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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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歴史・神話モチーフ。近親相姦・残酷描写がございますので苦手な方はご注意ください。

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松明が燃えている。ゆらゆらと揺れる炎の向こうで、うずくまる影が震えていた。か細い泣き声が部屋の隅に響く。影を抱き寄せるように、長い手がそっと伸ばされた。
 
「姉上、姉上泣かないで……我らはついにやりました。姉上は女王になった。これでもう二度と、離れ離れにならずに済む」
 
影はこの国――山泰国(やまたいこく)の主の地位に就いたばかりの年若い娘、名をヒミコ。そして彼女を抱きしめた腕の持ち主はサオ――ヒミコの実の弟に当たる少年だった。
 
「姉上はこれから、ずっとこの館でこの国の安寧を祈っていて下されば良い。醜いものを見ることも、悲しいことを聞く必要も無い。……外のことは私に任せて。姉上の心を煩わせることも、我らを引き裂こうとするものも、みんな、みんな、私が取り除いてさしあげます」
 
だから、誰にも会わないで――この狭い世界に、囚われたままでいて。
ヒミコの長い黒髪を、愛しげに撫でながら紡がれる言葉には狂気が混じっていた。けれど、幼い頃よりこの弟と社という特殊な囲いに生きる巫女たちしか知らぬ彼女はそれに気づかない。カタカタと震えながら、少年と青年の狭間をたゆたう弟の背中に腕を回して訴えた。
 
「サオ、私怖いの。みんなが私を崇めるし、私の力を恐れるわ。でも本当の私はただの娘。特別な力なんて何もない……誰の願いも、叶えてあげられない!」
 
サオの肩に顔を埋め、子どものようにヒミコは叫んだ。そんな姉の肩を掴み、サオは黒曜石の輝きを放つ瞳を真っ直ぐに射抜く。
 
「いいや、姉上、姉上は類稀なる力を持つ巫女でこの国の王です。少なくとも私の願いは……姉上、あなたが叶えてくれた」
 
「サオ……サオ!」
 
弟の口から洩れた言の葉の真意も問わず、ヒミコはその胸にすがりついた。その身体を再び強く抱きながら、サオは誰にも見せぬ歪んだ笑みを虚空に向けていた。手に入れた、実の姉を。縛り付けた、ヒミコを。閉じ込めた、誰よりも愛しい女を――
 
 
~~~
 
 
ヒミコとサオの姉弟は山泰国の小さな村に生まれた。隣国・九那国(くなこく)と境を接するその村は二人が生まれる以前から戦が絶えず、遂には戦火の中に燃え尽きてしまった。両親と故郷を失った幼い二人は方々をさすらい――やがて一人の巫女が姉・ヒミコを見染め弟子として引き取るまで、乞食のような暮らしを余儀なくされた。姉の背に負われて見た焼けゆく村、無残に切り落とされた父の首、手酷く凌辱された母の亡骸、翡翠の飾りをその耳ごと引きちぎられた祖母の死に様……それらが、サオの記憶に残る最後の家族の姿だった。
幼い弟を連れてヒミコは長い道のりを旅した。汚い格好(なり)をしたみなしごなどどこの村へ行っても白眼視され、時には犬をけしかけられて追い出されることもあった。それでも姉は気丈に弟の手を引き、山に分け入っては木の実を探し、冷たい川に身体を浸しながら魚を採り、必死でサオを守り続けた。サオにとって、黒い瞳に暖かな情愛を湛えて己を見つめてくれる唯一の存在であった姉が世界の全てと化してしまうのは、ごく自然の成り行きと言えただろう。彼の家族は、彼にとっての人間は、彼にとっての女はヒミコ一人であったのだから。
 
ヒミコが山泰国の中枢である中村(なかつむら)の巫女・ナミに見染められたのは彼女が十二の年を迎えるころのことであった。ようやく九つになったばかりの弟を案じ、初めはその申し出に躊躇していた彼女も、ナミの強い説得とサオを引き取るという大臣(おおおみ)・アシナの申し出により、正式に社に入り本格的に巫の修行を始めることとなった。社に入った者は例え肉親であっても一人前の巫女となるまで異性と顔を合わせることはできず、二人きりで寄り添い生きてきた姉弟にとってそれは今生の別れにも近しい別離の時であった。
 
「姉さん、姉さん、どうしてなの!? 僕がワガママだから……だから嫌になったの? だから僕を捨てるの!?」
 
アシナの養子となることに最後まで頷かず泣きすがる小さな弟に、少女は涙を堪えて語りかけた。
 
「……馬鹿ね、サオ。あなたが嫌になったなんて、そんなことあるわけないじゃない。……私にとってもおまえにとっても、これが一番良い道なのよ。大臣様の家では、お腹いっぱいご飯が食べられる。私も頑張って立派な巫女様になるわ。おまえの幸せを、いつだって祈ってる。サオ、サオ、どうか元気で……」
 
「僕いい子になるよ! もう二度と姉さんを困らせたりなんかしないから、だからお願い、行かないで姉さん……姉さん……っ!」
 
しずしずと社の扉の向こうへ姿を消すヒミコの背に手を伸ばしたサオの身体は背後から強い力で抑えつけられ、先に踏み出すことは叶わなかった。こうして睦まじい姉弟の絆は一度途絶えたかに見えた――それから五年後、再び運命は動き出す。
 
 
~~~
 
 
 
「義父上(ちちうえ)、九那国が年内にも再び攻勢をかけてくると言うのはまことのことにございましょうか?」
 
生木を裂くような別れの日から五年。姉の背に向かい泣き叫んだ少年は十四の年を迎え、背丈は伸び、顔立ちは精悍に整い、黒い瞳に秘めた野心を感じさせる青年へと成長を遂げつつあった。
 
「海から来る者も山から来る者も皆そう脅かすが……まず、間違いなかろう」
 
成長著しい養い子を頼もしく見やりながら、大臣アシナは重苦しい溜息を吐く。昔なじみの巫女・ナミからのたっての頼みで迎え入れた少年は初め薄汚れ、敵意に満ちた目で周囲を威嚇していたが、ある日急に悟りを得たかの如く大人びて従順になった。家の中のことを一通りこなせるようになると師をねだり、文字から弓に至るまで貪欲に学び、果ては政(まつりごと)の会合にまで積極的に参加したがるようになり――『大臣殿の元には優秀な後継ぎがいて羨ましい』と周囲の者に声をかけられるまでになった。元々彼には男子が無い。ゆくゆくは娘トツカの婿とし、大臣の位を継がせたいもの……老境にさしかかりつつあるアシナは、若干の打算を含んだ眼差しでこの雄々しさを身に付けつつある少年を眺めていた。
 
「……やはり。義父上、若輩者ではございますが、私に一つ戦について考えがございます」
 
「ほう……どのような策じゃ? 申してみよ」
 
少年の口から飛び出した思いも寄らぬ言葉に、大臣は少し目を見開きながら、からかい混じりに問うた。
 
「巫女を使うのです。そして我が国に勝利の神託を……彼の国には滅びの託宣を下す」
 
「そのようなこと、昔からやっていることだろう」
 
アシナが呆れたように告げると、サオはにやりと笑んで義父を見据えた。
 
「これまでの巫女が持たぬ未知の力――未来を読み、天を操り、地を癒す――そんな力を持った巫女の登場を華々しく披露すれば、敵は慌てるのではございませんか? 全てが真実(まこと)である必要はございません。ただ“演出”すれば良いのです」
 
「そなた、まさか」
 
うろたえるアシナに、サオは淡々と続けた。
 
「我が姉ヒミコが社へ入って五年……そろそろ巫女としての披露目の時が参りましょう。彼女ならば、きっと」
 
「民を謀り、実姉を利用し……“神威”を創り上げようと言うのだな」
 
「そう人聞きの悪い話ではございません。神とは元々利用されるべき“力”……私はそう考えておりますが」
 
言いきるサオに、アシナは大声で笑い出した。
 
「ハッハッハ、良かろう! 七日後、ヒミコの披露目式を執り行う。そこで盛大に神託と、ついでに雨乞いの舞でも派手に舞ってもらおうか? 今年は日照り続きだ……九那の奴らも、水欲しさに戦なんぞしかけてくるのだろうからな」
 
 
~~~
 
 
あの日から更に三年歳を重ねた。ヒミコは艶やかに舞い踊り、乾いた大地に恵みの雨をもたらし……そして、高らかに山泰国の勝利を宣言した。そしてその神託通り山泰国は九那国を打ち破り、ヒミコの力とサオの才は、民に広く認められるところとなった。サオはその後も同じ手を用いて近隣の国々を次々と攻略し、そうして遂に姉を女王の位に押し上げたのだ。ヒミコに会える唯一の要人となった彼に、逆らえる者は誰もいない。巫女の社への出入りは禁じられても、女王の館には入り浸れる。望みを叶えたサオの暗く激しい想いが、新たな欲望を燃え上がらせる。
 
「姉上……姉上、私はこの時を待っていました。目を閉じて……私の願いを聞いて下さいますか?」
 
優しく頬を辿る弟の指先にヒミコは窺うように顔を上げたが、すぐに彼の望みを受け入れて瞳を閉じた。
 
「なぁに? サオ……あなたには苦労も、寂しい思いも沢山させてしまった。私にできることなら何でも言ってちょうだい」
 
閉じられた瞼の先の長い睫毛をなぞりながら、サオは小さく息を吐き出して禁断の呪文を口にした。
 
「では、姉上……姉上を、私にください」
 
思わず震えたヒミコの瞼に、サオの熱い吐息がかかる。
 
「姉上、大丈夫です。我らは同じ父母より生まれし姉弟。これは姉上の“力”を高めるために必要なこと……全て私に、お任せ下さいますね?」
 
柔らかな唇の感触に、ヒミコは抗うこともできず頷いた。







 
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松明が燃えている。ゆらゆらと揺れる炎の向こうで、うずくまる影が震えていた。か細い泣き声が部屋の隅に響く。影を抱き寄せるように、長い手がそっと伸ばされた。
 
「姉上、姉上泣かないで……我らはついにやりました。姉上は女王になった。これでもう二度と、離れ離れにならずに済む」
 
影はこの国――山泰国(やまたいこく)の主の地位に就いたばかりの年若い娘、名をヒミコ。そして彼女を抱きしめた腕の持ち主はサオ――ヒミコの実の弟に当たる少年だった。
 
「姉上はこれから、ずっとこの館でこの国の安寧を祈っていて下されば良い。醜いものを見ることも、悲しいことを聞く必要も無い。……外のことは私に任せて。姉上の心を煩わせることも、我らを引き裂こうとするものも、みんな、みんな、私が取り除いてさしあげます」
 
だから、誰にも会わないで――この狭い世界に、囚われたままでいて。
ヒミコの長い黒髪を、愛しげに撫でながら紡がれる言葉には狂気が混じっていた。けれど、幼い頃よりこの弟と社という特殊な囲いに生きる巫女たちしか知らぬ彼女はそれに気づかない。カタカタと震えながら、少年と青年の狭間をたゆたう弟の背中に腕を回して訴えた。
 
「サオ、私怖いの。みんなが私を崇めるし、私の力を恐れるわ。でも本当の私はただの娘。特別な力なんて何もない……誰の願いも、叶えてあげられない!」
 
サオの肩に顔を埋め、子どものようにヒミコは叫んだ。そんな姉の肩を掴み、サオは黒曜石の輝きを放つ瞳を真っ直ぐに射抜く。
 
「いいや、姉上、姉上は類稀なる力を持つ巫女でこの国の王です。少なくとも私の願いは……姉上、あなたが叶えてくれた」
 
「サオ……サオ!」
 
弟の口から洩れた言の葉の真意も問わず、ヒミコはその胸にすがりついた。その身体を再び強く抱きながら、サオは誰にも見せぬ歪んだ笑みを虚空に向けていた。手に入れた、実の姉を。縛り付けた、ヒミコを。閉じ込めた、誰よりも愛しい女を――
 
 
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ヒミコとサオの姉弟は山泰国の小さな村に生まれた。隣国・九那国(くなこく)と境を接するその村は二人が生まれる以前から戦が絶えず、遂には戦火の中に燃え尽きてしまった。両親と故郷を失った幼い二人は方々をさすらい――やがて一人の巫女が姉・ヒミコを見染め弟子として引き取るまで、乞食のような暮らしを余儀なくされた。姉の背に負われて見た焼けゆく村、無残に切り落とされた父の首、手酷く凌辱された母の亡骸、翡翠の飾りをその耳ごと引きちぎられた祖母の死に様……それらが、サオの記憶に残る最後の家族の姿だった。
幼い弟を連れてヒミコは長い道のりを旅した。汚い格好(なり)をしたみなしごなどどこの村へ行っても白眼視され、時には犬をけしかけられて追い出されることもあった。それでも姉は気丈に弟の手を引き、山に分け入っては木の実を探し、冷たい川に身体を浸しながら魚を採り、必死でサオを守り続けた。サオにとって、黒い瞳に暖かな情愛を湛えて己を見つめてくれる唯一の存在であった姉が世界の全てと化してしまうのは、ごく自然の成り行きと言えただろう。彼の家族は、彼にとっての人間は、彼にとっての女はヒミコ一人であったのだから。
 
ヒミコが山泰国の中枢である中村(なかつむら)の巫女・ナミに見染められたのは彼女が十二の年を迎えるころのことであった。ようやく九つになったばかりの弟を案じ、初めはその申し出に躊躇していた彼女も、ナミの強い説得とサオを引き取るという大臣(おおおみ)・アシナの申し出により、正式に社に入り本格的に巫の修行を始めることとなった。社に入った者は例え肉親であっても一人前の巫女となるまで異性と顔を合わせることはできず、二人きりで寄り添い生きてきた姉弟にとってそれは今生の別れにも近しい別離の時であった。
 
「姉さん、姉さん、どうしてなの!? 僕がワガママだから……だから嫌になったの? だから僕を捨てるの!?」
 
アシナの養子となることに最後まで頷かず泣きすがる小さな弟に、少女は涙を堪えて語りかけた。
 
「……馬鹿ね、サオ。あなたが嫌になったなんて、そんなことあるわけないじゃない。……私にとってもおまえにとっても、これが一番良い道なのよ。大臣様の家では、お腹いっぱいご飯が食べられる。私も頑張って立派な巫女様になるわ。おまえの幸せを、いつだって祈ってる。サオ、サオ、どうか元気で……」
 
「僕いい子になるよ! もう二度と姉さんを困らせたりなんかしないから、だからお願い、行かないで姉さん……姉さん……っ!」
 
しずしずと社の扉の向こうへ姿を消すヒミコの背に手を伸ばしたサオの身体は背後から強い力で抑えつけられ、先に踏み出すことは叶わなかった。こうして睦まじい姉弟の絆は一度途絶えたかに見えた――それから五年後、再び運命は動き出す。
 
 
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「義父上(ちちうえ)、九那国が年内にも再び攻勢をかけてくると言うのはまことのことにございましょうか?」
 
生木を裂くような別れの日から五年。姉の背に向かい泣き叫んだ少年は十四の年を迎え、背丈は伸び、顔立ちは精悍に整い、黒い瞳に秘めた野心を感じさせる青年へと成長を遂げつつあった。
 
「海から来る者も山から来る者も皆そう脅かすが……まず、間違いなかろう」
 
成長著しい養い子を頼もしく見やりながら、大臣アシナは重苦しい溜息を吐く。昔なじみの巫女・ナミからのたっての頼みで迎え入れた少年は初め薄汚れ、敵意に満ちた目で周囲を威嚇していたが、ある日急に悟りを得たかの如く大人びて従順になった。家の中のことを一通りこなせるようになると師をねだり、文字から弓に至るまで貪欲に学び、果ては政(まつりごと)の会合にまで積極的に参加したがるようになり――『大臣殿の元には優秀な後継ぎがいて羨ましい』と周囲の者に声をかけられるまでになった。元々彼には男子が無い。ゆくゆくは娘トツカの婿とし、大臣の位を継がせたいもの……老境にさしかかりつつあるアシナは、若干の打算を含んだ眼差しでこの雄々しさを身に付けつつある少年を眺めていた。
 
「……やはり。義父上、若輩者ではございますが、私に一つ戦について考えがございます」
 
「ほう……どのような策じゃ? 申してみよ」
 
少年の口から飛び出した思いも寄らぬ言葉に、大臣は少し目を見開きながら、からかい混じりに問うた。
 
「巫女を使うのです。そして我が国に勝利の神託を……彼の国には滅びの託宣を下す」
 
「そのようなこと、昔からやっていることだろう」
 
アシナが呆れたように告げると、サオはにやりと笑んで義父を見据えた。
 
「これまでの巫女が持たぬ未知の力――未来を読み、天を操り、地を癒す――そんな力を持った巫女の登場を華々しく披露すれば、敵は慌てるのではございませんか? 全てが真実(まこと)である必要はございません。ただ“演出”すれば良いのです」
 
「そなた、まさか」
 
うろたえるアシナに、サオは淡々と続けた。
 
「我が姉ヒミコが社へ入って五年……そろそろ巫女としての披露目の時が参りましょう。彼女ならば、きっと」
 
「民を謀り、実姉を利用し……“神威”を創り上げようと言うのだな」
 
「そう人聞きの悪い話ではございません。神とは元々利用されるべき“力”……私はそう考えておりますが」
 
言いきるサオに、アシナは大声で笑い出した。
 
「ハッハッハ、良かろう! 七日後、ヒミコの披露目式を執り行う。そこで盛大に神託と、ついでに雨乞いの舞でも派手に舞ってもらおうか? 今年は日照り続きだ……九那の奴らも、水欲しさに戦なんぞしかけてくるのだろうからな」
 
 
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あの日から更に三年歳を重ねた。ヒミコは艶やかに舞い踊り、乾いた大地に恵みの雨をもたらし……そして、高らかに山泰国の勝利を宣言した。そしてその神託通り山泰国は九那国を打ち破り、ヒミコの力とサオの才は、民に広く認められるところとなった。サオはその後も同じ手を用いて近隣の国々を次々と攻略し、そうして遂に姉を女王の位に押し上げたのだ。ヒミコに会える唯一の要人となった彼に、逆らえる者は誰もいない。巫女の社への出入りは禁じられても、女王の館には入り浸れる。望みを叶えたサオの暗く激しい想いが、新たな欲望を燃え上がらせる。
 
「姉上……姉上、私はこの時を待っていました。目を閉じて……私の願いを聞いて下さいますか?」
 
優しく頬を辿る弟の指先にヒミコは窺うように顔を上げたが、すぐに彼の望みを受け入れて瞳を閉じた。
 
「なぁに? サオ……あなたには苦労も、寂しい思いも沢山させてしまった。私にできることなら何でも言ってちょうだい」
 
閉じられた瞼の先の長い睫毛をなぞりながら、サオは小さく息を吐き出して禁断の呪文を口にした。
 
「では、姉上……姉上を、私にください」
 
思わず震えたヒミコの瞼に、サオの熱い吐息がかかる。
 
「姉上、大丈夫です。我らは同じ父母より生まれし姉弟。これは姉上の“力”を高めるために必要なこと……全て私に、お任せ下さいますね?」
 
柔らかな唇の感触に、ヒミコは抗うこともできず頷いた。







 
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