大輪の紅薔薇のような美貌を纏う女性になっていた。
黒薔薇の王が、手を伸ばすほどに。


~~~


「アルフ」

柵の向こうから、低い声が響く。

「……兄上」

視線を向ければ、漆黒の双眸がこちらを射る。

「明日、午前十時だ」

処刑の日時を告げて去る兄に、今更肉親の情を求めるつもりは無い。

「紅薔薇は染まりませんよ」

背中に呼びかけた声に、ピクリと反応して止まる兄の足。

「例え貴方がどんなに黒々と血塗られた手で触れようとも、
紅薔薇は染まりませぬ。それだけは、お忘れなきよう」

にこりと微笑んで見せれば、兄は憎々しげにこちらを睨んだ。

ああ、ようやく“私”を見てくれた――

明日死ぬというのに、恍惚としたこの喜びは何だろう?

ああ、ローズ、今ほど君を愛しいと感じたことはない。
私は死によって、愛する者を二人までも縛ることができるのだから。

気づいていますか、兄上? 黒薔薇と紅薔薇は、禁断の青薔薇の庭に咲く。





後書き
 

拍手[0回]

PR

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:
   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック