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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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過去。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 

「もうっ! 信じらんないあのオトコ!私が目の前にいるってゆーのに、
お得意様がいたから、とか言って私を一人で帰したんですよ!?
サイテーだと思いません!?」
 
会社の飲み会の席で、既婚の先輩OLに前日のデートへの不満をぶちまけていた私に、
からかい混じりの声をかけてきたのは彼だった。

「なんだ葉谷、お前また振られたのか?」
 
「……森条主任! 違います、私は振られたことなんかありません~!
昨日の彼だって、こっちから終わりにしてやったんですよ!」
 
カッとなって怒鳴り返す私に、彼はますますおかしそうに声を上げて笑う。
いつも、こうなのだ。彼はいつも私をからかう。私は怒る。だからいつも、喧嘩する。
 
「あ~、みちるちゃんダメだわ。完全に出来上がっちゃってるわね……」
 
先輩が呆れたように呟くと、彼が苦笑しながら頷いた。
 
「そんなことないですよぉ? 私は全然フツーですぅ」
 
ムキになって言い返すと、いつの間にか後ろから腕を掴まれていて。
 
「野上さん、俺コイツ送ってきますから」
 
振り返ると、彼の顔があった。
 
「え!? なんで、私まだ平気ですって! もう少しここに……」
 
「アホか、そんな真っ赤な顔して」
 
「そうよ、みちるちゃん。今日はもう帰んなさい」
 
先輩が怖い顔をしてそう言うので、渋々彼の後について行かざるを得なかった。
 
「しっかし、お前も毎回毎回バカだよなぁ」
 
先輩の姿が遠ざかった途端、暁は案の定呆れたように私を眺めて溜め息を吐いた。
 
「何ですかそれ!? 大体私、一人でもちゃんと帰れます!」
 
ふらつく足取りで踵を返そうとすると、強い力で腕を引き寄せられる。
 
「そんなフラフラしててちゃんと帰れるわけないだろが。
ほら、こっち来い。タクシー捕まえるから」
 
時計を見れば、終電にはまだギリギリ間に合う時間。
あの時、いつものように意地を張って駅へ駆け込んでいたら、
こんな想いを知ることも無かったのだろうか。
 
「……何で主任も一緒に乗り込むんですか」
 
タクシーの車中、膨れっ面で隣に座る彼を睨みつければ、彼は
 
「ついでだ、ついで。大体そんな千鳥足で、無事に玄関まで辿り着けるかすら心配だ」
 
と再び溜め息を吐いて私を見た。その表情が余りにも優しげだったから……
それまで何度も座っていたはずの主任の隣という位置に、妙に胸が騒いだ。
 
「主任の家、逆方向じゃないですか。遠回りになりますよ」
 
流れる空気に居た堪れなくなって、ふいっと目をそらして憎まれ口を叩いた私に、
彼はチッと舌打ちをして面倒くさそうに呟いた。
 
「おま、ホント可愛くないな……! 人の好意は素直に受け取れって言われなかったか?」
 
「あら、私大抵の方のご好意は有り難く頂戴してますよ?
ただ、受け取りたくないものは無理に受け取らないようにしてるだけで」
 
「ほ~う、お前は優しくて男前な上司からの好意は受け取りたくないと?」
 
目が笑っていない暁の笑顔は、普通の人間なら逃げ出したくなるほど怖い。
 
「優しくて男前の上司とはどこのどなたのことでしょうか?
課長ですか? それとも部長でしょうか?
どちらも確かに素敵ですし、喜んでご好意を受け取らせていただいてますけど」
 
負けじと言い返してにっこり笑ってみせる頃には、酔っぱらっていた脳がすっかり
覚醒して、同時に失恋に落ち込んでいた気分も、何だか不思議なほどスッキリしていた。
 
「葉谷お前、覚えとけよ……!」
 
彼がそう吐き捨てて黙りこんだ頃、ようやくタクシーが私のアパートの前に止まった。
 
「今日はホントにどうも、ありがとうございました」
 
棒読みでそう告げてタクシーを降りようとすると、ギュッと手を掴まれた。
 
「お前、金曜の夜って空いてるか?」
 
「そりゃ別に……空いてますけど」
 
オトコと別れたばかりの女にそんな質問、しないでほしい
という抗議の意を込めて彼を睨めば、驚くほど真剣な眼差しとかち合う。
 
「絶対空けとけ。いいな!」
 
それだけ告げられバタンと閉められた扉。
遠ざかるエンジン音に、少しだけ熱を持った大きな手の平の感触。
初めて、「喧嘩相手の主任」を一人の男性として意識した瞬間だった。
 
 
~~~
 
 
それから、約束の金曜日までの数日を私は落ち着かない気分で過ごしていた。
彼はあれから別段変わった素振りを見せることもなく、相変わらず私には
“デキる上司だけど時々ムカつく憎まれ口を叩く嫌なヤツ”という態で接していた。

あの時、彼の表情(かお)に『男』を意識してしまったのは気のせいで、
単なる仕事の相談とか、なのかしら?
でも、あんな意味深な言い方されたら気になるじゃない!

喧嘩相手をそんな風に意識してしまう自分に戸惑い、金曜の具体的な連絡が無いことに
焦り、苛々した気分で迎えた木曜の夜、ようやく彼から一通のメールが届いた。

『明日午後7:00にPartenzaで。』

一度は入ってみたいと思っていた会社近くのイタリアンレストランの名に、
不思議と胸が踊る自分を認めないわけにはいかなかった。
大体、断ったら逆に意識してます、って打ち明けるみたいで気まずいわよね……。
仕事の話かもしれないし、食事するだけよ、食事だけ!
頭の中で必死に自分に言い聞かせながら、返信を打つ。

『分かりました。楽しみにしています。』

ディスプレイに“送信完了”の文字が浮かび上がってから、思わず漏れた独り言。

“楽しみにしています。”って何よ。まるで期待してるみたいじゃない」

ぶんぶんと頭を振りながら携帯をテーブルに置いた瞬間、
メールの着信を告げるメロディが鳴った。

『俺も、楽しみにしてる。』

高鳴る鼓動に携帯を握り締めたのは、何年ぶりのことだろう。
翌日の夜七時までの時間を、私はそれまでとは異なる種類の騒めきに包まれて過ごした。

ところがその日、余りにフラフラと過ごしていたせいか、
私は仕事で思わぬミスをやらかし、退社時間が遅れてしまった。
時計を見ると既に午後八時近く。慌ててエレベーターにから降りた私の目に、
飛び込んできたのは見慣れた長身のシルエットだった。

「葉谷、お疲れ。ホラ、行くぞ」

苦笑して私を見る瞳は、いつもより何だか少し優しい。

「しゅ、主任……? 何で、まだここにいらっしゃるんですか? 予約の時間は……?」

「オイ、おまえ俺を誰だと思ってるんだよ?
今日のお前のポカとそれに伴う+αくらいちゃんと把握してるっての」

キョトンとして問いかけた私の頭をコツンと叩いて、彼は溜め息を吐いた。

「予約の時間は変更してもらったから、今から行けばちょうどいい。
ボケッとしてないで行くぞ。バカ葉谷」

スタスタと歩き出した背中を、慌てて追いかける。

「ちょ、ご迷惑をおかけしたのは申し訳ないと思ってますけど、
バカとは何ですかバカとは!」

「本当のことだろうが。あっちフラフラこっちフラフラのろバカ葉谷~♪」

「もう、主任!」

変に緊張していた心が、彼の軽口でほぐれていく。
レストランに到着して、落ち着いた雰囲気のある椅子に着席した時、私の脳裏からは
地味に引きずっていた元彼のことも、主任に対する複雑な戸惑いも消え失せていた。
美味しい食事とワインに、普段は喧嘩相手のはずの彼との会話は楽しかった。
仕事の話、趣味の話、元彼の愚痴……酔っていたせいもあるのだろう、思わず漏れた弱音。

「時々、思うんです……私って、世間全体から見たらちっぽけで、
ちっとも誰からも必要とされてない存在だよなぁ、って。
だから、そこそこ世の中から必要とされてる人の一番になれたら、
少しでも私の存在意義みたいなのを見出せるんじゃないかなぁ、って。
でも、中々うまくいかなくて……って、当然ですよね、
誰かとお付き合いするのにこんな考え方じゃ」

暗い照明ごしに、彼はじっと私を見つめていた。
その真っ直ぐな瞳が、今の私の発言を軽蔑しているようで、
私はそっと視線を逸らし俯いた。

「葉谷」

低く響くテノールの声が、耳を打つ。
気まずいながらも顔を上げると、瞳がかち合う。

「俺じゃ、ダメなのか?」

「え……?」

「お前のこと一番にするの、俺じゃダメなのか?」

熱を帯びた眼差しが、嘘をついているとは到底思えなかった。
そのことに気づいた途端、まるで火が付いたように頬が、全身が火照り出す。

“暁”という名が私の中で特別なものになるのは、それから間もなくのことだった。






 

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「もうっ! 信じらんないあのオトコ!私が目の前にいるってゆーのに、
お得意様がいたから、とか言って私を一人で帰したんですよ!?
サイテーだと思いません!?」
 
会社の飲み会の席で、既婚の先輩OLに前日のデートへの不満をぶちまけていた私に、
からかい混じりの声をかけてきたのは彼だった。

「なんだ葉谷、お前また振られたのか?」
 
「……森条主任! 違います、私は振られたことなんかありません~!
昨日の彼だって、こっちから終わりにしてやったんですよ!」
 
カッとなって怒鳴り返す私に、彼はますますおかしそうに声を上げて笑う。
いつも、こうなのだ。彼はいつも私をからかう。私は怒る。だからいつも、喧嘩する。
 
「あ~、みちるちゃんダメだわ。完全に出来上がっちゃってるわね……」
 
先輩が呆れたように呟くと、彼が苦笑しながら頷いた。
 
「そんなことないですよぉ? 私は全然フツーですぅ」
 
ムキになって言い返すと、いつの間にか後ろから腕を掴まれていて。
 
「野上さん、俺コイツ送ってきますから」
 
振り返ると、彼の顔があった。
 
「え!? なんで、私まだ平気ですって! もう少しここに……」
 
「アホか、そんな真っ赤な顔して」
 
「そうよ、みちるちゃん。今日はもう帰んなさい」
 
先輩が怖い顔をしてそう言うので、渋々彼の後について行かざるを得なかった。
 
「しっかし、お前も毎回毎回バカだよなぁ」
 
先輩の姿が遠ざかった途端、暁は案の定呆れたように私を眺めて溜め息を吐いた。
 
「何ですかそれ!? 大体私、一人でもちゃんと帰れます!」
 
ふらつく足取りで踵を返そうとすると、強い力で腕を引き寄せられる。
 
「そんなフラフラしててちゃんと帰れるわけないだろが。
ほら、こっち来い。タクシー捕まえるから」
 
時計を見れば、終電にはまだギリギリ間に合う時間。
あの時、いつものように意地を張って駅へ駆け込んでいたら、
こんな想いを知ることも無かったのだろうか。
 
「……何で主任も一緒に乗り込むんですか」
 
タクシーの車中、膨れっ面で隣に座る彼を睨みつければ、彼は
 
「ついでだ、ついで。大体そんな千鳥足で、無事に玄関まで辿り着けるかすら心配だ」
 
と再び溜め息を吐いて私を見た。その表情が余りにも優しげだったから……
それまで何度も座っていたはずの主任の隣という位置に、妙に胸が騒いだ。
 
「主任の家、逆方向じゃないですか。遠回りになりますよ」
 
流れる空気に居た堪れなくなって、ふいっと目をそらして憎まれ口を叩いた私に、
彼はチッと舌打ちをして面倒くさそうに呟いた。
 
「おま、ホント可愛くないな……! 人の好意は素直に受け取れって言われなかったか?」
 
「あら、私大抵の方のご好意は有り難く頂戴してますよ?
ただ、受け取りたくないものは無理に受け取らないようにしてるだけで」
 
「ほ~う、お前は優しくて男前な上司からの好意は受け取りたくないと?」
 
目が笑っていない暁の笑顔は、普通の人間なら逃げ出したくなるほど怖い。
 
「優しくて男前の上司とはどこのどなたのことでしょうか?
課長ですか? それとも部長でしょうか?
どちらも確かに素敵ですし、喜んでご好意を受け取らせていただいてますけど」
 
負けじと言い返してにっこり笑ってみせる頃には、酔っぱらっていた脳がすっかり
覚醒して、同時に失恋に落ち込んでいた気分も、何だか不思議なほどスッキリしていた。
 
「葉谷お前、覚えとけよ……!」
 
彼がそう吐き捨てて黙りこんだ頃、ようやくタクシーが私のアパートの前に止まった。
 
「今日はホントにどうも、ありがとうございました」
 
棒読みでそう告げてタクシーを降りようとすると、ギュッと手を掴まれた。
 
「お前、金曜の夜って空いてるか?」
 
「そりゃ別に……空いてますけど」
 
オトコと別れたばかりの女にそんな質問、しないでほしい
という抗議の意を込めて彼を睨めば、驚くほど真剣な眼差しとかち合う。
 
「絶対空けとけ。いいな!」
 
それだけ告げられバタンと閉められた扉。
遠ざかるエンジン音に、少しだけ熱を持った大きな手の平の感触。
初めて、「喧嘩相手の主任」を一人の男性として意識した瞬間だった。
 
 
~~~
 
 
それから、約束の金曜日までの数日を私は落ち着かない気分で過ごしていた。
彼はあれから別段変わった素振りを見せることもなく、相変わらず私には
“デキる上司だけど時々ムカつく憎まれ口を叩く嫌なヤツ”という態で接していた。

あの時、彼の表情(かお)に『男』を意識してしまったのは気のせいで、
単なる仕事の相談とか、なのかしら?
でも、あんな意味深な言い方されたら気になるじゃない!

喧嘩相手をそんな風に意識してしまう自分に戸惑い、金曜の具体的な連絡が無いことに
焦り、苛々した気分で迎えた木曜の夜、ようやく彼から一通のメールが届いた。

『明日午後7:00にPartenzaで。』

一度は入ってみたいと思っていた会社近くのイタリアンレストランの名に、
不思議と胸が踊る自分を認めないわけにはいかなかった。
大体、断ったら逆に意識してます、って打ち明けるみたいで気まずいわよね……。
仕事の話かもしれないし、食事するだけよ、食事だけ!
頭の中で必死に自分に言い聞かせながら、返信を打つ。

『分かりました。楽しみにしています。』

ディスプレイに“送信完了”の文字が浮かび上がってから、思わず漏れた独り言。

“楽しみにしています。”って何よ。まるで期待してるみたいじゃない」

ぶんぶんと頭を振りながら携帯をテーブルに置いた瞬間、
メールの着信を告げるメロディが鳴った。

『俺も、楽しみにしてる。』

高鳴る鼓動に携帯を握り締めたのは、何年ぶりのことだろう。
翌日の夜七時までの時間を、私はそれまでとは異なる種類の騒めきに包まれて過ごした。

ところがその日、余りにフラフラと過ごしていたせいか、
私は仕事で思わぬミスをやらかし、退社時間が遅れてしまった。
時計を見ると既に午後八時近く。慌ててエレベーターにから降りた私の目に、
飛び込んできたのは見慣れた長身のシルエットだった。

「葉谷、お疲れ。ホラ、行くぞ」

苦笑して私を見る瞳は、いつもより何だか少し優しい。

「しゅ、主任……? 何で、まだここにいらっしゃるんですか? 予約の時間は……?」

「オイ、おまえ俺を誰だと思ってるんだよ?
今日のお前のポカとそれに伴う+αくらいちゃんと把握してるっての」

キョトンとして問いかけた私の頭をコツンと叩いて、彼は溜め息を吐いた。

「予約の時間は変更してもらったから、今から行けばちょうどいい。
ボケッとしてないで行くぞ。バカ葉谷」

スタスタと歩き出した背中を、慌てて追いかける。

「ちょ、ご迷惑をおかけしたのは申し訳ないと思ってますけど、
バカとは何ですかバカとは!」

「本当のことだろうが。あっちフラフラこっちフラフラのろバカ葉谷~♪」

「もう、主任!」

変に緊張していた心が、彼の軽口でほぐれていく。
レストランに到着して、落ち着いた雰囲気のある椅子に着席した時、私の脳裏からは
地味に引きずっていた元彼のことも、主任に対する複雑な戸惑いも消え失せていた。
美味しい食事とワインに、普段は喧嘩相手のはずの彼との会話は楽しかった。
仕事の話、趣味の話、元彼の愚痴……酔っていたせいもあるのだろう、思わず漏れた弱音。

「時々、思うんです……私って、世間全体から見たらちっぽけで、
ちっとも誰からも必要とされてない存在だよなぁ、って。
だから、そこそこ世の中から必要とされてる人の一番になれたら、
少しでも私の存在意義みたいなのを見出せるんじゃないかなぁ、って。
でも、中々うまくいかなくて……って、当然ですよね、
誰かとお付き合いするのにこんな考え方じゃ」

暗い照明ごしに、彼はじっと私を見つめていた。
その真っ直ぐな瞳が、今の私の発言を軽蔑しているようで、
私はそっと視線を逸らし俯いた。

「葉谷」

低く響くテノールの声が、耳を打つ。
気まずいながらも顔を上げると、瞳がかち合う。

「俺じゃ、ダメなのか?」

「え……?」

「お前のこと一番にするの、俺じゃダメなのか?」

熱を帯びた眼差しが、嘘をついているとは到底思えなかった。
そのことに気づいた途端、まるで火が付いたように頬が、全身が火照り出す。

“暁”という名が私の中で特別なものになるのは、それから間もなくのことだった。






 

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