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お客さまの帰還と新しい儀式。
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開いた扉から、相変わらずムッツリした顔のオレサマ男(オトちゃんのダンナだから
ちょっと格上げ)と、にこにこ笑うアーノルドが入ってきた。
ちょっと格上げ)と、にこにこ笑うアーノルドが入ってきた。
「シャープさん!」
「アーノルド……会議はもう終わったの?」
私の問いに、彼は笑顔のまま
「ああ……いつも以上に楽しい会談だったよ」
と答える。その視線の先には機嫌の悪そうなヤツの姿。
「シャープさん、何かあったんですか?」
心配そうに覗き込むオトちゃんに、
「……何でもない!」
と怒鳴るオレサマ男。
「……何があったの?」
こっそりアーノルドに問いかけると、
「実は父上や重臣たちにオトさんのことで散々からかわれてね……。
真っ赤になるシャープ兄さんは見ものだったよ」
と耳打ちしてくる。
「あ~、それで。私も見たかったな~」
ヒソヒソ話す私たちに、ヤツの殺気めいた眼差しが注がれる。
「オイ、そこのボケ夫婦! 全部聞こえてんだよ!」
……わぁ、地獄耳。なんて言葉は、口に出しませんでしたけどね。
そんなこんなで初めて迎えた他国の国王夫妻がお帰りになられたのは、次の日の朝。
「またいつでも遊びに来てね。何でしたらお一人でも」
にっこり微笑んでオトちゃんの手を取ると、彼女は大きい目をウルウルさせながら
「はい、ありがとうございます、ミチルさん……。
私、ミチルさんにお会いできて、ほんとに良かったです……」
と涙声で答えた。
「オトちゃん……!」
思わずひしっ、と抱き合うと、傍らで冷めた目で見ていたオレサマ男が
我慢できない、と言うように
我慢できない、と言うように
「おい! オマエ『なんならお一人でも』って、むしろ俺は来んな、ってことだろ!
オトに変なこと言うんじゃねぇ! っていうか、離れろ!」
と怒鳴ってきた。渋々彼女から離れた私を、アーノルドが苦笑しながら見つめる。
「……じゃあシャープ兄さん、お元気で」
「ああ。お前も、頑張れよ……色々」
チラッとこちらに向けられる視線に、何よそれ! と負けじと睨み返す。
「……オトちゃんを余計なことに巻き込まないように、気をつけてくださいね!」
フンッ、とそっぽを向きながら吐いた言葉に、ヤツは驚いたようにこちらを見た。
「……ああ、わかってる」
ぶっきらぼうに呟かれた言葉。オトちゃんはそんな男に、優しく微笑む。
「アーノルドさん、本当に、お世話になりました。色々と、ありがとうございました」
私たちにペコリと頭を下げた彼女は、その夫と手を取り合って、部屋を後にした。
しっかり斜め45°のお辞儀。……ちゃんと“王妃さま”してるんだなー。
ボンヤリとバルコニーから二人の馬車を見送る私の背中に、降ってきたのはアーノルドの声。
「シャープ兄さん、再婚なんだよ」
「ええぇ!?」
驚いて声を上げ、アーノルドを見返すと、彼は少し複雑な表情を浮かべて
「オトさんがこちらにやって来た時は……シャープ兄さんは、前の奥方と婚姻中だった」
と言った。
「え……ってことは」
戸惑う私に、アーノルドはこう続けた。
「それには色んな事情があって……誰が悪いわけでもない。
今は、前の奥方も再婚して幸せに暮らしてるそうだし。
でもやっぱり、オトさんとの結婚には……沢山、問題も起こって……だから」
「でも……とっても、幸せそうに見えたわ」
思わず呟いた私の言葉に、アーノルドは微笑んで
「ああ、だから僕も安心した」
と告げた。
あんなに幸せそうで、私にないもの全てを持っていて、羨ましい――
そう思っていた彼女が、何を抱えていたのか。どれだけのものを、乗り越えてきたのか。
私、そんなのちっとも分かってなかった……ごめんね、オトちゃん。
私、そんなのちっとも分かってなかった……ごめんね、オトちゃん。
私なら、乗り越えられただろうか。傍らにいるこのひとのために――
こちらを優しく見つめる蒼い眼差しを感じながら、私は己の心に
ずっと引っかかっている疑問を、再び思い返していた。
~~~
「心納めの儀?」
怪訝な表情で問い返した私に、アーノルドはにこにこしながらコクン、と頷いた。
結婚式から一ヶ月後に行われる、婚姻の儀式のオオトリ。
まだそんなものが残っていたのか……
と一ヶ月前のハードな日々を思い出し、少しゲンナリとした気分になる。
そんな私の表情に気づいたのか、アーノルドは慌てて
「ああ、そんな面倒な儀式じゃないから安心して! 魔法使うのもちょっとだけだし!」
と付け加える。ちょっとって……やっぱり使うんじゃない。
「それで? 何する儀式なの、ソレ」
ため息混じりに聞いてみると、彼はちょっと言いづらそうにモゴモゴと口ごもりながら
「あのね……花嫁が、実家から持ってきた宝物を心納めの箱に納めるんだ。
まあ箱にはちょっとだけ魔法がかかっていて……花嫁が、ホームシックにかかったり
しないように、その、実家での一番楽しかった思い出を閉じ込めるっていうか……」
と言った。
「ハァ!? 何よそれ!私に地球の思い出を捨てろって言うの!?」
思わずアルに詰め寄った私に、アーノルドはオドオドと怯えた表情のままこう続けた。
「魔法は極々弱い気休めみたいなもんだし、今までお妃で実際に思い出を忘れられた方は
いないよ。少なくともアナースの人間なら、二割もかからないくらいの魔法だ」
「でも……私は魔力の無い地球人よ。それに……地球のものなんて、今は一つも持ってないわ」
カバンも持たずに転がり落ちたんだもの。着ていた服はおばあさんが雑巾として
活用した後処分してしまったらしいし、他に身に着けていたものといったら……
活用した後処分してしまったらしいし、他に身に着けていたものといったら……
「あるじゃないか、君の耳に。その赤い石のピアス、チキュウから付けてきたんだろう?」
「えっ……」
アーノルドの言葉に、私はハッとして自分の右耳を触る。そこには確かに、
片時も肌身離さず身に付けていたガーネットのピアスが、赤い輝きを放っている。
片時も肌身離さず身に付けていたガーネットのピアスが、赤い輝きを放っている。
「でも……これは……っ」
戸惑う私に、アルは優しく微笑う。私の顔を火照らせる、あの甘くとろけそうな微笑。
「ミチルが好きに決めればいいよ、儀式を行うのか、やめるのか。
でも……もし心納めの儀を受けてくれるなら……」
真っ直ぐにこちらを見つめるサファイアのように青く光る瞳。アーノルドの顔から、微笑が消える。
「僕のことも、<本当に>受け入れて欲しい」
きっぱりと告げられた言葉、逸らせない瞳。
あのひとからもらった両耳の宝石が、ひどく熱を持っているように感じた。
あのひとからもらった両耳の宝石が、ひどく熱を持っているように感じた。
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開いた扉から、相変わらずムッツリした顔のオレサマ男(オトちゃんのダンナだから
ちょっと格上げ)と、にこにこ笑うアーノルドが入ってきた。
ちょっと格上げ)と、にこにこ笑うアーノルドが入ってきた。
「シャープさん!」
「アーノルド……会議はもう終わったの?」
私の問いに、彼は笑顔のまま
「ああ……いつも以上に楽しい会談だったよ」
と答える。その視線の先には機嫌の悪そうなヤツの姿。
「シャープさん、何かあったんですか?」
心配そうに覗き込むオトちゃんに、
「……何でもない!」
と怒鳴るオレサマ男。
「……何があったの?」
こっそりアーノルドに問いかけると、
「実は父上や重臣たちにオトさんのことで散々からかわれてね……。
真っ赤になるシャープ兄さんは見ものだったよ」
と耳打ちしてくる。
「あ~、それで。私も見たかったな~」
ヒソヒソ話す私たちに、ヤツの殺気めいた眼差しが注がれる。
「オイ、そこのボケ夫婦! 全部聞こえてんだよ!」
……わぁ、地獄耳。なんて言葉は、口に出しませんでしたけどね。
そんなこんなで初めて迎えた他国の国王夫妻がお帰りになられたのは、次の日の朝。
「またいつでも遊びに来てね。何でしたらお一人でも」
にっこり微笑んでオトちゃんの手を取ると、彼女は大きい目をウルウルさせながら
「はい、ありがとうございます、ミチルさん……。
私、ミチルさんにお会いできて、ほんとに良かったです……」
と涙声で答えた。
「オトちゃん……!」
思わずひしっ、と抱き合うと、傍らで冷めた目で見ていたオレサマ男が
我慢できない、と言うように
我慢できない、と言うように
「おい! オマエ『なんならお一人でも』って、むしろ俺は来んな、ってことだろ!
オトに変なこと言うんじゃねぇ! っていうか、離れろ!」
と怒鳴ってきた。渋々彼女から離れた私を、アーノルドが苦笑しながら見つめる。
「……じゃあシャープ兄さん、お元気で」
「ああ。お前も、頑張れよ……色々」
チラッとこちらに向けられる視線に、何よそれ! と負けじと睨み返す。
「……オトちゃんを余計なことに巻き込まないように、気をつけてくださいね!」
フンッ、とそっぽを向きながら吐いた言葉に、ヤツは驚いたようにこちらを見た。
「……ああ、わかってる」
ぶっきらぼうに呟かれた言葉。オトちゃんはそんな男に、優しく微笑む。
「アーノルドさん、本当に、お世話になりました。色々と、ありがとうございました」
私たちにペコリと頭を下げた彼女は、その夫と手を取り合って、部屋を後にした。
しっかり斜め45°のお辞儀。……ちゃんと“王妃さま”してるんだなー。
ボンヤリとバルコニーから二人の馬車を見送る私の背中に、降ってきたのはアーノルドの声。
「シャープ兄さん、再婚なんだよ」
「ええぇ!?」
驚いて声を上げ、アーノルドを見返すと、彼は少し複雑な表情を浮かべて
「オトさんがこちらにやって来た時は……シャープ兄さんは、前の奥方と婚姻中だった」
と言った。
「え……ってことは」
戸惑う私に、アーノルドはこう続けた。
「それには色んな事情があって……誰が悪いわけでもない。
今は、前の奥方も再婚して幸せに暮らしてるそうだし。
でもやっぱり、オトさんとの結婚には……沢山、問題も起こって……だから」
「でも……とっても、幸せそうに見えたわ」
思わず呟いた私の言葉に、アーノルドは微笑んで
「ああ、だから僕も安心した」
と告げた。
あんなに幸せそうで、私にないもの全てを持っていて、羨ましい――
そう思っていた彼女が、何を抱えていたのか。どれだけのものを、乗り越えてきたのか。
私、そんなのちっとも分かってなかった……ごめんね、オトちゃん。
私、そんなのちっとも分かってなかった……ごめんね、オトちゃん。
私なら、乗り越えられただろうか。傍らにいるこのひとのために――
こちらを優しく見つめる蒼い眼差しを感じながら、私は己の心に
ずっと引っかかっている疑問を、再び思い返していた。
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「心納めの儀?」
怪訝な表情で問い返した私に、アーノルドはにこにこしながらコクン、と頷いた。
結婚式から一ヶ月後に行われる、婚姻の儀式のオオトリ。
まだそんなものが残っていたのか……
と一ヶ月前のハードな日々を思い出し、少しゲンナリとした気分になる。
そんな私の表情に気づいたのか、アーノルドは慌てて
「ああ、そんな面倒な儀式じゃないから安心して! 魔法使うのもちょっとだけだし!」
と付け加える。ちょっとって……やっぱり使うんじゃない。
「それで? 何する儀式なの、ソレ」
ため息混じりに聞いてみると、彼はちょっと言いづらそうにモゴモゴと口ごもりながら
「あのね……花嫁が、実家から持ってきた宝物を心納めの箱に納めるんだ。
まあ箱にはちょっとだけ魔法がかかっていて……花嫁が、ホームシックにかかったり
しないように、その、実家での一番楽しかった思い出を閉じ込めるっていうか……」
と言った。
「ハァ!? 何よそれ!私に地球の思い出を捨てろって言うの!?」
思わずアルに詰め寄った私に、アーノルドはオドオドと怯えた表情のままこう続けた。
「魔法は極々弱い気休めみたいなもんだし、今までお妃で実際に思い出を忘れられた方は
いないよ。少なくともアナースの人間なら、二割もかからないくらいの魔法だ」
「でも……私は魔力の無い地球人よ。それに……地球のものなんて、今は一つも持ってないわ」
カバンも持たずに転がり落ちたんだもの。着ていた服はおばあさんが雑巾として
活用した後処分してしまったらしいし、他に身に着けていたものといったら……
活用した後処分してしまったらしいし、他に身に着けていたものといったら……
「あるじゃないか、君の耳に。その赤い石のピアス、チキュウから付けてきたんだろう?」
「えっ……」
アーノルドの言葉に、私はハッとして自分の右耳を触る。そこには確かに、
片時も肌身離さず身に付けていたガーネットのピアスが、赤い輝きを放っている。
片時も肌身離さず身に付けていたガーネットのピアスが、赤い輝きを放っている。
「でも……これは……っ」
戸惑う私に、アルは優しく微笑う。私の顔を火照らせる、あの甘くとろけそうな微笑。
「ミチルが好きに決めればいいよ、儀式を行うのか、やめるのか。
でも……もし心納めの儀を受けてくれるなら……」
真っ直ぐにこちらを見つめるサファイアのように青く光る瞳。アーノルドの顔から、微笑が消える。
「僕のことも、<本当に>受け入れて欲しい」
きっぱりと告げられた言葉、逸らせない瞳。
あのひとからもらった両耳の宝石が、ひどく熱を持っているように感じた。
あのひとからもらった両耳の宝石が、ひどく熱を持っているように感じた。
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